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第五十五話 パフォーマンスと魔法は違うので 前編

その日、学校帰りに少しブラブラと街中を歩いていた彰人と先間は、特に用もなく通りがかった駅前で遠目にまばらな人だかりができていることに気が付いた。

好奇心旺盛な彰人はその人だかりが気になり、首を伸ばしてそちらの方向を見る。


「なんの人だかり?」


先間はそんな彰人に尋ねた。しかし彰人は首を振ると「ここからではよく見えん。」と言った。


「どうする近づく?」


「うむ。行ってみよう。」


「いいよ。どうせ暇だし。」


そう言葉を交わした2人は、歩いて人だかりの方へと近付いていった。

近くまで来ると人だかりの中心で奇抜な色の服を着た男性が片手を上げながら、周りで立っているお客に向かって喋っているのが見えた。

彰人と先間は人だかりの中の開いてるスペースに身体を潜り込ませ再度目の前の男性を見ると、その手には手のひらより少し大きなサイズの水晶玉が乗っていることに気が付いた。


「では今からこの水晶玉を空中に固定します。」


男性はそう言いながら流れている音楽に合わせて身体を動かし、水晶玉を体の前で構える。

その様子を見た彰人は先間に尋ねた。


「あの人は何をやっているのだ。」


「あぁ、パフォーマンスでしょ。この人パフォーマーだね。」


先間はパフォーマーを見たまま答えた。

彰人はパフォーマンスとはなんだ?と答えようとして、次の瞬間目を見開いた。


「さぁ拍手!」


そんなことを言いながらパフォーマーは水晶玉の周りで激しく手を動かす。

しかし、水晶玉は微動だにしていない。まさに空中に固定されているようだった。


(なんだ!魔法を使っておらぬのに、なぜあの水晶玉は空中で止まっておるのだ。)


彰人は隣で「すごいクオリティ高いねー。」と感心したように呟いている先間にバッと顔を向けた。

先間は目の前のパフォーマンスより、急に真面目な顔をしてこちらを向いた彰人に驚いた。


「きゅ、急にどうしたの。」


「あやつは魔法使いではないな。」


「は?」


彰人の言葉に先間は大きく口を開けた。


(え?何?どういう冗談?)


彰人の言葉の意図が分からず混乱する先間だったが、当の本人はいたってまじめな様子で再度問いかけてくる。


「いやわかっておる。魔力の気配は微塵もしておらぬ。だがなぜあ奴の手の中で水晶玉は止まっておるのだ?」


「いや...だからそういうパフォーマンスだって...。」


しかし先間がそう答えている途中、拍手をするお客に一礼をしたパフォーマーは持っていた水晶玉を足元にあるバッグの中にしまうと、前に向き直り言った。


「では次が最後のパフォーマンスです。」


その言葉に考え込んでいた様子の彰人も、再度パフォーマーの方に顔を向ける。

パフォーマーは笑顔のまま周りを見渡し始めた。


「次はどなたかにパフォーマンスに参加をしてもらいたいのですが...ではそこのあなた!」


そう言ったパフォーマーが指を指す先には、


「え?僕?」


先間がいた。

パフォーマーは笑顔で頷くと「こちらにどうぞ!」と言って自分の隣を案内する。

先間は「こういう時なんで僕当てられやすいんだろ...。」とぼやきながらも、少し緊張した面持ちでそこまで歩いて移動した。

先間が隣に立ったことを確認したパフォーマーは軽く頷くと、再度周りのお客に顔を向け言う。


「では最後に行うのはお札を使ったパフォーマンスです。申し訳ないのですが1枚お札を借りることは出来ますか?」


「あ、はい。」


パフォーマーの問いに先間は頷き、ポケットから財布を取り出すと中を確認する。

そして少しあっという顔をした後、パフォーマーに小声で告げた。


「あの...一万円しかなくて...」


「大丈夫ですよ!」


「1枚しかないんですが...」


「ベストです!」


「えーと、じゃあ...」


その万札は明日発売されるゲームを買うための資金だった。

そのため見知らぬパフォーマーに預けることに少し不安を覚えた先間だったが、さわやかな笑顔での2連続肯定に後に引けなくなり、恐る恐る万札を取り出すとパフォーマーに手渡した。

