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【Web版】Let's ISEKAI shout  作者: 並木道 礫
18/49

018話 還りなさい…


「(腕の痛みは…もう麻痺ってるな。)」


【死箱】を正中線に構えて魔物を見据えるサトキ。腕の痛みはスキルが効いたのか、それとも単に麻痺しているのか引いていた。


「(残魔力でどこまでいけるか…)」


最後のナイフを逆手に構えて、一挙一動を逃さまいと見据えるブライト。


「(はぁ…今日は昼寝を決め込む予定だったのに…下手すれば永眠しそうな状況っすねぇ…)」


真剣な顔をしながら馬鹿なことを考えているミランダ。


思う事は各人それぞれだが、共通している認識は、目の前の魔物…重き死霊番イレギュラーは危険だという事。


見た目は聖母を思わせる容姿。肌が白すぎる事と生気がない事を除けば人間と遜色ない魔物で、本来であれば戦闘能力は皆無。アンデット、死霊系の魔物を使役する謂わばネクロマンサー的な存在だ。動きも極めて鈍重で、基本的にはその場から動かない、それ故に重き死霊番と呼ばれていた。


だが目の前の重き死霊番イレギュラーは違う。三人が知覚できない程のスピードで動き、かつ、サトキの防御力を無視して腕をもぎ取った。更にはガラスの様な半透明の粒子を操作して、ブライトとミランダの攻撃まで防いだのだ。


最早それは新種の魔物と言って相違ないが、新種の魔物だとしてもあまりにも多才すぎるし、特異魔法に酷似した能力はどう考えても普通の魔物のものではない。


言葉は最早不要…三人は一斉に動いた。知覚できないスピードで動く重き死霊番イレギュラーに対して、極力隙を見せない為行動の指示などはない。それぞれ最善と思われる手段を各々繰り出す。


「はぁっ!」


ブライトは残り一本のナイフに風・火・雷の三属性を用い、魔法憑依剣を発動させた。銘は無い、何故ならそれは本来の使用用途ではないから。



本来魔法憑依剣は二属性を掛け合わせて行う魔法技術。それ以上ともなると魔法同士が相克を起こし、互いの効果を邪魔しあってうまく発動しなくなる。発動出来ないわけではないが、ブライト自身もまだそれは会得しておらず、今回の件では使わない予定だったのだ。しかし現状そんな悠長な事を言っている場合ではなくなってしまった。


「しっ!」


逆手のまま振り上げ、重き死霊番イレギュラーに斬りかかる。ギャリギャリッッと不快な鍔迫り音が聞こえるが、それは魔法憑依剣とあの半透明の粒子の塊からだ。まるで重き死霊番イレギュラーを守る盾の様に何処からともなく現れる粒子。コンマ数秒の拮抗は突如崩れた。


「くっ!?」


ブライトの魔法憑依剣が相克を起こし剰え、術式不良により定義破綻。ただのナイフへと成り下がる。そこへ重き死霊番の粒子が形を変え、ブライトに襲いかかった。


バキッと重音が聞こえるが、それはブライトを襲った粒子が、ミランダの障壁に遮られた後だ。その隙にブライトは重き死霊番から距離をとるが、反対にミランダは顔をしかめた。


「(瞬時に展開した障壁とはいえ、それに一撃でヒビを入れるっすか…)」


だがそんな事を気にしている暇はない。ミランダは重き死霊番と粒子を四面障壁で瞬時に囲む。そのタイミングを見計らって、【駆動甲冑】を発動させたサトキが重き死霊番の後ろに回り込み、魔力を2000ほど注ぎ込んだ【死箱】を振り下ろす。威力に換算して上級上位魔法数十発分の魔力を浴びた【死箱】が、ミランダの障壁ごと重き死霊番イレギュラーを叩き斬ろうとする…しかしその刀身が重き死霊番を両断する事はなかった。


「(硬い!…いや、違う。これはあの粒子か⁉︎)」


重き死霊番の薄皮一枚のところ、そこに薄く粒子が膜を張る様に出現していた。どれだけ力を込めようが、刃がそれ以上進む事はない。幾ら魔法耐性に特化した魔物といえど、魔力値2000の刃を防ぎきる。それは有り得ない事だった。


