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第六十三話 漫画の恨みは漫画で晴らす 後編

それから数十分が経ち、彰人たちの座るファミレスの席ではペラペラと紙をめくる音が響いていた。

あれから最新刊を読み終わった葵は、まだ香織が1巻を読んでいることを確認し、他の巻を読み始めていた。

先間も手持無沙汰だったため適当な巻を、そして同じくメロンソーダを飲むことに飽きた彰人も手元にあった巻を手に取りそれぞれが読みふけっていた。

そんな時だった。近くからうめき声のような音が聞こえた。


「ん?」


先間は思わず読んでいた漫画から顔を上げ、辺りを確認した。

そしてそれはどうやら彰人も同じだったらしく、隣を見た先間は彰人と目があった。


「ぐっ...」


今度はさらにはっきりと聞こえた。そしてその音の聞こえてきた方向にも察しがついた。

どうやら目の前の香織と葵が座っている席の方向から鳴っているようだった。


「なんか音が...」


そう言いかけた時、葵が手で静止をかけてきた。

先間は頭の中にはてなマークを浮かべながら、そちらを眺めていると香織が読んでいた一巻をパタンと閉じた。

おっ!と思った先間はすぐに香織を見た。しかし、閉じた本が顔を隠しており表情が分からない。


「朝霧さん...ネジ巻きどうだった?」


これでもし香織から「面白味が分からない」といった漫画そのものに対する否定的な感想が返ってくると、今後先間の学校生活が危ぶまれるため、少し冷や冷やした様子で感想を尋ねた。

その瞬間、香織が持っていた本がテーブルにパタッと倒れた。


「なんで...なんでだれもだずげでぐれないのよぉ。」


そう言いながら現れた香織の顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。


「あ、朝霧さん?」


先間は香織のあまりの号泣具合に少しぎょっとしながら声をかける。

ただその時、1巻の表紙を見た先間は香織の様子に合点がいった。


(そっか...1巻のラストは、捨てられた主人公がいろんな人に助けを求める中で、唯一手を差し伸べてくれた親代わりの人が亡くなってしまうところで終わるんだったっけ?)


どうやら漫画を読みなれていない香織は、そのストーリーが心に突き刺さったようだった。

葵は止まらない香織の涙に、テーブル上に置かれていた紙ナプキンを取ると「香織、これ。」と言って手渡した。

香織は紙ナプキンを受け取ると、涙を拭い鼻をかんだ。


「なんだ、なぜそんなに泣いておる。」


唯一1巻のストーリーを知らない彰人は、香織の様子に驚きそんな質問を投げかけた。

しかしその言葉を聞いた香織は目に当てていた紙ナプキンを握りしめながら、勢いよく彰人に告げる。


「あんたもこれ読みなさいよ!読んでない人間が涙の理由を聞くんじゃないわよ!」


香織はそう言いながら手元にあったネジ巻きの1巻を彰人の方にグイッと差し出した。

彰人は「おぉ。」と香織の勢いに飲まれたように返事をすると、それを受け取る。

しかし1巻の表紙を見た瞬間、また悲しさがぶり返してきたのか、香織は「ひーん」と言うと再度紙ナプキンを目元に持って行った。


「えっと...どうしよう。今日はもうやめとく?」


先間は香織を気づかってそんな言葉をかけた。

しかし香織は勢いよくぶんぶんと首を振ると言った。


「冗談じゃないわ!だってこのままじゃあ、ナットがこれからどうするのかが気になって夜眠れないわよ!だから続きを読むわ!続きはどれ!」


「一応2巻はこれだけど。」


「ありがと!」


先間が差し出した2巻がすごい勢いで香織に奪われる。

ちなみに香織の言った”ナット”というのは、ネジ巻きの主人公の名前だ。先間は香織の隣にいる葵を見た。

葵は受け取ったばかりの2巻を夢中で読みふける香織の方を見ると、にこりと笑い口パクで(ネジ巻き仲間が増えた)と言った。

先間はそんな葵に笑顔を返しながら、心の中で思った。


(多分作戦は成功...なのかな?まだ漫画自体を容認してくれるかは分からないけど、少なくともネジ巻きの事は好きになってくれたっぽいし。...ただ。)


