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第三十六話 任侠だけではやってけない その4

そんな時、一台の車が彰人たちのいる空き地に入ってきた。

黒いセダンで、窓もフルスモークとなっており、中の様子は見えない。しかし、一般の車が間違って入ってきたような様子ではなかった。

ゆっくりと旋回をする車を見ながら、彰人と先間は頭の上に?を浮かべる。しかし、不良の中の一人が驚いたように叫んだ。


「あの車!島さんだ!」


その声を聴いた不良たちは一気にざわめき始める。

鼻ピアスの不良が先ほど叫んだ不良に声をかけた。


「お前、島さん呼んでたのか?」


「いや、まさか呼ぶわけない。だけど、ゲーセンに入る前にメッセージが来てて...あの人誤魔化しとかすげぇ敏感に気づくだろ?だから、これから後輩になめた真似した2人組をボコる予定ですとは伝えてたんだ。」


「ちっ、タイミングが悪い...。あの人の事だから喧嘩の様子を見にやってきたってことか。」


そうボヤキながら鼻ピアスの不良は周りの不良たちに向かって手で合図を送った。そうすると彰人にのされていた不良たちが、ふらふらと立ち上がり始めた。

おそらく彰人が随分と手加減をしていたからであろう、辛そうではあるものの一応全員の不良は立ち上がることができ、そのまま車の方を向いた。


(急に何なのだ?)


彰人はついさっきまで自分たちに敵意をむき出しにしていた不良たちが、一斉に意識を車に向けたことに困惑する。

そして一番近くにいた不良に声をかけた。


「あの車はなんだ?島とは誰だ?」


しかしその不良は彰人の方も向かず、焦ったように答えた。


「うるせぇ!お前たちがおとなしくボコられねぇから、ややこしいことになっちまったじゃねぇか!」


彰人は軽く首を振ると、振り返りながら先間に「そうはいっても、我らが大人しく殴られるはずがないであろう。なあ?」と声をかけた。

しかし先間は地面を見ながら「島...?どこかで聞いたような...」とぶつぶつ呟いていた。


(何なのだこの状況は。もう帰ってよいのか?)


彰人はそう思いながら、再度車を見る。丁度車は彰人たちを取り込む不良たちのそばに停車したところだった。不良たちに緊張が走り、全員が一斉に背筋を伸ばした。

そして車の助手席が空き、中から一人の男が降りてきた。

その瞬間、不良たちは頭を下げ叫ぶ。


「島さん、お疲れ様です!」


助手席から降りてきた男、不良たち曰く島さんは髪が短髪で若干色黒だが普通の背丈をしていた。

しかし、よく見ると半袖から見える腕を含め、全身の筋肉は引き締められており、その眼光は異常なまでの鋭さを持っている。

そんな島と呼ばれた男は周りにいる不良たちを一度睥睨すると、鼻ピアスの不良に向かって声をかけた。


「想像してた光景と随分違うようだがぁ、何してんだぁ?」


不自然に語尾を伸ばす喋り方だった。鼻ピアスの不良は頭を下げたまま、焦燥感をにじませた声で答える。


「すみません。少し手こずってますが、大丈夫です。島さんのお手を煩わせるほどではないです。」


「ふーん...」


そう言って島はまた辺りを見回した。そして一番つらそうに立っている不良、先ほど彰人に鉄パイプで殴りかかり、発勁のような技でぶっ飛ばされた不良に目を付ける。

ゆっくりと後ろ手にドアを閉めると、その不良に向かって歩いていった。

そして目の前まで来ると、不良の具合を確かめるようにじろじろと眺める。


「こいつとかふらふらに見えんだけどぉ、まだやれんのかよぉ?」


「!...もちろんです。」


「まあ、そりゃそうだよなぁ。こんだけの人数がいて2人相手に遅れをとるなんてこたぁねぇよなぁ。」


そこまで喋った島は軽くその場でステップを振るような動きをした。


「だから...これは俺がやったんだぜぇ。」


辺りに空気が弾けるような音が響いた。

そして島の目の前にいた不良は、その場に膝から崩れ落ちた。


「島さんっ...!」


思わずと言った様子で鼻ピアスの不良が声を上げた。

しかし島は目の前の不良にはすでに興味を失ったように振り返ると、そんな鼻ピアスに向かって調子を崩さず喋りかける。


「良かったなぁ。今こいつが倒れたのは俺が原因だ。そうだろぉ?」


「...はい。」


「これが万が一、あそこにいる学生二人にやられたダメージでこいつが倒れてたら...お前ら全員に責任があったぜぇ。そうなると連帯責任として、お前ら全員を俺がお仕置きしなきゃならなかったからなぁ。」


