第八話 波乱の持ち物検査 後編
入学式の時、始めて豊島を見た時からうさん臭さは感じていた。
香織の家庭は母親が教師、父親が警察官という厳格な家柄だった。
そのため幼少のころから善い行いと悪い行いの英才教育を受けてきた香織は、一目で人の性根を見抜くことができた。
その鍛えられた目で、一目見た瞬間に感じたのだ。怪しいと。
「~というわけでこの街に来て間もないが、どうかよろしく頼む。」
入学式の後、教室で行った自己紹介タイムで彰人はそう言うと、髪をかき上げて、白い歯を見せてほほ笑んだ。
その笑顔を見た周りの女子は、まんまと面の良さに騙され、色めき立った。
しかし、香織だけはそのキザったらしい笑顔を見て、さらに疑いを深めたのだった。
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「絶対あいつ何か隠してるわ!」
香織は弁当箱の中にある卵焼きに箸を突き立てながら、語気も荒くそう言った。
「まあまあ」と言って苦笑しながら、香織をなだめようと肩に手を置いたのは、小学生の事から幼馴染で親友の七瀬葵だ。
「香織はいつも考えすぎなんだって。」
「そんなことないわ!みんなあいつの外面の良さに騙されているのよ!」
「でも、まあ確かに多少変わったところはあるわよ?でも、頭もいいし運動神経もいいし、みんなに分け隔てなく優しいじゃない。」
「それが怪しいんだって!」
香織は強く自分の意見を強く主張した。
確かに一見すると普通の生徒だ。いや、それには語弊がある。普段の豊島彰人という生徒は、葵が言う通りかなりの高スペック人間だろう。
でも、どうして香織にはいい人を演じている様にしか見えていなかった。
絶対豊島には裏がある!この思い、葵に届け!
「怪しいってどういうことよ。...でも確かに度々何か考え込んでいてその様子を不思議に思うことがあるのは確かね。」
「でしょ!」
そう!その調子よ!
葵!目を覚まして!
「でも...」
「でも?」
「考え込んでる豊島君もかっこいいじゃない」
葵が朱色に頬を染めながらつぶやく。
香織はその横顔を見ながら強く思った。
(この親友があいつの毒牙にかかる前に、私が秘密を暴いて見せる...!)
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「それで朝霧さん、我に何か用か?」
彰人は目の前でこちらを威嚇する香織に問いかけた。
「用もなにも私も風紀委員よ!持ち物検査に決まってるじゃない!てかその前に...」
香織はビシッと彰人の髪を指さした。
「それ!どう見ても染めているじゃない!」
「染める...?」
彰人は自分の髪の毛に手を当てた。そのまま周りを見渡す。
そして香織が何を言いたいのかピンと来た。
「もしかして、色か?」
「当たり前よ!」
確かに周りの生徒は皆髪の毛の色が黒い。それに対して、彰人は茶髪だった。
「我にはこっちのほうが似合うだろう。」
「似合う似合わないの話はしてないわよ!」
(よくわからんことで、よく怒る子だな)
彰人はそう思った。
(だが、からかったら面白そうな子だな)
彰人はそうも思った。
「まあいいわ!そう言って言い逃れようとしても無駄よ。髪の毛は後で先生に言ってやるから。その前に、バッグを開けなさい!」
香織が手を突き出してくる。
彰人は肩にかけたバッグを下すと、ファスナーを開け、中身が見えるようにした。
「さて堪忍しなさい。今日こそ秘密を暴いてやるんだから!えーと...」
香織は彰人のバッグを覗き込むと、中をごそごそとあさり始めた。
ただ徐々に顔が陰ってくる。
「あ、あれ、おかしいわね...こっちのほうは...あれ...」
そんなことを言いながら中身を確認していた香織だったが、しばらくすると手を止め、がばっと顔を上げた。
「おかしなところがなにもないじゃない!」
「それは良かった。」
彰人はそう言うと、バックを再び肩にかけた。
「じゃあもう行っていいか?」
「待ちなさい!バッグの中身は確かに問題ないわ。ただ髪の毛だけは先生に言って染めてやるんだから!こっち来なさい!」
そう言うと香織は彰人の手を掴み、くるりと踵を返すと、大きな声で先生を呼びながら歩き出した。
向かう先は今しがた他の生徒の荷物検査をおえた先生のところだった。
「おお、朝霧。どうした。」
「先生!こいつの髪の毛、スプレーで真っ黒に染めてやってください!」
彰人の目の前でふんぞり返る香織の姿が目に入った。
「荷物検査はうまく逃れたかもしれないけど、髪の毛はどうあがいても逃げれないわ!」
「朝霧」
「さあさあ先生、一思いにやっちゃってください!」
「誰の髪を染めるんだ?」
「何を言ってるんですか、そりゃこの豊島...」
そう言いながら香織は振り返って、目を白黒させた。
なぜなら、そこにいた彰人の髪の毛の色はどこからどう見ても黒色だった。
「えっ!...なんで、さっきまで...え?」
香織はまだうまく事態が飲み込めていないようで、狼狽している。
彰人はやれやれといった様子で首を振った。
「今度こそもう行っていいか?」
「あ...」
香織は何かを言いかけるが、今の彰人には検査に引っかかっている要素が何一つない。
彰人はにやりと笑うと、下駄箱のほうに歩き始めた。
「あ。ちょっと待って。」
だが、急に先生から待ったがかかる。
香織の顔が「先生!何か見つけたんですね!」と言わんばかりに輝いた。
「念の為ね。さっきゲーム機をズボンの中に隠してた生徒がいたから...」
そう言いながら先生は彰人のズボンのポケット周りをポンポン叩いてチェックした。
「うん、大丈夫!引き留めてごめんね。」
先生はそう言うと同時に、香織の肩がガクッと落ちた。
彰人は再度、下駄箱に向かって歩いていく。
香織はその後姿をにらみつけた。そして気づく。
今まさに下駄箱から上履きを取り出し履こうとしている彰人の髪色がまた茶髪に戻っていた。
「っ先生!あれ!」
香織は下駄箱のほうを指さしながら叫んだ。
「どうした?」
しかし先生が下駄箱のほうを見たとき、すでにそこには彰人の姿はなかった。
「さっき私が連れてきた生徒の髪の毛が茶髪に戻ってたんです!」
「お前は何を言ってるんだ。いくら彼がイケメンだからって変に絡むのはやめなさい。さあ、他にもたくさん生徒はいるんだから、早く荷物検査の続きをしてきて。」
そう言って先生はまた別の生徒の荷物検査に取り掛かった。
香織はその場で地団駄を踏みたい気分だった。
(絶対おかしい!なにあれ!最初どう見ても茶髪だったのに!...茶髪だったはず...あーもう!)
香織は頭を抱えた。そして再度決意を固めた。
(次こそあいつの秘密を暴いてやる!)




