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第二十三話 ダーツプレイヤー先間の戦い 前編

それは、最後の授業を終えた時だった。

隣に座っている先間から「ねぇ彰人。」と声がかかる。

彰人は教科書を机の中にしまうと先間の方を向き「何だ?」と答えた。


「今日さ、放課後予定ある?」


「いや、特にないな。」


「じゃあさ、ダーツしに行こうよ。」


「ダーツ?それは何だ。」


「なんか少し前に商店街の中に、ダーツの出来るカフェがオープンしたらしいんだよね。」


「ダーツとは何だ?」


「まあまあ、そうと決まれば急いで掃除しちゃおう!」


先間はそう言うと、立ち上がり教室の隅にある棚から箒を取り出し始めた。


(最近、先間が我に物を教えてくれなくなったな...)


もちろんそれは彰人が知らないことをいちいち教えることに疲れたせいである。

最近の先間は『習うより慣れよ』派へと変わりつつあった。

彰人は少し寂しい気分になりながらも、先間の背中に向かってもう一度呟いた。


「ダーツとは...何なのだ。」


************


「ここだね。」


そう言って先間はあるお店の前で立ち止まった。

彰人もその後ろで立ち止まり、扉の横にかかっている看板を見る。


『darts&cafe アライブ』


彰人は先間の方を見て言った。


「カフェにいい思い出がないのだが。」


先間は小さな声で「うっ」と言うと、ゆっくりこちらを振り返っていった。


「頼むから、ここは空き家にしないでね。」


(あれは我のせいではないのに...たぶん)


彰人はそう思った。


例のカフェと同じようなベルの音を立てて扉を開き、店内に入った。

どうやら手前がカフェスペースの様だ。

左手にカウンターが見え、その前にはいくつかテーブルと椅子が並んでいる。

そしてその奥に背の高い謎の機械が置いてある。


(あれがダーツ?なんか随分と大きいな。)


彰人はそう思いながらも先間のあとに続いて、カウンターに向かった。

先間と共に自分の飲み物を頼む。先間が店員の「当店のご利用は初めてですか?」という問いに頷き、一通りのシステムの説明を受けている。

その間に彰人は先ほどの機械の前にいる人を注視していた。それぞれ一人ずつ機械の前に立ち、腕を振っている。


(いや違うな...何かを投げているのか...?)


