第五十六話 パフォーマンスと魔法は違うので 中編
一通りのパフォーマンスを終えた後、パフォーマーは確かな手ごたえを感じていた。
ここ数年、自らの芸を磨き続けるため路上に立ち続けた。最初のころはまばらだったお客も、最近では必ずと言っていいほど人だかりができている。
(そろそろテレビの目にも止まりたいな。)
パフォーマーはそう思いながら、小道具を整理する。
元々目立つことが好きで手先も器用な方だったため、小学生のころからマジックなどを練習してよく披露していた。そして年齢を重ねるにつれてもっと世間を驚かせたい、もっと注目されたいという自己顕示欲が肥大化をしていった。
そんな中ですでにマジシャン業界は飽和していると感じたパフォーマーは、この路上で行うパフォーマンスを始めたのだった。
(何度かテレビに出れるチャンスだけ掴むことができれば、同じ番組に出演するタレントとも仲良くなれるんじゃないか...なんなら今ならあのフリーアナウンサーの小倉澪と同じ番組に出れたりして...でへへ。)
ついつい妄想が膨らみ、顔が緩んでしまう。
ただテレビに出うためにはやはり東京で勝負しなければならないだろう。しかしパフォーマーは今の自分のパフォーマンスのクオリティであればあの大都会でも埋まることはない。必ず世間から注目を浴び、テレビに出演できる。そんな気がしていた。
「少しいいか?」
「ん?」
東京の駅前で人々を沸かせている自分を想像していたところ、ふいにパフォーマーに声がかかった。
その声がした方向に振り向くと先ほど最後のパフォーマンスに協力してくれた柔和な雰囲気を持つ男子高校生と、もう一人友達なのかめちゃくちゃイケメンな男子高校生が立っていた。
「ああ君は...先ほどはありがとうね。」
「あ、いえいえ。それにしてもすごいパフォーマンスですね!びっくりしました。」
「ははは。ありがとう。君のリアクションも最高だったよ。おかげで大盛り上がりだった。」
パフォーマーはそう言って柔和な男子高校生と握手を交わした。
それからイケメンな男子高校生に向き直り声をかける。
「先ほど話しかけてくれたのは君かな?」
「ああそうだ。少し聞きたいことがあるのだ。」
(おぉ...イケメンだけどえらく変わった話し方をする子だな。)
パフォーマーはそんなことを思いながらも「なんだい?」と言った。
イケメンな男子高校生はパフォーマーの足元に向かってサッと指を指した。
「それを少し借りたいのだが。」
疑問に思ったパフォーマーがそちらを向くと、そこには今まさに小道具を整理している最中であったパフォーマーのバッグが置かれている。
そしてそのバッグからは水晶玉が顔をのぞかせていた。
「いやーこれは僕の商売道具だからねー...」
そう言いながら水晶玉を取り出す。目の前では「だから言ったじゃん。無理だって。」と小声で柔和な男子高校生が、イケメンな男子高校生に声をかけていた。
イケメンな男子高校生は少し残念そうな顔をした。
「でも!さっきそちらの友達がパフォーマンスに協力してくれたから特別にいいよ。」
パフォーマーはそう言うとウインクをし、「落とさないようにだけ注意してね。」と言いながらイケメンな男子高校生に水晶玉を手渡した。
イケメンな男子高校生は頭を下げ「感謝する。」と言いながらその水晶玉を受け取ると、じっくりと様々な角度から観察をした。
それから「ふむ。」と呟くと、片手に水晶玉を乗せたままもう片手を顎へと持って行った。
「何か気になるのかい?」
「いや...逆に気になるところが一切ない本当にただの水晶球なのだな。なんの変哲もない。」
イケメンな男子高校生は事実を噛みしめるようにそう言った。
それを聞いたパフォーマーは嬉しそうに笑った。
「そうだよ!仕掛けなんてない。なぜなら僕がやっているのはマジックじゃなくて、パフォーマンスだからね。小道具に仕掛けを施すのではなく、自らの体一つで芸を行っているんだ。」
(それにしてもパフォーマンス後に水晶玉を確認したくなるなんて...つまり僕の芸がそのレベルに達しているという何よりの証拠だよね。仕掛けを疑うほどの出来栄えか...我ながら感心するよ。)
そう思いながらパフォーマーは満足げに鼻から大きく息を吸った。
「やはりそうなのか...マジックの事は知っていたが、あれには必ず何かしらのタネがある。しかしそういった仕掛けを施さずに不可思議な現象を再現する。そんな芸もあるのだな。」
そう言ってイケメンな男子高校生も感心したように一度頷いた。
それからパフォーマーに向き直ると言った。
「ちなみに先ほどの水晶玉が空中で止まっているように見える芸は、どうやっているのだ。」
「それはさすがに企業秘密かな。」
「そうか。我も習得してみたいのだが...。」
イケメンな男子高校生はそう言いながら手の中で水晶玉をもてあそんでいる。
その手の動きを見る限り、先ほどパフォーマーが行った水晶玉を空中で静止させる芸を再現しようとしているのだろう。
(まあまあ筋はいいけど...。)
パフォーマーがそう感じた通り、全くできていないわけではない。見よう見まねにしては出来がいいといえる。
しかしやはり素人だ。はたから見ると空中に固定されているようには見えなかった。
「まあもし興味があるなら、家にあるサッカーボールなんかでも練習はできるからやってごらん。習得するには練習あるのみだよ。芸に努力以外の近道はないからね。」
パフォーマーは少しほほ笑みながらそう言った。
「うむー。」
しかし目の前のイケメンな男子高校生は水晶玉に夢中なようだった。
穴が開くほど水晶玉を見ながら「どうすれば止まったように見えるのか...」と呟きながら、水晶玉を手の中で転がし続けている。
「まあまあ、もういいじゃん。この人に水晶玉を返してあげてよ。」
そう言ったのはパフォーマンスに協力してくれた柔和な男子高校生だ。
悩み続けるイケメンな男子高校生の隣に立つと、そう言いながら肩に手を置いた。そこでやっと水晶玉から意識が離れたのか、イケメンな男子高校生はその子の方を向いた。
「まあ、そこまで僕のパフォーマンスに興味を持ってくれて嬉しいよ。でもさっき言った通り一朝一夕でできるもんじゃないのさ。現にこの僕も水晶玉が空中に固定できるようになるまでは1年近く...え?」
自分の芸にこんなにも感化され、真似しようとしてくれるお客が現れたことに感極まり、目をつむったままうんうんと頷いていたパフォーマーだったが、言葉の途中で目を開けイケメンな男子高校生の姿を見た瞬間、目を疑った。
(え?あれ...空中に...)
