第一章の8ーコーネリアを助けに
第一章 向こうの世界へ
コーネリアを助けに!
かけるは皆を起こして寝起き早々ではあるが、先程カリーナとの話をした。
そして「早速、僕達はコーネリア姫を助けに行こう!」と力強く切り出した。
「この世界での僕らの役割は、全てそこから始まるんじゃないかと思うんだ」と付け加えた。かけるは皆の反応を待った。皆が賛成してくれるものとばかり思っていて、すぐにでも準備をして出かけられると思っていたのだ。ところが皆の反応は冷たかった。
「話は分かったけどさぁ、俺達がわざわざそんなことしないといけない理由なんてないだろう!お人好しにも程があるぜ!かける!」と暫しの間の後、俊一が最初に切り出した。
「俺達に相談もしないで決めてしまうのか?いつからお前がリーダーになったんだ?」とキムが言った。
「そんな面倒なことに巻き込まれてないで、さっさとこの世界から帰ることを考えようぜ!」とホルヘが言った。
加奈も「戦争に巻き込まれるのは嫌よ!避けるべきだわ!」と言った。
キャサリンも「もうちょっと冷静に考えた方がいいんじゃない!」と言った。
美樹でさえも「幾ら、かけるの考えでも、私もちょっと保留だわ!」と言った。
要するにかけるに同意して一緒にコーネリア姫を助けに行こうという者は一人もいなくて、皆反対しているということだ。
かけるは慌てた。皆、賛成してくれるとばかり思い込んでいただけに皆の反応にショックを受けた。
「でも僕達がここに来た意味を考えてくれ!確かに先に一人で決めてしまってから、皆に相談したのは悪いと思うけど、僕達はこの世界での期待に答え、責任を果たさないと、僕らの世界に帰ることも出来ないんだよ。自分達のことばかり考えていないで、この世界の人たちのことも考えようよ!」かけるは話しながら、自分が興奮して顔が火照るのを感じた。
「でもね、かける!ここはあたし達の世界じゃないでしょう。だからこそ、この世界に干渉してはいけないんじゃないのかしら?出過ぎた真似してこの世界を変えてしまうことはあたし達には許されてないと思うのよ」と美樹が、かけるに子供を諭す様に言った。
「確かにそうかも知れない。だけど、僕には僕達を必要としてくれている人達の期待を裏切れないよ。考えても見て欲しいんだ。僕達はこの世界では人間を超えた能力が備わっている。それは、一体何のためなの?この世界では超能力と呼べる飛びぬけた能力がある。それは一体何のため?僕達が望む望まないに限らず、超能力を持っている以上、僕達にはこの世界とは無関係ではない。力を持つ者は、この世界に対して責任があると思うんだ!」とかけるは熱弁した。
「考えすぎだよ、かける!俺達は能力を望んでいないし勝手に備わっただけのことで、その能力を持ったからと言って俺達にはこの世界に対して何の責任もありゃしないよ。そんなことを言っていたら俺達の意思はどうなっちまうんだよ。俺達が協力したくないって意志を持って、自分の意志に従って、敢えてコーネリア姫を助けるという選択をせずに、元の世界に帰るという選択をする自由はあるはずだろう!」と俊一が言った。
かけるは皆の顔を一人一人見渡した。皆かけるには反対といった顔をしていた。
「分かったよ!皆にはもう頼まない。それぞれ好きにするがいいさ!でも僕はコーネリア姫を助けに行く!行こう!カリーナ!」とかけるは、腹立ち紛れに立ち上がって右手を出した。右手にカリーナが手を握ったのを感じると、そのまま病室を出て行った。
「いいの?」とカリーナがかけるの頭の中に話し掛けてきた。
「仕方ないさ。皆には皆の考え方がある。無理強いは出来ないよ。でも僕は、たとえ、自分が望まないで来たとしても、自分に期待してくれている人がいるなら、この世界に干渉してでも、責任を果たしたいと思うんだ。間違っているのかなぁ?」
