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第三十三話 任侠だけではやってけない

後ろからは複数人の男の人の怒号が響く。

かなりお冠の様だ。声だけでなく、走る足音にまで殺気がこもっている。


そんな人たちの数メートル先では、彰人と先間が路地裏を脱兎のごとく走り抜けていた。

汚い飲食店の裏を通り抜けざま、先間の目にゴミ箱が映った。


「彰人、アレ!」


息を切らしながら先間がゴミ箱を指さす。

彰人はそちらをちらっと見ると、ゴミ箱に向かって指を突き出し、何かを唱えた。

するとゴミ箱は弾かれたように横に倒れ、その中身を路地にばらまいた。


そのまま2人は走り去り、数秒後先間はちらっと後ろを向く。

そこには地面に落ちたゴミ箱を勢いよく蹴り上げながら、青筋を立てている男の姿があった。


「待てやガキ、ゴラァ!」


そう叫びながら男は全く走るペースを緩めず、追いかけてくる。

先間は血の気が引いた顔で前を向いた。


「駄目だ!ハァハァ、全然止まる気配ない!」


「あのような箱を倒した程度では、それはそうだろう。」


ぜーぜー言いながら走る先間の隣では、涼しい顔をした彰人が軽やかに走っていた。

そして先間のほうに顔を向けると、問いかける。


「やはり、一思いにぶっ飛ばすか?」


だがそんな彰人の問いに、先間は力強く返答する。


「絶対!駄目!」


彰人は軽く肩をすくめると、「別に一瞬なのだが。」と呟いた。

だが隣で必死に走りながらも、そんな呟きを先間は聞き逃さず、きりっとこちらを向いた。


「駄目ったら駄目!ああいう人たちが一番厄介なのは、ハァハァ...その情報網としつこさなんだから!ハァハァ。」


普段あまり運動をしない先間は走りながら喋ることになれていない。酸素を求めるように、息を吸った。

彰人はそんな先間に向けて手を向け、再度詠唱を行う。先間の息が少し楽になった。


「ありがとう。」


「どういたしまして。」


そんなやり取りを交わしながら彰人は先間に再度問いかけた。


「そんなに厄介なのか?あの...ヤグラとかいう者たちは。」


「ヤ!ク!ザ!」


先間は一歩足を踏み出すごとに一言一言を発音した。


「あの人たちはヤグラじゃなくてヤクザだよ!この日本で関わっちゃいけない人たちでも3本の指に入る人たちなの!」


そう彰人を嗜める先間の後ろから、再度ヤクザ達の怒号が聞こえた。

先間は軽く飛び上がると、無駄口を叩いてる暇はないと言った様子で、前を向き走ることに集中しだす。

そんな先間を見た後、彰人はちらっと後ろを振り返った。


そこには黒いスーツを身にまとった強面の男の人が3人、こちらを鬼のような形相で睨みつけながら、走っている様子が見えた。


(やれやれ。まさか魔法のない世界にきて、この我が逃げることになろうとは。)


彰人は面白くなさそうに鼻をふんっと鳴らした。


(気づかれないように、奴らの前に空気の壁を作ってやろうか。)


そう思う彰人だったが、視線を感じ横を向くと、懇願するような顔をした先間がこちらを見ていた。

彰人は軽く肩をすくめると、何もせんというように手をひらひらと振り、前を向き素直に走った。

先間はそんな彰人を見て、(油断も隙もあったもんじゃないよ)と思いながら、そもそもなぜ一般的なモブ高校生である自分が怒り狂ったヤクザに追われるような事態になっているのかを思い返す。


(そもそもの始まりは、今日の放課後...)


************


「彰人、今日ゲーセン寄ってかない?」


先間は鞄を肩にかけながら、彰人に言った。

彰人は「ふむ。」と呟くと、視線を軽く天井に向け、思い出す素振りを見せた。


「ゲーセンとは...あぁ、以前行ったたくさんの巨大な機器が並ぶ施設の事か。」


「巨大な機器って...まあ、間違ってはないけどさ。」


先間は呆れたような声を出した。

そう、以前誘ったときにも驚いたのだが、彰人はゲーセンを知らなかった。

ゲーマーである先間からすると、彰人の発した「ゲーセンとは何だ?」という言葉の意味が理解できず、その場で【ゲーセン】というものについて、深く考え込んでしまったほどだ。

