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第百三十四話 消えた財宝を追え! その10

「あり得ないわ!」


別荘中に響き渡る様な大声で香織が吠えた。

丁度箒と塵取りを持ってきた葵はその声にびくりと肩を震わせた。


「どうしたの?」


「葵、見て!またやられたのよ!」


そう言って香織が元々『Sacred Cherry blossom』が置かれていた棚の一角を指さした。そちらを見た葵は「えっ」と小さな声を上げる。


「午前に見た時はあったよね?」


「間違いなくあったわ。」


香織は大きく頷く。そう、確かにあった。それは4人全員がその目で確認しているはずだ。しかし、何度見直しても今は香織が一番好きだったそのお宝の姿はなかった。

やっと足腰に力が戻ってきたのか、先間はゆっくりと立ちあがる。そして、神妙な面持ちで口を開いた。


「午前どころじゃないよ。」


その言葉に香織と葵はキョトンとする。

そんな2人の顔を見て、先間は衝撃の事実を口にした。


「お昼ご飯を用意している時には確かにあったんだ。」


その言葉に思わず香織は体を硬直させる。

しかし、先間は本当だよというように大きく頷いて見せた。


「そんな...だって、それがホントなら...。」


「うん。ご飯を食べた後、僕らはみんなそのままダイニングテーブルで推理をしてた。そしてこの台所に行くためには、僕等がいた部屋を避けては通れない。そんな中...扉を1枚挟んだここ台所で...次の犯行が起きてしまったんだ。」


************


あまりに不可解な犯行に気が動転していた先間と香織だったが、とりあえずそのままは危険だということになり、台所は綺麗に掃除をした。そして、再度4人はダイニングテーブルへと戻ってきていた

これで盗まれたお宝の数は4点となった。そしてまたしても別の場所、別の種類のお宝だ。

そして、今までの犯行を振り返った時に、ある結論に達していた。


「これは...挑発ね。」


香織のその言葉に全員が無言の肯定をする。

今回の犯人の目的...つまり「なんのためにお宝を盗むのか」は分からない。しかし、一点だけ分かったことがあった。それはおそらく盗まれているお宝自体には左程意味はない。

それよりも、どこでどのタイミングで盗まれているかの方が重要だった。


最初の『潮騒の夢』は夜中全員が寝静まっている時。

『魔惑の瞳』は定かではないが、『懸想』は香織の記憶が正しければ全員が1階に集まっているときに2階で。そして今回の『Sacred Cherry blossom』は約2時間の間に隣の部屋で。どう考えても徐々に犯行が大胆になってきていた。

以上から考えるに、犯人は自身を捕まえることのできない先間と香織をわざと煽るかのような犯行を行っているかのように思えるのだ。


「許せないわ。」


そう言った香織の声は怒りでわなわなと震えていた。


(まあ、こうなるであろうな。)


予想通りの反応を見ながら、彰人は腕を組む。捕まえると豪語している犯人に、これだけしてやられていてはたまったものではないだろう。

そして、これほど分かりやすい挑発にあの激昂型の香織が反応しないはずがない。


特に今回自分の事を探偵だと言い張り、最初から犯人を捕まえて見せると意気込んでいた。さらに丁度お昼ご飯を食べているときに葵の口からタイムリミットが設定されたことにより、その想いはさらに高まっていた。そのタイミングでこの挑発だ。効果は抜群と言うやつだろう。

しかし、いつもならそんな香織を見て逆に冷静になっている友人も、今日は様子がおかしい。


「僕もだ。これは僕ら探偵に対する挑戦状だよ。」


隣でそう口にする先間を見て、彰人は小さくため息を吐いた。

本来なら激昂する香織をビビって距離をとり、その間に葵が「まあまあ」と言って香織を宥めるのがいつもの光景なのだが、今日にいたっては先間もこの調子だ。

流石に2人もこのようなめんどくさい状況になるのは初めてなので、葵も困ったようにおどおどしていた。


(これほど想定通りの反応をしてくれるのであれば、犯人もしてやったりという感じであろうな。)


顔を真っ赤にして怒る香織と、意気込むあまり鼻息の荒くなっている先間を見ながら彰人は思った。


(探偵気取りの2人にとってはこれほどまでに効果的な挑発の仕方はないであろう。まるで...。)


彰人はそう考えると、顎に手をやり思った。


(2人の性格を完全に熟知しているかのようではないか。)


それからは、絶対に犯人を捕まえて見せると気合が十二分に高まった先間と香織の心情に呼応するかのごとく天気もさらに悪化していった。

窓に叩き付けるかのように降る雨音をBGMに、別荘内の本格的な捜索が始まった。今まで鍵が締まっていた部屋も片っ端から見漁り、そしてお宝が盗まれた場所も徹底的に調べ上げた。

