第七十二話 ストーカー退治? 後編その2
翌日の夜。駅からまばらに出てくる人の中に倉持の姿があった。
一瞬辺りを気にした素振りを見せたあと、スマホを取り出し何かを打ち込み始めた。
「”やっぱり視線を感じます”ってきたよ。」
「うむ。我もストーカーの姿を確認した。」
「え?もう?早すぎない?どこどこ。」
そう言って辺りをきょろきょろとし始めた先間だったが、彰人そんな先間の肩に手を置くと、「奥にある駐輪場の方だ。だが、あまり見るな。向こうに感づかれる。」と言った。
そしてスマホを持った葵の隣から、どうするのよ?と言いたげな目でこちらを見てくる香織に指示を出す。
「そうだな...商店街の中では人目が多い。向こうの脇道に進むように言ってくれ。」
「向こうあまり明かりもないけど...大丈夫なんでしょうね?」
「大丈夫だ。」
心配そうな顔をする香織に、彰人は大きく頷いて見せる。
それでも香織は不安そうではあったが、葵は彰人の言葉を信用しているのか、スマホで倉持にメッセージを送った。
駅前では倉持がスマホに目を落とす。そして軽く頷くと彰人が指定した脇道へと進み始めた。
「じゃあ、僕たちも...」
「先間、待て。」
彰人はそう言うと歩き始めようとしていた先間の腕を掴み止めた。
「まずはストーカーが倉持を付け始めてからだ。我らはどちらかといえばストーカー側の言動を常に監視できる位置にいる必要がある。」
「あっそうか。ごめん。」
先間は再度ストーカーのいる方をちらっと見る。しかし駐輪場の当たりは明かりも少なく、一見しただけでは人がいるかどうかすら分からない。
(うーん、全然わかんない。彰人よくストーカーに気づけたな...。)とそんなことを思っている先間の後ろで、香織が少し焦ったように言う。
「でも、今の時間だとストーカー以外も危険でしょ!特に美和ちゃんなんてただでさえ目立つ容姿をしてるんだし。」
それを聞いた彰人は「ふむ。」と呟くと片手を顎に持って行った。
そして少し考えたのち、言った。
「では、倉持の方は朝霧と先間に任せる。こっそり陰から見守っててくれ。」
「「え!」」
先間と葵の驚く声が重なった。
思わず顔を見合わせた2人だったが、まず先間が彰人に向かって言った。
「だ、大丈夫かな?別々で行動して。」
「問題ないだろう。というよりも人を付けるのにこの人数はやはり多すぎる。どうしても目立ってしまうぞ。」
彰人は自分の周りにいる先間、香織、葵の姿を見回しながら言った。
しかし先間はまだ不安そうにそわそわしている。
「でも、もしストーカー以外の変な奴が出てきたらどうしよう。ヤンキーとか。」
「そんな奴ら、追い払ってやればいいのよ!」
そう言って胸を張る香織に、彰人は少し呆れたような顔で「やめろ。」と言った。
「もし何か問題が起きそうなら七瀬宛にメールを送ってこい。我が向かう。」
「じゃあそれはそうするとして...ストーカーと接触するときはみんなでだよね?彰人だけで接触したりはしないよね?」
妙な部分を必死に確認する先間に、彰人は若干首をかしげながらも「そうだな。」と肯定をした。
それを聞いた先間は安心した顔をし、「うんうん、それなら大丈夫」と呟いた。
それを聞いた彰人は、まさか自分がストーカー相手に何をしでかすかということを心配されているなど露ほども思わず、(先間は何を心配してるのだ?)と再度首を傾げた。
「別に助けなんていらないわ!」
正義感溢れる香織は、そう言って腕を組む。
すでに香織の頭の中では、倉持を付ける=自分が倉持を守るという図式が出来上がっていた。
「別にあんたに頼らなくても「まあまあ、朝霧さん落ち着いて。ストーカーにばれたら元も子もないから。」
使命感に燃える香織の言葉を遮るようにして、先間がそう言った。
