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第四十二話 任侠だけではやってけない その10

「オラァ出てこい!」


目の前で部下の一人が威嚇するように声を荒げながら、勢いよく倉庫の扉を横へ引く。

甲高い金属音を鳴らしながら扉は滑るように開き、暗かった倉庫内を光が照らした。

大量の段ボールが積み上げられている。素早く目を走らせるが、特に危険な製品ではなさそうだ。

まず部下たちに入らせ辺りを確認させた後、俺は倉庫の中へと足を踏み入れた。


(いるな。)


人の気配は簡単に消せるものではない。特に恐怖という感情は色濃くその場に漂う。

俺は現在追いかけている高校生が倉庫内に隠れてることを直感で察した。他の2人とも顔を合わせ頷き合う。


「もういることはバレてんだよ!」


「さっさと姿を見せろ!」


念のため俺が入り口を見張ったうえで、部下たちが別々の方向を見ながらゆっくりと前進をする。

しかし何度か威嚇してみるが、辺りから物音は聞こえない。


(ちっ。めんどくせぇな。たかが学生2人にどれだけ時間かかってんだ。)


ついつい頭に血が上りかけるが、静かに息を吐き気持ちを落ち着かせる。


(そう焦ることはないか。ここにいることは間違いないんだ。あとは見つけるだけだ。)


俺はそう思い煙草でも吸うかと、ポケットに手を入れた。

その直後、奥の方から声が響いてきた。


「落ち着け。今そちらに姿を見せる。」


素早く声がした方向に目を向けると、奥に積まれた段ボールの隙間から、学生が一人歩いて出てきた。

間違いない。追いかけていた学生の中の1人だ。


「てめぇ、手間を取らせやがって。」


そう言いながら部下の一人が近づいていく。


「待て。」


俺はそいつに静止の指示を出す。

そしてもう一人に顔を向け、「お前、ここで出口を見張っていろ。」と指示を出した。


「...わかりました。」


若干不思議そうな顔をしたが、部下は指示通りの場所へ歩いて移動した。

俺は入れ替わるように倉庫の奥へと歩いていくと、もう一人の部下にも手で(お前はそこにいろ)と合図を送った。

そいつが頷いたことを確認し、学生と相対する。


「もう一人はどこだ。」


「...もう一人はいいであろう。恐怖で体が動かなくなっているのだ。それに島との事も、先ほどの空き地でのことも、我が一人で行ったことだ。」


「そうか。」


最初、俺の問いに答える前に学生は一瞬後ろを気にする素振りを見せた。

俺は目線を学生から外さないまま、指示を飛ばす。


「もう一人は奥だ。連れてこい。」


「まっ待て!」


指示を受け段ボールの奥へ向かう部下に、学生は手を伸ばしかける。

だが、もちろんそんな行動を許すわけにはいかない。


「勝手に動くんじゃねぇ。」


「っ!」


こちらを向いた学生の顔が恐怖で染まる。その目線は俺が持つ銃に向けられていた。

俺は銃口を学生の胸辺りに向けたまま、ゆっくりと近づく。


「てめぇはさっきの空き地でぬいぐるみを使って妙なことをやりやがったからな。勝手に動かれて、また事態がややこしくなったら困るんだよ。」


「くっ。」


悔しそうに顔を歪めるが、やはり所詮は学生だ。偉そうな態度を取っていても、自分が追い込まれると弱い。

現に銃を向けられている今の状況では、唇を噛み折れそうになる心をどうにか支えているようだった。


「いました!オラさっさと歩け!」


先ほど学生が出てきた段ボールの隙間から、奥に向かった部下が現れる。

その手は追いかけていた学生のもう一人、背の小さな学生の首根っこを掴んでおり、半ば引きずる様な形になっていた。


「よくやった。そのまま連れてこい。」


指示を聞いた部下は頷くと「自分で歩け!」と怒鳴りながら小さな学生の背を押す。先ほどまで下を向いていた学生は少しよろめき、前を向いて顔を恐怖に染めた。

もちろんその視線の先に合った、自分の友達に銃が向けられている光景を見てのことだろう。

思わず体が硬直しかけたようだったが後ろからもう一度強く体を押されると、倒れないよう一歩ずつ確かめるように歩きながらこちらへ向かってきた。


「センマ!」


銃を向けられたままそう叫ぶ学生だったが、やはり恐怖からか動く素振りは見せなかった。

そして俺の隣にセンマと呼ばれた小さな学生が並ぶ。俺はそのことを確認した後、言った。


「さあ、お前のお友達はここにいる。これでもお前は抵抗するのか?」


その言葉を聞いた学生は再度悔しそうに顔を歪めると、懇願するような声で言う。


「さっきも言ったが、そいつは何の関係もない。お主たちが報復すべきなのは我だけだ。だから...」


俺はまだ喋っている学生をしり目に、持っている銃で隣にいたセンマを殴った。

センマは「ガッ」といううめき声をあげ、その場に倒れる。

その光景に悲痛そうな顔をする学生に向かって、言った。


「どうやらまだお前は勘違いしているらしい。すでにお前は交渉できる立場じゃねぇんだ。」


そして次は銃口を学生の頭に合わせると、再度尋ねた。


「次はよく考えて答えろ。抵抗するのか?しないのか?」


学生は数秒迷った素振りを見せた後、肩を落とし「抵抗しません。」と呟いた。

俺はその学生の頭に思いっきり銃を叩き付ける。学生は声を上げる間もなくその場に崩れ落ちた。


「アキト!」


センマが小さな声で叫んだ。

俺はそちらに顔を向けると、指示を出す。


「おい、そいつも気絶させろ。」


部下は頷くと、センマのお腹を思いっきり殴りつけた。

呻く様な声と共にセンマもその場で崩れ落ちた。


「おい!お前もこっちに来て、こいつらを背負え。山に連れていくぞ。」


「うす。」


出口を見張っていた部下もこちらに呼び、アキトを背負わせた。


(やっと終わったか。)


