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第四十七話 修羅場は気づけばそこにある 前編

それは一日の授業が終わり、彰人と一緒に外履きに履き替え、校門へと向かっているときだった。

今日は金曜日。明日は先週たまたま見つけエントリーをしていたダーツの大会に参加する予定だった先間は、そのことをウキウキと考えながら歩いていたのだが、はと違和感に気づいた。


(なんだ?やたらとみんなざわざわしてるな...)


すれ違う生徒たち、つまり先間たちと違い校門から校舎へと歩いてくる生徒たちがみんなしきりと何かを喋っている。

先間は気になり、耳を澄ましてみた。

すると、聞こえてくるキーワードはほぼほぼ似たり寄ったりなものだった。


「可愛すぎ」「あれどこの制服?」「待たせてる男コロス」「お前行ってみろって」「無理っしょ」


先間はそれらのキーワードから推測する。


(どうやら...校門で他校の可愛い女の子が誰かを待っているのかな?)


それであれば周りが騒ぐのも頷ける。なぜならやはり高校生にとって、他校の生徒、特にそれが異性となると興味の対象だった。

もちろん時々は他校の異性と付き合っている生徒が、校門前で待ち合わせている光景を見たことはある。しかし、その時周りから向けられる嫉妬の目線は尋常ではなく強い。

それゆえ、そういった嫉妬の目線に晒される中でも自分の恋人を周りにアピールしたいという、剛胆な精神の持ち主以外は、極力校門前での待ち合わせは避けているのだった。


(けっ!どうせ今回も自分の可愛い彼女をアピールしたい目立ちたがり屋が呼んだんだろ。)


もっぱら嫉妬の目線を送る側だった先間はそう思い、彼女を待たせているであろう男子生徒に胃腸が緩くなる呪いがかかるよう念じた。

そして(彰人はどうしてるのかな?)と、ちらりと隣で歩く彰人を見た。

見た感じ彰人は周りの様子に気づいていないのか、それとも気づいてはいるが特に興味が湧かないのか真顔でスタスタと歩いていた。

しかし先間はふと思った。


(そう言えば彰人って、入学した当初馬鹿みたいにモテて同じ学校はもちろん噂を聞きつけた他校の生徒からも時々告白されてたけど、結局誰とも付き合っていないな...。)


先間は彰人の顔をじっと見る。


(ただそれらすべての告白を断り続けたことに加え、今じゃすっかり彰人の変わりようは周知の事実となってしまって、告白する人もいなくなったけど...でも、まあ...やっぱ顔だけでいえばそんじょそこらの男子高校生では太刀打ちできないレベルの美形だよな...。)


