表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/141

第四十話 任侠だけではやってけない その8

(あ、これ死んだ。)


明かな臨戦態勢に移行するヤクザたちを見て、先間は腰が抜けそうになった。

しかしそんな先間の視界にずいっと横から入ってきた彰人は、物怖じした様子もなく先頭に立つスーツの男に向かって言った。


「その問いの答えがどうであれ、お主たち中でその後に行う行動の結論は出ているのであろう?では問答自体不要だと思うが。」


「ガキが。今は虚勢を張るタイミングじゃねぇってことすらわからねぇのか。」


そうすごまれた彰人は「虚勢?」と言いながら首をかしげる。


「この期に及んでなんのプライドを守ってんだ。あぁ?」


更にすごんでくるヤクザに、やはり彰人は「プライド?」と言いながら首をかしげた。

そんな彰人の様子に若干イラついた仕草を見せたヤクザは、軽く舌打ちをするとこちらに向かって歩き始めた。


「さっきの言葉でわかってるとは思うが、すでにお前らは生きる上で超えちゃならない線を越えてんだよ。その線の内側ではお前らが普段守ってる権利とやらはなんの意味もなさねぇんだ?わかるか?」


「ふむ。そしてその線の内側にいる人種がお主たちだと?」


「ああ、そうだ。」


そう言いながらスーツの男は、彰人の目の前に立った。

そしてポケットに手を込んだまま告げる。


「つまり、この線の内側ではお前たちはすでに...」


「一つ考えを改める必要がある。」


スーツの男の言葉を遮り、彰人が指を一本立てながら言った。

「あ?」と言いながら、スーツの男は怪訝そうな顔をする。


「我らが超えた線の内側にお主たちがいるということはわかった。確かにどの世界にもそういった一定のラインは存在する。そのラインを超えた瞬間、今までの常識が役を成さない、そういったラインだな。」


「だからさっきからそう言って...」


「だが、その線の内側にいる者たちは、同じ領域に入ってきた者に対して2通りの捉え方があることを自覚しなければならない。線を()()()()()のか、はたまた()()()()()のかということだ。」


「は?てめえ何が言いてぇんだ?」


「そうだな、簡潔に言うならば。」


彰人は口角を上げ、にやりと笑った。


「今お主たちの領域には、我が立っているということだ。」


その瞬間、ヤクザたちの後方から衝突音が聞こえ悲鳴が響いた。

思わず後ろを振り返ったヤクザたちは目を疑う。なぜなら、自分たちが乗ってきた車の1台が目の前で横転していた。


「おい!なんで車が勝手に!」


「待て!なんか車の横に変な影が...は?」


スーツの男の奥に並んで立っていた別のヤクザは、その車の横にいる影の正体に気づき、目を白黒とさせた。

それもそのはず。そこでは、熊のぬいぐるみが車に体当たりをしていた。


「なん...だ...。」


呆然と呟くスーツの男の後ろから、彰人の声が聞こえてくる。


「知っておるか?熊は200㎏を超える体重で、40キロ以上の速度で走れるらしい。その突進のエネルギーは車をも破壊するらしいぞ。」


その声を聞いたスーツの男は慌てたように手を大きくすると、声を荒げ指示を飛ばした。


「おい、残りの車を出せ!そこから離れろ!」


しかし、大きな音を立てながら横転する車とは対照的に、残りの2台の車は一切の物音を立てないままその場で静止していた。そう、隣で車が横転してるのにも関わらず、人が動いている気配がない。


(なんであいつら...)


残りの2台の車を運転していた部下の顔を思い浮かべながら困惑するスーツの男だったが、後ろから再度彰人の声が響いた。


「知っておるか?ヒョウは姿を隠したまま得物に忍び寄り、突然襲い掛かる様な奇襲に長けているらしい。」


その言葉を聞いたスーツの男は、残りの車に乗っていた部下もすでに手遅れなことを察した。

くそが!と悪態をつきながら振り返り、彰人が自分に片手を向けていることに気づく。


「これは教訓だ。たとえ線の内側に住んでいたとしても、その領域がその住人のものというわけではないのだ。」


そう言った彰人からは、スーツの男に対する威圧感が高まっていくのを感じた、


(何が何だが分からねぇが、ぬいぐるみに変な仕掛けをしやがったのはこいつだろ!ヤクザを舐めやがって!こいつだけは絶対許さねぇ!)