「彰人!」


「む?」


急に後ろから先間の声がかかる。

彰人は振り返るとその手に握られているものを見た。


「先間...堂々と人前で武器を出すのはやめろ。」


「え?武器?」


先間は一瞬ポカンとした顔をした。だが彰人の目線が自分の手元に注がれているのを見て、ぷっと噴き出した。


「これは武器じゃないよ。これはダーツをやる道具。」


先間が軽く手を揺らす。

その手に持った小さな弓矢のような武器...もといダーツの道具がカラカラと音を立てた。


「まあ、今からやり方を説明するからついて来てよ。」


そう言って先間は機械の方に歩き出した。彰人も頭に?を浮かべながらその後に続いた。

二人して機械の前にたどり着き、まずは小さなテーブルにそれぞれの飲み物を置いた。

それから先間は先ほど手に持っていた道具を一本抜き取ると、ダーツのやり方について説明し始めた。


どうやら、先ほどまで先間が持っていた道具自体の名称もダーツといい、先ほど彰人が見ていた大きな機会はダーツ台と呼ぶらしい。

遊び方としては、そのダーツを1本ずつダーツ台についている的に向かって投げる。的の中には20までの点数が割り振られており、ダーツが刺さった場所の点数が獲得できる。

また真ん中はブルと呼ばれており高得点が狙えるが、実はその周りにも小さな枠がいくつかあり、そこに刺されば元の点数の2倍や3倍の点数が獲得できる。

中には、ブルに当てるよりも高得点になるスペースもあるから、そこを狙うのも一つの手とのことだった。


「まあ、ただ初心者にブルやダブル、トリプルを狙えっていうのは酷な話だけどね。でも大丈夫。彰人は大船に乗ったつもりでいていいよ。なんせ僕は...」


先間の説明にも興が乗り始めたその時、隣から大きな声が聞こえた。


「うわ!あんた達、何してんの!」


「ちょっと、声大きいよ...。」


聞き覚えのある声に彰人と先間は隣を向く。

そこには今しがた来たばかりの様子の香織と、その香織の大声に困ったように眉を下げる葵がいた。


「ダーツだ。」


彰人は胸を張って答えた。

彰人は今知ったばかりの知識を披露するのが好きだった。


「いや、まだやってないでしょ。今先間君から教えてもらってたじゃん。」


香織はバッサリと切って落とした。

固まる彰人を放っておいて、香織は準備をしだす。


「まさか、あたし達の他にもここに気づいている人がいたとはねー。」


そんな香織達に先間から質問が飛ぶ。


「七瀬さんたちは、もうここに来たことあったの?」


葵は「ううん。」と言いながら、顔を横に振った。


「今日が初めて。今朝見つけておもしろそうだなーと思ったから香織を誘って来ちゃった。」


そう言って少し照れたようにほほ笑んだ。

それを聞いた先間は「そうなんだー。」と言いながらも、少しそわそわした感じで再度質問をした。


「ちなみにダーツ自体はやったことあるの?」


「初めてよ!」


葵の後ろから香織がダーツを手に持ち的に向かって構えながら、元気よく答えた。続けて葵も「私も初めて。」と言った。

それを聞いた先間はなぜか胸を張りながら、食い気味に話し始める。


「じゃあ僕が教えようか?実は僕ダーツ経験者でさ。しかも、ただの経験者じゃないんだよね。なんせ僕は...」


「いや、いいわ!」


再度香織はバッサリと切って落とした。

先ほど彰人を切った刃よりも切れ味が良かったらしい。先間は一気にショボーンとした。


「ごめんね。香織こういうの体験しながら覚えたいタイプなの。」


葵は手を合わせ片目をつぶりながら、謝った。

そして自分の準備を始めた。


「まあ先間よ。ダーツやろう。」


彰人は落ち込んでいる先間の肩に手を置きながら言った。

先間は「そう...だね。」と呟くと顔を上げ、気を取り直して準備を始めた。


先に準備が終わったのは香織達だった。軽快な音を鳴らし始めた機械に向かって、香織がダーツを投げる。

だが初めてのダーツは以外にも難しかったらしい。香織の手から離れたダーツはすぐに速度を失うと、乾いた音を立てて的の外にぶつかり、地面に落ちた。

葵が笑い、香織は悔しがった。


その様子を先間がチラチラと横目で見ていた。彰人は少し呆れた声で声をかけた。


「先間よ、あきらめろ。」


先間はビクッと体を震わせると、機械の設定を行いつつ、しどろもどろになりながら言い訳をした。


「別にそんな教えてあげたいなーなんて思ってないよ。七瀬さんたちは楽しんでるし。うん、ダーツは楽しむのが一番。でも、せっかく僕が隣にいるのになー。少しもったいない気がするよね...なんせ僕は...」


