008話 主観視点
サトキ side
「(いってぇ…)」
【暴走竜】のタックルと【雷針】による攻撃を食らったサトキだが、意識はあった。意識はあるのだが【雷針】を胸に食らっている為、身体が痺れて動けないで居た。
「(昔よそ見運転の自転車に跳ねられた位は痛かったけど…普通はそんなんじゃ済まないよな?)」
勿論、竜のタックルは当然として、【雷針】も普通はタダでは済まない。推定10億ボルトの電流があの針には凝縮されている。直撃すれば消し炭になるレベルだ。
サトキは遠目でラミットが必死に食い止めている【暴走竜】を見据える。
「(やっぱ今のままじゃどうにもならない…せめてもう少し使える魔法があれば…ん?)」
ふと視界の端に【ステータス】という文字を見つける。先程まではそんなものなかった筈だが、疑問に思いながらもステータス画面を開く。
「(ん?)」
−【ステータス】
【サトキ・カンバル】種族 ハイヒューマン
成長上限 100/100
HP2139/5000 MP8900+10000/10000+10000
基礎魔法:火1(3) /10 水1(3) /10 風1(3)/10 土1 (3)雷1(3)/10
特異魔法:結界魔法5(6)/10
スキル:苦痛耐性(発動中) 毒耐性 即死無効
固有スキル:【反比例】発動中
→HPが少なくなればなるほどMP、基本魔法、特異魔法の値を一時的にブーストする。最大ブースト値は500%(状況変動)、ブースト開始は総HPの50%以下。
「(うわっ…結構HP持ってかれてるじゃん!でも、固有スキルが発動してる!)」
ステータス画面を開くとそこには【反比例】の横に発動中と表示があり、基本魔法と特異魔法の値が上昇していた。それを確認した途端に、サトキの頭の中には結界魔法の運用方法がいくつか浮かんできた。これも固有スキルのお陰か?と思いながらも、すぐ様魔法の構成を組み立てる。ラミット達がいつまで耐えきれるかわからない為だ。
「(まず俺の身体能力が低過ぎる…身体を守る甲冑…だめだイメージが箱型で出来てるから流用が出来ない!まてよ?立方体や六面体、十六面体は突き詰めれば箱型だよな…そうだ!…それに駆動を風魔法で補助すれば…値3でもなんとか…衝撃を外に流せる様に…これだ!)」
そこでイメージし出来たのが魔法名【駆動甲冑】。相対位置を固定せず、皮膚から1センチの所に展開する結界魔法だ。魔力使用値1000、耐風、耐圧、耐火、耐刃、耐水、耐電で、この結界が受けるダメージは全て地面と面している足の部分から逃げる様になっている。更に突きや蹴りなどの補助として、作用点の反対側で風魔法を高出力で噴射する様に組み込んだ(正確には風魔法を覚えてない為、魔力を風に変化させたもの)。
「(次に攻撃…こんな短時間じゃイメージが湧かん!もう【薄羽刀】を流用すればいいや!なんかもう良く切れる様に刀身に当たる所を火魔法…が分からんから、単に魔力を熱に変えて付与!柄を見つける余裕なんてないから…これも位置固定してないただの結界で代用…あぁ構成が変わったから新しい魔法と同じ扱いになったのか!なら【薄羽妖刀】で!)」
と、こんなやっつけ仕事感で出来たのが竜の硬質な皮膚をも軽々と斬り落とす結界魔法【薄羽妖刀】…一応【薄羽刀】の上位魔法にあたる。魔力使用値は1000、こちらも刀身に当たる部分に魔力を熱に変換した火魔法を付与、その熱摂取1万度。ただし【薄羽刀】よりは燃費がかなり悪い。
「(あとは…竜の癖にチョロチョロ動くから…アニメみたいに小さな結界で動きを阻害する?…いや…いちいち視界に入らないと難しい…時限式…そうだ!前にミランダが相対位置を固定してない結界は邪魔とか言ってたが…それはこの逆だ!)」
そして【浮遊する牢獄】…拘束に重きを置いた結界魔法だ。
10×10cmの正方形の【ボックス】。それを相対位置の固定を解除、そのかわり、魔力を帯びた物(結界魔法を除き無機有機関わらず)が触れた瞬間から1秒後に相対位置を固定するという、所謂時限式の結界魔法だ。更に一つ一つの結界の浮遊領域は15×15cmの設定領域内のみ。
「(とりあえず時間がないしこれで行こう!痺れも取れた、よし。)」
サトキはゆっくりと立ち上がる。同時にガラガラと後ろの岩が崩れ始めたが、どんな衝撃で叩き付けられたんだよ…などと気にしてる暇はなかった。
「おー、いててて…犬じゃないんだからそんなにタックルされても嬉しくないっての。絶対目にもの見せてやる。」
