第七十四話 ストーカー退治? 後編その4
「こっちな気がするわ!早く走って!」
「分かってるよ!でも脇腹が...。」
先間と香織は夜の路地を疾走していた。
(もー!なんでこんなことに!すでに彰人とストーカーが接触してたらどうしよう!)
先間は倉持を見失っていることに加え、彰人の言動も把握できない現状に焦燥感を覚える。
なぜ倉持を監視するはずだった先間と朝霧が、今2人きりで倉持を探し走り回っているかというと、事の始まりは倉持を追い始めるため彰人たちと2手に分かれた時まで遡る。
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倉持の近くに行こうにも不審な動きをしてストーカーに怪しまれたら困ると考えた2人は、直線的に倉持を追いかけるのではなく、少し遠回りをして近づくことにした。
そこまでこのあたりの地理に詳しいわけではなかったが、スマホを見ながらならストーカーが通るであろう道を避けて、倉持の近くまで行けるはずだった。
しかし、最初に通ろうと決めていた道路が工事で通行止めになっていた。
だからといってそこから元来た道を戻っていたら、ストーカーに鉢合わせる可能性がある。
そのためさらに迂回をし、今まで通ったこともない道路から倉持に近づこうと急いでいる途中で、見事に道に迷った。
更にそれまでスマホで道案内をしていた朝霧のまさかの方向音痴が発覚する。
「あれ?この道路さっき通らなかったっけ?」という先間の問いに、「もう!この地図アプリよくわからないのよ!あっちにグルグルこっちにグルグル使いづらいったらありゃしないわ!」という朝霧の八つ当たりにより、半ば勘で道案内をされていた事実が露呈したのだった。
更に「僕が見るから貸して!」と言い、先間が朝霧のスマホを受け取った瞬間、スマホの画面が真っ暗になった。電池切れである。
「このスマホで連絡とるって予定だったんだから、ちゃんと充電しててよ!」と言い、朝霧の「ごめんってば!」という謝罪の言葉を聞きながら、自分のスマホを取り出そうとポケットに手を突っ込んだ先間は、その姿のままフリーズした。
そんな先間に朝霧は「なにしてるのよ!早く行かなきゃ美和ちゃん本当に見失っちゃうわよ!」と言うが、先間はギギギという音がしそうな動きで朝霧に顔を向けると、眉毛をハの字にしながらこう言ったのだった。
「ごめん...スマホ、家に忘れた。」
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それから2人はギャーギャーと言い合いながらも、おそらく倉持が通っているであろうルートを想像し、必死に走っているのだった。
「なんでこっちなの?見たことある路地に出た?」
「全然見覚えがないわ!でも、方向的にこっちで合ってる気がするわ!」
「その一切信頼性のない方向感覚を自信満々に頼るのやめて!...でも確かに最初地図を見ていた時の記憶で、なんとなく美和ちゃんが通っていた路地って、このあたりまで通じていたような気が...あ!」
先間が香織に言い返しながら十字を突っ切ろうとした時、左奥にちらっと彰人の姿が見えた。
先間はストーカーに見つからないようさっと身を隠す。その後ろに香織も並び、ひょっこりと顔を覗かせて彰人の方を見た。
「ほら!合ってたじゃない!」
「いやいや、僕が見つけた瞬間、朝霧さんそのまま直線方向に突っ走って行こうとしてたよね?」
「細かいことは気にしなくていいのよ!とりあえず、いったん豊島と集合しましょ。」
そう言いながら歩みを進めようとした香織に、先間は「ちょっと待って。」と声をかけた。
「なんか...様子がおかしい気がする...。」
先間の言葉に改めて彰人を見た香織も、違和感に気づいた。
「確かにそうね。...立ち止まってる?」
香織はそう言って首をかしげた。
そう、本来ストーカーを尾行しているはずの彰人が、ここから見る限り一切周りを警戒せず、立ち止まっているように見える。
先間と香織は少し困惑し顔を見合わせた。
(まさか彰人に限ってストーカーを見逃したなんてことはないと思うし...一体何が...って、なんだあれ。なんか、彰人の足元に大きな影が...!!!)