「私にはかけるが正しいのか間違っているのか分からないわ。でも少なくとも私達は、あなたを、そしてあなた達を必要としている」
「ごめんよ、僕達ではなく僕だけになってしまった。でも僕はやれるだけのことをやるよ。それだけは約束する。さて過ぎ去ったことは過去に置いといて、もうこの話は止めよう。ここから出てコーネリア姫の元へ行くことを考えよう。病院の外はロボットだらけだ。人間の僕は、このまま出たらすぐ見つかってしまう。何か良い案はあるかい?」とかけるはカリーナに訊いた。
「病院の倉庫にポンチョがあったと思うわ。あれなら顔も全身も隠せるわ。サイボーグも自分の姿に自信がないロボットは着ていたりするから目立たずに移動できるわ」
「サイボーグにも自分の姿に自信がない人がいるのかい?」
「自分の体を機械化するにもお金がかかるのよ。お金持ちは金や銀で出来たパーツを使ったり、性能の高いパーツを使ったり出来るけど、貧乏人は安い鉄や鉛のパーツを使ったり、性能が悪く壊れ易いパーツを使ったり、全てのパーツを揃えることが出来ずに一部分だけしか機械化していないサイボーグも大勢いるのよ。そういった人達は自分の貧乏を恥じてるの。自分の貧乏さが一目で分かっちゃうからね。それを隠すために全身を人前ではポンチョで隠すことがロイドの国では自然なのよ」
病院の倉庫には沢山の物が積まれていた。かけるは、そんな中からポンチョや食料や十得ナイフやライトなど必要な物を幾つか失敬して、埃にまみれた茶色いポンチョを引っ張り出し、体に纏って病院の外に出た。
かけるは病院の倉庫で物色している時に、皆が「待ってくれ!俺たちもやっぱり一緒に行く」と言ってくれることをちょっぴり期待していたが、そんな自分の考えは甘かった様だ。だれもかけるを追いかけては来なかった。
彼らは彼らで帰る方法を探すのか、何とかやっていくだろう。心配ではあるが彼らは六人いる。六人団結すれば、ゴルゲやロイドにも負けないだろう。
かけるだって自分の元いた世界に帰りたいが、自分がこの世界でやれることは全てやっておきたかった。かけるは気持ちを切り替えて病院を後にした。
かけるが病室を出てから、暫く六人は誰も一言もしゃべらなかった。気まずい雰囲気のまま、皆自分の中でどうすべきかを考えていた。かけるがポンチョを着て病院を出て行くのを窓から見ていたが追いかけることはしなかった。かけるが病院を出て行ってから気まずい沈黙を美樹が破った。
「本当にあたし達これでいいの?かけるだけに責任を押し付けて、あたし達は自分のことだけ考えていればそれでいいの?幾ら帰ることを望んでも帰り方も分からない。帰ることも出来ずに、この世界に来た意味が分かっても、その意味の責任を果たそうともしない。そして、この世界で逃げ惑っているだけで本当にいいの?」
「そうは言っても、あたしは戦争に加担したり巻き込まれたくないわ」と加奈が言った。
「もう巻き込まれてるわ!……そうでしょう!だってこの世界に来てしまったんですもの」
「……何で俺達なんだよ?平凡な高校生でしかない俺達なんだぞ。この世界がどうなろうと知ったこっちゃない、俺達はただのしがないどこにでもいる普通の高校生なんだぞ」と言ったのは俊一だった。
「そうやって逃げてる!かけるだって望んでこの世界に来た訳ではないわ!でもこの世界のために自分がこの世界に来た使命を果たそうとしている。誰だって避けて通れるなら避けていたいものかもしれない。でも避けて逃げて、それで本当にいいの?」と美樹は問い掛けた。
「かける、一人でもやるって言っていたけど、本当にかける一人だけでもやる気なのかしら?」と訊いたのはキャサリンだった。