俺は銃をしまうと部下がそれぞれ学生を背負っていることを確認し、倉庫から出た。


************


「おい、起きろ。」


そう言って目の前のアキトのお腹を蹴りつける。

ゴホッと大きくせき込みながら、アキトは目を覚ましたようだった。


「ここは...?」


まず最初は場所に違和感を覚えた様子だったが、すぐに自分の置かれている状況が分かったらしく、さっと顔を青ざめさせた。

そう、現在は先ほどの倉庫街の裏手にあった山の中に移動しており、アキトは座った状態のまま木に縛られていた。


「お前にはいくつか質問があるからな。答えてもらう。」


「な...何を...」


「決まってるだろ。ぬいぐるみの件だよ。」


俺は腰を下ろし、アキトと目線を合わせた。


「空き地で起こったこと。あれは何だ?」


最初は口ごもっていたアキトだったが、目の前で銃をちらつかせると、正直に白状し始めた。

あれはぬいぐるみに何か細工を施しているわけではない。全ては自分の超能力を使って行った。ぬいぐるみも超能力を使って動かしていただけで、実際に車を横転させたり他の車の運転席に座っていた組員を気絶させたりしたのは自分だと。


「超能力か...。いつもだったら笑い飛ばすところだが、実際にお前は腕っぷしだけは一丁前な島に喧嘩で勝ち、俺の目の前では車が横転してる。これだけ証拠がそろってるなら、信じるしかねぇ。」


何度も首を縦に振るアキトを見ながら、俺は次の質問をした。


「じゃあもう一つ、なんで逃げた?」


「実は...我には1日で使える超能力に限界がある。今日は空き地で車を横転させた瞬間、その限界を向かえていたのだ。そのことをセンマに指摘され、逃げたのだ。」


「ふん。逃げた理由はくだらねぇな。」


俺はそう言って立ち上がった。

しかし自分でセンマという単語を喋ったからか、アキトは思いついたように辺りを素早く見渡すと、切羽詰まった声で尋ねてきた。


「そんなことよりセンマは...センマはどこにいるのだ。」


「ん?俺が最初に行った言葉を聞いてなかったのか?俺は『()()()()いくつか質問がある』と言ったんだ。」


そういうと俺はアキトの後ろに目線を送り、軽く頷いた。

俺の送った合図を受け、部下たちがこちらに向かってくる。その手には何か重いモノを引きずっていた。


「つまりは...もう一人に用はなかったということだ。」


俺がそう言った瞬間、組員が腕を振り引きずっていたモノをアキトの目の前に放り投げた。

アキトは自分の視界に飛び込んできたモノに思わず目を向け、次の瞬間に嘔吐する。


「お前は倉庫で今回の件は自分のせいだと言っていたが、そうことは関係ねぇ。言っただろ?俺らが素人に手を出した時は、その事実ごと消す必要があるんだよ。」


彰人の目の前に投げ出されたモノは、センマの死体だった。

かなりひどく殴られた跡があり、手足もすべてがバラバラの方向に折れていた。

特に損傷のひどい顔は、痣や腫れに覆われており、半分くらいは原型をとどめていなかった。


「うぇぇえええ。ぐっ、げぇぇえええ。」


嘔吐を繰り返すアキトを、俺は煙草を吸いながら眺める。

そして数秒が立ち、ついに胃の中から吐くものが尽きたのか、アキトは俯いたまま嗚咽を漏らし始めた。

俺は吸い終わった煙草を携帯灰皿へ捨てると言った。


「さっき俺は『誰のせいとかは関係ない』と言った。これはお前もこいつも同じく罰を受ける必要があるって意味だ。」


「...」


「だがな、それは同じ罰を受けるという意味じゃねぇ。」


俺の言葉の意味が分からなかったのか、アキトは真っ赤な目でこちらを向いた。


「つまりその場にいただけのこいつと違い、お前は直接手を出してんだ。そうなると、お前の方が重い罰を受けなきゃ筋が通らねぇだろう?」


今度は俺の言わんとしていることが分かったのだろう。アキトの顔が絶望で染まった。

しかし俺は軽く腕を上げると、「安心しろ」と声をかけた。


「いくら超能力とはいえ、ヤクザに歯向かう度胸は評価できる。正直言うと俺はそう言った反骨精神のようなものが嫌いじゃねぇ。」


「じゃ、じゃあ...」


まさに地獄に垂れてきた蜘蛛の糸を見つけたように、アキトの目に少し光が戻った。

俺は軽く頷くと、手を胸元に突っ込んだ。


「だから、特別にこいつで殺してやるよ。」


そう言うと同時に俺は銃の引き金を引いた。

おそらく何が起こったか把握できないままでいるアキトの頭に鉛玉が着弾する。アキトの体は弾かれたように動き、その頭からは地面に血と脳漿が飛び散った。

それから数回手足がビクビクと痙攣したが、地面に撒き散っている血潮が冷める頃には、痙攣も収まり動いている個所は頭から垂れる血のみとなった。

俺はそれを確認すると、部下たちに声をかけた。


「おい、穴は掘れているか?こいつらを埋めるぞ。」


そして再度目の前で息絶えたアキトを見る。


「超能力があるからって、ヤクザをなめんじゃねぇ。どんな奴が相手でもメンツを張るためには命をかける。それが鬼頭組の任侠だ。」


このようにして暗い森の中でアキトは死んだ。

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