第四十一話 任侠だけではやってけない その9
(あれ?こうして思い返してみると、僕が彰人をゲーセンに誘ったのが元凶な気が...)
「先ほどから何をぶつぶつ言っている?」
今日の放課後から現在の状況に至るまでの経緯を思い返していた先間に、隣で走る彰人から声がかかった。
先間は後ろから響くヤクザたちの怒号を聞き流しながら、言った。
「彰人。」
「なんだ?」
「しばらく...ゲーセン行くのやめよ。」
その言葉を聞いた彰人は、キョトンとした顔で言った。
「嫌だが?」
「え!なんで!?」
まさか拒否されると思っていなかった先間は驚き、思わず聞き返す。
彰人は今日3個目となるゴミ箱を弾き飛ばし中身を路地に散乱させることで、後方にいるヤクザの邪魔をしながら答えた。
「今日、獲得したぬいぐるみたちが結局1匹たりとも手元に残っておらんからな。また取りにいかねばならん。」
真面目な顔でそう言う彰人を見て、先間は呆気にとられた。
(まさか彰人ってぬいぐるみ集めてたりするのかな...?似合わなすぎる。これは一度彰人の家に行って確かめないと。まあ、そんなことよりこの状況を切る抜けるほうが先決だけど。)
しかし、もちろん彰人はぬいぐるみを集めているわけではない。
元々日本に転移するにあたり、事前に地球の様々なことを調べていた彰人だったが、地球に生息する動物のことは大して重要な情報ではないと考え、あまり勉強していなかった。
しかし、いざ日本に来てみると人と動物が上手に共存していることに驚いた。そして、空いた時間に少しづつ動物の事について勉強していく中で、この地球には想像以上に多種多様な動物がいることを知った。
(おもしろい。元の世界にはそもそも動物はおらぬが、その代わりとなる魔獣はいる。しかし魔獣の事など誰も詳しく知ろうとはしていなかったが、こちらの世界では動物ごとに生態まで調べられている。もしかしたら元の世界でも魔獣の生態を調べることで、共存することもできるのかもしれぬな。)
そうして彰人はどんどんと動物の雑学にはまっていった。
つまりは、動物マニアになっていたのだった。
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「ほんと...しつこいよ...。」
「全くだ。」
彰人たちとヤクザたちの追いかけっこはそれから1時間近く続き、今では町はずれの倉庫街へと移動してきていた。
すぐ後ろを山が囲むこの倉庫街は、昼間は大勢の作業員でにぎわっているが夕方過ぎになると急に人が減り閑散とする。そしてすでに夜へと差し掛かるこの時間では、誰一人残っている人はいなかった。
今彰人たちはそんな人気のない倉庫の一つに身を隠していた。
「オラァ、出てこい!」
「ここにいるのはわかってんだよ!」
倉庫の外では、相変わらずヤクザたちの声が響いている。すでに最初の空き地での出会いからはかなりの時間が経過していたが、ヤクザたちの怒りは一向に収まる気配はなかった。
「これってもしかしてさ...」
「ん?」
「諦めてくれないやつ?」
先間が小声でつぶやいた。
彰人は肩をすくめると、軽い調子で返答する。
「やっと気が付いたのか?」
その言葉を聞いた先間は頭を抱えた。
こちらに向いている先間のつむじに向かって、彰人は喋る。
「最初の空き地で言っていたであろう。奴らは我らに島の報復を行うとともに、その事実を隠蔽せねばならぬ。事実を隠すということはつまり、我らを消す気なのだぞ。」
「そういう直接的な表現やめて...自分が殺されるとか想像すらしたことないから、現実として考えたくない。」
先間は頭を抱えたまま、力ない声で答える。
しかし、その直後外から再度ヤクザの怒号が響いた。先間が慌てたように顔を上げて、その声のした方向を見る。
「彰人、今...!」
「ああ。近いな。」
そう、ヤクザたちの声は徐々に彰人たちのいる倉庫へと近づきつつあった。