「かけるはやるでしょうよ。いえ、やるに違いないわ。かけるが昔、『12キロメートル泳ぐぞ!』と言った時、冗談だと思ったわ。もちろんプールだからターンしながらだけどやり遂げたわ。何度も何度も失敗しても諦めずに挑戦して、二十回ほど挑戦したのかしら。とうとう泳ぎきったわ!かけるは何をやってもドンくさいし、のろまだし、勉強もスポーツも運動も駄目だけど、自分一人でコツコツとやり遂げる男よ」と美樹はかけるのことを思い出しながら言った。
美樹はかけると幼馴染なので一番付き合いが長い。だからかけるのことはここにいる誰よりも知っているのだ。皆、暫く自分の中で何事か考えている様だった。
「……俺さぁ、結構この世界での俺の能力、素早さとか水の中でも呼吸が出来ることとか好きなんだよ。この能力を、この世界のために活かしてみるのも、結構面白いかななんて思うよ」とホルヘが言った。
「俺は、ボディービルでウェイトトレーニングをやっていたから、この世界で木を引き抜いたり電気ショックにも耐えるボディーを誇ったりと言うのは憧れだったんだよなぁ」とキムも言った。
「あたしも、自分のここでの能力は気にいってる」とキャサリンも言った。
「ちょっと待ってよ!皆どういうつもり?この世界のために自分達の能力を使うって言うの?冗談止めてよ!私は嫌よ!下手したらこの世界のために命を落とすかもしれないのよ!冷静になってよ!みんな、一時の感情に流されないでよぉ」と加奈が皆の顔を見回した。
「でも、加奈も誰かのために役に立ちたいと思うでしょ?」と美樹が訊いた。
「そりゃぁ……まあね!」
「皆で助け合って、胸を張って堂々と元いた世界に一緒に戻ろうよ!この世界のために自分達が出来る事をやってみようよ!きっと誇り高いことだと思うよ」と美樹は自分の口から発している少々クサイ台詞にに酔って興奮していた。
「それが自分の命を危険に曝すことだとしても?」と訊く加奈に美樹はコクリと頷いて見せた。
「やってみるか!人生に一度くらい、人のために動いてみるのもいいかもね。但し、一度だけで充分だけど……」と俊一が言った。
「そうだね!やろう!」とホルヘが右手の拳を出して力強く握った。
「そうね!どうせ、このまま何もしなくても帰れないのだしね。夢の中なら思い切りやってみるのもいいかもね」とキャサリンが同意した。
「そうだな!能力を存分に活かしてやるか!」とキムが言った。
加奈はまだ不満そうな顔をしていたが顔を上げてニコリと笑って「……そうね!人に感謝されることをしてみるのもいいわね。やりましょう!」と最後に皆に同意した。
「それじゃぁ決まりね!かけるを追いかけましょう!ひ弱な苛められっ子のかけるを守ってあげなくちゃね!」と美樹がウィンクした。
かけるとカリーナは、美樹達がそんな決断をしていたとは露知らずコーネリア姫が軟禁されている場所を目指していた。
このサイボーグのロイド国は道も綺麗に整備され、ゴミ一つなく便利な社会がそこにあった。サイボーグになることを選んだ人間が、便利さを追求した姿がその街にはあった。いろんなサイボーグがいた。人間の姿ではなく、足の変わりにタイヤを付けたり、手に翼をつけて飛び回るサイボーグもいた。道を歩くだけではなく空を飛ぶ者、海を行く者、人間が出来なかったことが体のパーツを交換することで出来る様になった。肺機能を変えて、水の中でも息が出来る様にもなるのだ。
そんな華やかなサイボーグ達の街の中にいかにも汚いスラム街がある。サイボーグになっても、いやサイボーグの世界は人間以上に大きな貧富の差があった。
金持ちはパーツを買えることにより、もっと高額の給与がもらえる仕事に付くことが出来る。一方、貧乏人はパーツ一つ買う金がなく、買ったパーツも材質も性能も悪い故障が多い様な代物しか入手する事が出来ない。そんな状態ではお金になる仕事に付くことは出来なかった。パーツの性能から能力差が出来てしまうからだ。
