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第百二十四話 守れたもの 後編

「ちなみに、僕は彰人が魔法使えること知ってたよ。」


「えぇ!?」


香織と葵は、爆弾発言をした先間を見た。


「いつからよ!」


「えーと、多分入学して一ヶ月後くらい?」


「早いわね!」


先ほど一緒に倉庫内の修復を見ていた先間が、まさかすでに魔法の事を知っていたとは。あんなに初めて見ますみたいなリアクションをしていたのに。

香織がそのことを突っ込むと、先間はいやーと言いながら頭を掻き、なぜか少し誇らしげに言った。


「魔法っていつ見てもカッコいいじゃん?」


「なんで自慢げなのよ。」


そんな突っ込みが入る中、ふとある疑問が思い浮かんだ葵は彰人に尋ねた。


「なんで、先間君にはそんなに早く魔法の事を打ち明けてたの?多分今までも何度か魔法は使ってたけど、他の人には隠してきてたよね?」


流石秀才の葵だ。すでに彰人が何度か魔法を使い、様々なことを解決してきたことを、感覚的に見抜いていた。

彰人はそう感心しながらも、(確かに)と考える。


(我も深く考えたことは無かったが、なぜ先間には簡単にこのことを明かしていたのだろう?)


そう思った彰人は、先間の方を見た。

しかし、もちろん先間はえ?なんで僕見るの?といった表情で、彰人の事を見返す。


(それはそうだ。別に先間に誘導されたわけではないのだ。)


そう思った彰人は、葵の方を向き答えた。


「入学式の後、教室で行った自己紹介で先間と話す機会があってな。その時に我と忌憚なく言葉を交わす先間を気に入ったのだ。」


葵は彰人の返答を聞き小声で「そうなんだ。」と言うと、少し地面をつま先で蹴った。


「なんか、妬いちゃうな。」


「え?」


その言葉を聞いた先間が葵に向かって、?といった顔をした。

そんな先間に対し、葵は言う。


「だって、私もその自己紹介のタイミングですでに豊島君と仲良くなりたいなって思ってたんだよ?なのに、私に秘密を打ち明けてくれたのは今日じゃない?...妬いちゃうよ。」


それを聞いた先間はあーなるほどと納得して、実際にそう言おうとした。


「勘違いしないでよね!」


しかし、それを香織が邪魔をした。


「なっ何?」


先間は急に声を荒げた香織に驚き、思わず聞き返す。

しかし香織は隣の葵の腕をつかみ引き寄せると、彰人と先間を指さし言った。


「豊島も先間も調子乗らないでよね!私の親友と釣り合ってないのは、あんたらの方よ!」


急にそんなこと言い出す香織に、先間は少しめんどくさくなる。

大抵こうなった香織は止まらない。案の定、興奮した香織は矢継ぎ早に言葉を繋ぐ。


「葵もそうよ!あいつらが魔法使えるとか、そんなしょうもない秘密を共有してるくらいで嫉妬なんて抱かないでいいのよ。むしろそんな重要な秘密を、先に私たちに打ち明けてない豊島の目が節穴よ。」