こちらの機械の設定も終わり、軽快な音楽が鳴り始め、先間が何かを言いかけた瞬間だった。

香織たちの向こう側からノリの軽い声が聞こえた。


「君たちーかわいいねー。」


「マジかわいい。JKじゃん。一緒にダーツしよー。」


彰人はちらりと隣を向いた。

そこにはシャツを着崩し、髪を金髪と茶髪に染めた二人組が立っており、ニヤニヤしながら香織たちに向かって話しかけていた。

香織は一瞥もせず「しないわ。」と答え、そのままダーツを続けた。

葵も少し困った顔をしながら、「すみません。二人で楽しみたいので...」と断っている。

だが、二人組はしつこく食い下がった。


「えーいいじゃんいいじゃん。みんなでやった方が楽しいよー。」


そう言いながら、茶髪男が葵の隣の椅子に座った。葵は身を竦ませた。


「そうだぜ!みたこと君もダーツ初めてだろ?俺が教えてやるよ。」


もう一人の金髪男はそう言いながら、ダーツを投げている香織の隣に移動すると、香織の腰に手をまわしかけた。

だが、香織がそれを黙って受け入れるかというと...否、許すはずがなかった。


「ちょっと、うざい!」


そう言って勢いよく振り返りながら、手を振りほどこうとした。

だが、今日の香織はついてなかったらしい。運悪く肘が金髪男のお腹に強めに当たってしまった。


「痛って...」


金髪男はそう言ってお腹を押さえながら、少し後ずさりした。

少しやってしまったという顔をしていた香織も、すぐにキッと眉を上げると今度は葵の隣に座っている男に向かって言った。


「あんたもそこからどきなさいよ!」


しかしそう言って歩き出した香織の手首が急に強い力で掴まれる。

口元で小さく悲鳴を上げながら振り返ると、先ほどお腹を殴った金髪男が怒った様子で香織の手首を握っていた。


「あんま調子のんなよ...。」


「くっ離しなさいよ!離せっ...痛っ」


香織は必死に手を振りほどこうとするが、かなり強い力で握られているらしく、一向に振りほどけない。

そんな様子を見ながら、茶髪男はにやついた声で言った。


「はい。もう二人とも今日は俺らと遊ぶこと決定ー。」


「それは朗報だ。丁度我もお主たちと遊びたいと思っていた。」


急に聞こえてきた知らない声に、茶髪男はバッと振り向いた。

そこには腕を組みながらこちらを向いている彰人がいた。


「なんだお前...」


明らかに自分より顔面レベルが数ランク上の彰人を見て、茶髪男は狼狽えながらも強気に出た。

彰人は「ふむ。」と言いながら、茶髪男に向かって近づいた。


「だから今日のお主たちの遊び相手になってやろうというのだ。」


そういって茶髪男の目の前に立った。

茶髪男は「なん...」と言いながら、口をパクパクさせた。

隣の椅子に座る葵は感極まったように瞳を濡らすと、「豊島君...」と呟いていた。


「野郎は引っ込んでろよ。」


後ろから金髪男の吠える声が聞こえた。

彰人は振り返りながら言う。


「お主こそ、その手を離せ。」


「黙れ。お前も調子に「二度言わせるな。」


彰人の大きくもない声が、なぜかそれより大きな金髪男の声をかき消す。


「その手を離せ。」


得体のしれない威圧感にヒッと喉を引き攣らせた金髪男は、思わず香織の手首を離す。

香織は痛そうに顔を顰めながらも、小走りで葵の隣に向かった。


「なんだよお前...こいつらの彼氏か?」


金髪男が声を絞り出す。

彰人は「カレシ?」と首をかしげたが、納得するような顔をした。


「いや。別に恋仲ではない。」


「じゃあ、なんだよ!同級生か?」


彰人は「そうだ。」と肯定した。

それを見た金髪が再度叫ぶ。


「確かにさっきまで少し強引だったのは謝るけど、ただの同級生なら別に俺らとこいつらが遊んでもいいじゃねぇか!」


彰人は「それも一理ある。」と頷いた。

そうして香織の方をちらっと見た。

香織は頭が取れそうな勢いで首を横に振った。


「ダメみたいだな。」


彰人は答えた。金髪男は「くそっ」と言った。

しかし、それまで黙っていた茶髪男が話し始めた。


「でもおれらはほんとにダーツしたいだけなんだって。それにさっき連れがやったこともきちんと謝りたいからさ。一度だけダーツで遊んでくれよ。それならいいだろ?」


茶髪男は「ホント一度だけ。」と言いながら、手を合わせる。

それを見た葵は「一度だけなら...」と呟き、それを聞いた香織が頭を叩きながら「馬鹿!お人よし!」と言った。

しかし、もちろん茶髪男はそれを聞き逃さなかった。最後のダメ押しとばかりに追撃する。


「わかった!じゃあさ、一度俺らとイケメンの君でダーツ勝負しようよ。それで俺らが負けたら本当に黙って帰る。でももし君が負けたら、一度だけ俺らとこの子たちでダーツさせて!」


再度茶髪男は「お願い!」と言いながら、手を合わせた。

彰人は考えた。


(まあ、確かにただダーツで遊ぶだけなら我が邪魔する道理はないな...)


「いいよ。彰人、それ受けなよ。」


突如、聞こえた新しい声に、茶髪男と金髪男は一斉に振り向く。

そこには先間がいた。

急な乱入者に驚いた顔をした茶髪男と金髪男だったが、先間の平平凡凡とした様子にすぐに驚きは失せる。


「馬鹿!なんで受けるのよ!豊島ダーツ初めてでしょう!?」


香織が先間は睨みつけながら、声を荒げた。

だがいつもなら香織の剣幕にすぐ「ごめん!」と謝る先間は涼しい顔をしている。


「彰人はね?でも僕は経験者って言ったよね?それに...」


そして先間はダーツを構えながら続ける。


「僕はただの経験者じゃない。」


先間がダーツを投げた。機械が銃声のような効果音を発した。


「ゲーム以外の暇な時間は全てダーツに費やしている、ダーツプレイヤーだよ。」


先間の投げたダーツは見事に的の中央に刺さっていた。

茶髪男と金髪男を閉口している。

彰人はその様子を見て、思った。


(なぜだ...あまり頼りにならなそうなのは。)

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