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第五十話 修羅場は気づけばそこにある 後編その2

(お嬢様が絡まれてる場面に助けに入るって...漫画とかではよく見るエピソードだけど...本当に起こるんだ。)


先間はそう思いながら、彰人の方をちらっと見た。

なんだ?と言いたげな彰人に、先間は何でもないと首を振った。


「でもあの時は本当に助けられました。ありがとうございました。」


「だからもう良い、お主の感謝の気持ちは十分に伝わっておる。」


そう言って深々と頭を下げる女性生徒に彰人はそっけなく答える。

確かに今のエピソードと今の彰人の態度を見れば、恋人同士ではないのだろう。

しかしその時、先間の後ろから声が上がる。


「でも1つだけ気になることが...」


葵だった。おずおずと手を上げながら、彰人に尋ねる。

彰人は「む?」と言いながら、葵を見た。葵は顔を赤くさせると、口をパクパクとさせた。

その様子に痺れを切らしたのかその横にいた倉持が勢いよく手を上げ言った。


「さっき彰人様、その女性の方の手を握られてませんでしたか!なぜただの知り合いの女性の手を握っていたんですか!」


満を持したと言った様子で尋ねる倉持の隣では、高速で頷く葵がいた。

そしてその隣では(中学生に代弁してもらって...情けないわね。)といった顔で、そんな葵を見る香織がいた。


「ああ、そんなところまで見ていたのか。」


彰人はそう言いながら、自分の手をこちらにかざした。


「あれは手を握っていたのではない。武術を教えていたのだ。」


「え?武術ですか?」


彰人からのまさかの返答に、身構えていた倉持は呆気にとられた声を出した。

しかし合点のいった先間は「ああ、そういうこと。」と呟きながら頷く。


「今後の事を考えてってことね。」


「そうだ。」


先間の言葉に彰人は頷いた。

確かに今回はたまたま彰人が助けることができたものの、毎回都合よく誰かの助けが入るとは限らない。

それにこの女子生徒は見るからにお金持ちオーラを放っており、お淑やかでかつ危機感が薄そうな雰囲気を纏っている。

ここまで来ると今後も変な虫が寄ってくる回数は、一度や二度では済まされないだろう。

そんな時、女性生徒が自分の身を自分を守れるように、護身術を教えていたのだろう。


「図々しいとは思ったのですが、私がお願いをしまして...。」


「だがその願いを受けたのは我だ。お主が気にすることではない。」


申し訳なさそうに謝る女子生徒を見て、最後の疑いも晴れたのか、


「そうだったのですか...私の方こそ変に疑ってしまいすみません。」


「私も隠れて覗く様な真似をしてごめんなさい。」


倉持と葵は素直に頭を下げた。

そんあ2人を見て香織と先間はやれやれと首を振った。


「全くだから私は気にすることないって言ったのよ。」


「ほんとだよ。彰人に彼女なんているわけないじゃん。」


そう言って肩をすくめる2人に、彰人から突っ込みが飛んだ。


「いやお主たちも覗いておったのだろう。同罪だぞ。」


************


「いやー、一時はどうなることかと思ったけど、無事明日はダーツの大会に行けそうでほっとしたよ。」


「勝手に勘違いをされ尾行された挙句、大会に出れなくなったのを我のせいにされたら困っておったぞ。」


公園からの帰り道、彰人と先間は並んで歩いていた。

あれから4人で彰人と女子生徒に隠れて覗いていたことを謝った先間たちだったが、女子生徒は笑って許してくれた。

それから6人で公園で少しお喋りを楽しみ、みんな明日は予定があるからと解散をしていた。


ちなみに倉持は最初「彰人様と帰ります!」と言っていたが、香織と葵が明日行く予定と言っていたパン屋の事が気になるらしく、迷う素振りを見せていた。

その後、女子生徒が「よろしければ私もご同席してよろしいですか?」と言い、香織たちがもちろんと頷いたのを見て我慢が出来なくなったのか、「私も行きます!」と言い香織たちと一緒に帰っていった。

どうやら今から女子4人でパントークを繰り広げるらしい。


(パン一つにそこまで熱くなれる女子って...わからないな。)


そんなことを思いながら香織たちを見送った先間だったが、もう一つ気になることがあった。


「それにしても本当にいい子だったなーあの子。」


「確かに礼儀正しい子だな。」


彰人の返答を聞きながら、先間は先ほどの公園での光景を思い浮かべる。

彰人への誤解が解けみんなで喋っているとき、時々女子生徒と目が合っていた。

そして先間の勘違いでなければ、その度に女性生徒はふわりとほほ笑みかけてくれていた。


「顔も綺麗だし雰囲気もお淑やかで...ホントにあの子が彰人の彼女じゃなくてよかったよ。」


「なんだそれは。」


軽口を叩き合う先間と彰人だったが、先間の心の中からは先ほどの女子生徒の微笑みが焼き付いて離れなかった。


(もしかしてこれって...遅まきながらも僕にも春が...。)


先間はいつもより鼓動の音が大きく鳴っているような感覚を覚えた。

確かに彼女こそいないものの彰人はモテる。今回も彼女ではないものの、てっきり女子生徒は自分を救ってくれた彰人に好意は抱いているものだと思っていた。

しかし確かに感謝はすれど、特別な感情を抱いている様子はなかった。それどころか、あんなにやさしい微笑みはあの場で先間だけに向けられていたように思う。


(くっそーやっぱりどうにかしてメアドでも交換しとけばよかった。僕のヘタレ!)