おそらくヤクザたちは周りにある倉庫をしらみつぶしに探しているのだろう。しかしほとんどの倉庫には鍵が閉まっている。
彰人たちが隠れている倉庫がヤクザたちに見つかるのも時間の問題だった。
「どうしよう...逃げよっか。」
「それは得策ではなかろう。」
先間の提案に、彰人は首を振って答える。
「すでに時間も時間だ。外は暗くなってきておる。この視界の中、今までと同じように逃げるのは不可能だぞ。」
「そう...だよね。」
先間も薄々は気づいていたのだろう。
彰人の説明に、しょんぼりとした様子で答えた。
「やはり、この場所で決着をつけたほうがいいのではないか?」
「うーん、でも...」
彰人の提案に先間はそれでも渋った様子を見せる。
「そう心配するな。あやつらを消し炭にするのに、1秒もかからんぞ。」
先間がはじろっとした目で彰人を見ると、「消し炭。ダメ絶対。」と言った。
彰人は冗談だという風に手を軽く上げる。
「だが、実際それ以外解決方法はないであろう。先間の想定通り奴らは我らを消すまで諦めんぞ。」
「そうなんだけどさ...だってヤクザだよ?それを倒すって...。」
あまりにも自分の常識からかけ離れている状況に、先間は頭がうまく回らなくなってくる。
しかしそんな最中、外のヤクザから絶望的な情報が届いた。
「いくら逃げても無駄だぞ。てめぇらの情報は俺らの支部まですでに伝えてある。」
「そうだ。ヤクザに手を上げたんだ。逃げ切れると思うなよ。」
その声を聞いた先間は、「もう駄目だ。すでに広まってる。」と言い顔を手で覆った。
彰人はそんな先間に尋ねる。
「広まるとは?」
「さっき外のヤクザが言ってたでしょ?もう僕らがヤクザと喧嘩したって情報は、彼らの組のこの街にある支部に伝わってるんだよ。」
先間の言葉に彰人は軽く考える素振りを見せる。
「その支部とやらはどこにあるのだ?」
「わからないよ...。ただこの辺りでヤクザが事務所を構えているって噂になった地域は、耳にしたことがあるけど...。ほら、駅の商店街とは逆側にある、住宅が並んでる地域あるでしょ?あのあたり。」
「そうか...。ではその組とやらの名前はわかるのか?」
「え?名前?うーん...確か...」
先間は思い出すように顔をしかめると、言った。
「鬼頭組。」
先間が組の名前を告げた瞬間、外からヤクザたちの声が聞こえてきた。
「おい、あそこの倉庫見ろ。」
「ん?扉が開いてんのか。」
ひっ、と先間の喉が引き攣り声が漏れた。先間は慌てて両手で口をふさぐ。
しかしすでに手遅れだった。外にいるヤクザたちは彰人たちの隠れる倉庫を発見したようだった。
(1分くらいか。)
彰人は聞こえてきた声から、ヤクザたちのいる場所とこの倉庫との距離を頭の中で割り出す。そしてその距離をヤクザが近づき、倉庫の扉を開けるまでにかかる時間は1分ほどだろうと計算した。
彰人は、口をふさいだまま身体を小さく丸めている先間の方を見て言った。
「外には我らを消そうとする奴ら。そんな奴らを倒しても、すでに我らの情報はやつらの支部とやらへ届けられている。つまり一筋縄ではいかぬ状況だな。」
先間は一度小さく頭を動かし頷いた。
外からはついにヤクザたちの足音も聞こえ始めていた。
彰人はそのまま続ける。
「だが先間よ。いいか、よく聞け。こんな状況はなんということはない。」
そこまで言うと彰人は「どうする?」と言う意味を込め、軽く眉を上げた。
外からはヤクザたちが倉庫の扉に手をかけた音が聞こえた。
先間は意を決したような顔をすると、彰人にぐいっと顔を近づけ、消え入りそうな小声で言った。
「彰人、お願い。僕らが明日も一般的な高校生活を送れるようにして。」
彰人は軽く頷くと、ニヤリと笑った。
「我に任せろ。完璧な方法がある。」
すみません!前回の話で少し矛盾を発見しましたので、第三十三話を微修正しました。
特に物語に影響を与える部分ではありません。もし気づかれていた方は、内緒でお願いします。