「あれ、今分かりづらかったけどサラッと僕の悪口言われた?」


そんな先間の呟きをかき消すように、香織はドンと足で地面を踏みしめる。

そして彰人をビシッと指さした。


「それとね!葵からこ、告白を受けて調子乗ってる豊島に言うけどね!」


「別に調子には乗っておらぬ。」


「自分の親友が魔法を使ういけ好かない男を好きになった私の気持ちわかる!?不安よ!」


こちらに聞いておいてすぐに自分で答えを言う香織。

その隣で葵は愉快そうにくすくすと笑っていたが、何か巻き込まれ事故にあったような感覚の先間は、面倒くさい気持ちが大きくなり、つい地雷を踏んでしまう。


「友達の恋路の心配する前に、朝霧さんも恋した方がいいんじゃない?」


「あ。」


先間がそう言った瞬間、葵はやばいみたいな顔をした。

その顔の変化を見た先間は、自分の失言に気付く。弁解しなきゃと頭を回すものの、時すでに遅し。


「先間。」


その声は倉庫内に静かに波紋を起こした。

俯き髪で顔が隠れた香織が言ったその言葉は、決して大きな声ではなかった。しかし、その声が持つ威圧感は先間を震え上がらせるのには十分だった。


「あ、えっと今のは違うくて、その」


「死になさい。」


その声と香織が先間に飛びかかるのは同時だった。持ち前の運動神経を活かし、一度の踏切で先間の元に跳躍してくる。

それを見た先間はうぎゃーっと叫び、全速力で逃走を始めた。


「待ちなさいよ!」


香織はそんな先間の背を追いかけながら、彰人の方を見て叫んだ。


「豊島!さっきの運動神経良くする魔法やって!あの馬鹿ぶちのめすから!!!」


それを聞いた彰人は軽くため息を吐くと、緩く首を振りながら答えた。


「駄目だ。先間が死ぬ。」


「絶対やめてね!?」


彰人の返答を聞いた先間がそう叫ぶと同時に、香織の渾身の右ストレートが先間に迫った。

ひえっと言いながら頭を抱えた先間の頭上を香織の拳が通り過ぎ、背後にあった木箱に爆音とともに突き刺さった。


「...。」


先間は恐る恐る振り向き、木箱に肘くらいまでめり込んだ香織の腕を確認すると、そっと彰人を見た。

その目は(この威力...魔法使ってる?)と物語っていた。

しかし嘘を吐く意味もない彰人は、その縋るような先間の目を見た後、再度首を横に振った。

先間の目が絶望に染まる。


「あら。」


そんな先間の前で、香織が言った。


「さっきの戦闘で、筋肉や関節、そして力の伝え方に至るまで、体の動かし方を深く理解できるようになってるわ。これなら別に魔法無くても...。」


メキメキといわせながら、香織の腕が木箱から引き抜かる。

そして、先間の目の間でその拳内に握った木片をゆっくりと握りつぶした。


「先間殺せるわ。」


「助けて!殺される!!!彰人!防御の魔法かけて!!!」


そう言いながら駆け出した先間を、「逃がさないわ!」と言いながら香織が追う。

さながら先ほどのリヴァイアサンとの戦闘を思わせるそのやり取りに、彰人は呆れたように肩を竦めた。


「ねぇ、豊島君。」


そんな中、いつの間にか彰人の隣まで来ていた葵からそう声がかかった。

彰人は隣の向き、葵を見る。葵は目を少し潤ませると、口を開いた。


「改めて...ありがとう。この日常を取り戻せて良かった。それから色々とごめんなさい。本当に...本当にありがとう。」


その言葉と共に、深く深く頭を下げた。

彰人は一度頷くと、優しい声で「我も良かった。」と言った。そして思う。


(今回、我だけでは七瀬を救えなかった。この日常は取り戻せなかったのだ。今ここに4人が揃っているのは、先間と朝霧のおかげだ。感謝だな。)


「今回その言葉は、あやつらの方が相応しい。」


彰人のその言葉に葵はゆっくりと頭を上げると、いまだに追いかけっこを繰り広げている先間と香織を見た。


「...今の言動だけ見ると、そうは見えないけどね。」


まるで子供のような喧嘩を繰り広げている2人の姿に、葵は少しほほ笑みながらそう言った。

それを聞いた彰人もフッと笑った。


「じゃあ私...香織止めてくるね。このままだとまた豊島君が魔法使わないといけない事態になっちゃいそうだから。」


そう言っておどけたように笑うと、葵は駆け出していった。

その足は軽やかな足取りを見て、彰人は改めて思う。


この一連の騒動は、香織と葵を成長させただけでなく、自分の不甲斐なさも再確認することができた。

最初、国王になるための試験内容が異世界で3年間過ごすだけと聞き、耳を疑ったものだ。その経験が何になるのだ、と。

しかし蓋を開けてみれば、日々学ぶことだらけの日々だ。新しい考え方や価値観に触れるたび、今までいかに自分が驕っていたかを突き付けられる。


(そして、我にそれを気づかせてくれたのはお主たちだ。これからもお主たちとは良き友人でありたいと思う。)


3人の姿を瞼の裏に焼き付けるように、彰人は目を閉じながら感謝の気持ちを伝える。


(だからこそ。)


彰人は目を開いた。

その目は鋭く、そして険しい。


(...まだ終わっておらぬ。)


今回は結果的に無事日常を取り戻すことができた。

しかし、全てが完璧に解決できたわけではない。


(七瀬に魔方陣を仕掛けた奴がいる。)


そう。葵の劣等感を助長させると同時に、リヴァイアサンを召喚させる魔方陣を描いた黒幕がいる。

そいつが故意的に葵の感情を弱みを利用し、香織との仲を引き裂こうと画策したことは明白だ。さらに、魔方陣の発動条件が“魔力”だったことからも、わかることがある。

それは彰人の正体、魔法が使えるということに気付いているということだ。


そして、その黒幕が仕掛けた魔方陣は、発動するまで彰人すら存在を認識することができない代物だった。

それはつまり、魔法の扱いにおいて彰人の上をいっていることを意味している。


(しかし、必ず見つけ出す。)


例え、魔力の扱いが優れていようが、そんなことは関係ない。

この世界でできた友人とこのかけがえのない日常を壊そうとした奴がいるのだ。

その罪は重く、決して許してはならない。


(そして、後悔させてやろう。我の友人を傷つけたことを。)


そう決意する彰人。

そんな中、倉庫内に響いた「彰人、もう帰ろうよ。」という声に気づき顔を和らげる。

そして「ああ。そうだな。」と答えると、自分を待つ友人たちの元へ一歩踏み出していったのだった。

これにて一章完結となります。

色々と拙い小説かとは思いますが、感想を書いてくれる方、評価を付けてくれる方、ブックマークをしてくれる方...そしてもちろん日々読んでくださる方々には本当に感謝しています。ありがとうございます!


また、もしここまで読んで「面白かった」「もっとこんな話が見たい」「これが気になってる」等々ございましたら、そちらもブクマ・評価・感想という形で応援していただけますと、泣いて喜びますのでよろしければ是非...!


第二章は1学期が終わり、夏休みからスタートです。

そして最初の話はまさかのクローズドサークルから...?


今後とも「異世界王子のハイスクールライフ~剣と魔法は使わないよう善処する~」にお付き合いくだされば、とても嬉しいです。

それでは。


【ご報告】

実は新しい小説を書き始めました。何とテーマが、


YouTuber×異世界転生×ダンジョン攻略


という盛りに盛った感じ(笑)ではありますが、また違った趣があるかと思います。

「異世界のダンジョンで動画投稿ってどういうこと!?」と少しでも興味を持たれた方がいましたら、ぜひ一度読んでいただければ幸いです。

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