どうにかしてもう一度あの女性生徒と会えないだろうか、と考えながら帰っていると、丁度彰人と先間がいつも分かれる道についた。

そこで手を上げ「では」という彰人を見て、先間は頭をフル回転させる。そしていい案を思いついた。


「そう言えば、もし教えるなら護身術ちゃんと教えてあげてよ。」


先間は彰人にそう告げた。

その言葉の真意は確かに今後も危ない目に合いそうなあの女子生徒を守りたいという思いも確かにあった。

しかしそれと同時に今後彰人が護身術を教える場面に自分も立ち会うことができれば、その分同じ時間を過ごすことができるという、少し姑息な考えも働いていた。

しかし当の彰人は首をかしげる。


「護身術?」


「そうそう。さっき公園で女子生徒に教えてたんでしょ?」


そう言った先間はそのまま何の気なしを装い、言葉を続ける。


「やっぱり一回だけじゃあの子の護身術身につかないと思うし、今後危ない目にあった時のためにしっかり教えてあげた方がいいと思うんだよね。それでできれば次回教えるタイミングで僕も...」


しかしそこまで聞いた彰人は何かに気づいたように「ああ」と呟いた。

しかしその後、軽く首を振りながら言った。


「先間よ。あれは護身術を教えていたわけではない。」


いきなりそんなことを言い始めた彰人に、先間はポカンと口を開けた。


「え?じゃあ何を...」


「簡単に言えば、加減の仕方だ。」


(加減...?)


彰人の言っている意味がよく分からない先間は、首をかしげながら言った。


「加減って...そもそもまずは何か身に着けないと今後絡まれたときに...」


「もしかしてだが先間。我の話を聞いて『路地裏で男どもに絡まれていたあの子を我が助けた』と思っておるか?」


「いやいや、だってさっき彰人がそう言って...」


彰人は頭を振った。


「逆だ。」


「え?」


「我が守ったのは路地裏であの子に絡まれている()()()()()だ。」


「...なにを...言って...?」


今後こそ彰人の言葉に呆気にとられる先間だったが、その先間に対して彰人は誤解を解くように説明を始める。


「つまりはだな、確かに先週最初にあの子に声をかけたのは男どもの方だった。しかし何度誘いを断ってもしつこく、挙句の果てには路地裏に連れ込んできた男どもにあの子は我慢が出来なかったらしい。」


「え?」


「それまでにも何度か同じことが起こっており、なるべく抑えるように努力をしていたらしいのだが、こればかりはサガなのだろう。一度スイッチが入るとつい加減が出来なくなるそうなのだ。」


「え?...え?」


「だから先週もあの時我が通りかからなければ、打撲だけでは済まされない状態でナンパ男どもが路地裏に転がる羽目になっていただろうな。だからこそ我は、男どもが血祭りにあげられる寸前に助けに入ったのだ。」


彰人の言葉に理解が追いつかない先間だったが、絞り出すように「つまり?」と尋ねた。

そんな先間の目を見ながら、彰人は分かりやすくとどめを刺した。


「つまりあの子は戦闘狂だ。そしてその衝動を抑えられないことを理解しているからこそ、あの子は今日我に『なるべく相手の体を壊さず叩きのめすことのできる武術』を教えてもらうように頼んできたのだ。」


その言葉を聞いた瞬間、先間は愕然と項垂れた。


(そんな...。あんなにお淑やかで柔らかい微笑みを持つあの子が...。)


先間の中で咲きかけていた桜の木から、ハラハラと桜が散っていくのを感じた。

しかしその時だった。


「まあ、血は争えないということなのだろうな...。」


彰人がしんみりと呟いたその言葉を聞いて、急に先間の中に何かひっかる物があった。


(まって...血は争えないって...どういうことだ?そういえばなんか最近似たような戦闘狂と出会ったような気がするぞ...まさか!)


先間の中である恐ろしい仮説が一つ持ち上がる。

先間は一度唾を飲み込むと、勇気を振り絞って彰人に尋ねた。


「彰人...1つだけ質問なんだけど...。」


「なんだ?」


「あの子の名前って聞いた?」


「ああもちろん聞いたぞ。」


「名字...名字だけ聞いていい?」


(頼むから違っててくれ!確かに今頭の中にある仮説が正しかったら、あの子がまるで僕を知っていたかのように今日の公園で目があっていたことにも理由が付く...でも...!)


しかしそんな先間の願いとは裏腹に、現実は無常だった。


「島だ。」


その瞬間、先間の頭の中で不自然に母音を伸ばした喋り口調の男の姿と、ゾウのぬいぐるみがフラッシュバックした。目の前が真っ暗になるのを感じた。

そんな先間に彰人から追い打ちがかかる。


「そういえば先間に一つ言い忘れておった。もちろんあの子が妹だと分かった時に、前回の空き地の話はしておる。その中で、お主も含めた伝言を預かっておったのだ。」


「...」


「『兄様を更生させてくれてありがとうございます。』だそうだ。」


放心している先間に気づかず「ではまた来週会おう。」と言って彰人は背を向け去っていった。

その後姿に先間は呟いた。


「僕の人生、いつになったら修羅場を超えられるの?」

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