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第三十九話 任侠だけではやってけない その7

(ヤクザ?なんだそれは。)


先間の言葉に疑問が芽生える彰人だったが、口には出さなかった。

目の前では車から降りてきたスーツ姿の男たちがこちらを見ている。全員で3人だ。

つまり不良に囲まれていた先ほどまでと比べると人数は格段に減っていたが、空気は今日一番張りつめていた。

そんな中、口火を切ったのは3人の中で先頭に立っていたスーツの男だった。


「お前ら。うちの若いのとそこで何してる?」


その男は静かに問いかけた。


「何というわけで「ちょっと待って!」


彰人が返答しようとしたところ、手首が小さく引っ張られ、先間から小声で静止がかかる。

彰人は少し振り返り、同じく小声で尋ねた。


「なんだ?」


「ここは僕が喋る。」


「まあ別に構わんが...大丈夫なのか?」


「大丈夫じゃないよ!ただ、彰人に喋らせるともっと大丈夫じゃなくなりそうだから。」


そう言う先間だったが、こちらが心配になりそうなほど顔から血の気がない。

更に手足も小刻みに震え、今にでも倒れそうな様子だった。


「...本当に大丈夫なのか?」


彰人は再度確認をする。

先間は自分の震える手を見ながら「一つだけお願い。」と言った。


「僕の中の恐怖心を和らげることってできる?」


「造作もない。」


彰人は先間に手のひらを向け、小さく詠唱をする。

その瞬間、先ほどまで先間の心を覆っていた恐怖心が、急速に取り払われていく。

何度か深呼吸を繰り返し、「ありがとう。」と呟いた先間は、彰人の隣に並び立った。


「いえ、誤解がありそうなのですが、僕らが何かをしたわけではないんです。」


思いのほかはっきりとした声をだせた先間は自分でも少し驚いた。

しかし相手に不自然に思られないよう、そのまま言葉をつないでいく。


「僕らさっきまで隣のゲームセンターで遊んでて、たまたま息抜きにこの空き地に来てみたら、この男の人が苦しそうに倒れてまして、その介抱をしてただけなんです。」


(なぜそんなウソを?)


先間の説明を聞きながら彰人はそう思ったが、彰人の魔法で恐怖心を押さえつけてまで自分で説明役を買ってでたのだ。

そこには先間なりの何か意図があるのだろうと思い、そのまま黙って頷いておく。


「そうか。お前たちはそこでその男を介抱していただけ。そう言うのだな?」


先ほどこらに向かって喋りかけてきたスーツの男は、先間の説明を一つずつ確認するようにそう言った。

先間は「そうなんです。」と言いながら、首を縦に振った。


「『うちの』ってことは、この方はあなたたちのお知り合いなんでしょうか?まあ僕にはあなたたちがなんの知り合いなのか()()()()()()()ですが、もしそうであれば安心しました。」


先間は『全く分からない』を強調しながらそう言うと、島の方に振り返る。


「ほら、お知り合いの方が来てくれましたよ。もう体調は大丈夫ですか?問題なさそうであれば、どうぞあちらへ。」


そう言ってスーツ姿の男たちがいる方向を手で示した。

だが島は暗い顔をしたまま、首を横に振った。


「せっかくだがすまねぇなぁ。多分無理だぁ。」


「え!まだ体調がすぐれないですか?もしそうであったとしても、一度お知り合いと...」


「いや、そうじゃねぇ。」


島は先間の言葉を遮った。

そして男たちのもとに行けと自分をせかす先間を見て言う。


「お前ぇ、度胸はあるがあまり頭はよくねぇみてぇだなぁ。」


「そ、それは今この状況とは関係ないことですよね。とりあえず...」


「考えるべきはあやつらがここに来た理由、か。」


今度は彰人が先間の言葉を遮る。

先間はぎょっとして彰人の方を向き、その後ろでは島が一度頷いた。


「そうだぁ。」


「でも!」


先間はあたふたしながらも喋る。


「どちらにしろ、先ほどまでの光景はあの人たちは見てないんだ。だってさっき車で入ってきたんだから!だからたとえ先ほどまで彰人と島さんが喧嘩してて結果島さんが負けてても...っ!」


そこまで言った先間は『しまった!』と言いたげな顔をして島を見た。

だが島は『別にいい。』といった様子で、手をひらひら振った。

先間は気まずそうな顔で一度咳払いをし、再度喋り始める。


「...まあ結果がどうあれ重要なのは、つまりさっきまで僕たちと島さんが揉めてたことは、あの人たちは知らないってことだよ。」


「ではなぜこのタイミングで、こんな人気もない空き地に数台もの車で乗りこんでくる?」


彰人の問いに先間は若干狼狽えたような素振りを見せる。


「そ、それは知らないけどさ...街を巡回してたら島さんの姿が見えて、地面にうずくまってるから心配してきたんじゃないの?」


「俺らは巡回なんかしねぇ。警察じゃねぇんだ。」


先間の予想は、島の言葉で否定される。


「じゃあ、今日はたまたまこの空き地に寄ってみようかなって気分になったんじゃないの!もう来た理由なんてどうでもいいよ!現に今もう来てしまってるんだから、この状況から抜け出す方法を考えないと!」


