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第十話 ひと狩りいこうぜ 中編

「ほんとに彰人何にも知らないんだね。」


手元のゲーム機にカセットを差し込みながら、先間が呆れた声を出した。

今、先間がセットしているのは、先ほどゲームショップで購入した『バケハン』だ。

もちろんゲーム機であるスマートコンピューター、通称『SC』も同じショップで彰人が同時に購入したものだった。


「知らんものは知らん」


「今までゲーム一回もやったこと無いの?」


「ないな。」


「この年まで何してたのさ。」


「鍛錬だ。」


先間は半目でこちらを見た。

彰人が何か?といった様子で肩を上げると、ため息をついた。


「まあいいけどさ...はい。できた。」


バケハンをセットし終えたSCが渡された。

彰人は興味深げにゲーム機を触り感触を確かめる。


(これがゲーム機か。スマホと同じくこのサイズで魔法具以上のポテンシャルを秘めているとは...化学とはすごいな。)


一通りゲーム機を鑑賞し終えた彰人に、ボタンの位置が分からないのかと思った先間から、「スタートボタンは右上だよ。」と声がかかった。

もちろんスタートボタンの位置などわかっていなかった彰人は、おとなしく右上にある小さなボタンを押した。

画面が淡く光り、SmartComputerの文字が浮かび上がった。


「おぉ...」


彰人はそのディスプレイの鮮明さに感嘆した。


「はい。じゃあこれつけて。」


そう言って先間から渡されたのは、目を覆うような少し大きめのゴーグルに、これまた口をすっぽりと覆うサイズのマスク、そしてコードのないイヤホンだった。

先間曰く、このセットがバケハンが大ヒットした理由らしい。


彰人はそれぞれを順に身に着けていく。最後にゴーグルを装着して、再度感嘆した。

先ほどまでゲームや漫画が雑然と置かれた先間の部屋にいたが、ゴーグルをつけて見えた世界は真っ暗闇の中に、


SmartComputer


という文字が揺蕩う、空間だった。まさに先ほどCPのディスプレイに移っていた画面の中に、自らが入り込んだような感覚を覚える。

軽く辺りを見回すとどこまでも真っ暗な空間が続いている。先間が帰り道に熱心に語っていた言葉を思い出す。どうやらこれはVRという技術らしい。


「最初は慣れないと思うけど、まあ時間が解決するから、まず丸ボタンを押して、名前を決めて。」


姿は見えないが隣にいるであろう先間からの指示に従い、手に握ったCPの丸ボタンを押そうとする。

手元が見えないので苦戦をしながら○ボタンを押すと、真っ暗な空間に名前を打ち込むキーボードが現れた。

彰人は自分の名前を入力しようと『あ』と入れた瞬間、予測変換で『アレックス』と表示された。

そして取り消そうと×ボタンを押した瞬間、


『名前がアレックスに決定しました』


とアナウンスが流れた、どうやら、間違って○ボタンを押したらしい。


「まあ、慣れるまではそういうこともあるよ...どうするやり直す?」


彰人は少し考え「このままで良い」と答えた。

どうせ、彰人だろうがアレックスだろうがどちらも大差ない。


「じゃあ、そのままキャラ作成を行って。」


先間からの指示に従い、○ボタンを押そうとする。次は一回でうまく押せたらしく、画面が切り替わった。


「おい先間、目の前に鏡が見えるぞ。凡庸な雰囲気の男が映り込んでおる。」


「ああ、それデフォルトの状態ね。そのまま鏡を見ながら、顔や髪型を作りこんでいって。声も好きに設定できるから。」


「うむ。」


彰人はゲーム機を操作し、キャラクターの顔と声をいじくりまわした。

そして、キャラ作成が終わったことを告げると、先間から次は職業を選んでチュートリアルを行ってと指示が出た。

バケハンには戦闘モーションの異なる職業が10種類以上用意されていた。先間から「初心者におすすめなのは剣士だよ」とアドバイスを受けたが、彰人は『魔法剣士』を選んだ。