「…かtjた…たjam∝!」


理解できない言語で声を張り上げた重き死霊番イレギュラーは、首をぐるりと180度反転させ、サトキへと顔を向けた。


「くっ!」


端的に言えばホラーチック過ぎる光景。魔物とは言えその顔立ちは整っている。しかし首を180度回転させ、ニタァと笑う姿は最早ホラー以外の何ものでもない。背筋に冷たいものが伝う感覚…サトキが急いでその場を飛び退くと、その軌道に粒子が剣山の様に隆起し針山を形成した。


「(魔法どころか物理攻撃まで防ぐのかよ。)」


心の中で悪態をついたサトキだが、愚痴ってばかりはいられない。その間にもブライトとミランダの猛攻は続いていたが、どれも届くに至っていない。


魔法は粒子で防がれ、物理も粒子で防がれ、隙あらば形態変化させた粒子が襲ってくる。完全に魔物が出来る範疇を超えていた。打つ策がない。それは先程サトキの【死箱】が防がれた時点で分かってしまった。


魔力値2000…それは10人がかりでの大規模な魔法に相当する量。そして魔力を込めれば込めるほどその物理能力の上がる【死箱】。つまりこれを防がれた時点で、サトキ達が今打てる最大最高火力を防がれたと同義なのだ。


「(これは…ヤバイな。)」

「(同感っすね。)」

「(サトキの魔法が効かないという事は、この場の誰もがもう太刀打ち出来ないということか。)」



激しく重き死霊番イレギュラー攻め立てながらも、三人はアイコンタクトで会話する。これは最早聖魔の魔法具が必要である…しかしそれが届く気配はなく、この状況を打開できる様な策もない。


万事休す


その言葉が三人の頭をよぎった。むざむざやられるつもりは毛頭ないものの、手の打ちようがない。


「(このままじゃ、皆死ぬな…)」


激しい攻防の中、サトキは独白する。捌き切れなかった粒子の槍が右脇腹を浅く抉った。


「(残HPは…980か。あいつの攻撃、一撃で200も持っていきやがって。普通の奴が喰らったら即死だぞ。)」


頭の中でステータスを表示するという器用な方法で現状を確認。


「(掠ってこれなら直撃したら俺でも即死だな。)」


ミランダの障壁が粒子による波状攻撃で消し飛ばされたが、ブライトがミランダを抱え、大きく跳躍することにより二人とも直撃は避けた。


「(即死…即死か。そういやまだ使ってないスキルが一つだけあったな。)」



即死無効スキル。そのままの意味で即死を回避するスキルだが、使いたいと思えないスキルだった。即死を回避するという事は、即死級の攻撃を喰らっても生き残る…つまり、サトキの考えが正しければHP1の状態になるという事だ。メリットとしては反比例アンチアップが完全な形での発動。デメリットとしてはもし、一撃でも喰らえばもう後はないという事。


かなり危険な賭けになるし、仮にそれでも重き死霊番イレギュラーに効果がなかった場合、残された手立てはなく完全に詰みである。


「(だが、周りにもまだアンデットがいる中でこのスキルの為に攻撃を喰らうのは分が悪い。)」


今はサトキ達以外の冒険者がアンデット化した魔物に当たってくれているが、それでも流れ弾はいつ来るかわからない。背後を気にしながら重き死霊番と戦うとなると、流石のサトキもそこまでの余裕はなかった。


「…がjt∂ら…かなj€〆8…たjm!?」


「ん?なんすかね?」

「どうしたんだ?」



突然、重き死霊番の動きも粒子の動きも緩慢になった。更にそれまで表情を崩さなかった重き死霊番が目を見開きながら叫んでいた。


「…かjtm!!」


重き死霊番が全ての粒子を集め、自分を覆う様に展開した直後…この場の全ての者を光が貫く。


「なんだこれは!」

「これは…」

「光?攻撃魔法じゃないよな?」


攻撃性はない。逆に何か暖かなその光は何度も何度も波状的に、広がる様に通過して行く。


「もしかして、これは聖魔魔法かな?」

「聖魔って、あの死霊対策のやつか?」


ブライトがその光にいち早く気付いた。だが同時に不思議そうな顔をする。


「恐らくは。でも魔法具ではこんな広範囲に効果を及ぼせない筈なんだけどね。」


あたりを見渡すとアンデット化した魔法達が次々に塵と化し、その場に倒れて行く姿が見られる。冒険者達も唖然とした表情だ。光が漸くおさまるとアンデット化した魔物は総じて塵と化し、残るは殻にこもった様に動かない重き死霊番のみとなっていた。