「来た理由によってその方法も変わるのでないか?」


「まあそれはそうだけど...でも、結局僕らと島さんの間に変な接点が無ければいいんでしょ?それはさっきの僕の説明でクリアになるじゃん。島さんは体調が悪かっただけで、僕らはその介抱をしてただけ。その真偽を確かめることなんてあの人達にはできない。真実は僕らの中にしかないんだ。なぜなら...。」


そこまで喋った先間は急に言葉を詰まらせた。

そして恐る恐ると言った様子で島の方を見る。


「まさかさっきの不良たちの間に、同じヤクザの人って...。」


「それはねぇ。」


島がきっぱりと否定した。


「あいつらは俺がプライベートで絡んでるただのガキだ。」


「じゃあ問題ないよ!さっき喧嘩してた時、不良たちを除けばこの空き地には誰もいなかったんだから!」


先間は思わず手を開きながら熱弁をした。

しかし、それを聞いた島がぽつりとつぶやいた。


「...たよぉ。」


「え?」


言葉が聞き取れなかった先間が島に聞き返した。

島は今度は顔を上げ、先間と彰人の顔を順番に見た後、はっきりと告げた。


「いたよぉ。」


「な...なにを...」


「もう一人、この空き地には人がいたぁ。」


島の言葉を聞いた先間は顔が蒼白になる。

彰人は(もう一度魔法をかけたほうが良いか?)と思いながらも、島に問いかけた。


「なぜ、お主にはそれが分かる。」


「分かるんじゃねぇ。元から知ってたんだぁ。」


そう言うと島は、わなわなと震えはじめた先間に顔を向けた。


「いいかお前ぇ。基本俺ら組のものは一人で車には乗らねぇんだ。まあ唯一乗ってる時間といやぁ、兄貴を送り迎えした後、車を駐車場に止めるまでぐらいだなぁ。」


「あ...あ...」


「それであそこにある車ぁ。あれは誰のだ?」


島は少し離れたところに止められている車を顎で示した。

彰人はそちらに目を向け、返答する。


「お主が乗ってきた車だな。」


「ああ、そうだぁ。それで、俺は頑張ったから今もう運転手じゃあねぇ。てことはだ...あの車は誰が運転してきたんだぁ?」


「そ...そんな...」


先間がブルブル震えながらそう言ったのと、島が乗ってきた車の運転席の扉が開くのは同時だった。

中から少し小太りで髪を茶髪に染めた男が転がり落ちてくるように、飛び出してきた。そしてこちらに向かって大声で叫ぶ。


「島の兄貴っ!大丈夫ですか!大兄貴たちには俺が連絡しときました!勝手なことだとは思ったんですがついっ!」


そう言って頭を下げる男を見ながら島は言った。


「あれが時々早とちりするがぁ運転は上手い、俺の可愛い後輩だぁ。」


「まあ今回は早とちりではないだろう。」


そう言葉を交わす彰人の先間を見ながら、先間は震える声で言った。


「で、でもまだあの後輩の人がなんて連絡してるかはわからない...」


「先間よ。」


彰人は先間の方に軽く手を置くと言った。


「もう諦めろ。」


するとそれまで黙ってこちらを眺めていたスーツの男が、再度問いかけてきた。


「長いお話は終わりか?それで再度確認なんだが、お前らはそこでうちの若いもんを介抱していたと言った。だが、おかしいな。俺が小耳に挟んだ情報じゃあ、うちの若いもんは体調を悪くしたわけじゃなく、喧嘩した挙句あろうことかぬいぐるみに負かされたという馬鹿な話を聞いている。」


そこまで喋ったスーツの男は、自分の斜め後ろに立つ別の男に目線を送り「ぬいぐるみって...なあ?」と言った。

その男は「っす。」と言い、若干頭を下げる。


「まあ、ぬいぐるみだろうが着ぐるみだろうがなんでもいい。この話で重要なのは、組のもんが素人と喧嘩した挙句、負かされたってことだ。そうなると少しめんどくさいことになる。理由は大きく2つだ。」


スーツの男は片手を上げる、指を2本立てた。

そして1本の指を軽く動かした。


「まず第一に俺らが素人に手を出すことはご法度だ。詳しく言うと色々あるんだが...まあ、つまりはヤクザが素人に手出したという事実は存在してはいけないということだ。」


次にスーツの男は、もう1本の指も軽く動かす。


「第二に、ヤクザにはメンツってもんがある。つまりは負けっぱなしは駄目だ。舐められないよう、必ず俺らは報復をする。つまりは物事は単純だ。俺らはそこの若いもんと喧嘩した素人に報復をし、更にはその事実が漏れないようにしないといけない。」


そこまで喋ったスーツの男は「それを踏まえて、もう一度お前らに聞きたいんだが、」と言った。

そして次の瞬間、スーツの男の敵意が増幅した。


「お前らはそこで何してたんだ?」

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