目の前でページをめくるごとにふんふんと頷きながら2巻を読み進めている香織を見て、先間は苦笑をした。


(思った以上に朝霧さんの嵌り具合がすごい。)


************


「次の巻はどれなの?」


「えっと、これ。ちなみに...まだ読むの?」


先間は読み終わった次の巻を香織に渡しながら、恐る恐る尋ねた。

というのもあれから香織はネジ巻きをどんどんと休みなく読み進めており、すでに2時間近くが経とうとしていた。すでにドリンクバーの飲み物でお腹はタプタプ、更に外も暗くなってきている。

更に先間はお腹も空きつつあった。

しかし香織は何を言っているの?と言わんばかりの顔をした。


「当たり前じゃない。あのナットがついに仲間を見つけたのよ!あー本当にドライバはいい奴ね!ピンチな時はいつも助けに来てくれて素敵だわ!」


そう言うとパッと漫画を開き、読み始めた。

先間は思わず肩をすくめると、「別に漫画は逃げないよ...。」と呟いた。


(それにそのドライバって奴...最新刊で実は敵グループの幹部だってことが分かるんだけどね。...大丈夫かな?そこ読んだ瞬間、朝霧さんショックで気絶しなきゃいいけど。)


そんな時、隣からも声がかかる。


「先間よ、次の巻はどれだ。」


「彰人もだよ。」


「む?」


先間は若干呆れながらも彰人に次の巻を手渡した。彰人は「感謝する。」というとその巻を読み始めた。

葵はそんな香織と彰人の姿にご満悦な様子で、ニコニコと嬉しそうにほほ笑んでいる。

先間は軽くため息をついた。


(彰人もネジ巻きに嵌ってくれたことは嬉しいけど...お腹減ったなー。)


そう思いながらまだまだ帰れなそうだと悟った先間は、スマホを開くとネットニュースに目を通し始めた。

そしてそのままいくつかの記事を読んでいく中で、1つのニュースの見出しが目に入った。


「え。」


思わず少し大きな声が出てしまう。それと同時に空腹感も忘れ、その記事を読み進めた。

そして最後まで読み切った瞬間、声を上げた。


「ねぇねぇ、みんな。聞いて。」


それを聞いた彰人と葵は「ん?」と言いながら先間の方を向いた。

しかし漫画に夢中な香織は、どうやら先間の声が聞こえていないようだった。

先間は大きく咳ばらいをすると香織の方を向きもう一度言った。


「重大発表です。」


「...もう何よ!」


先間の目線が気になった香織は、思わず反応をしてしまう。


「今一番いいところなのよ!頼むからゆっくり読ませて...」


「映画やるよ。」


「え?」


懇願をし始めた香織に先間はシンプルに告げた。

しかしその言葉の意味が分からず香織はポカンとした顔をした。そしてそれは彰人と葵もそうだった。


「先間君...映画って?」


葵が先間に尋ねた。

先間は葵の方を向き一度頷くと、手に持っていたスマホの画面をみんなに見えるようにかざした。

そして今後はもう少し丁寧に告げた。


「ネジれても、巻き返す。映画化決定だって。」


そう言った瞬間、先間のスマホが香織に強奪される。


「嘘!...あぁホントじゃない!」


「え、私にも見せて香織。...本当だ!」


そう言いながら香織と葵はスマホの画面をのぞき込みながら興奮している。

先間も同じく興奮をしていた。


「いやー、まさかここで映画が来るとはね。それもオリジナルストーリー!」


「えっとなになに...ナットの知られざる秘密の生活って...これ最初の方で街の外を放浪しているときの話じゃない!」


「確かに漫画だとその部分って結構駆け足だもんね。漫画では語られていない熱い出会いがあった...だって!面白そう!」


「ネジ巻きファンとしては行かざるを得ないね。僕絶対初日に見に行くよ。」


「私も行くわ!葵も行くわよね?」


「もちろん!みんなで行こうよ。」


「そうだね。せっかくだしみんなで...って、みんな?」


高いテンションのまま香織と葵と喋っていた先間は、ふと今言われた言葉の意味を考えた。

そして急に顔を赤くする。


「えっと、みんなって...僕と彰人と朝霧さんと七瀬さん?」


「そうに決まってるじゃない。どうしたの?」


「ううん!特に!」


キョトンとする香織に先間は慌てて手を振った。

しかし先ほどまでとは別の意味で心臓がドキドキし始めていた。


(映画を見るってことは休みの日だよね...休みの日に女の子と映画館で映画を見るなんて...それって半分デートじゃん!)