「これは…まさか【反魂】?…っ!アロンっすか⁉︎」


「当たりよ?」


「アロン?」

「アロンくん?」

「アロン…」


背後から声をかけられた。そこには外套を羽織り、笑顔で歩いて来る受付嬢のアロンの姿。三者三様アロンの名を呼ぶが、ミランダだけはそのニュアンスが違っていた。


「っ!アロン…どういうつもりっすか。」


「おっ、おい!ミランダ!」


ミランダは突如、憤怒の表情でアロンの胸倉を掴み、睨むつけた。対するアロンは困った様な、諦めた様な笑み。サトキが慌てて制止しようとするがミランダは御構い無しに続ける。


「魔法具で事足りた筈っす…何故自分が出てきたんすか!」

「…街の中心部にも異常発生スタンビートが起きました。」


「「「なっ!」」」


「こちらの報告から総合的に判断し、街に発生した魔物たちも混合型の可能性が極めて高い為、そちらに聖魔の魔法具を全て回し、こちらには私が赴く事にした次第です。」


あくまで事務的に経緯を話すアロン。人為的災害の可能性はあえて説明しない。


「でもその身体じゃ…」

「ミランダ。これが私の存在意義なの。」

「っ!」

「だからお願い、を。」

「…わかったっす…いえ、畏まりました、アローナ様・・・・・。」


話についていく事が出来ないサトキとブライト。二人の主語を抜いた会話では要領を得ない。アロンが右手をミランダに差し出す。その右手を手に取ったミランダは、膝をつき言葉を紡ぐ。


「『我 鍵にして剣 主 全にして一 其 万象の対…解錠』」


紡がれた言葉に反応する様に、アロンの右手に光が集まり、不思議な紋様が現れる。その紋様をアロンは懐かしそうに、ミランダは忌々しそうに見ていた。


「ありがとう、ミランダ。…では状況を!」

「…はっ!アローナ様の【反魂】により、一帯のアンデットは塵化、残るは目の前の重き死霊番イレギュラーのみとなります。」


いつもと違うミランダの口調。その顔もいつもの惰性めいた表情はしておらず、今ならミランダが騎士と言われても驚かない程の変貌ぶりだった。


「そう、私の【反魂】でもダメなのね。ミランダ、素直に答えて構いません。【天衣昇華】を使ったとして、還せる確率は?」

「…奴が万全の状態であれば、五割を切るかと。」

「では、万全でない場合は?」

「アローナ様の【天衣昇華】であれば、確実に。」

「わかりました。カンバルさん、ブライト王子お願いがあります。私と彼女の素性、時が来たとして素直にお話し致します。しかし今は何も聞かず、協力していただけないでしょうか?」


サトキとブライトは即答する。


「この国の一大事とも言えるんだ、勿論さ。」

「まぁ乗りかかった船だし…。」


「感謝いたします。ではカンバルさん、今現在どれだけ・・・・力を出せますか?」

「…瞬間火力なら、そうだな山を二、三吹き飛ばせるくらいだな。」

「ふふっ。充分です。ブライト王子、【五社封陣】を組む事は可能ですか?」

「可能だよ。ただあれ相手に対して組むとなると、相当骨が折れるね。」

「ミランダを補佐に付けます。それならば陣を組み上げるのに集中できる筈です。」

「ミランダ、頼みました。」

「はっ。」


「…やvmt…g∂∀な!!!!!」


「おっと。」

「来ましたね。」


そしてそこで漸く、殻に閉じこもっていた重き死霊番が雄叫びを上げながら外へと出てくる。先程とは打って変わって、気が狂ったような敵意をアロンへと向ける重き死霊番。その前へミランダがずいっと出る。


