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第四十五話 任侠だけではやってけない その13

先ほどまで2人しかいなかったその部屋に突如として響いたその声は、二人とも聞き覚えのある声だった。

島は想像通りと言った様子で、スーツのヤクザは驚愕に目を見開きながら、声の聞こえた方向に顔を向けた。


「一人目は撲殺、二人目は射殺...これは事実ではなかろう。」


そこには先ほどまでスーツのヤクザが座っていた椅子に座りながら、作業机の上に置いてあるノートパソコンを触っている男子高校生の姿があった。

読み上げた文章から考えるに、どうやらノートパソコンで先ほどスーツのヤクザが作成した報告書を読み上げているらしい。


「てめぇ...なんで...どうなって...」


スーツのヤクザは狼狽した様子を見せる。

それもそのはずだ。なぜなら先ほど読みあげられたように、その高校生は数時間前自らの手で射殺していたはずだった。その遺体は部下に土の中に埋めさせた事までしっかりと記憶している。

しかしその射殺したという報告書を、射殺された本人が読み上げているのだ。

スーツのヤクザは夢でも見ている気分だった。


「やれやれ、少しでも不測の事態が起これば混乱し、身動きが取れなくなる。もっと柔軟に動けるようになった方がよかろう。なぜなら世界は必ずしも、()()()()()()()()()()()()()()()()のだからな。」


ニヤリと笑いながら高校生はそう言った。

それから「もう一つ。」といい、再度ノートパソコンに目を落とす。


「報告書では人の名くらい正確に書かなくてはならんだろう。なぜなら我は高校生Aではない。我は彰人と言う。」


急に自己紹介を始めた彰人だったが、「とはいえ、この報告書は書き直すのだ。その時に名前は変えればよい。」と言って、ノートパソコンをパチリと閉じた。

その音に呆然としてたスーツのヤクザはハッと意識を覚醒させると、言った。


「まさか...超能力で死者蘇生を...」


「馬鹿を言うな。」


彰人はスーツのヤクザの言葉を、ピシャリと遮った。


「我でも死者を甦らすことはできぬ。死と言うのは絶対的なルールだ。」


「それに超能力の領分じゃぁねぇ。」


彰人の言葉に重ねるように、島が言った。

彰人は島の方に顔を向けると、「そうなのか?」と問いかけた。


「あぁ、超能力は基本的に物の動きしかコントロールできねぇはずだぁ。動かしたり止まらせたりな。」


「なるほど、その程度か...。やはりそのような力と我の力を同列にされたことは腹立たしいな。」


彰人は腕を組むと、ふんっと鼻を鳴らした。

しかしその様子を見たスーツのヤクザは、更に混乱を極めた様子で声を荒げる。


「超能力じゃねぇっていうなら何だってんだよこの状況は!空き地では確かにぬいぐるみに押されて車は横転したし、てめぇは先ほど俺が撃ち殺しただろうが!」


その言葉に答えるように彰人は椅子からゆっくりと立ち上がった。


「ふむ。では無知なお主に教えてやろう。我の力は...」


「おい!てめぇら上がってこい!」


彰人の言葉を遮り、スーツのヤクザは部屋の外に向かって叫ぶ。

しかし、当たり前のように誰の声も帰ってこない。さらに言えば、部屋の外からは物音一つ聞こえてこなかった。


「外はすでに手遅れだろうなぁ。」


島は推測するように呟く。

その言葉を聞いた彰人は頷いた。


「あぁそうだ。それにすこし空間をいじっておるからな、この部屋の中で起こったことは周りには伝わることはない。それに加え、すでに空き地にいた運転手どもと、お主の部下2人の事も解決済みだ。」


自慢げにそう告げる彰人を見て、島は「はっ!仕事が早いことでぇ。」と呆れたように呟いた。

スーツのヤクザは「くそっ!」と大きな声で悪態をついた。


「超能力では今述べたようなことは行えないであろう?だから教えてやろう。我の力は...」


「死ねやぁぁあああ!」


スーツのヤクザはそう叫びながら胸元から銃を取り出すと、彰人に向かって連射した。

部屋の中に銃声が連続で響き渡る。冒頭で述べたが、この事務所があるのは住宅地の中だ。

ましてや今は真夜中。その中で拳銃を打つなど、普通なら即警察が駆けつけてくるため、決して行わない行為だった。

それだけスーツのヤクザは混乱を極めていた。

しかし、そんな状況でも島は耳を塞ぎながら思っていた。


(さっき空間をいじったといってたなぁ。つまり、この音すら周りには聞こえてねぇんだろうよ。)


それは正解だった。現在この部屋は完全に隔離された状態になっており、部屋の中で鳴った音は決して外に漏れず、逆に部屋の外の音も届くことはない、陸の孤島...と言うよりはビルの中の孤島と化していた。