そこではイケメンな男子高校生の目の前で水晶玉が空中に固定されていた。
否、もちろんそれはパフォーマーが行っているような芸による固定ではない。なぜなら今イケメンな男子高校生の手は、片手が悩むように顎、そしてもう片手は水晶玉の上に広げたまま軽く置いてあるだけだったからだ。
パフォーマーが行っているのはあくまで水晶玉はある一定の位置から動かさないまま、手の位置を激しく入れ替えるという芸だ。一見空中に固定されているように見えるが、その実しっかりと地面に落ちないように手で水晶玉を支えている。
(でもこれ完全に...)
パフォーマーは何度か瞬きをする。しかし何度見ても今の状態では重力によって地面に叩き付けられる水晶玉の動きを制することは出来ないはずだ。
しかし現にパフォーマーの目の前で、水晶玉は微動だにせずその場に浮かんでいた。
「うむ、そうだな。いつまでも人の物を借りておくのは悪い。」
イケメンな男子高校生はそう言うと、少し惜しむような素振りを見せながら水晶玉を両手で抱えると、パフォーマーの方へと差し出してきた。
「非常に力加減が繊細な芸なのだな。再現するには時間がかかりそうだ。こちら貸してくれて感謝する。」
「あ、あぁ...別に大丈夫...」
そう言いながらパフォーマーは水晶玉を受け取ると、思わずまじまじと観察をしてしまう。
「どうした?もしかして汚してしまったか?」
そのパフォーマーの姿を見たイケメンな男子高校生は、心配そうな声で尋ねてきた。
パフォーマーはビクッと体を震わせると、あわてて弁解する。
「い、いや、そんなことはないよ。ははは...。」
そんな乾いた笑いを浮かべながら、水晶玉を再びバッグへとしまう。
(やはり僕が渡したままの水晶玉だ...何か仕掛けが施されているわけじゃない...。じゃあさっきの光景は何だったんだ...まさか。)
パフォーマーはある推測をした。
(この2人組、もしかしてマジシャンか?すでに業界では僕のうわさが広がっていて、接触を図ってきたんじゃないか?。)
そんな疑惑を籠った目で2人組の高校生を見た。たしかにそう考えると、いくつか不自然な点がある。
まず片方の高校生の容姿が整い過ぎている。もしかするとすでに芸能事務所に所属しているタレントか何かで、鮮烈なデビューに向けて芸を磨いているのではないのだろうか?
それにもう1人の高校生もそうだ。一見無害そうな雰囲気だが、先ほどのパフォーマンス時のオーバーリアクション。よく考えれば急にパフォーマンスに参加してもらった素人ができるリアクションではないように思える。
(もしこの仮説が正しければ僕の芸を観察した後それを上回るマジックを行い、自分たちの実力を見せつけ僕を潰す気か...?)
先ほどまでの自信が一転、テレビ出演を目論んでいたパフォーマーの中で疑惑は止まらなかった
今が一皮むけるのに重要な時期だと感じていたからこそ、ナーバスになっていたのだった。
そんな中、イケメンな男子高校生が再度口を開いた。
「そう言えばもう一つのお札を使った芸だが、あちらに関しても確認したいことがある。」
(来た!!!)
パフォーマーは気合を入れた。一度ならず二度までも自分のパフォーマンスの話に踏み込んでくるのであれば、先ほどの仮説が現実味を帯びてくる。
やはりこの2人組はマジシャンで、パフォーマーの存在が将来自分たちの活動の妨げになるであることを見越し、若い芽を積みに来たのか!?
しかしパフォーマーとしても、自らの崇高な目的のためにもこんなところで潰されるわけにはいかなかった。
(確かに先ほどの水晶玉のマジックは僕では見抜けなかった。しかし次こそ仕掛けてきた瞬間にそのマジックのタネを明かしてやる。僕のテレビデビュー...いや小倉アナとの出会いを邪魔する障害は、全て真正面から乗り越えてやるぞ!)
そうして若干邪な目的を胸に男子高校生との対決に挑むパフォーマーだったが、この後に彼の人生で最大の衝撃が待ち構えていることなど知る由もないのであった。




