第二話 試験内容は異世界でのハイスクールライフ
マルカタナ王国。400年以上の歴史を持つこの国を治めているのが、ドローレンス家だ。
その第一王子であり、次期国王候補であるアンガスは自室のベッドからゆっくりと身体を起こした。
ぼんやりとした頭を振り、意識を覚醒させる。
今日はついに国王になるための資格を得るための試験、その内容を知らされる日だった。
ドローレンス家では、代々国王の息子がその地位を継いできているが、長男、つまり第一王子が無条件で次期国王となれるわけではなかった。
全ての息子は16歳を迎える前に国王になるための資格を得るための試験が与えられる。その試練が突破出来なかったものは、その時点で国王となる資格を失うことになる。
つまり息子全員が国王候補であり、そしてまた息子全員が国王になれない可能性も秘めていた。
(我は必ずや試験を突破し、国王となる...!)
アンガスは自分で自分を誰よりも国王にふさわしいと評価していた。
もちろんそれは根拠のない自信などではなく、結果が示している。
生まれつき歴代のドローレンス家の中でも、1,2を争うほどの魔力を持ち合わせており、通常2~3系統までしか操れない魔法を、3歳の時にはすでに5系統の魔法を操ってみせ、魔法教師の度肝を抜いた。
また、全ての武道でも天賦の才を見せ、6歳の時に組み手を交わしていた武道の講師をそのまま組み伏せてしまったエピソードはあまりにも有名だった。
さらに容姿端麗で、王国の中心街にあるラルフル魔法学校で、入学してから卒業するまでにもらったラブレターの数は、今でも学校の伝説として残っている。
(どのような試練内容でも恐れるに足らず。この我の障害にはなり得ぬ。)
ただし自己評価の高さから、尊大な態度が玉に瑕のアンガスは、鼻息荒く扉を開け自室を後にした。
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「異世界への転移...ですか?」
「そうだ。お前には今日から1か月後、異世界へと転移してもらう。」
父親であり現国王のオーブリーが大きくうなずいた。
場所はアンガスもその人生で2~3度しか訪れたことのない、国王の自室にいた。
昼食を食べ終えた直後、オーブリーから「試験の内容について伝える」と言われ、ついてきた先がここだった。
いまいち試練の内容を咀嚼し損ねるアンガスを横目に見ながら、オーブリーは後ろの棚から大きな樽を取り出した。
「異世界への転移はドローレンス家の国王になるための伝統的な儀式でな、今まで秘密にしてきた試練の内容だ。つまり歴代の国王もすべからく経験してきている。」
手前の机に大きな音を立てて樽が置かれる。
木製のかなり年季の入った樽だ。特にこれといった装飾もないが、不思議と質素な雰囲気はなく、どこか重厚な趣を感じた。
「転移する世界を選定する魔法具『ダーツの樽』だ。中に手を入れ球を掴め。その球にお前の転移先が示されている。」
そう言いながらオーブリーは、樽の上部に付いていた蓋を取った。
アンガスは樽の中を覗き込んだ。しかし、樽の中には白い霧のようなものが漂っており、不思議と上からは中の様子が見えない。
目線を上げると(どうした。はよせんか。)とでも言いたげな、オーブリーの顔が目に入った。
(説明不足が過ぎる気もするが...まあいい)
アンガスは覚悟を決めると、腕を樽の中にゆっくりと沈めていった。
少しひんやりとする樽の中で、手を円状に動かし球を探した。すると丁度180度ほど手をまわしたところで、指先に軽い衝撃があった。球だ。
それを掴むと、アンガスは一気に腕を引き抜いた。
「おっ見つけたようだな。では球を見てみろ。」
アンガスは手の中にすっぽりと納まっている球を見た。
始めは中で黒い靄のようなものが漂っていたが、それらが徐々に線上になっていき、ある文字を形作った。
地球
そこには見たこともない文字が書かれていたが、ふしぎと言葉は頭の中に浮かんだ。
おそらくここがアンガスの転移先となる世界の名前なのだろう。
「ちきゅう...」
アンガス思わず呟いていた。
「ほう地球か。初めて聞く名だ。では次に球をひっくり返してみろ。」
アンガスは促されるままに、球の逆側にも目を通す。
日本
「にほん...と書いてあります。」
「そうか。ではアンガス、お前の転移先は地球という星の日本という国だ。」
アンガスは何度か口の中でその名前を復唱する。
これでアンガスの転移先は決定された。
しかしまだ一番重要なことが聞けていない。
アンガスは今一番知りたいことをオーブリーへと質問した。
「父上。国王になるための資格を得るために、異世界への転移が必要ということはわかりました。また転移先も決まったようです。しかし重要な試験内容...つまり転移先では何を行えば試験は合格となるのでしょう?」
問いかけながらアンガスは考えた。
(何かモンスターを退治するのだろうか?それともその国で権力者になる?...全く想像がつかないが、国王になるための資格を得るための試験だ。おそらく一筋縄ではいかないだろう。)
複雑な顔で考え込むアンガスを見て、オーブリーは父親らしい顔でほほ笑んだ。
「なに、そんなに難しいことではない。試験内容は3年間異世界先で高校生活を送ることだ。」
「...今なんと?」
アンガスは目を白黒させながら、再度問う。
「今言った通りだ。アンガス、お前には3年間異世界で学生として高校に通ってもらう。」
そうして、アンガスは急遽1か月後から高校生になることが決定された。