毎日学校で顔を合わせていると時々忘れそうになるが、彰人の容姿は整っている。それも半端なく。

そして以前、ある雑誌に載っていた女子アナの事を気に入っていると発言していたことからも、普通に女の子が好きだと思う。

そこまで考えた時、先間の頭に一つの疑問が浮かんだ。

しかしその時、先間の目線を感じたのか彰人がくるっと先間の方を向いた。


「なんだ先間よ?我の顔に何かついておるのか?」


「いや、別に。目鼻口がついてるよ。」


「?」


先間の返答の意味が分からなかったのか、彰人は片手でぺたぺたと自分の顔を触り始めた。

そんな彰人に先間は先ほど浮かんだ疑問を投げかけてみる。


「彰人さ。」


「なんだ?」


「彼女とかって作らないの?」


その言葉を聞いた彰人は、顔を触っていた手を動かし、「ふむ」と言いながら今後は顎に触れた。


「彼女...か。」


「そうそう。以前は結構な頻度で告白されてたけど、全部断ってたじゃん。だから...」


「そうはいうが先間こそどうなのだ?」


「え?僕?」


急に話題の矛先が自分に向いたことに先間は驚く。

しかし彰人は頷くと、言葉を続ける。


「そうだ。もし恥ずかしがっているのなら、そんなことは気にしなくてもよい。我は応援する気持ちでいるのだ。朝霧との仲を。」


「だ!か!ら!」


先間は大きくため息をつくと、疲れたように言う。


「何度も言ったけど、別に朝霧さんの事はなんとも思ってないから。別に恥ずかしがってるわけじゃなくて、本当の話ね。」


「...そうか。」


先間は何度目かわからないほど繰り返してきた言葉を伝える。しかし彰人はまだ疑うような目線を向けてきていた。

このままでは埒が明かないと思った先間は、強引に矛先を変えるために「それは置いといて。」と言いながら、手で物をどかすジェスチャーをした。


「結局、彰人は彼女なんで作らないのさ?」


「すでにいるなら作る必要はないであろう。」


「大体、自分の容姿に胡坐をかいてると、そのうち...え?」


耳を疑った先間は、思わずその場で立ち止まった。

しかしそれに気づかない彰人はそのまま歩き続けている。

衝撃のあまり飛びかけた記憶を先間は必死で繋ぎ止めると、鼻息も荒くその後を追った。


「ちょい待った!え?彰人なんて言った?さっきなんて言った?ちょっと。え?」


そう言いながら彰人の袖を掴み、引き留める。

周りの生徒たちは急に立ち止まった先間たちに迷惑そうな顔をしつつも、隣を通り過ぎていく。


「何を慌てておる。」


「は?別に慌ててないよ?全然普通ですけど。別に彼女いるやつが偉いわけじゃないし。慌てる意味が分からないよ。」


そう言いながらテンパっている様子の先間は、辺りの様子が目に入っていなかった。

なぜなら今その瞬間、先間の目は嫉妬に燃え、そのターゲットである彰人をロックオンしていたからだった。

だが先間は知らなかった。彼女持ちを恨むとき、敵は彼氏だけとは限らないのだ。


「あ、豊島君。」


柔らかな声色が先間の耳を打った。

その瞬間、先間はようやく自分がどこにいるのかを認識する。

今彰人を呼び止め話していた場所は、少し前他校の女子生徒がいると話題になっていた場所。『校門』だった。


「っ!」


思わず先間は声の聞こえてきた方向に顔を向ける。

そこには先ほどの声を出したと一目でわかる女子生徒が立っていた。

事前情報通り、他校の生徒だ。制服を見る限り、おそらく隣町にあるお嬢様学校の生徒だろう。

ふんわりと緩いパーマをかけた髪は、セミロングの長さで少し色素が薄目だ。そして、優しそうな目元とぷくりと膨らむ小ぶりな唇。

儚げな雰囲気を醸し出す繊細な美少女がそこにはいた。


「来たのか。よいと言ったのに。」


呆然と立ち尽くす先間の目の前で、裏切り者が口を開いた。

その言葉を聞いた女子生徒は少し恥ずかしそうにうつむきながら言った。


「つい...。わがままだったでしょうか?」


上目づかいで尋ねる女子生徒に、世紀の裏切り者は言う。


「まあ別によい。だが、少しここは人が多い。向こうで話すとしよう。」


そういうと今世紀最大の裏切り者は校門から出ると、学校の隣にある小さな公園へと続く道を歩き始めた。

女子生徒も小声で「はいっ」と言うと、その横にならび歩いていく。


(あの裏切り者に天誅を。神様、僕に力をください。裏切り者を罰する力を...)


「...はっ!」


つられてその後を歩きながら、呪われた力を欲していた先間は、公園の入り口で正気を取り戻した。


(このまま2人の後をついていくのは、気まず過ぎる!)


そう思った先間は勇気を振り絞り、彰人に声をかけた。


「あ、彰人!」


「む?」


彰人はこちらを振り向いた。その隣で女子生徒も振り向く。

その美貌に先間は顔が赤くなるのを感じた。しかし、更に勇気を振り絞る。


「僕、明日忙しいから今日は帰るね!バイバエ!」


最後のバイバイで思いっきり噛み、更に声も裏返った。

その瞬間、先間の羞恥心は限界を向かえた。


「先間?」


急に別れを切り出す先間に不思議そうな顔をした彰人だったが、先間は手を上げると「また来週!」と言って、その場から立ち去った。

そして公園の周りに沿って歩いていた先間は、彰人たちの姿が見えなくなった辺りで、再度公園内に足を踏み入れた。


(このまま帰るなんて無理!)


あの子は何をしに彰人に会いに来たのか。

この公園でどんな話をするのか。

そもそも...本当にあの子は彰人の彼女なのか。

そんな疑問が頭の中を埋め尽くす先間は、もちろんこのまま家になど帰れるわけはなかった。


(えーと、彰人たちはどこだろう...いた!)


公園の端に生えている木々の間を向けながらキョロキョロとする先間の目は、彰人と女子生徒の姿を捉えた。

どうやら、今丁度ベンチを見つけ座るところだったらしい。


(これは盗み聞ぎじゃない...これは...正義の行動なんだ。)


そう自分に言い聞かせながら、彰人たちの座るベンチの後ろに移動していた先間だったが、丁度その声が聞こえる辺りにたどり着いた瞬間、急激な力で腕を引っ張られた。


「...ぅ!」


思わず声を上げかけた先間だったが、その口も塞がれる。

恐怖に目を見開いた先間の目の前には、3人の女性がいた。

以前彰人が『倉持』と呼んでいた女子中学生が先間の腕を掴んでおり、葵が先間の口を塞ぎ、その後ろでは疲れた顔をした香織が立っていた。


その瞬間、先間は察した。

すでに状況は修羅場に突入しているのだ。

久しぶりに登場した『倉持』ですが、第十七話~第十九話「ある少女の話」と、第二十七話~第二十九話「恋の空回り大作戦」に登場している彰人に惚れている女子中学生です。

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