30 夏の終わり5
夏が、終わる。
「―― 用意は良いか、ロキ?」
『はい、ユウト』
「ティーチも」
『サポート準備も終了しています』
城前広場に設置された特設ステージ、裏にて。
ユウトは妖精の姿を借りたナビ達に、最終確認を行っていた。
ぶっつけ本番となった演出は、失敗が許されないためである。
結界外の空はすっかり暗くなり、美しい星達が瞬いていた。龍祭りの参加者達は、未だその星達を見てはいないが……。
『ロキと同期を開始。……完了』
『『結界解除を開始します』』
ロキとティーチは、相変わらずの無表情で魔法陣を構築し始めた。
魔法を図形や文字に起こし、構築した物が魔法陣だ。その性質上、人が普通構築できないような、複雑な魔法でも作り出すことが出来る。その上、あらゆる場所に設置する事が可能であり、ナインの歌声もこの、魔法陣を使った装置に歌を記録するなどの使い方をしている。
複雑ゆえに即興で使えないのは痛いが、その分メリットも多い魔法形態なのだ。
結局、ジャックが結界を解く事は無かった。ロキとティーチが結界を解かなければ、いずれ街を出て行こうとする商人達に気付かれてしまう。
外から入ろうとした者がいれば、後から何か聞かれるだろう。
とはいえ、その結界を利用しない手は無い。
今現在進行形で、ナインが民衆に向けて祭りの終了宣言を行っている。彼女の合図と同時に、派手に結界を解く演出を交える事となった。
『『結界解除魔法、完成率99%。待機状態へ移行します』』
真っ白な光の線で描かれた魔法陣は、ロキとティーチと共に動作を停止する。魔法陣完成の一歩手前で、光はその動きを止めた。
後は、合図を待つばかりである。
一方、特設ステージ上。
始まりよりも美しく、キラキラと輝く演出を加えられたナインの登場に、会場が沸いた。
『今日この夜をもって、龍祭りは終了いたします。この5日間、長いようで短いこの期間に、皆様の心躍るようなもてなしを出来ているか、不安でしたが、無事に終了を迎えられる事を喜ばしく思います。
演出に関するサプライズに、ご満足いただけた事を願うばかりです。
さて、最終日という事もあり、今宵は特別大きな花火をご用意しております。また、花火開始時点より、出店の全商品は一部を除いて30%割引とさせていただきます!
最後まで、ご存分にお楽しみくださいませ!』
ナインがマイクの傍で、指を鳴らした。
パッチン! と、会場中にその音が響き渡る。
すると、それまで街全体を覆っていたはずの結界が、中央上空から風船が割れるように消えていった。
加えて、その消える結界に合わせ、幾つもの花火が打ち上げられていく。
花火は最初の1つから始まり、徐々に大きく、美しく輝いた。
最後に大きな花火が1つ上がる。同時に、結界も完全に解けていった。
空には幾つもの月が浮かび、地球とは違う星が満天に瞬く。
そこに、結界解除後用の美しい光の花が咲き乱れ、人々は歓喜に震えた。
『現時刻をもって、龍祭りの終了とさせていただきます。大聖堂の鐘を鳴らしますので、スタッフは聞き逃しをなさいませんようお気を付けください。
10分前より、店舗は閉店を開始しております。また、この後は後夜祭となっておりますので、速やかに片付け、準備を済ませていただけますようお願い申し上げます。お客様に置かれましては、片付け等の邪魔をしないよう、ご配慮くださいませ』
そう告げて、ぺこりと頭を下げ、ナインは舞台袖へと降りた。
完璧なタイミングで結界解除をしてのけたロキとティーチへ、グッと拳を突き出して。
……こうして、楽しい楽しい後夜祭が始まる。
ゴミの一部をキャンプファイヤーへと変えて、夜中の0時まで踊り明かそうという企画だ。
後夜祭用に用意された、簡易店舗もある。軽食と飲み物のみの販売となってしまうが、後夜祭なので問題は無い。
祭りの後に行う祭りで、本番より派手な催しは必要無いのだ。
ナインはそこら中から聞こえる笑い声に耳を澄ませ、微笑んだ。
「みんな良い人だし、閉会の挨拶とか要らないと思うの。ユウトはどう思う?」
にっこりと笑って、ナインはユウトへ尋ねた。
笑顔はとてもかわいらしいのに、それはまったくもって中身の無いサボり発言である。時間が来れば閉会するのだから、宣言とか要らなくない? という事だ。
だがそうは問屋が許さない。
ユウトは、面倒くさがって笑顔でぐずるナインに近付き、耳元で囁く。
「ナイン、今回の祭りで、僅かだがアレが手に入ってな。打ち上げでは、例の物が、作れるぞ。最高の打ち上げには、最高の幕引きが必要じゃないか……?」
「……! がんばる! 完璧に終わらせてみせる!」