「え?魔法剣士って極めれば強いけど、やること多くて難しいよ。」


「大丈夫だ。」


「すごい自信だね。」


「これが一番、()()()いるからな。」


「あ、そう。」


彰人は先間の自分が理解できそうにない話は早々に流す性格が好きだった。

業種を選んだあと、案内用の女性キャラクターの指示に従い、一通りのチュートリアルを終わらせる。


「オッケー。あとは実戦で慣れていこう。じゃあ、オンラインにつなぐよ。」


先間がそういった瞬間、今までチュートリアル用の競技場にいた彰人の視界に、


『オンラインに繋がりました。アリーナに移動しますか?』


と表記が現れた。彰人がYESを選択すると、光が視界を覆い尽くした。

そのまま目の前に


Arena


の文字が現れ、急に視界が切り替わった。


(ここは...酒場か?)


明かりを見回すと、彰人の元の世界の酒場に近い雰囲気を持つ建物の中にいるようだった。


「こっちだ。新人君。」


急に後ろから聞き覚えのない声で彰人に声がかかる。

後ろを振り向いた彰人は少し目を見開いた。そこには全身を鎧で覆い、背中に大剣を背負った剣士が立っていた。

髪は短く刈り込んでいて、目つきが鋭い。歴戦の勇者を思わせる雰囲気を漂わせていた。

彰人は少し考え、声をかけた。


「なんだ、せん『ちょっとストップ!』


耳元に先間の大きな声が響く。


『危ないな!ゲーム内で本名呼ぼうとするのやめてよ!』


『なぜだ。』


『なぜって...ここは現実ではないバケハンの世界なの!だから僕も今は先間じゃない、僕の名は』


「デニスだ。」


そう言いながら、目の前のデニス(先間)が握手を求めてきた。

彰人はそれに応じながら答えた。


「アレックスだ。」


こういう時の順応は早いアレックス(彰人)だった。

そして彰人はやっと先間がバケハンを押していた理由に気づいた。


(なるほど。確かに直にゲーム機を触って操作はするといえ、視界と聴覚が現実から切り離されることで、ここまで感覚が違うのか。)


そう『バケハン』のプレイ前に身に着けた、ゴーグルは360°の視界にゲームの世界を映し、マスクは現実世界で喋った声をゲーム内で設定した音声に変換し、イヤホンで聞くことができた。

つまり、本当にゲームの世界にいるような感覚をより強く感じることの出来るゲーム、それが『バケハン』だった。


『ちなみに僕はゲームの時は、そのキャラになりきることを信条にしているんだ。』


急に先間がよくわからない宣言をし始めた。


『そして、今から一緒にバケハンをプレイする人たちも、同じ信条を持つ友達だよ。』


『そうか。』


彰人はよくわからなかったが、とりあえず肯定をした。


「では、呼ぶとしよう。」


デニスはそういうと、懐から出した手紙を虚空に向けて投げた。

手紙は空中で光って消えた。


「今のは何だ?」


「メッセージを送ったのさ。僕の戦友にね。」


デニス(先間)はそう言って、ウインクをした。

彰人は(この先間、少し苦手かもしれん)と思った。

そうすると、奥のテーブルで椅子の上に光に粒子が集まっていく様子が見えた。


「来たようだね。」


デニスはそのテーブルに向かって、歩いていく。アレックス(彰人)も後に続いた。

そして光が消えた後には、二人の男が椅子に座っていた。


「わしはコーネリアスだ!こいつが新人のアレックスか!今日はよろしく頼むぞ!がはは!」


ハンマーを背負った大男はそういって大きく笑い、


「ふん...俺は闇に生きるもの...人は我をヌルと呼ぶ...」


黒ずくめで長髪の男はそういって、ニヒルに笑った。


彰人は生まれて初めて、この世には名前のつけられない感情があることを知った。

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