さも今気がついたと言わんばかりのセリフを吐きながらゆっくりと歩くサトキ。ラミット達に「え、生きてたの?」みたいな言葉を掛けられたが、失礼なと思いながらも適当に返す。
「(まずは…)あー、そこのトカゲ。お前のお陰で奇しくも条件が揃ったみたいでな。お礼をしてやろう喜べ!」
啖呵を切って【暴走竜】の意識を此方へと向ける。これ以上ラミット達に負担をかけない為だ。
「【駆動甲冑】…ふん!」
背中からジェット噴射の様に風を作り推進力へと変えた途端、凄まじいGがかかるが耐圧で制御、そのまま【暴走竜】に飛び込みパンチもありだが、それでは締まりが悪いため目の前で風を逆噴射して急停止する。周りからは瞬間移動の様に映っただろう。そして同様に肘から逆噴射で推進力を付加したアッパー。
「(しゃ!このまま首を落とす!)」
頭が仰け反り、首という弱点を晒した【暴走竜】にすかさず追撃を加えようとするサトキ。
「【薄羽妖刀】…(喰らえっ!って届かない⁉︎)…硬っ⁉︎ちっ、浅いか?」
しかしここで誤算があった。単純にジャンプしただけでは【暴走竜】の首を掠ることしか出来なかったのだ。辛うじて手傷を負わせることは出来たのだが、反撃の機会を与えてしまう。
【暴走竜】の前足が持ち上がり、そのままサトキを横薙ぎに襲う。咄嗟の判断でその前足に手を出して、身体の反対で風を最大出力で逆噴射。受けた衝撃は結界を通して地面は流す…と、サトキは冷や汗が噴き出るのがわかった。
「(あ…危ねぇ!!!!!)」
まさかの身長が足りないばかりに危うく吹き飛ばされる所だった。生前の身長で物事を図ったのが原因である。今は女子中学一年生相当の身長しかないのだ、見栄を張らずに物事をキチンと見ないと痛い目を見てしまう。一応、それっぽい事を言って実際には届かなかっただけ、という事実は隠しておく。
しかし今の短い攻防で何かを感じ取ったのか、【暴走竜】は踵を返し逃げる様に走って行くではないか。これは流石のサトキも予想外の一言に尽きた。
「(なろ!ここにきて逃げるとか無しだろ!)逃げんなよ、まだお礼は済んでねぇぞ!」
あんな災厄とも言える魔獣がここまで来て逃げられると後々面倒なのはサトキでも分かる。だが、サトキにはもう一つ新しい魔法があった。備えあれば憂い無しだ。
「(【浮遊する牢獄】!)」
【暴走竜】の目の前に展開、予想通り何の躊躇もなく突き抜けて行こうとする。そして目論見通り、時限式にて位置固定された【時限式:ボックス】は【暴走竜】の自由を完全に奪った。因みにこの魔法の魔力使用値は3000である。強度は【時限式:ボックス】一つあたり3000に由来、発言する数に上限はないものの、増やせば増やす程一つあたりの体積が小さくなる。たしかに3000も消費する価値はあるものの、実に燃費の悪い魔法である。
「(同じ轍は踏まねぇ!今度は上からだ!念には念で刃の熱量も最大に!)」
先程の失敗を踏まえて、【駆動甲冑】の補助を借りて【暴走竜】の頭の上へ跳躍。再び【薄羽妖刀】を発現し、一思いに振り下ろす。が、切れ味が良すぎてほぼ抵抗なく竜の首と胴がお別れをすると少しサトキは怖くなった。
「(え、なにこの妖刀…怖いんですけど。)」
自分で作っておいて何だが、斬れすぎて怖い…という。仮に【駆動甲冑】に【薄羽妖刀】で斬りつけたらどうなるのか?という疑問が出るが矛盾のパラドクスに陥りそうなのでやめておく。
「は?竜って倒せば【竜殺し】って呼ばれんの?でも複数パーティー討伐が竜種は推奨されたんだろ?別に倒せないわけじゃないし、なら今頃【竜殺し】だらけじゃないか?」
どうやらソロで竜を倒せば【竜殺し】という称号を得る事を知ったサトキ。内心では小躍りしていた。
「(え!なにそのかっこいい二つ名、いや称号か?いやどっちでもいいけど、まじかっけえ!)」
半ニート時代、あらゆるアニメや漫画を網羅していたサトキは、当然のごとく厨二病を拗らせていた。が、それは冷たい目線の対象と分かっていたので周りにはノーマルな自分を装っていたのだ。そんな癖で、ここでも一応の体裁を保とうと…
「いや、俺として…はそんな厨二チック、なのは…」
「…ごめんだ。」と言おうとした時、急激な睡魔に襲われる。それは経験したこともない様な絶対に抗う事を許されないものだった。無理をした反動か、それともまた別の要因か。全てを言い終わる前にサトキの意識は深い闇の底へ落ちていったのだった。
はい、どうも作者です。
前回の話では結構無口気味にサトキが【暴走竜】を屠るシーンを書きましたが。
今回はその心の声を中心に書いてみました 笑
内心ビビりまくりでしたね。
こんなサトキですが今後ともよろしくお願いします。