態度を一変させ、ナインはやる気に満ち溢れた表情を作り上げる。
心なしか瞳は輝き、肌がいつも以上に潤っていた。
「シュンさん、あれとか、れいのものって、何なのです?」
「たしか、トマトと、オムライスですよ。調理室でユウト自身が呟いていたので、間違い無いかと」
「……! ユウトさん! 僕にも、オムライス作れる?!」
「言われると思ったから、用意してある。まぁ、おかわり出来るほど多くは無いが」
俺も食べたいし、と小さく呟くと、ユウトはさっさと調理室へと向かってしまった。打ち上げ用の食事を大量に作らなければならない事もあり、厨房スタッフ共々大忙しである。
集まる種族的に肉多めのメニューとなりそうだが、ユウトのことだ。野菜は肉以上に使ってくるだろう。深夜の夜食という時点でアウトだが、女性への配慮を忘れないユウトである。
「うぅ、オムライス……久々に食べるよぅ」
「僕もオムライス大好きなのです! おかわり出来ないのは、残念なのです」
「私もだよ! でも、えへへ、ユウトが作ったオムライス、楽しみだなぁ。挨拶の練習、もう一度やっておこうかなぁ」
オムライスの姿を脳裏に浮かべるナイン。
いそいそと挨拶の内容が書かれた木の板を手に持ち、読み込んでいく。鼻歌が漏れ出している事に、果たして気付いているのだろうか。
この場面だけ切り取れば、ああ、オムライスがよほど楽しみなのだろう、と誰もが思う。
だが、前後のくだりを見ていた者は。
「無自覚は怖い、なのです?」
「よくお分かりですね、クロウ様」
種族と身分の垣根さえ越えて、友情を育んでいたとか。いないとか。
閑話休題。
後夜祭の閉会式は、とてもささやかに執り行われた。お祭り本番より派手にしちゃいけない、という理念が、何やら静かに行うものだと認識されたのだ。
というわけで、ナインは特に使う予定など無かった施設で、閉会式は行われた。
施設名は教会。どの神様を祀るかは特に決められていない。
ただ、いくつか神様の石像を乗せるための台は用意させており、多神教を祀る事は決められている。
ナインはエニシの像を、発注予定だったりする。
「今日この日、この時をもって、祭りは終幕と相成ります。我等は未熟ながらも、主のお導きにより祖国を得、成長をお約束いたしました。我等の成長の証をお受け取りくださいませ」
教会の祭壇に、ナインは足音を立てずに近寄り、ある物を置く。
それは、美しい宝石に金の細工が施された装飾品。
勇者に渡されるはず、らしい宝物達に埋もれていた内の1つで、鑑定すると「神の瞳」と呼ばれるものだということが分かったのだ。
本当に神様の瞳をもってきたわけではない。というか、それだったら怖くて使いたくない。
ロキ曰く。
『かつて、神がこの世界を見るために、人々へ渡したとされる神器です。一定量の魔力を溜め込むと、付近にいる最も信仰心厚い者が信じる神の元へ飛んで行き、心情を伝えるという物です』
「……私達にメリットはあるの?」
『最適解を検索中……ヒット。選ばれし者にのみ、神の恩恵が与えられる可能性があります。また、信じる神によって、恩恵を受けられる可能性は0%~100%変化します。そのため確率で表すのは不可能です。ご了承ください』
「「「……」」」
ロキにしてはひどく曖昧な回答だったのだが、一応神器らしいので、お祭りに使う事にしたのだ。
ちなみに、勇者の宝の中に神器があると言ったのも、ロキである。
そして奉納が終わると、神器はふっと姿を消した。
何事かと周囲がざわつくが、神器はすぐに戻ってくる。
溜め込んでいた魔力は空になり、神々しさはやや薄まっていた。
「主への報告は済みました。これにて、祭りは終了です」
「ナイン様がお通りになられます。道をお開けください」
丁寧な物言いをしているが、一部の者はシュンが連れてきた親衛隊的メンバーが力ずくで押しやっているのを、ナインは見逃さない。
押しのけられた人には微笑みを向けておく。
「……シュン」
「は。後程、しつ……訓練し直しますので、平にご容赦を」
「あまり厳しくしないでね? 死なない程度に」
「心得ております」
この会話を振り返ったナインは、後に、当時最も怖い会話だったと話した。
どちらも笑顔なのに、内容が……。
この会話が聞こえてしまった者も含め、ナイン達は夜、眠れなかったとか。
現実ではとっくの昔に終わっていますが、こちらもようやく夏祭り終了です。
次は一気に秋のお祭りを……と行きたい所ですが、数話前に出された世界会議について始めなきゃです。
予告。(次回じゃないよ!)
話の雰囲気的に、ハロウィンの話を入れたいので、季節イベント系の閑話は入れません! あしからず。




