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第百二十九話 消えた財宝を追え! その5

徐々に強くなっていく風に、窓ガラスが揺れ、ガタガタという音が室内に響く。

昼間は凛と立ち涼しい音色を響かせていた木々たちも、今ではバサバサと慌ただしくその体を揺らしていた。

その様子を険しい顔をして眺めていた香織が、不意にドアの方を振り向く。

それと同時にドアが開き、葵が応接間の中へと入ってきた。


「どうかしら?」


その香織の言葉に対し、返ってきたのは想像通りの返答だった。


「やっぱり駄目。もう海が荒れてて、船は出せないって。」


葵は首を振りながら言った。


「ごめんなさい。あたしがきちんと確認していれば...。」


申し訳なさげにそう言う葵を見て、香織は慌てて手を振る。


「そんなっ葵は気にしなくていいわよ!ただでさえ、葵に連れてきてもらってるんだもの。私たちが自分で天候の事くらい気にして確認すべきだったわ。」


「そうだよ!ごめん、僕も根っからのインドア派だからこういう旅行とか初めてで、天気の事なんてなるで頭になかった。」


そう葵のフォローを入れる2人。確かに葵が天気の事も調べておいてくれると言っていたが、任せっきりは良くなかった。

少なくとも自分でも責任をもって調べておくべきだったと反省をする先間。

その隣でじっと空を見ている彰人に気付くと、不意にあるアイデアが頭を過ぎる。


「そう言えば彰人って魔法使えるじゃん。」


「む?まあ、そうだが。」


元々誰にも明かす気のなかった自分が魔法を使えるという話が急に振られ、一瞬驚く彰人。

しかし、そう言えばここにいるメンバーはみんなそのことを知っているのだと思い直す。


「この台風も魔法で蹴散らせたりして。」


先間はそう言い、間髪入れず「まあ、流石にそれは無理か。」と言ってハハハと笑う。

先間の言葉にパッと彰人の方を振り向いた香織と葵も、「まあ、流石に天気を操るとかはね...」という顔をして目を反らしかける。

しかし、そんな中彰人は当然ような口調で口を開いた。


「できないこともない。」


その言葉を聞き、先間は目を瞬かせる。

思わず口からも小声の「ぇ」という言葉が漏れる。

しかし、続けて彰人は口を開く。


「だが、現実的ではないな。」


「あ、それはやっぱり天候操るのは大変的な?」


確かゲームなどでも天気を操る系の魔法はとても大規模な魔法になりがちで、RPGなどでもかなり終盤の...つまりキャラのレベルが相当に高くないと覚えなかったような記憶がある。

そんなことを思いながら尋ねた先間だったが、彰人は首を振った。


「所詮、天候の根幹は温度だ。7つの魔法元素を操れる我にとって天気自体を操ることは大したことではない。」


“七つの魔法元素を操る”の部分で珍しい彰人のどや顔が見えたが、何のことなのか分からない先間はとりあえず「へー。」と言っておいた。

若干そのリアクションに物足りなそうな顔をした彰人だったが、一度咳ばらいをすると話を続ける。


「だが、大変なのはその先だ。」


「その先?」


「そうだ...よく考えてみろ。天気というのは我によっては操るのも大した作業ではないのだが、それでも規模は大きいだろう。この天候を認識しているのは我ら4人だけではない。」


その言葉を聞き、先間もはたと思いつく。


「そうか、その通りだ。急に台風が消えると大騒ぎどころじゃ済まないよね。」


彰人は先間の言葉にそういうことだと大きく頷く。


「まあ、その後の処理もできないわけではないが、それは流石に大規模すぎる。ここで切る様なカードではない。」


彰人はそう言うと再度外を見た。

そのやり取りを眺めていた香織は一度目を瞑ると、頭を切り替えパンと手を叩いた。


「まあ、台風来ちゃったもんは仕方ないわ。うじうじ言ってても解決なんてしないし、私たちはこの状況下で楽しめることを模索しましょ。」


「そう、だね。この様子だと明日も船は出せないだろうけど、元々帰る予定だった明後日には無事帰れると思うし。明日一日外で遊べないのは不便だけど、安心して。一応この別荘には室内で遊べるゲームもたくさん常備してあるから。」


「え!ゲーム!」


葵の言葉に首がちぎれそうな勢いで反応する先間。

しかし、それを見た葵は苦笑し、香織も飽きれたような声で言う。


「言っとくけど、先間が想像するようなもんじゃないわ。」


「え、でもゲームって...。」


そんな先間の言葉を尻目に葵は「確かここにも...」と言いながら、壁際に置いてある棚を漁る。

そしてすぐに「あった。」というと、ある箱を手に掴み、こちらを振り向いた。


「ごめんね先間くん。私が言ったゲームって言うのは、これの事。」


そう言いながらテーブルの上にその箱が置かれる。

そこには有名な某ボードゲームの名が記載されていた。


「あー。そっちか。」


若干残念そうな先間の声が響く。

そんな先間を見て、香織が言った。


「なによ、ゲーム機を使ったゲーム以外は自信ないの?」


「べ、別に自信ないわけじゃないよ!」


「じゃあ、やりましょうよ。」


そう言って手招きをする香織。

まあ、仕方ないよね。といった感じで先間は肩を竦め、葵が用意を始めたローテーブルの方へと移動する。

彰人はその様子を見ながら再度ちらっと外を見た。パラパラと雨も降ってきたその光景を見ながら、心の中で思った。


(なんとなくだが...まだ一波乱ありそうな気がするな。)