今まで異性と映画館に行ったことのない先間は、そういった耐性がなかった。

先間はいまだにスマホの画面を見ながらキャッキャと騒ぐ香織と葵を見ながら、(落ち着け...別に付き合ってるわけじゃない...それに2人きりでもない...ただ友達と映画を見るだけなんだ。)と自分に言い聞かせていた。

しかしそんな中、思わぬ一言が飛んだ。


「我は特に興味ないな。」


先間と香織と葵は一斉にバッと顔を、その言葉を発した彰人の方向に向けた。


「な、なんで!?彰人もさっきまで漫画読んでたじゃん!」


先間は驚きながら尋ねた。


「まあ、漫画は面白いと思う。しかし映画とはあの大きな画面で見る映像の事であろう?あまり惹かれないというか...。」


そう言う彰人に先間は信じられないと口を開け、葵はしょんぼりとした。

香織は思わず手に持っていたスマホをテーブルの上に置くと、身を乗り出しながら彰人に言う。


「絶対行くべきよ!動くナットを映画館で観れるなんて最後のチャンスかもしれないのよ!なのに...」


そう熱烈に語る香織の様子を尻目に自分のスマホを手に取った先間は、見覚えのある文字が目に入った。

あれこれって...と思いながら、スマホの画面を再度読み直し、彰人に声をかけた。


「彰人、映画行こうよ。」


「うーむ、だが...」


「この映画で小倉アナが声優に初挑戦って書かれてるよ。ほら。」


「...それを先に言わんか。さてその映画はいつから見れるのだ?チケットなどはもう買えるのか?」


先間が見せたスマホ画面の中に、小倉アナの表記を見つけた彰人は急に行く気になった。

それを見た香織は「全くあんたって...」と呆れたように呟き、葵は困ったように少しだけほほ笑んだ。

みんなの様子を確認した先間は最後にまとめようと声を出す。


「じゃあ、公開初日に4人で映画を見に行こう。確か映画館は隣町に...」


「ちょっと待ってください!」


突如、隣の席から先間たちのいる席に向かって声がかかった。

先間はびっくりして飛び上がった。

声の主はササッとテーブルの隣まで移動してくると、香織と葵に指を突き付け言った。


「彰人様と休日に映画館なんて...許せません!私も行きます!」


「み、美和ちゃん...なんでこんなところに...。」


香織がたじろぎながら言った。

そう、先ほど隣の席から声を上げたのは、彰人に惚れている美人中学生の倉持だった。

当の彰人は「おぉ、倉持か。」と声をかけ、それを聞いた倉持は「彰人様!」と言いながら先間を押しのけ彰人の隣に突撃をしていった。


「私も映画観たいです。一緒に行っていいですか...?」


「あぁ別にいいぞ。ただ、お主はこの漫画の事を知っておるのか?」


「私もネジ巻き大好きです!全巻読んでます。」


そんなやり取りを行っている彰人と倉持、その様子を少し呆れたように見る香織、そして少し羨ましそうに見る葵。

それぞれの様子を見ながら、改めて先間は思った。


(映画を見に行く日は...騒々しくなりそう...。でも楽しそうだからいいや!)


それから、こうも思った。


(でも美和ちゃん、いつから隣にいたんだ...?僕らこのファミレスにきて結構経つけど...まさか最初からいたなんてことはないだろうし...え?ないよね?)

この続きとなる映画館へ行く話は、また今度書こうと思います。

その話では久しぶりの登場となる【あの人】も出てきます。お楽しみに!

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