更にその過程で葵には2人から鬼のような質問が飛び、葵も1つ1つの質問に丁寧に答えていた。


彰人はせわしなく動き回る2人を姿を尻目に、ソファーに腰かけていた。

そんな彰人の隣にはサッカーとトールが同じく2人の探偵を俯瞰するかの如く、鎮座していた。彰人は2匹のペットをチラリとみて、それから顎に手をやると「ふむ」と呟くのだった。


************


カチャカチャと食器を洗う音が聞こえる。それ以外は外から聞こえる風の音と雨の音だ。

時刻は夕刻。晩御飯を食べた後、先間と香織は2人して黙ったまま、腕組みをし椅子にじっと座っていた。

台所から音が消え、少しして葵が姿を見せた。


「お待たせ。」


そう言いながら席に着く葵。その言葉に先間と香織の体がピクリと反応した。

2人は同時に腕組みを解くと、エホンと咳払いをした。


「それで、どちらからだ?」


彰人のその言葉に先間と香織が顔を見合わせる。

しかし、すぐに香織が「私は後でいいわ」と言った。先間は意外そうな顔をし、確認する。


「本当に僕からでいいの?」


「いいわ。」


香織はそう言いと、再度腕を組みなおした。

先手を譲られた先間はもう一度咳ばらいをすると、こう切り出した。


「じゃあ、僕の推理結果と...導き出した犯人を言うね。」


そう、実はこの晩御飯の前、別荘を捜索し終わった後だった。

先間と香織が互いに自分の部屋に籠り、うんうんと頭を捻り続けた後、同時に部屋から出てきてこう告げたのだ。

「多分、犯人がわかった」と。

しかし全員お腹も減っていたので、それぞれの考えを発表するのはご飯の後にしようという話になった。

そして、今だ。


外ではさらに雨音が激しさを増し、窓ガラスが風でガタガタと音を立てる。その場の緊張感は徐々に高まっていき、今や最高潮に達しようとしていた。

そして、ついに先間が緊張の面持ちで口を開いたその瞬間、空気を切り裂く様な雷の音が響き、辺りは暗闇に包まれた。


「え!?」

「きゃあ!」


驚いた声が響き、ガタガタと何かが動く様な物音が聞こえた。

しかし、すぐあとに「大丈夫!ここにマッチがあったから、これでローソクに光を灯せば...。」という葵の声が聞こえ、少し後に燭台に炎が灯った。


「大丈夫か?」


彰人はそう言いながら辺りを確認する。

先間は咄嗟に後ずさったのか応接間の方向に少しだけ移動しており、香織はその場で勢いよく立ち上がったのか椅子が派手に倒れていた。

葵はローソクに明かりを灯した姿勢のままで、辺りをキョロキョロと見回す。


「停電しちゃったみたい。」


葵が困ったような声でそう呟いた。


「まあ、最終日でよかったわ。食材も全部食べた後だし。」


「びっくりした。すごい音だったね。」


緊急事態に先間も香織も探偵モードは鳴りを潜め、素直な感想を口にする。

しかし、その時彰人の頭にはある仮説があった。それが当たっていると非常に面倒くさいことになるが、自称探偵の2人はこの様子だとおそらくそこまで気が回らないだろう。


(我が動くしかないか。)


彰人は仄暗い部屋の中で顔をしかめた後、少しだけ笑った。

元々この旅行には元の世界で経験し得なかった何かを求めてきた。確かに当初考えていたような展開とは違っていたが、それでもこれはこれでまたとない経験と言うやつだった。


(まさか我がこのような道化を演じることになるとはな...まあ、良いだろう。これもまた一興だ。)


いまだに何かを喋っている先間と香織の方に顔を向けると、彰人はこう切り出した。


「ひとつ前の犯行は、隣の部屋で2時間の間に行われていたな?」


その言葉を聞いた2人は最初「え?」という顔をしていたが、彰人は続ける。


「そしてそれをお主たちは挑戦だと受け取った。徐々に大胆になっていく犯行をだ。」


そこまで聞き、ようやく今回の窃盗事件の事を言っているのだと気づき、2人はハッとした顔をした。

雰囲気も探偵モードに切り替わった様子の2人の姿に、彰人はため息を吐きそうになるのをぐっとこらえ、


「もしだ。犯人が次の犯行をさらに大胆に行うならこれしかないとは思わないか?」


こう告げた。


「我ら全員がいる部屋の中から一瞬のうちにお宝を盗み出す。」


それを聞いた2人は目を見開いた後、お互いが示し合わせたかのように応接間の方へと走っていき、同時に上を向いた。

そしてあんぐりと口を開けた。


(やはりな。)


そのリアクションで察した彰人は肩を竦めた。

やっとここまで来ました...この続きが『第百二十五話 消えた財宝を追え! その1』の冒頭に繋がっています。

まさか伏線張りに10話も費やすとは...。一応次回から解決編です。

このようなミステリーチックな話を書くのが初めてだったので、「いやいや伏線の張り方下手くそか!」ってなってもすみません!

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