さらにサイボーグの道を選ぶ人達は、便利さと効率を最も優先させた。自分達が働かなくてもいいように効率化をどんどん進めた結果、遊んでも金持ちは生き続けられ、それどころかさらに金持ちになる仕組みとなっていた。貧乏なサイボーグは仕事もなく生きる糧もないまま、いつのまにか街の片隅に追いやられスラム街を形成する様になった。
そんなスラム街の人達を放って置くことも出来ず、サイボーグの国ロイドの政府は生活保護のため生活保障を行った。家を建て食料を用意した。サイボーグとなっても消化器官までサイボーグに出来ずにいたサイボーグは人間と同じ様に食料を必要とした。食料が必要ないサイボーグは油や電気を活動のエネルギーとしていた。お金持ちは大抵、消化器官を変えており食料を必要としなかった。
ロイドの国の財政は税金によって賄われているが、税金は累進課税を採用していたため、所得が多い人から多く税金を徴収し、所得が低い人からは少ない税金を徴収していた。スラム街に住む人は、ほとんど税金を払える収入がなかった。
金持ちが納めた税金によって国の財政が為されたものであったため、金持ちからは、スラム街で生きるサイボーグは金持ちからの税金で生きているクズの様に扱われ蔑まれていた。
ロイド国の政府もそんな金持ちの考えが反映されており、代議士は金持ちからだけ選ばれ、スラム街で生きるサイボーグにとっては選挙権すらなかった。スラム街を形成するサイボーグは生活保障を受けるだけの存在なので、政府はスラム街に住むサイボーグだけに限って子供を作ることを禁じる法を作った。今生存しているサイボーグが死んだ時点で、生活保障を打ち切る考えだったので、子供を持つことを認めなかったのだ。
カリーナの案内で、かけるが連れて行かれたのは街のスラム街だ。華やかな表舞台とは違って、金持ちや金持ちで形成される政府から、存在を無視されていたのがスラム街だ。政府としては街の汚点として、ないものとして扱っていたのだ。それだけにこのスラム街だけは、警察のパトロールもこのスラム街には滅多に来なかった。
というのもこのスラム街にいるサイボーグは存在を否定されて生きてきた貧乏なサイボーグだ。金持ちのサイボーグを妬み憎しみを持っていた。そんな中に警察とは言え、踏み入るのは、幾ら良いパーツを装備した警察官にとっても危険だったのだ。
そんなスラムだからこそ、カリーナの案内でスラム街に行ったかけるは皆に歓迎された。ゴースティンは情報を集めに諜報活動をしているが、夜はこのスラム街を塒にしている者も多くいたのだ。
スラム街に住む貧乏なサイボーグ達に「ロイドを倒してくれ!」とかけるは頼まれた。
「俺達も同じサイボーグだが、こうして存在も無視されて生きているより、このロイドを倒して、俺達でも金持ちと対等に扱われる社会を創りたいんだ。お前がロイドを倒すなら俺達は幾らでも手を貸すぜ!」と言われた。
彼ら貧乏なサイボーグは子供を持つことを禁じられていたが、闇で子供を持っているサイボーグも数多くいた。赤ん坊を抱っこした母親は「この子を育てることが出来ない。お願いだから世の中をロイドを変えてくれ」とかけるに懇願さえした。子供といっても、生殖器がないので人間の様に子供を作るのではない。脳から親の遺伝子情報を元に申請して作るのだ。本来は、政府の申請なくして子供を作れないのだが、闇で作る業者は数多くいたのだ。
スラム街のサイボーグ達は、願いを込めてかけるにたくさんご馳走をしてくれた。彼らは消化器官を機械化するお金がないために、人間の食料を食べるのだ。彼らにとっても食料は大事であるにも関わらず、皆少しずつ出し合って食料をかけるに分け与えてくれた。かけるは涙が出る思いだった。
