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第九十一話 波乱万丈の体育祭

体育祭当日。

天候は晴天。雲一つ見当たらない青一色の空の下で、開会式が進行していた。

まだ季節的には初夏ではあるが、それでもじっとしていれば汗が止まらなくなるほどの気温の中、彰人たちは校長の話を聞いていた。


「あっつ...ちょっとは曇ってくれてもいいのに...。」


「先間はもう少し外に出なければならぬな。」


「こんな暑い日に外出るのは自殺行為だよ。」


「だが、まだ本格的な夏ではないだろう?」


「...そういう悲報は急に言わないで。」


いかにもスポーツ日和な天気ではあったが、インドアな先間にとってはただの拷問に近かった。

しかしそんな中、相変わらずグダグダと中身のない話を続ける校長に先間は辟易とし、愚痴を溢す。


「てか、なんであの校長こんなに暑い中あんなに喋れるの?」


「それは同感だ。これだけの言葉数の中で得るものが何一つとして見当たらない話というのも珍しい。」


「ちょっと!さっきからあんた達うるさいわよっ!」


小声でやり取りを続ける彰人たちに向かって、前方から同じく小声で注意の言葉が飛んできた。

彰人と先間がそちらに顔も向けると、目を吊り上げてこちらを睨む香織の姿があった。ふんすという鼻息も聞こえてきそうだ。

どうやら黙って校長の話を聞いていなさい、ということらしい。

先間は軽く頭を下げ、彰人は軽く手を上げて謝った。


それからしばらく黙って話を聞いていたが、やはり校長の話は終わらない。先ほどまでは自分の息子が体育祭で活躍したという心底どうでもいい話が続いていたのだが、その話がようやくひと段落ついたかと思うと、次に自分自身が学生時代に経験した体育祭の話が始まった。


「...僕が魔法を使えたら、今すぐに校長の声を風鈴の音に変えるんだけどな...。」


先間は不意にそう呟くと、チラチラと彰人の方を見た。

彰人は軽く肩を竦める。


「できなくはない。」


「彰人、ゴー。」


「いや、駄目だろう。さすがに。」


彰人の返答を聞いた先間は、軽くため息をつくと「だよね。」と呟いた。


「でも、本当にそろそろ止めないと僕以外も我慢の限界な気がするけど。」


「そうだな。教師たちも目が座りつつある。」


「...そんな中、なんであの校長まだ元気に喋れるの?空気読めないの?それとも喋り過ぎたせいで校長の周りの読む空気自体が無くなっちゃったの?」


「ふむ。確かに異常な耐久力ではある。ただでさえ常人よりも贅肉が多い腹を抱えながら、更に頭皮には通常直射日光を防いでくれるはずの毛髪すらない状態で...。」


「うるさいってば!」


校長の耐久性の秘密を分析し始める彰人に向かって、大きな怒鳴り声が響いた。

ハッと前を向くと、さっき以上に目を吊り上げた香織が腰に手を当て、怒っている。


(ふむ、キレておる。)


そんな香織を姿を見てそう分析する彰人と、同じことを思ったのであろう後方にいる葵が「ちょ、香織落ち着いて。」と声を上げたが、すでに香織の口は動き始めていた。


「確かに誰一人として興味のない中身の無い話をダラダラと続けて...無いのは髪の毛だけにしなさいよ!と言いたいところだけど、こういう話の時は心を無にして聞き流さないと余計時間が長く感じるのよ!だからあんた達も黙りなさいよ!」


うがーと怒りながらそう言いきった香織だが、怒りのあまり声のボリュームが調整出来ていなかった。

控えめに言っても全生徒に聞こえるボリュームで叫んだことに気づいた香織は、「あっ」と小声で言うと恐る恐る前方を向いた。

そこにはプルプルと震える校長と、その後ろで小さく親指を立てる三澄先生がいた。


「えー、校長の話は静かに聞くように。」


そう体育教師の声がマイクから響き、香織は赤面しながら小さく頭を下げた。

しかしその後もしばらく間、無音が続いた。照り付ける日差しのギラギラと言った効果音すら聞こえてきそうなほどの静寂が流れ、再度体育教師がマイクに向かって何かを喋ろうと腰を浮かした瞬間、マイクから校長の声が流れた。


