52 そして通常運転へ
今回やや短めです。
いつものやらかしが含まれます。
天を突くほど巨大な、漆黒の結晶。
一同は世界会議の会場に突き刺さったそれを、ただただ見上げていた。
「でっかい」
「おっきい」
ナインとルルリエリル……ルルは、ポカーンと口を閉じもせずに呟く。
結晶が現れ、会場の建物に突き刺さってから10分と少し。
ナインとルルは、仲良く足跡のベンチに座っていた。
見た目10歳前後の2人には少し大きめのベンチであるため、2人とも足が地面に付いていない。
結晶を作り出した張本人であるルルは、これからどうしよう、と考える気力さえなくなっていた。考える気が無いのではなく、魔力を著しく消耗した故に思考力が低下したからだ。
もっとも、この後にやる事は決めていたので、思考力を手放したとも言える。
「行かないの?」
ナインは、ルルの擬音語がたっぷり含まれた意味不明な言語を理解していた。そのためそう尋ねる。
ルルは大きく頬を膨らませた。
「行かないんじゃなくて、行けないの。私、歩けないもの」
「歩けないって?」
「歩けないは歩けない、よ。足が動かないの。物心ついた時からね」
「あ、だからあの雲か」
「そ、だからあの雲よ」
移動する際にわざわざ出していた黒い雲。
あれは足が動かせないルルが、移動するために作り出した移動手段だったのだ。
そして今、それを作り出す魔力は無い。
「近くに行けば良いのか」
「ええ。私が障れるくらいにね」
「じゃ、運ぶか」
「いいの?」
「ああ。あの感じだと、地下まで影響ありそうだから、見に行きたい。まぁ、ロキが何も言わない時点で、死傷者はゼロだろうが」
『はい。ダンジョンの一部が崩壊しましたが、それ以外に被害は出ていません』
相も変わらず無表情なロキが、ユウトへ静かに事後報告を済ませる。
「で、具体的にはどうするの?」
「うんとね。結晶の中の魔力を、ぜーんぶ私の中に移す」
「ふむふむ、そこから?」
ナインは何気無く尋ねる。
魔力の結晶から、溜め込まれた魔力をを吸収するのは昔からある技術だ。ただ、結晶の大きさは尋常ではなく、たとえルルの今持つ魔力が少なくなっていたとしても、結晶の魔力を全て吸収できないはずだ。
その対策があるのかどうか……。
ルルはナインの問いに微笑んで。
「え?」
首を、傾げた。
漆黒の結晶は、特に闇の魔力を漏らす事も無くそこにそびえていた。
何の因果か、或いは必然か。
花の舞う会議場を、完全に潰す形で、結晶は落ちていた。
壁の破片やガラスの欠片が足元に散らばっており、素足は厳禁だ。
落ちた衝撃で崩壊しなかった場所も、床が斜めに傾いていたり、固定されていない物が落ちて壊れたりしている。
ちょうど壁が完全に壊れて結晶が剥き出しになり、空も見えるようになっていた場所を見つけ、そこまで進む。そうして、ルルを抱えながら、ユウトは危険が無いかを確かめながら慎重に近付いた。
「じゃー、とりあえず始めるねー」
ぺとり、と。ひんやり冷たい結晶に、ルルの真っ白な手が触れる。
その言動はとても能天気で、実に緊張感が無い。
「うん。私もがんばるよ!」
そんなルルの横で、ナインはルルの小さな手を取り、優しく握りこむ。
「こっちゃこ~い」
またもや詠唱とは思えない言葉を、結晶に触れた手へかける。
途端。
ふわりと黒い靄のようなものが、ルルの手を介して、ルルの中江と入っていく。
そしてナインは、ルルの中に流れ込んでいた大量の闇の魔力を、自分の中へと吸い出す。と同時に、魔力の属性が自分の魔力と同じ純粋な光へと変換されて行った。
これが、ナイン達の作戦。
あらかじめ、ロキに魔力の属性を変換する魔法を教えてもらい、それを使ってナインの魔力を回復してしまおうという作戦である。
ただ、いくらナインでも変換した魔力の量が量のため、結晶の中へと送り返す。
闇の魔力を失い、徐々に透明度を高めていた結晶が、今度は白く輝きだしていた。
「何か、デタラメが起きている事は理解できました」
「奇遇ですね。俺もです」
付いて来ていたサゼンタの、全てを悟ったような表情に、ユウトはあっけらかんと答える。
やがて、溜め込まれた光の魔力が、眩しいほどに輝きだす。
『―― 吸収できる闇の魔力の消滅を確認』
「ルルちゃんストップ!」
「聞こえたもーん! ありがとね、ナイン」
ふわりと微笑んで、ルルは再び真っ黒な雲を生み出し、そちらへ移動した。
というか、ユウトが乗せた。
「さて、上はもう大丈夫、なのかな」
「は、はい。おそらくは。……このような事態が初めてなので、経過観察は必要ですが、毎回これ以上の事は起きていない、はずです」
「それなら良かった。じゃあ、すぐ地下に行かないとね!」
全快になったナインが、大きく伸びをしながらニッコリと微笑む。
ようやくダンジョン攻略に戻れるのだ。今にも走り出しそうな雰囲気に、ユウトはやや疲れた顔で、目を逸らす。肉体的にも魔力的にも疲れていないのに、非常に疲れを感じたのだ。
すると、ちょんちょん、とロキがナインの肩をつつく。
珍しい事に、すぐさまナインはロキに振り向いた。
『報告します』
「ん、どうしたの、ロキ?」
『地下ダンジョンの属性変化を確認。闇の属性と光の属性が混ざり、ナビスキル:ライトスプラウトを取り込んで形状変化を成し遂げています』
「……うん? どういうこと?」
『つまり、あの巨大な結晶が、地下のダンジョンのコアに接続され、ナインが結晶の属性を変更した際コアにも光の属性が注ぎ込まれ、ダンジョンそのものの属性も追加されたのです』
「えー、と。光の属性が増えると、どうなるの?」
『簡単に説明すると、暗闇が広がっていた空間に、デフォルトで明かりが灯ります。また、出現モンスターに大幅な変化が起こります』
そこで一呼吸置き、心なしか、視線が険しくなる。
『また、最大の問題が1つ』
「な、何?」
『ダンジョンの構造が変更されたため、出口のない隔離空間が発生。孤立した者が出現しました』
「……何ですとぉー?!」
「だ、誰だ?! どこの代表だ?!」
『個体名:リミです』
「「「あ、なら大丈夫だわ」」」
「「?!」」
ナイン、ユウト、シュンの明らかにホッとした様子に、ルル、サゼンタが驚きに表情を凍らせる。
リミ。
ナインの仲間だよね?
ナインのお世話係的な人だよね?
と。
彼女達が驚く横で、あはは、うふふ、と3人は笑っていた。




