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第七話 波乱の持ち物検査 前編

その日彰人は、校門前で奇妙な出来事に遭遇していた。


(なんだあれは...なぜ今日は校門前にあんなに人だかりができている)


そう、いつもただ生徒が通り過ぎていくだけの校門付近に、今日は大量の生徒が集まっているのが見えた。

さらにいつもにも増した喧噪が聞こえてくる。


彰人は少し警戒をして、周りを確認しようと右隣を向いてギョッとした。

そこには「やっば!今日検査日かよ!」と言いながら急にバッグを勢いよく開けたかと思うと、中から小型の機械を取り出し、自分のズボンの中に突っ込もうとしている生徒がいた。


「なんだ、お主何をしている。」


彰人は思わず声をかけた。

生徒は「え?」と言いながら、こっちを見た。


「何って...うわ、めっちゃイケメンだね君。てか、1年じゃん。先輩には敬語でしょ。」


「そうか。お主は先輩か。それは失礼をした。...で何をしているんですか?」


彰人は素直に謝った。

もちろんそれは目の前の生徒が自分の容姿を褒めたことにより、【不可解な言動をする生徒】から【不可解な言動をする良い先輩生徒】にランクアップしたおかげだった。

その先輩生徒は「いや、お主って...まあいいけど」と呟きながらも、彰人の問いに答えてくれる。


「何ってもちろんゲーム隠してんだよ。まじ今の風紀委員長、めっちゃうるさいからさー。」


「げーむ?なぜ学校にゲームを持ってきている?んですか?」


「そりゃ今流行りのバケハンやるためっしょ。1年の間でも流行ってんじゃないの?」


(バケハン...?)

彰人は顎に手を当てて考え込む。確かに、いつも休み時間に教室に端っこのほうで溜まっている連中が、そんな言葉を発していたような気もした。


「確かに聞いたことがあるかもしれん。もしやバケハンとはその小型の機械で行うゲームなのか?ですか?」


「いや、もう無理に敬語使わなくてもいいよ...さっきから語尾が変になっちゃっているからさ。笑いこらえるのが大変だわ。」


先輩生徒が少し吹き出しながら言った。そのあと、顔をぐいっと近づけてくる。


「てか、バケハン知らないって君もしかしてめっちゃ流行りに疎い系?今一番流行っているゲームじゃん。バケモノハンターで通称バケハンね。このSC2を使ってできるゲームで今大ヒット中!」


小声でいろいろとアピールをされた。

どうやら、今先輩が片手に持っている機械はSC2という名のゲーム機で、バケハンというのがそのゲーム機でできるゲームの名前なのだろう。


「機会があれば絶対君も始めたほうがいいよ!マジで面白いから!じゃあ、俺はそろそろ行くわ。...念のため言うけど、俺がSC2持ってきてたこと、風紀委員の奴らにはバラすなよ。」


そういうと、先輩社員は再びSC2をズボンの中に突っ込み、


「てか君、その髪色大丈夫?怒られるぞー。まあ頑張れ!」


と言いながら、片手を上げると校門に入っていった。

ただ(髪色が何なのだ?)と思いながらその後姿を見送った後、彰人は気づく。


(結局、ゲームの説明がほとんどで生徒が集まっている理由は教えてもらってないな...)


しかし、(まあ何とかなるだろう)と考え、彰人も校門前まで足を進めた。

中をのぞくと生徒がずらりと並んでいる。いたるところから、


「お前この制服は何だ!」「おい、ちゃんと鞄を見せろ」「これは没収」

「先生違うんだって!」「ちょっ、そこは待って!」「最悪だー!」


といった声が聞こえてくる。

どうやら生徒が並んでる先で、腕に腕章をつけた別の生徒、もしくは先生がバッグの中身をチェックしているみたいだ。

それにバッグを見た後は生徒をその場でくるりと回転させている。聞こえてくる声から、おそらく生徒の制服をチェックしているのだろう。


(ほーなるほど。持ち物の検査か。)


彰人は納得した。確かに元の世界で学校に通っていたときも、似たようなことはやっていた。

ただその時は、生徒一人一人をチェックするのではなく、魔法のゲートを通って、余計な物の持ち込みがないかを判別しているだけだったが。


(魔法がないとこういうときにも不便なものだな。)


彰人がそう思いながら、おとなしく生徒の列に並ぼうとしたとき...


「あー!見つけた!」


そう叫ぶ声が聞こえた。

彰人は(何が見つかったのだろう?)と周りを見渡して気づく。

髪を2つに括った小柄の女子生徒がこちらを指さしている。いや、こちらではない。彰人を指さしていた。

彰人が自分に気が付いたとわかった女子生徒は、ずんずんと大股で彰人に近づいてくる。

そして、彰人の目の前に立つと、再度指を彰人に突き付けた。


「豊島!この荷物検査であんたの隠し事を暴いて見せるわ!」


おそらく普段は整っているであろう、まつ毛の長い大きな目が特徴な女子生徒だったが、今は眉をキッと上げ、口を真一文字に結びこちらを睨んでいる。

彰人は涼やかな様子で言った。


「お主は誰だ?」


目の前で女子生徒の顔が修羅に変わった。


「あんたのクラスメイトの朝霧香織あさぎりかおりよぉぉおおお!いい加減覚えなさいよ!」


目の前で吠える香織を見て、彰人は思った。


(確かに教室で見たことある)と、

そして

(この荷物検査は少し面倒なことになりそうだな)と。

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