だが、いつものように彰人の恐ろしいまでの無知だということに気づいた先間は、頭を抱えながらも彰人の手を引き、ゲーセンへと引っ張って行ったのだった。


ちなみに前回行った時には、ガンシューティングゲームをした。

もちろん初めてガンシューティングゲームに触れる彰人は最初死ぬばかりで、先間がリードしながらステージを進めていっていたのだが、5度ほどコンティニューを繰り返したころの彰人は、すでに玄人の腕前で画面上に現れるモンスターを銃でバッタバッタとなぎ倒していた。

全クリをし、エンドロールが流れる画面を背に「なかなか楽しめたぞ。」と笑顔で言う彰人に、「ゲーセンはもっと奥が深いんだー!」と先間が叫んだのは記憶に新しかった。


そんな回想をしていた先間に向かって、自分の鞄を持った彰人が言った。


「いいぞ。前と同じゲームをやるのか?」


「いや、今日は違うゲームをやる。...そもそもまたガンシューティングゲームをしたら、それこそ一瞬で全クリしちゃうだろうから面白くないし...」


「ん?」


後半の声が聴きとれず首をかしげる彰人に、「なんでもない。」と言いながら先間は手を振った。


「とにかく!ゲーセンにはまだまだ面白いゲームがたくさんあるからさ。色々遊ぼうよ。」


そう言って先間は教室の扉へと向かって歩き始め、彰人は(あのような娯楽を考えるとは...魔法がない世界には無いなりの楽しみ方というものがあるのだな。)と思いながら、その後ろを追ったのだった。


【GAMECENTER アミューズメントジャングル】


ここ小波町内にあるゲーセンの中でも、最大規模を誇るゲーセン、通称【アミジャン】。

そのUFOキャッチャーゾーンで声が響いた。


「え!?なにこれ!これってそういうゲームじゃないから!」


「そうなのか?」


隣で叫ぶ先間の方を見ながら呟く彰人の目の前で、大きなぬいぐるみがドスンと音を立てて、穴に落下した。

彰人は身をかがめると機械の下部に空いた穴から、そのぬいぐるみを取り出す。

どうやら熊をモチーフにしたキャラクターらしい。彰人はそのぬいぐるみを隅々まで観察し、小脇に抱えた。


「このようにして、景品をとるゲームだと言ったのは先間ではないか。」


「ペース!」


先間は食い気味で叫んだ。


「ペースおかしいでしょ!UFOキャッチャーてのは、何度も挑戦しながら少しづつ景品を動かして、やっとの思いで獲得する、その過程があるから最後のカタルシスが生まれるゲームだよ!?」


そう言いながら、先間は彰人が抱えるぬいぐるみを指さした。


「それが何でそんなポンポン取っちゃうのさ!」


そう言って指さす彰人の小脇には、さっき取った熊のぬいぐるみとは別に、ワニのぬいぐるみ、ヒョウのぬいぐるみ、ウマのぬいぐるみ、そしてゾウのぬいぐるみが抱えられていた。


「何でと言われてもな...成長したのだ。」


「いやいや、そりゃ最初の5回くらいは取れてなかったけどさ?逆にたったの5回でUFOキャッチャーの達人に成長する人なんて聞いたことないから。」


だがそう言って頭を抱える先間の目の前で、彰人はさすがにぬいぐるみが邪魔なのか、もぞもぞと腕を動かしていた。そして、先ほどからチラチラとこちらを見ている女子高校生の3人組に気づくと、その子たちを手招きで呼ぶ。

小声で「やばいやばい。」「イケメン過ぎてあたし失神しそう。」「同級生の男たちジャガイモじゃん。」などと呟きながら近づいてきた女子高校生グループに、彰人は「これをやろう。」と言って、ウマのぬいぐるみを差し出した。


キャー!という黄色い声が響き、女子高校生たちがぬいぐるみを受け取る。それを見て彰人は満足そうにうなずくと、「では先間、向こうにも行ってみよう。」と言い、スタスタと歩いて行った。

先間はちらっと女子高校生たちを振り返る。そこには3人ともそれぞれが笑顔ではあるが、それぞれが万力の力でぬいぐるみを握りしめている光景があった。そこには、3人共の(このぬいぐるみは絶対に私がもらう)という強い意思が垣間見えた。


(...ケンカはしないでね。)


先間は女子高校生たちの友情を心配しながらも、彰人のあとを追った。

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