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第一章の4ーロイド刑務所

第一章 向こうの世界へ


ロイド刑務所

 やっと街の家並が見えてきた時、かける達一行は囲まれてしまった。囲んでいるのは人間ではなかった。銀色のボディーがキラキラと光り、顔は二つの眼が黄色く光っていた。かける達を囲んだのは二足歩行の人間型ロボットだった。

 ロボットは三体いた。何か言葉をしゃべっている。加奈が通訳した。加奈はゴルゲだけでなくロボットの言葉も理解出来るらしい。

「おまえたちは何者だ?見た所、人類のようだが、何故ここに来た?」

キャサリンがその問いに答えた。

「私達は訳も分からずこの世界に来て迷ってしまいました。見ての通り、一人は怪我をしており、一人は疲れて眠りこけています。お腹が空いています。お願いです。食料と休める場所を提供してください!」と言った。

 三体のロボットは顔を見合した。ロボットの言葉で会話が出来ることが不思議だったようだ。三体の内の一体が本部と通信している様だった。

「不審な7人を見つけました。人類ですが、我々の敵ではない様です。迷ってここに来たと行っています。いかが致しましょうか?」と言った。無線を口や耳に持っていかなくても、声に出さずとも交信出来る機能が付いているらしい。加奈は声にならずとも心がないロボットが交信している会話を理解出来るのだった。

「スパイかも知れん!逮捕しろ!」と本部の命令が来た。

ロボット達は手錠を取り出した。

 美樹が抵抗しようと構えたが、キャサリンが美樹を制した。

かけるとキムは眠ったままで、他の5人も疲れきっていた。

 この状態で抵抗して戦わない方がいい。逮捕と言っていた。殺すつもりならすぐ殺すだろうが、逮捕なら捕まってみる方が戦って死ぬかもしれない状況よりもいいと判断したのだ。


 七人は三人のロボットに連れられて、鉄格子のある収容所に容れられた。幸いなことに七人一緒に一つの牢屋(ろうや)に入れられた。男女別々に人類を収容したりする程の施設に余裕が無かったのだろう。

 逮捕して牢屋に入れられたことを考えると、先程の三体はロボットポリスらしいということが推測された。

 収容施設がないらしく、一つの部屋にベッドが一つに何の囲いもないトイレが一つあるだけの部屋だ。六畳間程の広さしかなかった。床は冷たいコンクリートだった。

「こんな冷たい所で閉じ込めておかないでよ!冷えちゃうじゃないのよ!」と加奈が文句を言っていたが、キャサリンは訳してロボットに伝えなかった。かけるとキムは眠りこけて起きる気配もなかった。何を言っても無駄と知ると皆黙り込んだ。


 「まいったなぁ、こんな所で、それにしても腹が減ったなぁ」とホルヘが言った。俊一も大きく頷いた。そんなホルヘの声が聞こえたのか、食事が運ばれてきた。食事と一緒に電話も運ばれてきた。電話をスピーカーホンにした。

 電話の受話器から声が聞こえてきた。それは男性でも女性でもなく無機質な機械的な声だった。

「食事は気にいって頂けたかな?君たち人類が好きそうな食料と飲み物を揃えてみたんだが」

 出された食事は野菜と魚、それに鶏肉らしき肉が入っていた。それにごはんと味噌汁が付いていた。不思議な事に日本食が用意されていた。そんな疑問に即座に答えてきた。

 「失礼ながら、君たちの思考を読ませてもらった。君たちが考えている食事を読んで、それを用意させてもらったのだよ」

 キャサリンが照れて頬をちょっと紅く染めた。どうやらキャサリンが思い浮かべていた食事をそのまま出したらしい。キャサリンにはテレパシーを伝えることが出来るのだ。

 キャサリンは日本人ではないし、日本に来て二年程でしかないが、日本食が好きだったのだ。それで自然に日本食を思い浮かべてしまったのだ。


 「さて、それでは聞かせてもらおうか?君達は何者なのか?」

加奈が訳してキャサリンが答えた。

「私達はここではない世界から迷い込んできました。私達自身にも何が何だか判らないのです。何故こんな所へ来てしまったのか?むしろ誰かに教えて欲しいくらいです」とキャサリンが答えた。