「いち早くアローナ様を自分の天敵だと悟ったか。だが、アローナ様に指一本触れさせん。」


「ガッjt!!!!!」


予備動作なしのトップスピード。重き死霊番がミランダへと攻撃を仕掛ける。右手を突き立てる…ミランダの障壁が現れ、防がれ、障壁が消える。ならばと粒子を槍に変え、二方面から飛ばす…真横から障壁が飛んできて軌道を逸らされる。


「ふっ!」


カウンター気味に超高速で動く重き死霊番の胸に、正拳突きをお見舞いするミランダ。粒子の自動防御が間に合わない速さで潜り込んだミランダは、反動で身体が動かないよう障壁で固定し、威力を余す事なく重き死霊番へと返す。


「…ぎ!!!!!」


反動も含めた全ての力を返された重き死霊番、木を何本も折ながら後方へ飛んで行く。勢いは衰える事なく次々と木を折りながら進むきイレギュラー。その先にはサトキが待ち構えていた。


サトキのステータスの現在のHPは980、総量から考えるならかなり危ない領域まで到達している。だが反比例アンチアップの恩恵は、これまでに類を見ない程になっていた。


「いらっしゃいませ!本日の前菜、五属性のカラフルサラダ~特異魔法風味のフルーツを添えて〜でございます!!!!!」


サトキの目の前には五つの【ボックス】。その各それぞれには魔法ではなく、各属性の魔力を限界まで詰め込んである。いわば爆弾のようなもの。アロンからの指示は一つ、「とにかく高火力であの魔物の粒子や体力を消耗させて下さい」だった。サトキは確かに化け物のような魔力量であるが、基本魔法は全く使う事…というより知らない為、こうして力技に出たのだ。


自分の方へ飛んでくる重き死霊番に向け、五つの【ボックス】を飛ばす。当然、重き死霊番の粒子が【ボックス】を攻撃と認識し迎撃するわけだが、それはいわばパンパンにヘリウムガスを詰め込んだ風船。それにガスバーナー(粒子)を近づければどうなるか。



「なtj⁉︎…!!!!!!!!!!!!!!!」



当然、大爆発である。重き死霊番は爆風により今度は逆方向に吹き飛ばされて行く。五属性の魔力爆発は粒子の防御で防ぎきった為、傷らしい傷は負ってないが、同時に身を守るものもない。


またもや木々を吹き飛ばしながら飛んで行く重き死霊番。バキバキと豪快に木を薙ぎ倒しながら飛んでいるのにも関わらず、そのスピードは衰えない。


「お!来たね。『火の籠 水の檻 風の束縛 土の牢獄 雷の門番 五社慧眼の神人よ……』」


「…がjm+…なn!」


ブライトを視界に捉えた重き死霊番は何かを焦ったかのように叫ぶと、再び形成した粒子の武器をブライトに向け飛ばす。


ブライトは詠唱を止めない。己の仕事のみに集中する。その攻撃は、ミランダが責任を持って止めるから…アロンは確かにそう言ったならば疑うのは無粋というものだ。


「【四重四面障壁】!」


ぱっと見は普通の四面障壁。しかしその実、薄く強固な障壁が一面あたり四重にも重ね合わさった物理特化障壁だ。粒子による攻撃は、ブライトを囲うように展開されたこの障壁によって全てが防がれる。先程まで容易にヒビの入っていた障壁とは違い、傷一つつかないミランダの四重四面障壁。


「『…汝の封じを 世に賜る』出来たよ…【五社封陣】!」


【五社封陣】…封印系の魔法の中で、最高難易度とされる一種の複合魔法。アロンは気軽に出来るか?と問い、ブライトは出来ると軽く答えたが、その難易度は極めて高い。【同時思考】により五属性全ての魔力を別々に体内で練り上げ、【並列魔法】によりそれぞれを待機状態で体外に停留させる。それを同時に【招来詠唱】という特殊な詠唱により発動させる封印魔法で、効果は簡単。対象を『3秒間完全無害化』するもの。


3秒の間どの様な魔法、スキル、固有スキルも無害化する。現代の封印魔法で最高峰の部類だ。完成さえしてしまえば欠点らしい欠点が見当たらない。


「…かjm…なw!?」


突如として粒子が霧散し、驚愕の声を上げる重き死霊番。その言葉は理解できないものだが、そう取れる程の動揺が見て取れた。


「カンバルさん、ブライト王子…流石ですね。」


アロンはニコリと微笑むと二人に賞賛を送った。だが、その温和な雰囲気とは対象的に、アロンの周りには収まりきれないほどの魔力が奔流し、あまりの濃度に可視化されていた。


