第二十四話 ダーツプレイヤー先間の戦い 中編
結局、2人1組のチーム戦をすることとなった。
詳しいことは先間に一任した結果、プレイするゲームは01(ゼロワン)と言い、各自に与えられた点数を徐々に減らしていき、最終的に早く0点にした方の勝ちというものだった。今回はその中の701で勝負をするらしい。
じゃんけんで投げる順番を決めたところ、彰人たちのチームが後攻になった。
「じゃあ、俺から行くぜ。」
そう言って茶髪が構える。力の抜けた綺麗なフォームだ。
そのまま素早く投じられたダーツは的に突き刺さる。20点だ。
的に割り振られた中でも一番大きな数字だった。茶髪は小声で「よし」と呟くと、そのまま残り2本も投げた。
真ん中にこそ当たらなかったが、2本目も20点、最後の1本も2ケタの点数を獲得し、なかなかの高得点だった。
「まあ、最初はこんなもんっしょ。」
茶髪はそう言いながら、自分の席へと戻ってくる。
「次は我の番だな。」
彰人は自分の分のダーツを3本手に持つと、ダーツ台の前に立った。
一息つき、構える。
「彰人、なるべく肘は動かさないように。肘までが地面と平行になるように構えることを意識して。それから...」
(先間、うるさいぞ)
彰人は後ろから聞こえてくる先間の声をシャットアウトしながら、的の真ん中に向かってダーツを投げた。
勢いは良かったが彰人の手から離れた瞬間ダーツは右に反れ、的に突き刺さった。4点だ。
「あぁ!」
再度、後ろから先間の声が響く。
彰人はそのまま残りの2本も連続で投げた。どちらも中央を狙って投げたが横に反れ、あまり高い点数が獲得できなかった。
(ふむ。なかなかに難しいな...だがその前に)
彰人はそのまま自分の席に戻る。
戻ってきた彰人にアドバイスのため口を開きかけた先間だったが、それより先に彰人が声をかけた。
「先間よ、一つだけお願いがある。」
「いいよ。なに?何が知りたい?なんでも教えるよ。なんせ僕は...」
彰人は先間の目を見ながら、言った。
「せめて投げる瞬間は、静かにしていてくれ。」
「ごめんなさい。」
先間は素直に謝った。
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それから各チーム互い違いにダーツを投げた。
先間は自らをダーツプレイヤーと名乗っただけの事はあり、高い頻度でブルを出しており、4人のなかでも一番の高得点をたたき出していた。
(最初の方はブルに当てるごとにどや顔で振り向いていたが、耐え切れなくなった香織から「そういうのいいから。」と言われショボーンとしてからは、普通に投げていた。)
だが、茶髪と金髪も伊達にダーツ勝負を提案したわけではなかった。
どちらもそれなりに経験を積んでいるのだろう。
特に調子を崩すことなく、コンスタントに高い点数を獲得し続けていた。
そして今日がダーツ初めての彰人だが、最初はなかなか思うように投げれず、高い点数が獲得できずにいた。そのため序盤は、彰人がミスをし、その後に先間が高得点を獲得することでカバーするという展開が続いた。
それでも、向こうのチームと比べ点数は彰人たちのチームがリードしていた。ぎりぎりの点差ではあったが、それはひとえに先間の功績と言ってよかった。
だが、先に異変に気付いたのは茶髪だった。
向こうのチームは柔和な顔つきをしたセンマと呼ばれている生徒は言動が少し変わっていたがダーツの腕は確かだった。
一方、もう一人のアキトと呼ばれているイケメンな生徒は、最初の数回ダーツを投げた姿を見て(今日が始めてというのは本当だな)と確信した。
それほどまでに彰人のフォームは初心者のそれで、もちろん一律して低い点数を取っていた。
そんな中で、なかなか追いつけない点数に躍起になっていた茶髪は、基本的にセンマの点数だけに注意し、後は自分がいかに高い点数を取るかということにとらわれていた。
しかし、ある程度ゲームが進んでいく中で、おかしなことに気づく。
(あれ?偶然か?アキトってやつ、一度も前回より点数を落としたラウンドが無いな。)
そう、他の3人と比べると確かに彰人の点数は低い。
しかし、前々回よりも前回、前回よりも今回と、毎ラウンドで確実に点数を上げてきていた。
基本ダーツは点数がバラつくものだ。もちろんそれは、完璧に投げるダーツを制御仕切ることはできないため仕方ない。
基本ブルを狙っているときも、少しでも横にそれると後はどの点数が獲得出来るかは、半ば運であった。
だからこそ茶髪も思った。
(まあ、なかなか運の強い奴だな。)