その瞬間、先間は察した。すでに手遅れなのだと。
その思い立った先間は、猛然とダッシュした。急にわき目も振らず走り始めた先間に香織はぎょっとしたが、「ちょっと!どうしたのよ!」と言いながら後を追いかけた。
彰人に近付いていくにつれて、周りの光景が見え始める。最初に彰人の後ろで立ちつくす葵が見え、その後、奥の方で彰人の足元の影を見ている倉持の姿が見えた。
先間は走りながら彰人に声をかけた。
「彰人!」
「む?...おぉ、先間。それに朝霧も。どうした?遅かったが何をしていたのだ?」
「迷子だよ!」
彰人の疑問に一言で返す。
え?という顔をした彰人だったが、先間は彰人の目の前まで行くと、まず息を整えた。
その後ろでは葵に向かって「なんか地図アプリが壊れて道が分からなくなって...そうこうしてる内にスマホの充電が切れたの。ごめんね。」と謝る香織がいた。
(アプリのせいにしてる!)
なぜか頑なに自分の方向音痴を認めない香織に驚愕する先間だったが、今はそれどころではない。
キッと彰人を見ると、声高らかに言った。
「そんなことより彰人こそ何をしちゃったのさ!」
「何とはなんだ?」
「こ!れ!この人の事に決まってるじゃん!」
先間は息切れしかけている呼吸を整えながらも、彰人の足元で横たわる男性をビシッと指さした。
彰人はその男性に目線を落とすと、「あぁ。」と納得したように呟く。
「倉持のストーカーだ。」
「それはわかるよ!」
彰人の返答に、先間は吠えた。
「僕が聞きたいのは、なんでストーカーが白目向いて地面に横たわってるのってこと!彰人なにしたの!」
先間の言及に、彰人は顎を触り少し考える素振りを見せた後、言った。
「ふむ?そうだな...まあよく言うあれだ。人に武器を向ける時は、自分が同じ目に合うことも覚悟する必要がある、ということだな。」
「いや、全然意味わかんないわよ。」
彰人がなぜか自慢げに言った説明に、引いた目でストーカーを見ていた香織はそう返した。
先間も便乗し、うんうんと頷く。
「いいわ。豊島が話を紛らわすなら葵に聞くから。ねえ、葵一体何があったの?」
香織はそう言いながら隣にいる葵を見た。
しかし葵もうーんと考えるような素振りを見せると、チラチラと地面に横たわるストーカーを見ながら口を開いた。
「それが...私にもよくわからなくて...。」
「え?どういうこと?」
葵の言葉に香織はキョトンとする。
「だって、後を付けてたはずのストーカーがいきなりこうはならないでしょ?...もしかして、この人急に倒れたの?」
そう尋ねる香織に、葵はフリフリと顔を振って答えた。
「あっううん、違うよ。さっきまでは元気にスタンガンを振り回しながら、こっちに逆上してたから。」
「ちょっちょ、ちょっと待って!」
葵の口から出てきた言葉に、先間は動揺しながら突っ込む。
「スタンガン?何それ?え?なんでただの尾行が、そうなってるの?何が起こったの?」
混乱しながら彰人を質問攻めにする先間だったが、彰人が口を開く前に後ろから声が聞こえた。
「私が説明します!」
その声にみんなが一斉に振り向く。
そこにはなぜか頬を上気させ、目を潤ませる倉持がいた。
「えっと、美和ちゃんはどこから知ってて...。」
「すべてに決まってます!なぜなら、ここで起きたことは...そう。彰人様が身を挺して、ストーカーから私を救ってくれた英雄譚!私はこの物語を未来永劫語り継いでく義務があるのです!」
そう興奮気味に言う倉持を見て、先間は思った。
(あ、なんかこの話長くなりそう。)
僕は分かったことがあります。
【次の話がラスト】というような、約束できない約束は、しない方がいいのです。