しかしそう心の中で報復を誓うスーツの男の前で、場違いな声が響いた。


「ちょ、ちょっと待って!」


「む?」


彰人は困惑したような顔で自分の腕を掴む先間を見た。

先間も必死な顔で彰人を見ている。


「どうしたのだ先間。もう少し待っていろ。そろそろ...」


「だからちょっと待って!」


先間のあまりの必死さに彰人は練っていた魔力を霧散されると、「なんなのだ?」と問いかけた。

ひとまず安心したようにふーっと長く息を吐いた先間は、彰人に顔を近づけると小声で言った。


「あのヤクザたちには手を出さないで!」


「なぜだ?先間もわかっているとは思うが、奴らは本気で我らに殺意を...」


「わかってる!それはわかってるけど、それでも今は僕と一緒に逃げて!わけは逃げながら話すから!」


彰人は怪訝そうに眉をひそめたが、そんな彰人の目の前で先間はすでに背を向け、走り出していた。

生まれてこのかた対決と呼ばれるものには常に勝ち続けてきた彰人にとって、逃げるという行為はもちろん面白くない。


(やれやれ。)


しかし、彰人がついて来てくれると信じ切った様子で走る先間の後姿を見て、仕方なく追従して走り始めた。


「ゴラァ!逃げんじゃねぇ!」


急に背を向けて走り出した彰人と先間に、呆気にとられたヤクザたちだったが、すぐに気を取り直すと怒号を上げ追いかけ始めた。

彰人は先間と並び空き地から飛び出すと、走りながら尋ねる。


「それで、なぜ逃げる必要がある?」


「これは逃げるって言ってもっ、ネガティブな方じゃなくて戦略的な撤退だよ。」


「戦略的?勝利目前にして背を向けることが、どういう戦略になるのだ?」


「それはっハァハァ、あの人たちがヤクザだからだよ!」


「ふむ?ヤクザは倒してはいけないのか?」


彰人は振り返り、自分を追いかけて来るスーツの男たちを見た。


「そう!」


先間は横で走りながらも力強く頷く。


「今日一日で知ったと思うけどっ、不良って何度倒しても、次さらに強い不良が出てくるんだよね。ハァハァ...ホント漫画みたいに。」


「まあ確かにそうだな。」


彰人は今日一日の事を思い出す。まずゲーセンで2人組の不良を退治して、次にその先輩にあたる不良たちと戦って、その最中さらにその先輩に当たる島が出てきて、最後には後ろで追いかけてきているスーツの男どもだ。

まるで以前先間の家で呼んだ漫画のような展開だった。


「それでヤクザってのは不良たちの頂点だと思うけどっ、多分あの人たちを倒しちゃうと、今度はさらに上のヤクザが出てきそうなんだよ。」


「ふむ。だが我は負けんぞ?」


そう、そこが漫画と違う箇所だ。

漫画では一度負けかけた主人公がパワーアップすることによって敵を倒していたが、そもそも彰人と後ろにいるヤクザの間には、越えられない実力の差があった。

しかし、彰人の返答を聞いた先間は「そういうことじゃないよ。」と頭を抱えた。


「勝ち負けじゃなくて...僕は普通の高校生活を送りたいの!ハァハァ...日々ヤクザに絡まれながら過ごす高校生活なんて絶対にごめんだよ。」


そんな先間の言葉を聞いた彰人は、思いついたように言う。


「だが、すでに車に乗ってた運転手どもは成敗してしまったのだが。」


「あれはぬいぐるみのせい!僕らは悪くない!」


こちらを見ないまま、まるで自分に言い聞かせるように叫ぶ先間を見て、彰人は思った。


(我には暴論に思える物事の責任をぬいぐるみに負わせるという考え方だが...ここ地球では普通なのだろうか?しかし、言い始めた島も特に冗談を言っている様子はなかったな...変わった風習だ。)


************


空き地で島は呆然とたたずんでいた。

目の前には3台の車(内1台は仰向けだが)、その横には熊とヒョウのぬいぐるみがポテンと転がっている。

更に自分の足元にも、ゾウのぬいぐるみが転がっていた。

島はそれらのぬいぐるみたちと車を何度か見返したあと考える。


(俺が組を抜ける理由も、ぬいぐるみのせいにすることは出来ねぇかなぁ。)


しかしすぐに頭を振ると、大きくため息をついた。


(出来るわけねぇかぁ。責務は人間が負うべきもんだからなぁ。)


そして頭をガシガシと掻きながら、空き地から退散するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