香織はその言葉にはっとした顔をすると口をつぐむ。先間はそんな香織の方を向くと「とりあえず早く行こうよ。美和ちゃんを見失う方が駄目だし。」と言った。
香織はまだ何か言いたそうにしていたが、彰人が再度「絶対にメールはするのだぞ。絶対だ。」と念を押すと諦めたような顔をし、先に歩き始めた先間の後を追うようにして去っていった。
「全く...朝霧はなぜ一人でなんでも解決しようとするのだ。不安でたまらん。」
去っていた2人を見送った後、そうぼやく彰人に、葵が少し顔を赤らめながら言った。
「まあ、そこが香織の良いところでもあり、悪いところでもあるよね。」
「そうだな。だがもう少し周りを頼るように言ってやってくれんか。」
そう言って彰人は葵の方を見た。
葵は彰人と目があった瞬間小さく肩を跳ねさせ、コクコクと頷いた。
「じゃあ...私たちが分かれたことも美和ちゃんにメールで伝えといた方がいいかな?」
「ああ、そうしてくれ。見られてる気配が増えたと怯えさせては悪いからな...っと。」
喋っている途中で彰人はさっき倉持が入っていった脇道にさっと目をやった。
「そろそろ我らも動くか。」
「ストーカー動き始めた?」
葵は彰人の隅からひょこっと顔を出すと、同じく脇道を見た。
その丁度1秒後、暗闇からのそりと大柄の男性の姿が現れ、きょろきょろと辺りを見回した後、その脇道へと入っていった。
(ほ、ほんとにいた!)と思った葵は、思わずひゅっと息をのんだ。
彰人は「さて。」と呟くと、静かな動作でストーカーの尾行を始めた。
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「これ...もう確定だよね。」
「そうだな。間違いない。」
彰人は声を抑えたまま、葵に答える。
「こやつが倉持のストーカーだ。」
そう言った彰人の目の先には、彰人たちと同じように気配を殺しながら倉持の後を追う男の姿があった。
身体は大柄で肩からバッグを下げている。しかしここ最近身なりを整えていないのか、ぼさぼさの髪とヨレヨレのシャツが目についた。
「だが、倉持が今日まで姿を見れなかった理由が分かったな。」
「うん...。すごく距離を開けて後をつけてるもんね。」
そう葵の言う通り、ストーカーの男はかなり警戒心が強いのか、倉持からだいぶ間隔をあけゆっくりと歩いている。それに常に周りを気にしており、度々きょろきょろと辺りを見回していた。
そのため必然的に彰人たちもストーカーから大分距離を開けて尾行をしていた。
「美和ちゃんの姿...全然見えないね。」
「2手に分かれておいて正解だったな。確かにこれでは倉持の方で何が起こっているのか分からん。」
彰人はストーカーをじっと見ながらそう言った。
その後ろ姿を見ながら葵は自分が浮足立つ気持ちを必死に抑えていた。
(駄目...今日は美和ちゃんが大変なんだから、しっかりしないと。...でもこんな夜遅くに豊島君と2人きりなんて...まるでデートみたい...って駄目駄目!今はストーカーの方に注意を向けとかないと!
...でもやっぱり...)
そんな感じで百面相を繰り返す葵だったが、突如彰人から声がかかった。
「動くぞ。」
「え?」
葵は思わず聞き返した。しかし彰人は黙ったまま、前方を小さく指さした。
葵はその指の指し示す方に目を向ける。そして目を見開いた。
そこでは今まで辺りを警戒しながら後を付けているだけだったストーカーが、肩から下げるバッグの中に手を突っ込んだまま、歩く速度を上げている姿があった。
「あの感じだと...」
「ああ、倉持に追いつくな。」
「え!?た、大変!追いかけなきゃ!」
葵が焦ったように腕をバタつかせた。
彰人は軽く頷くと、気配を殺したまま歩く速度を上げた。
当初は後編で終わる予定だったんですが...。まさかその2でも終わらないとは想定外でした。
次話が間違いなくこの話のラストです。