そんな孤島の中に、カチカチという音が響く。弾切れの音だった。


「ハァハァ...くそ...」


目の前の光景にスーツのヤクザは銃を構えたまま、落胆した声を出した。


「やれやれ全く。人の話を何度も遮りおって...。」


そこでは片手を突き出した彰人の目の前で、撃ちだされた銃弾が全て空中で静止していた。


「だがこれでわかっただろう。我の力が。」


「その状態だと、超能力と変わらねぇぞぉ。」


自慢げに言う彰人に、島の忠告が横から飛んだ。

彰人は「む?」と言うと、その意味に気づき肩をすくめた。


「そうか、物の動きを止めるのは超能力でもできるのであったな。我としたことがうっかりしておった。...ではこれは超能力では出来んであろう。」


彰人がそう言った瞬間、空中で静止していた銃弾が急速に赤く変色していく。どうやら高温になってるらしい。

そしてドロドロに溶けた銃弾はそのまま空中を移動していき、全ての銃弾が中央の辺りで混ざり始めた。


「こんなものか。」


そう言った彰人の目の前では、混ざり合い一つの鉄の塊になった銃弾が、ある動物を形作っていた。


「ライ...オン...?」


スーツのヤクザは、呆然とした様子でつぶやいた。

彰人は「うむ。」と言って頷くと、満を持した様子で言った。


「これが我の力。魔法だ。」


大きく胸を張った彰人に、島は言った。


「そういう秘密って、大々的にアピールしていいのかよぉ?」


「問題ない。」


彰人は軽く微笑みながら言った。


「この争いが終わるころには、この事実は消えてなくなっている。」


その言葉を聞いた島は思いっきり顔をしかめた。


「そんなこったろうと思ったぜぇ。」


「くそが!殺されてたまるか!」


スーツのヤクザはそう叫ぶが、彰人は面白くなさそうに鼻を鳴らした。


「お主たちと一緒にするな。お主たちは事実を消す際に当事者を殺める方法しか知らぬのだろうが、いいか?世の中には事実を消す方法などいくらでもあるのだ。」


これもその中の1つだ、彰人はそう呟くと先ほど銃弾から生成したライオンに向かって手をかざした。

すると何度かプルプルと震えた後、ライオンはそのサイズを急速に拡大させた。そしてものの数秒経った時、その場には原寸大の金属製のライオンが立っていた。


「な...な...」


スーツのヤクザはその場にへたり込んだ。

もちろん目の前で急にライオンが大きくなったのもその原因の一つだった。しかしより強烈な恐怖心を与えている原因。

それはそのライオンがまるで生きているように、唸り声を上げながら一歩一歩近づいてくることにあった。


「なんで生きて、なんでライオンが...。」


後ずさりながらもスーツのヤクザの口からは様々な疑問があふれ出てくる。

島はそれを眺めながら(仕方ねぇかぁ)と思っていた。


(自分が殺したと思った相手が急に事務所の中に現れたと思ったら、今後は金属製のライオンだもんなぁ。そりゃ混乱もするわな。)


地を這うような唸り声を上げるライオン。

そのライオンから後ずさっていたが、ついに壁に背がついてしまったスーツのヤクザ。

その光景を後ろから眺めている彰人。

島はため息をつきながら言った。


「俺はそれやめてくれねぇかなぁ?怖いのは苦手なんだぜぇ。」


彰人は島の方こそ向かなかったが、手をひらひらと振り「心配するな」と言った。


「これは理想の中だとはいえ、命を奪われたことに対する仕返しだ。お主への仕置きはあの空き地で済ませておる。」


「じゃぁ、別に記憶も消さなくても...」


「それは駄目だ。」


彰人の返答を聞いた島は諦めたように「あぁそうかい。」と言うとそばにあったソファに腰を下ろした。


「なるべく痛いのもやめてくれよ。」


再度彰人は手を振ることで、島の言葉に返答をした。


「さて。」


彰人はスーツのヤクザを見下ろしながら言う。


「色々と長く腹立たしい日だったが、これを言うのも最後だ。...知っておるか?」


「たっ助けっ!」


彰人の声の響きにただならぬ圧力を感じたスーツのヤクザは、立ち上がってドアに飛びつこうとした。しかしすでに体は動かなかった。

相対する相手どころか、現実では自分の体すら理想通りに動くわけではないのだ。

しかしスーツのヤクザがそのことに気づくには、すでに手遅れだった。


「ライオンは百獣の王と呼ばれておるらしい。ふむ。良い響きだ。」


彰人がそう告げた瞬間、スーツのヤクザの目の前でライオンが大きく吠えた。

そしてその光景が、スーツのヤクザが見た最後の光景だった。

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