本当に何も分かっていないのだ。答えようがない。

「私にそんな言い訳を信じろと言うのかい?」と電話の声は興奮するでもなく穏やかな口調のまま言った。

「でも本当に他に話すべきことがないんです。私達には何も分からないんです」

 電話の向こうで暫く沈黙が続いた。

「どうやら嘘はついてないようだな!だがもう少しその鉄格子の中にいてもらうよ。君達の素性が完全に分かるまでね。それに君達人類は我々にとっての敵だから、街を堂々と歩かせる訳には行かないんだ」と言った。

 「我々には怪我人がいます。怪我の治療をお願いします」

「それはいいだろう。我々にも慈悲(じひ)の情けということもある。医療ロボットをそちらに遣わそう」

「それと、もう一つお願いがあります。あなた方は何者なんですか?ここはどこなんですか?」いきなり連れて来られたが、全く相手が何者なのかも知らなかったのだ。

電話の相手は暫く間を置いてちょっと見下した様な口調で話した。

「本当にそんなことも知らないのかね?ここはロイド国、我々はロイド国の警察だ!」それだけ言うと電話はガチャンと切られた。


 暫くすると子供程の大きさのロボットがやってきた。これが電話の声が言っていた医療ロボットらしい。医療ロボットは「患者はどこですか?」と訊いた。

 いかにも機械と言う感じでピコピコ言っている様にしか分からない。加奈が聞き取って床に寝かされているキムの方を指差した。

 医療ロボットはてきぱきと治療を終えると「特に心配は要りません。人類にしてはタフな体を持っています。(じき)に良くなるでしょう。そちらに寝ているのも患者さんですか?」とかけるの方を見て訊いた。

「ついでに診て上げましょう」と医療ロボットはてきぱきと動いてかけるを診た。

「こちらはどうやらただの疲労ですね。疲労回復剤を出しておきますそれではお大事に!」とプログラムされた声で言うとさっさと出て行ってしまった。

 美樹はかけるを膝枕して医療ロボットがくれた疲労回復剤をかけるの口から飲ませた。かけるの顔はみるみる血の気を取り戻した。やがて数分もするとかけるは目を覚ました。かけるは目を覚ますと美樹の顔が目の前にあって驚いた。

 「わぁぁ!ああ、びっくりした!美樹、なんで?僕はどうしたんた?」

「起きた?かけるは疲れて眠っていたのよ、あんた」

「なんか、気持ちいい!」とかけるは美樹の膝をすりすりした。

「調子に乗るんじゃない!」と美樹におでこを叩かれた。美樹は軽くやっているつもりでも、力のコントロールが上手く出来ていないためにかなり痛かったりするのだ。かけるは痛さに大袈裟(おおげさ)にのたうちまわったりしてみせた。

「大袈裟ねぇ!」とまた美樹に叩かれてしまった。

 キムも即効性の治療を施したことと、彼特有の能力であるタフネスのおかげで回復していた。

 「いやぁ、(しび)れたぁ!電撃ショックは強烈だぁ!」とキムは上半身を起こして顔を手で抑えながら言った。

「だんな、よく眠りましたねぇ!電気ショックの後は楽しい夢でも見れましたか?」とホルヘが言った。

「寝起き早々、お前の顔を見るとは俺も運がついてねぇな。お前にも電気ショック与えてやりたいよ。そうすればお前ももうちょっと年上に敬意を払う様になるんじゃないかな」

 かけるとキムはこの街のことや電話のことなど、寝ている間に起こった出来事を一通り聞いた。


 「さてと物語は、次のステップに進んだってことかな?これからどうする?」とホルヘがかけるの方を向いて訊いた。

「まずここを抜け出さないといけないな。このままこの牢屋(ろうや)の中にいても釈放されそうもないしね」とかけるが答えた。

「でも私達が無害だと分かれば釈放してくれるんじゃないかしら?」と加奈が言った。

「いや、多分釈放出来ないでしょう。拘留(こうりゅう)しておく理由もないだろうけど、釈放して街を歩かす訳にもいかない。存在を街の人に知れてしまう訳にもいかない。出来たら私達がいないものとしてずっと拘留しておくか?人知れず始末するか?」とキャサリンが言った。

