瓶で見上げる空
母校の中学校にいた
生徒たちは殴り合いをしている
先生たちも殴る蹴る罵る怒鳴る犯す盗む
悪事の限りを尽くしている世界で
あの人と自分は 緑色の渡り廊下に隠れていた
あの人は動揺を隠せない自分の口を塞いで匿っている
自分たちには縁遠い、全く知らない空気の中
あの人も動揺している筈なのに
全てを隠して自分に微笑みかけて
「全部終わったら一緒に出かけよう」
あの人は 自分からの好意に気付いていて、自分の気持ちを立て直すための言葉をわかって選んだ
無論、自分は舞い上がる
この世界の空気がドブみたいに汚いことなど全て忘れ
「デート?行く、絶対行こう!」
舞い上がる感情が目から溢れて、
興奮した気持ちが脚に回り、
校舎中を駆け回って、自慢したい衝動のまま
階段を駆け上がり、屋根を飛び移っていた
その時ふと、この状況でなぜ自分は生きているのか
疑問に思った
思ってしまった
脳は夢を巡る
砂漠
細胞のように仕切りとしての壁のみの建物に
人が詰め込まれていた
屋根は無く
砂が吹き荒れる
黄金の砂は一粒一粒 無情に私たちにぶつかる
日は出てるのに 寒い
私は中でも人数の少ない部屋にいた
することもなく、冷たい土壁をなぞる日々
土壁はポロポロと私の指に 破片が張り付く
やけに赤くて
私は鮭が食べたくなった
こんな時に鮭がどうしても食べたい
私はイライラした
私は何もしてないのに
捕虜のようにままならない生活を送る
全く知らない人と同室する生活
落ちる土壁の破片を 指で圧して崩す
今度は虚しくなった
たかが壁
たかが鮭
たかが人
たかが自分
そんなことにイライラして
心を費やした自分が悲しい
自分の虚しさに乾杯
乾杯もできない
空虚な私は内容物のない入れ物になっている
突然のことだった
壁から引き上げられた
彼だ
私は彼に引き上げられて
土の部屋から抜け出した
彼にお礼も含めて話しかけたくて
顔を除くと、
顔は影になっている
ああそうか、いつでも自分は
自分の思いは
彼の心の足枷となり
そこに愛はなく
私が彼の責任を
監禁していた
閉じ込めていた
私も
自身を閉じ込めていた
瓶にすっぽりと閉じ込めていた
そこから見上げる空は
いつでも
コルクでできた
夜も朝も訪れない
夕焼けであった
いつも私は
桃色が熟れたような
形の崩れた梅の色をした
空を見上げていた