このロイドの国を抜けるのは電車であれば一日で抜けられるのだが、幾らポンチョを被っていても電車で抜けるのは危険すぎる。少なくともロイド国の首都圏から乗るのは危険すぎる。検察の際に気付かれる可能性がある。ということで、幾つもスラム街を抜けて、郊外の駅で電車に乗ることにした。
郊外のカリダスと言う駅で切符を買って乗ることにした。お金はスラムの人達やゴースティンがカンパしてくれた。駅舎では自動化が進んでおり、サイボーグが一体も働いていなかった。おかげで見つかることもなかった。この駅舎にもかける達の指名手配のチラシは壁に張られていたが、元々利用する客が少ないらしく、何の警戒もなされていなかったのだ。
電車は特等から一等、二等そして三等とあり、かけるは三等に乗り込んだ。三等はスラム街とは言わなくても貧乏なサイボーグが乗る車両で、所々にかけるの様にポンチョで顔や体を隠している人達がいた。
二等にも数人ポンチョを被った人はいたが、一等や特等にはポンチョを被っているサイボーグは一人もいなかった。皆、自分のパーツを見せびらかす様に買い揃えた自分のパーツを見せびらかしていた。三等の乗客は自分のパーツに自信がないためポンチョで隠しているのだ。
ロイドの国境を抜けて戦闘エリアに入るには、電車で九時間程行った終着駅で降りて歩いていかないといけない。
人類軍とゴルゲ軍とロイド軍の力が均衡している現在は、双方に街などを非戦闘エリア、そして荒地や砂漠を戦闘エリアとしていた。
不可侵条約とは異なるものだが、非戦闘エリアでは戦闘をしないし侵略しないと条約を結んでいた。力が均衡しているために、その条約を破ってしまえば、逆に自分達の非戦闘エリアも叩かれるために条約を破棄して攻め込むことは出来なかったのだ。そのため、街や電車に乗っていて戦争に巻き込まれることはなかった。
戦争がマンネリ化しており、相手の首都を陥落させて戦争に勝利するといった思想は既になかった。それよりも自分達の居住地域を確保した上で、戦争は砂漠地帯である戦闘エリアで行う方が、三国にとってメリットがあると踏んだのだ。
この電車の終着駅からさらに行って境界を越えると、そこは戦闘エリアだ。かけるは、何もそんな戦闘エリアを通りたくなかったが、カリーナの話ではコーネリア姫が軟禁されている場所に行くには、どうしても戦闘エリアを通り抜けないといけないらしい。
それを聞いたかけるは一瞬躊躇したが、すぐに決心した。当然、戦闘エリアは一般人の立入は禁止されている。戦闘エリアに入り込んだ者は迷い込んだのであっても、射殺されても文句は言えなかった。兵士は、戦闘エリアに立ち入る者が誰であろうと射殺する権限を与えられていた。
それだけ戦闘エリアと非戦闘エリアの境界は、子供でも貧しく教育が十分でない人にも徹底して知らされていた。それだけ認知に徹底していたので、何も好き好んで戦闘エリアに入る者がいるはずがないとの考えから、居住区から停戦エリアを越えて戦闘エリアに入るのに、検問も衛兵も壁も何もなかった。
戦闘エリアに入りたい人は入ってもいいが、無事に出られないことを覚悟しておかないといけないということだったのだ。
電車は九時間かけて終着駅に着いた。特急に乗ればもっと早かったが、特急には特急料金がかかるため、ポンチョに身を隠した低所得のサイボーグはいない。そんな中では、ポンチョで見つからない様にしていたかけるがすぐに見つかってしまうということで、普通電車を使わざるおえなかったのだ。