「...以上でお話を終わります。」


全員の記憶が正しければ、先ほどまでは学生時代校長がリレーでアンカーにバトンを繋ぐ瞬間を意気揚々と語っていたはずだったのだが、そう校長は告げると教壇上でくるりと生徒に背を向けた。

その声は心なしか震えており、目元はキラリと光っていた。


************


「おっ先間。先ほどの競技は見ていて面白かったぞ。」


「はあ...はあ...ちょっと今、喋れないから...。」


1年生の白組のテントに戻ってきた先間は、息も絶え絶えと言った様子でその場に座り込んだ。


「さっきの競技は何と言ったか。玉投げではなく...。」


「玉入れよ。」


そう言いながら彰人の後ろから香織がひょっこりと顔を覗かせた。

そして「そうであった。玉入れだ。」と言う彰人を見て、「なんで玉入れをやったことないのよ。小中学生変わった学校行ってたのね...。」と呟いた。

その後、顔を動かし未だにぜーぜーと言っている先間を見て、ため息をつく。


「なっさけないわね。玉入れでそんなに消耗する人初めて見たわよ。」


「そんなこと言ったって...はあはあ...仕方ないだろ...。前に物を投げるのはダーツで慣れてるけど...ふー...上に投げるのは不得意なんだよ。」


そう言って息を整える先間だったが、香織はそんな先間に言った。


「不得意どころか、投げた球ほとんど籠まで届いてなかったわよ。」


「こ、こんな頑張った人に向かって...酷過ぎる!」


そう言ってうわーんと言いながら顔を覆う先間を見ながらやれやれと言った様子で香織は首を振ると、彰人に向き直った。


「てことで、今白チームは紅チームに負けてるわ。」


「そうだな。」


「なによその反応!悔しくないの!体育祭だからって私はやるからには全力で勝ちたいのよ!」


「悔しい?何を言っておる。まだ我が競技に出ていないだろう。」


彰人はそう言うと胸を張った。それと同時に運動場に「次は綱引きです。」というアナウンスが響く。


「む。我が参加する競技だな。」


彰人はそう反応すると、再度香織の方を向き自信満々に告げた。


「見ておれ。我が勝負ごとに参加する限り負けはない。」


「...豊島。」


すでに勝ち誇ったようなどや顔でそう告げる彰人を見ると、香織は小さく名前を口に出した。

そして次の瞬間、鬼の形相になると怒鳴りつけた。


「競技の参加者は早めにゲートに集合するのよ!馬鹿!こんなところでどや顔してないで、早くゲートに行って来なさいよ!馬鹿!」


「なんと!」


二度も馬鹿と叫ばれ目を丸くする彰人だったが、そんな中2年生の体育委員の女子生徒がテントに顔を覗かせた。


「あのー白組で綱引きに参加される豊島くんがまだ来てないと伺ってまして...。」


「あ!はいはいっ!その馬鹿ならここです!早く引っ張って行ってください!」


香織は勢いよく手を上げながらそう言うと、ぐいぐいと彰人の背中を押した。

彰人は「我は馬鹿ではない。」と言いかけたが、これ以上口を開くとマジでキレるわよと言いたげた香織の顔を見て、思いとどまった。


「あ、君が豊島く...す、すごいイケメン...。」


「お手を煩わせたようで申し訳ないな。では、ゲートまで案内をお願いする。」


テントから出てきた彰人の顔を見てポッと顔を赤らめる体育委員の女子生徒と、なぜか遅れているのに焦った気配のない彰人は連れだってゲートの方へと歩いて言った。


「...彰人、無事綱引き参加できるかな?」


テントから顔を出し彰人の歩いていった方を見ながらそう言った先間に、香織はどっと疲れを感じながら「大丈夫でしょ...たぶん。」と投げやりな返事を返す。


「...そんなことよりも豊島さ...。さっき“我が出れば勝てる”みたいなこと言ってたけど...。」


「うん。言ってたね。」


「...体育祭は、全競技で稼いだポイントで勝ち負けが決まるから、個人がいくら頑張っても駄目ってこと、分かってるのかしら?」


そう言って不安げに振り返る香織だったが、先間は「うーん」と唸りながら首を傾げ言った。


「多分、分かってないよね。」


「不安だわ。」


まだ始まったばかりの体育祭だったが、香織はすでに全身に疲れを感じていた。

そしてチラリと彰人の去っていった方向を見ると、再度大きなため息を吐いた。

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