「カンバルさんが前菜・・との事でしたので、私はメインディシュを差し上げますね?」


スゥっと微笑んでいたアロンの瞼が細められ、その先には重き死霊番がアロンへ向けて走っていた。しかし元のスピードには全く及ばない為、やはりあの異常な速度も魔法的もしくはスキル的な力と推測される。


「還りなさい…【天衣昇華】」


それまで辺りを埋め尽くしていたアロンの可視化された魔力。それが一気に重き死霊番へと注がれる様に押し寄せた。光の粒子光となって重き死霊番を包むアロンの魔力は、さながら天使の纏う天衣そのもの。だが、神秘的な光景とは裏腹に、重き死霊番の表情は苦痛そのものだった。


「……ッ…ッ…!!!!!」


もはや叫ぶ事さえ出来ないほどその顔を苦悶の表情に変える。そして最後の粒子光が重き死霊番へと吸い込まれた時、その身体は塵の様に朽ちていった。勿論、この魔法は人体…生きている人間や亜人には全く影響はない。


「…安らかに…っ!」

「アローナ様!?」

「大丈夫、少し疲れただけだから。」

「…畏まりました。」


突如、アロンの身体が崩れ落ちる。急いで駆け寄り支えたミランダが、心配そうな声で問いかけた。


「問題…無いのですね?」

「えぇ、まだ・・問題ないわ。」


「まぁ込み入った話もこの場で聞きたいところではあるけど、まずはありがとう。アロンくんのお陰で助かった。」

「いえ、ブライト王子。私は自分が出来ることをしたまでです。」

「それでも君がこうしてきてくれたお陰で、あのイレギュラーを倒せたんだ。ミランダの豹変には驚いたけど、訳ありなんだろう?ここでは追及しないし、父にもまだ報告はしない。」

「感謝します。」

「…助かるっす。」


いつのまにかいつもの口調、いつもの表情に戻ったミランダとアロンが感謝の意を述べた。


「いてて、何はともあれこっちは片付いたんだ。街の方にも異常発生スタンビートが発生してるならそっちにも向かわないといけないんじゃないか?というか俺の腕知らないか?」


草むらを掻き分けてひょっこりと顔を出したサトキ。五属性の魔力爆発を自身にも食らっていたサトキの袴は、いくら各耐性が付いていようとも流石にボロボロの状態だった。


「というか、サトキはよく片腕を失っても平気でいられるよね。血は止まっている様だけど激痛のはずだろう。あと、君が男だとしてもその姿は少々目の毒だ。何か羽織ったほうがいい。」


確かに所々破けに破け、かなり際どい格好となっているが、サトキは男だ。全く気にした様子はなかった。


「サトキっちの腕ならさっき回収しといたっす。ほいっ。」

「人の腕を投げるな!というかミランダ、お前口調も態度も元に戻ってるぞ。」

「まあ、こっちが素っすからねぇ。」


「何はともあれだ。まずはこちら側の被害状況と、それから街の方へ向かう人員を、早急に再編成しなければならないね。」

「ブライト王子。それならば問題ないと思われます。」

「…どういう意味だい?」

「恐らくですが、ギルド長が要請した近隣ギルドの冒険者たちが到着したと文雷鳥で連絡がありました。ギルド長も含めれば、そうそう問題は起きないと思います。」

「そうか、向こうが問題ないなら構わないよ。」


どさっとブライトがその場に座り込み、深いため息を吐く。サトキ、ミランダもそれにつられるかの様に座り込み同じく息を吐いた。


「はぁ…ランク上がった途端に異常発生、そして腕は捥ぎ取られるとか、俺…まだ普通の討伐依頼一回も受けたことないんだけど。」

「最初に受けたじゃないっすか、突進猪ラッシュボアのやつ。」

「あれは動物だろ…何はともあれ…しばらくは休みたいよ…」



それはフラグというものだと気づいたのは、もう少し先のサトキであった。



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