かけるが乗り込んだ時には車両の中が満員に近かったにも関わらず、終着駅まで行った乗客はほとんどいなかった。ここには寂れた街があるが、この街に来るサイボーグなどほとんどいない。さらにこの街から戦闘エリアを目指すサイボーグなど皆無だった。それだけに駅にはタクシーやバスの様な乗り物はなく、皆自分の家族が迎えに来てくれる車に乗って自分の家に行くか、自分で歩くしかないのだ。
駅に着いたかけるは大きく深呼吸をして、ずっと座りっぱなしだったために、足を軽くストレッチした。そしてカリーナに訊いた。
「さぁ、終着駅に着いた。ここからどうやって行くんだい?」
かけるは瞬間移動で戦闘エリアを通り抜けるといった考えもあったが、かけるの瞬間移動出来る距離は限られている。
戦闘エリアは破壊力の強い兵器を使用しても非戦闘エリアに損害を齎さないように広大な敷地を設けられていた。かけるは何回も瞬間移動しないと通り抜けられない。かけるはそんなには体力が続かないのだ。
かけるが一気に飛んでいくという手段はカリーナにあっさりと否定された。戦闘エリアにおいてはレーダーなどの索敵機能が優れている。かけるの飛ぶスピードが速くても、見つけられて撃墜されてしまう可能性が高い。
「ここで、グシュタフと言う男を探すのよ!」とカリーナは言った。
「どこにいるんだい?」
「知らないわ!たぶん酒場にいるんじゃないかと思う」
「頼りないなぁ!カリーナは僕達が今日行くことを、そのグシュタフさんに言ってあるのかい?」
「もちろん、言ってないわ!だって彼は神出鬼没の盗賊ですもん」
「とっ盗賊って?」
「大丈夫!彼は頼りになる盗賊よ。彼はゴースティンではなくて普通の人間よ。彼は盗賊って言っても一般人から金品を奪うことはないわ。少なくとも私が知っている限りではないわ。彼はゴルゲ国にもロイド国にも人類国にも属さない自由な一匹狼なの。ゴルゲやロイドや人類の軍などから金目のものを奪うために襲うので、ゴルゲ国からもロイド国からも人類国からも指名手配されてるわ」
「指名手配なら僕らもされてるよ」
「そうね、でもかける達はロイド国から刑務所脱獄の罪で指名手配されてるのよね。でも人類国やゴルゲ国からは指名手配されていないわ。両者共にかけるたちは秘密裏に捕えたいと思っているのよ」
「ちょっと待ってくれ!何故、人類にも追われないといけないんだ?僕らは人類の味方に着く様に望まれてるんじゃないのか?」
「人類国の大統領サイキスの話はしたわね。彼にとっては、かける達は邪魔な存在なのよ。コーネリア姫と接触する前に出来れば消してしまいたい存在なの。でも大っぴらにかける達を逮捕すれば和平推進派の人民が反乱を起こすことが懸念されるわ。だから人知れずかける達が消え去ってくれることを願っているのよ」
「でもコーネリア姫は軟禁されているのに、和平推進派がそんな行動を起こすのかい?」
「確かに今はコーネリア姫が捕われの身だから和平推進派の人民は身分を隠して生きているわ。下手に和平推進派ということがばれたら捕まってしまうか、何か罪状を付けられて殺されてしまうかもしれないもの。でも彼らは身を隠しているだけで、いざと言う時には必ず立ち上がるはずよ」
そんな会話を、かけるがカリーナと交わしている間に酒場に着いた。西部劇映画を思わせる様なバーだ。
「ここかい?グシュタフがいるというのは?」
「そうよ。でも気をつけて!この荒れ果てた土地に集まるのはならず者か荒くれ者の連中よ。ロイド国のエリアながらサイボーグより、どこからか流れてきた人類が多いと言われてるわ。サイボーグ達にとっては、あまりにも不便なこの町に力を入れていないの」
「でもそんなならず者の町であれば、ロイド国はこの町に住んでいるサイボーグを守らないのかい?」
「言ったでしょう。ロイド国にとってはこの町は戦闘エリアに近い町で誰も住みたがらないの。でもここを放棄したら、戦闘エリアにされてしまうから、ロイドとしても手放す訳にはいかないのよ」