そんな暴論を吐く島を見ながら、彰人は考えていた。


(ふむ...何か武術を習っておるな。)


先ほど不良が崩れ落ちる原因となったのは、島が繰り出した上段の蹴りだ。それも一発で不良の意識を刈り取るほどに鋭い一撃だった。

だが同じくその蹴りを見ていた先間は、小さな声で叫んだ。


「思い出した!島!キックボクサーで元プロだった人だ!確か少し前に傷害事件を起こして、プロを首になってたはず...。」


(キックボクサーとは何だ?)


そう問いかけたい彰人だったが、どうやらそうもいかないらしい。

鼻ピアスの不良との会話を終えた島は、今度は彰人とばっちり目を合わせると、こちらに向かって歩き始めていた。


「で?君らが例の二人組かよぉ?」


「例とは何だ?」


「くっく、なんか仕掛けを施したぬいぐるみを持ってんだろ?」


島は面白そうに笑いながら彰人の目の前まで来ると、彰人が手持つぬいぐるみを入れたゲーセンの袋を指さした。


「俺にもさぁ、そのぬいぐるみ見せてくれよぉ。」


「構わんが、別に仕掛けなど施してないぞ。」


そう言いながら彰人は手に持っていた袋から、ワニのぬいぐるみを出して島に手渡した。

島はじろじろとそのぬいぐるみを観察する。そしてくるりと振り返った。


「このぬいぐるみだろぉ?ほらよ。」


そう言いながらワニのぬいぐるみを鼻ピアスの不良に向かって放り投げた。

鼻ピアスの不良は「うわっ」というと、思わずと言った様子で飛びのく。そしてぬいぐるみはぽてっと地面に落ちた。


「むっ。」


その様子を見ていた彰人は不満そうな声を出した。島は再度振り返り彰人に向かい直ると、言った。


「わりぃわりぃ。あいつが避けるからぬいぐるみ地面に落ちちまったなぁ。」


「まあ、後で汚れだけを抜き取ればよい。気にするな。」


「くっく。随分と偉そうな口の利き方だが、優しいなお前ぇ。」


そういうと島は大きな声で叫んだ。


「おいてめぇら!お前らの後輩やったのは、そのぬいぐるみなんだろぉ!じゃあ、今その原因であるぬいぐるみを手放してるこいつらは、お前らの復讐とはなんの関係もねぇよなぁ!」


その言葉を聞いた不良たちは、意味が理解できなかったのか、キョトンとした顔をした。

そんな中、ふっと笑う彰人の声が響いた。


「面白いな。先刻やつらの後輩とやらを懲らしめたのを、我ではなくあのぬいぐるみのせいにするとは。確かにそうなると、我はなんの関係もなくなるな。」


「だろぉ?あいつらもしきりに『ぬいぐるみにやられた』っていってるからよぉ、俺はじゃあぬいぐるみのせいじゃねぇかって思ったんだよぉ。だからお前ら二人は元からなんの関係もなかったんだよぉ。あいつらの復讐に付き合わせて悪かったなぁ。」


「別によい。」


「だがよぉ。そう言うことだからあのぬいぐるみはちょっと返せそうにねぇんだわぁ。わりぃなぁ。」


そう言いながら島は謝るように両手を合わせた。

彰人は「ふむ。」と言いながら顎に手をやると、少し考えたのち言った。


「まあ、しょうがなかろう。では、あのぬいぐるみはやつらにくれてやろう。あまりひどいことはしないでやってくれ。」


その言葉を聞いた島は、ニコッと笑うと再び大声で叫ぶ。


「おい聞いたかお前らぁ!復讐したいなら、そこに落ちてるぬいぐるみにやれぇ!」


そして再び両手を合わせると、彰人に向かって「てことだから、この騒ぎも終わりにしようやぁ。」と言った。

彰人は「分かった。」というと、くるりと踵を返し先間に話しかける。


「では先間、帰るぞ。」


しかしそう言って彰人が一歩を踏み出した時だった。


「だからこれはあいつらとは関係ねぇ。俺の個人的な用だぁ。」


後ろから島のそんな呟きが聞こえたのと同時に、彰人の背中に島の前蹴りが突き刺さった。

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