パフォーマーは「ありがとうございます。」と言いながら受け取ると、その万札を周りにいるお客に広げて見せる。


「今ご覧になられた通りこのお札は今お借りした正真正銘こちらのお客様の持ち物です。分かりやすいように角を少し折っておきましょう。」


そう言ったパフォーマーは万札の右上を軽く折り曲げた。

その後また一度周りのお客に万札を見せた後、言った。


「ではさらにもう一度、今度はこちらを半分に折りたたみます。」


パフォーマーはそう言って万札を横半分に折りたたんだ。先間は少し不安そうな顔でその様子を見ている。

しっかりと折りたたまれた万札を手に、今度はパフォーマーが胸ポケットに手をやった。


「ではご覧ください...今から行うパフォーマンスはお札復元パフォーマンスです。」


パフォーマーはそう言った瞬間、胸ポケットからボールペンを取り出す。

そして、先間の目の前で折りたたんだ万札に一気に突き立てた。


「えー!」


先間は仰天し目を白黒させる。

頭の中では明日買う予定のゲームソフトが手を振っていた。


「ご覧ください。完全に貫通しています。」


そんな先間を見ることもなく、パフォーマーはペンの端っこを持つと周りのお客が見えるように掲げた。

確かにペンはしっかりと真ん中あたりまで万札に突き刺さっていた。


「あの、それ大丈夫なんですよね?パフォーマンスですよね?」


「大丈夫です。ですので、さらにこのお札をこうします。」


先間の問いに頷きながら答えたパフォーマーは、ペンを持っているのとは別の手でおもむろに万札を握りつぶした。

万札はすっぽりと手の中に隠れてしまい、握った拳の上下からペンだけが見えている状態となった。


「ちょちょ。」


先間はさらに慌てた。

頭の中では明日買う予定のゲームソフトが手を振っていた。さらにその姿は半透明になっていた。

しかしやはりそんな先間に目もくれず、パフォーマーのパフォーマンス?は続く。


「最後にペンを引き抜きます。」


パフォーマーはそう言うと同時に勢いよくペンを引き抜いた。

そしてそのペンは再度胸ポケットにしまった。


「ぼ、僕の一万円...」


呆然と呟く先間だったが、そこでパフォーマーは先間の方を向くと先ほど万札を握りつぶした拳を先間の前に持ってきた。


「今この手の中でお札は無残な姿になっていますよね?」


パフォーマーはそう尋ねる。先間は力なくコクコクと頷いた。


「では手を開きます。」


そう言いながらパフォーマーがゆっくりと手を開いた。

先間を含め、全員が注視したその手のひらには...なにも握られていなかった。


「あ、あれ...僕の一万円...」


狼狽する先間を尻目に、パフォーマーは周りのお客に大きく一礼をすると言った。


「ではこれにて()()()()()()()()()()()を終わります!」


「待って待って!」


先間が慌てたように声を上げた。

パフォーマーはそちらを振り返り首をかしげる。


「どうしました?」


「いやいや僕の一万円!」


「はい。消失しました。」


「駄目でしょー!」


先間は大声で叫んだ。

その声にパフォーマーは噴き出したように笑うと、手を広げて言った。


「冗談です!そうです。最初に私は()()()()()()()()()()()と言いました。では先ほどペンを突き刺され、手の中で握りつぶされたお札を復元しなければなりません。そうですよね?」


その言葉を聞いた先間は首がちぎれそうな勢いで頷いた。

そんな先間の様子ににこやかな笑顔を見せるパフォーマーだったが、指を一本立てると左右に振りながら告げる。


「しかし先ほど申し上げた通り、すでに私のパフォーマンスは終わっているのです。」


「え?」


パフォーマーの言葉に先間が困惑した顔を見せた。


「つまりですよ、すでにお札は復元されているのです。」


「あれ、でもどこに...」


「考えてみてください。お札が復元されるということは...どこに復元されると思いますか?」


「...もしかして!」


何かを思いついたように先間は財布を取り出す。

そして中を確認し、叫んだ。


「一万円札が戻ってる!」


そう言って先間が勢いよく取り出した万札は、穴も開いてなければ握りつぶされた形跡もなく、確かに右上の角が折られていた。


「ではこれにて本当に本日のパフォーマンスを終了いたします!ありがとうございました!」


そう言って大きく一礼をするパフォーマーに、周りのお客からは拍手が飛んだ。

先間も隣で一心不乱に手を叩いている。

その中で彰人だけがパフォーマーの姿をじっと見ていた。

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