そしてその彰人の予感は的中することとなる。

結局初日はボードゲームでひとしきり遊んだあと夕食を食べ、たわいもない雑談をしてから少し早めの就寝となった。

本当は夜みんなで花火なども楽しむ予定だったが、その頃には風も暴風と呼べるレベルにまで達しており、断念となった。


先間は彰人と2人で部屋に戻った。途中から室内で遊んだとはいえ、朝からハードだった1日に不意にどっと疲れが押し寄せる。

しょぼしょぼとする目を擦りながら、我先にとベッドに潜りこんだ先間だったが、彰人が立ったままなのに気づき、声をかけた。


「ごめん、僕もう限界。先に寝るね。」


「ふうむ...ん?ああ、そうか。大丈夫だ。我ももう眠る。」


最初どこかを見つめていた彰人は何かを考えていたようだったが、先間の声にふと頭を上げるとそう返答した。

先間はその姿をうっすらとした視界でとらえながら、そう言えばと思う。


(彰人何か見てたみたいだけど...僕もこの部屋に入ってきた時、ちょっとした違和感を覚えた気がするんだよね...何だったんだろう。)


しかし、先間が思考するのはそこまでが限界だった。強い眠気が先間の考える力を奪っていき、程なくして先間のベッドからはスース―という寝息が響いた。

彰人はベッドに腰かけ、少し目を閉じると一日の状況を整理する。


(さすがに現段階では可能なタイミングが多すぎるな。導くにはヒントが足りぬ。しかし、おそらくこれで終わりではない。明日以降ももし続くのであれば...少し面倒なことになるな。)


フッと短いため息をついた彰人は部屋についている窓から外を見る。

バシバシと叩き付けるような雨の音が響く中で、頭の中である言葉を反芻していた。


(クローズドサークル...か。)


************


翌朝。気持ちよく眠っていた先間はある音で目を覚ました。

それはまるで戦いを告げる太鼓の音のように、一定のリズムでドンドンと響いていて...。


「起きなさい!2人とも!大変よ!」


「ふわっ!」


先間はその声に一気に目が覚める。

それは内容のせいではない。朝一に母親以外の声が聞こえるという状況が今までの人生で経験したことがなく、驚いたせいだった。

目を覚ました先間はその眠気眼に映った景色にさらに驚く。いつもの雑然と漫画やゲームが散らばっている自分の部屋ではなく、知らない木造の壁と天井が見えたからだ。


(な、なんだぁ!?)


「む、先間よ。おはよう。」


「へぇ?」


隣から聞こえてきた声に先間はそちらを向くと、ベッドに腰掛けこちらを見ている彰人の姿があった。

そこでやっと意識が覚醒してきた先間は、冷静になる。


(あ、そうか。今は旅行中で、ここは七瀬さんの別荘か。)


「どうした。呆けた顔をして。」


「この気の抜けたような顔は生まれつきだよ...おはよう彰人。」


そう返事をした瞬間、先間は起きた瞬間から聞こえていた音がさらに大きく鳴る。


「いつまで寝てんのよ!早く起きなさいよ!モーニーング!」


ドンドンドン。

そう、それは太鼓の音ではなく、香織が扉をノックする音だった。まあ、これをノックと呼ぶのか殴ると呼ぶのかは人によると思うが。


「朝一から友人との会話を楽しむのもいいけど、まず返事した方が良くない?このままだと蹴破られるのも時間の問題な気が。」


「そうだな。さっきから聞こえておると言っておるのだが、この部屋の防音性能が良いのか朝霧には届いて無いようだ。」


「まあ、防音もそうだけど、たぶん自分が扉ぶん殴ってる音でこっちの声もかき消されてると思うよ。」


そういって立ち上がる先間。

しかし彰人は「待て。我が行く。」というと、扉の前まで移動し、ガチャリと開けた。


「食らいなさい!」


そんな声が部屋の中に飛び込んでくると同時に、バチンという音が響く。


「朝から結構な挨拶ではないか。」


そう言った彰人の目の前では、拳を前に突き出してる香織の姿があった。

そしてその拳は彰人の顔の前で、彰人の手により止められている。


「あら、おはよう。起きるの遅いのよ。」


開幕パンチをかましておきながら悪びれもなくそう言う香織。そんなバイオレンスな光景を見ながら、先間は彰人に感謝していた。

なぜなら、もし自分が扉を開けてたら、ほぼ間違いなく香織のグーパンをもろに受けていただろうから。

しかし、明日からも扉は彰人に開けてもらおうと先間が心に誓う中、香織は「そう言えば!」という顔をすると、大きな声で言った。


「こんな挨拶してる場合じゃないわ!大変なのよ!」


朝からテンション高いなと思いながらも、ただ事ではない様子の香織の姿に先間も立ち上がると彰人の隣まで向かった。

近くで見る香織はまだパジャマを羽織っており、先間は若干動揺する。しかし、そんな気持ちも押し殺し、口を開いた。


「何が大変なの?」


そう問いかける先間。

その瞬間香織は腰に手を当てると、なぜか若干胸を反った。

そして、2人の目を交互に見ると、仰々しく宣言する。


「昨晩この別荘のお宝が盗まれたわ。」


目を見開く先間。

それと同時に頭の中で先ほどまで聞こえていたドンドンという音が鳴りだす。

まさかあれは扉をノックする音でも、殴る音でもなく、


「閉鎖された孤島で起きた...窃盗事件よ!」


やはり戦いの火蓋が切られた、

その合図の音だったのかもしれない。

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