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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

死神

作者: 湖城マコト
掲載日:2018/02/02

 自室の窓から路上を覗いてみると、死神と目が合った。

 死神というのは文字通りの死神だ。

 黒いフードを目深に被った髑髏どくろつら

 大勢の人が思い浮かべるであろう死神像を体現したような存在が、ジッと僕の方を凝視している。


 初めて死神の姿が見えたのは一カ月前。出先で倒れて病院へと運ばれ、そのまま入院した時のことだ。夜中にふと目が覚め、病院に隣接する公園を何となく見下ろした際、僕は死神と目が合ってしまった。最初は夢だと思っていたけど、その後も何度か、夜中に公園から病室を凝視している死神の姿を目にする機会があった。


 極めつけは入院から一週間が経った頃の出来事。

 僕と同じ病室に入院していた高齢の男性の容体が急変し、そのまま亡くなったのだ。

 

 その日を境に死神の姿を目撃することはなくなった。

 亡くなった男性には申し訳ないけど、僕は正直ホッとしていた。

 死神のターゲットは僕ではなく、亡くなった男性の方だったのだと理解したからだ。

 死神が見ていたのは僕ではなく、入院していた病室そのものだったと考えれば、こちら側を見ていたことにも納得がいく。


 その後、僕は順調に回復し、退院の日取りも決まった。

 退院直前には、夜中に見えた死神の存在など記憶の片隅へと追いやられていた。


 一週間前には無事に退院し、こうして自宅へと帰って来ることが出来た。


 そこまでは良かったのだが……。


「……どうしてだ? 僕は退院したんだぞ」


 自宅へ戻ったというのに、三日ほど前から、また死神の姿が見えるようになってしまった。

 僕の病気は幸いなことに命に関わる程のものではなかったし、経過も良好で日常生活には何の問題もない。


 少なくとも、病気で今すぐ命を落すようなことはないはずだ。


 なのに、どうして死神は病院から僕についてきた?

 同室の高齢男性が息を引き取ったことで、役目を終えたのではなかったのか?


「……幻覚だ。そうに決まっている」


 今更ながら死神の存在なんて非科学的だ。

 突然の入院や、同室の患者の死を受けてナイーブになっていたのかもしれない。

 全ては夢か幻。

 そう思い込むことにした。



 

 何事もないまま、二週間が経過していた。

 最近は死神の姿も見えなくなったし、安寧が訪れたのだと思っていたのだけど……。


「お気の毒ですが、あなたは命は残り僅かです」


 コンビニ帰りに夜道を歩いていると、突然、黒いスーツと黒いネクタイを着用したサラリーマン風の男性に声をかけられた。髪形は七三分けで黒縁の眼鏡を着用。肌は色白で、服装と相まって全体的にモノクロな印象を受ける。


「な、何ですかあなたは?」


 あまりにも唐突かつ縁起でもない言葉に、僕は眉を顰めて後退る。


「申し遅れました。私は死神です。死期の近い者の前に現れることが、私の仕事でしてね」

「し、死神?」


 死神の幻覚が見えなくなったと思ったら、今度は死神を自称する異常者の登場だ。勘弁してほしい。


「繰り返しになりますが、あなたの命は残り僅かです。残念ですが、この運命は変えようがありません」

「……死神ってのは、黒いフードを被った骸骨と相場決まっている。あんたはどう見たって普通の人間だよ」

「イメージと異なり申し訳ありませんが、私がそうであるように、死神の姿というのは普通の人間と大差ありません」

「……付き合ってられないな」


 異常者に付き合っていても時間の無駄だと判断し、僕は足早にその場を後にすることにしたが、


「そろそろ時間ですね」

「えっ?」


 スーツ姿の男の意味深な発言に足を止めた瞬間、


「うあっ!」


 突然、背中に激痛が走った。

 何事かと思い、背中に手を当ててみると、


「……血?」


 痛みにふら付き、僕はその場に膝をつく。

 顔を上げると、血の滴るナイフを握った男が、僕の正面へと回り込んでいた。

 黒いフードを目深に被った髑髏のつら。その姿は、僕が何度も目にしてきたあの死神だ。


「……死神」

「死神は私です。そちらのフードの方はただの人間ですよ」


 淡々とそう答えたのは、スーツ姿の男だった。

 ナイフを持った男は、真後ろにいるスーツ姿の男の言葉に何の反応も示さない。どうやらスーツ姿の男は僕にしか見えていないようだ。


 訳が分からない……僕が死神だと思っていたフードを被った髑髏は人間で、スーツの男の方が本物の死神?


 スーツ姿の男の言葉を裏付けるかのように、ナイフを持った男は目深に被っていたフードを外した。髑髏の面の正体は精巧に作りこまれたマスクだったらしい。隙間から頭髪や地肌が覗いている。


 ナイフの男は死神ではない。

 死神の仮装をした、ただの人間だ。


「くどいようですが、死神の姿というのは普通の人間と大差ありません。髑髏だの黒衣だの、人間のイメージ通りの死神がいるとすれば、それは死神に憧れただけの、ただの異常者ですよ」

「待っ――」


 黒いスーツの死神がその場を立ち去ると同時に、髑髏のマスクを被った男が、僕目掛けてナイフを振り下ろした――


 〇〇〇


『一昨日、〇〇市の住宅街で発生した殺人事件の続報です。逮捕された男は、逮捕時と同じ髑髏のマスクに黒いローブという、死神を思わせる出で立ちで深夜の〇〇病院近くへと出没し、入院患者を驚かせるという悪戯を繰り返していたことが新たに判明しました。被害者の男性も同病院へと入院していた時期があり、警察は男が計画的に男性を狙っていたものとみて調べを進めています。男は『驚かせるだけではつまらない。やはり死神は自らの手で命を奪わなくてはいけいない』などと供述しており――』




 了

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