だがその考えが間違っていると気づくのに、それほど時間はかからなかった。
************
「おい、あれ...」
「ああ...偶然じゃないよな...」
茶髪と金髪が彰人の点数を見ながら呆然と呟く。
それもそうだ。少し前から感じていた違和感がついに無視できないレベルとなっている。
つまり、最初は完全にダーツが初めての動きをしていた彰人だったが、今では一見すると初心者だとは思えない綺麗なフォームでダーツを投げている。
そして点数は前回の点数を上回り続け、今では茶髪や金髪の点数に届きかけていた。
「いや、これはおかしいだろ!さすがに!」
「ダーツってそういうゲームじゃねぇから!」
茶髪と金髪がギャーギャーと叫ぶ。
彰人はうるさそうな様子でそちらを向くと言った。
「何を言っているんだ、お主たちは。」
金髪はダーツ台の画面に表示されている彰人の点数を指さしながら勢いよく言う。
「なんで、一回も前回の点数を下回ってないんだよ!」
それを聞いた彰人は目をぱちくりとさせた。
そして少し憐れむような顔をした後、大きくため息をつき言った。
「まさかお主たち...そんなことも気付いてなかったのか...」
茶髪はその言葉を聞き、何か自分は決定的なことを見逃しているのかと思った。
唾を飲み込み、尋ねる。
「気づいてない...とは?」
彰人は胸を張りながら言った。
「投げるごとに経験を積むのだから、投げるごとに高い点数が取れるのは当然だろう?」
茶髪と金髪は彰人の言葉の意味がうまく呑み込めなかった。
一縷の望みをかけ、お互いに顔を見合わせる。やはり、互いに理解不能の顔をしている。
聞き間違いかと思ってもう一度、彰人の顔を見れば、当の本人は自信満々と言った様子で胸を張り続けていた。
そんなやり取りを眺めながら、香織はボソッと呟いた。
「はー出た出た。あいつスポーツだけじゃなくて、こんなことも異常な飲み込みの速さとか...面白くないわね。」
それを聞いた葵は、香織の横で苦笑する。
「ダメだよそんなこと言っちゃ。豊島君の成長を喜ばなきゃ。」
「まあ、そうだけどさー。」
香織はふんっと鼻を鳴らすと、椅子に座ったまま足をブラブラとさせた。
葵は彰人を見たまま続ける。
「それにしてもダーツをしている豊島君かっこいい...私のハートのブルにはさっきから当たりまくりだよ...」
香織は(ダメだこいつ。早く何とかしないと...もう手遅れか?)と言った様子で、そんな葵を見ていた。
そんな時、どさっと勢いよく隣の椅子に先間が座った。
「いやー。計算通りだったよ。」
そう言うとテーブルに置いていた自分の飲み物を一口飲んだ。
「最初は耐えるのが大変だったけど、彰人ならゲームの中でコツを掴んでくれると思ってたから。あとは楽に勝てそうだよ。」
そう言って再度飲み物に口をつけた。
「まあ、よかったわ。」
そんな先間を見ながら香織は言った。
「もし負けたら、あんたがこっそり学校に持ってきてるゲーム類、全部没収しようと思ってたから。」
先間は勢いよくむせた。
「ゴホッエホッ!...冗談だよね?」
恐る恐る尋ねた先間に、香織は笑顔で答える。
その顔には「馬鹿ね。冗談な訳ないじゃない。」と書いてあった。
先間は震えた。
そんな先間の背後から銃声のような音が聞こえた。
「おっ」
「あぁ!ついに当てやがった!」
「くそ!ブルか!おい、次お前も絶対ブル当てろよ!」
どうやらついに彰人がブルに当てたらしい。
それを見た茶髪と金髪が騒いでいる。一見するとただの仲良しグループのようだった。
「よしゃあああ!ブルだおらぁ!」
「ナイス!まじナイス!」
かなりの盛り上がりだ。
その最中、彰人も席へと戻ってきた。
「どうした先間、次はお主の番だぞ。」
「へぇ!?あ、ああ、僕の番ね。僕の...」
そう言いながら、先間はダーツを持たずにダーツ台へと向かおうとした。
彰人は思わず肩を掴み、引き留める。
「おい、なにをしている。ダーツを持ってゆけ。」
「ほわぁ!?あ...ホントだ。」
浮ついたような声でそう言うと、先間は自分のダーツを掴み、再度ダーツ台の方へと歩いて行った。
よく見ると足元がふらついている。
「あやつ、急にどうしたんだ?」
彰人は香織と葵に尋ねた。
香織はぷいっと横を向きながら言う。
「さあ?私は別に何も言ってないわ。」
その横で葵が頭を抱えていた。
その様子を彰人は怪訝そうに眺め、自分の飲み物を一口飲んだ。
この話は前編後編で終わる予定だったんですが...どうしてこうなった。