「そんな、まさか!」とキムは言ったが否定は出来なかった。

「そんなことはないんじゃない!だって私達は無害ですもの」と加奈は言った。

「無害じゃないかもよ!少なくとも奴らにとってはね」と美樹が言った。

それでも加奈は納得していなかった。

 逃亡すると言っても牢屋に関して何の情報もない。策の立てようがない。暫く様子を見るしかなかった。

 脱獄をしようにも、食事を運ぶ掃除機の様なロボットが来るだけで、そのロボットが食事差し入れ用の小さな扉が開けられ食事が差し入れられる。だがその小さな穴では人間が通り抜けることは出来ない。

 かけるの瞬間移動を試してはいなかったが、瞬間移動で人を運びながら六回も往復することは到底出来そうも無い。瞬間移動で運ぶのは二人が精一杯だと思われた。一度に二人運ぶか、一人ずつ二回運ぶか、いずれにしてもそれ以上は出来ない。また疲労でかけるが倒れてしまうだろう。その間に他の四人を助け出すチャンスを失ってしまう。


 いつになってもチャンスなど訪れないまま数日が過ぎた。当初は脱獄に反対だった加奈でさえ、牢屋での生活から早く抜け出したかった。そんな折、早く脱獄しないとならない事件が起こった。

 ある日、ロボットが電話を持ってきた。

「やぁ、皆さん、お元気ですか?」と加奈が訳す。

かけるとキムは知らないが、他の皆は以前と同じ電話の声だと判った。

「鉄格子の中なんだ、元気も何もない。」とかけるが答えるのをキャサリンは訳して伝えた。

「そうですか!でもそんな鉄格子の中の暮らしとも、まもなくおさらば出来ますよ」

「それじゃあ釈放されるのか?」

「いいえ、私は鉄格子の中の生活とおさらば出来ると申しただけで釈放とは言ってませんよ」電話の機械の声は楽しげに話した。

「どういうことだ?」

「調査した結果、あなた方は我々の敵である人類とは違うようです」

「それならどうして釈放しないんだ?」

「敵である人類であれば捕虜とすることも出来ましたが、他の世界から来た人類であれば捕虜としても利用価値がありません。かといって釈放してあなた方が敵である人類に味方をすれば、将来的に我々の脅威(きょうい)になるやもしれません。そこで我々のマザーコンピューターのロイドが出した判定は……」電話の声はもったいつけるようにそこで少し言葉を切った。


 「死刑です」

かける達にとっては最も聞きたくない言葉だった。電話の声はさらに続けた。

「分かって頂けるかと思いますが利用価値の無い者にこのまま食事を与え続ける訳には行きません。非効率ですからね。かといってあなた達を外に出して、将来の脅威にすることも出来ません。そこでこの様な判断を致しました」

そこで、ホルヘが遮った。

「ふざけるな!ロボットのクソ野郎が!」

キャサリンは訳さなかった。また訳していても相手はロボットなので感情を害すこともなかったかもしれない。感情を持ち合わせていないのかも知れない。

 電話の声は何事もないように話を続けた」

「あなた達の死刑の執行は明後日の正午きっかりに秘密裏に行います。良かったですね、これでその鉄格子の中ともおさらば出来ますよ」

 美樹が蹴りで電話を壊そうとするのを、キャサリンが電話を抱き抱えて止めた。キャサリンは抱え込んだ電話に向かって、相手が電話を切る前に慌てて話をした。

「それで、私達はどの様に死刑されるのですか?電気椅子ですか?首吊り?それとも……」

「変わった人達ですねぇ。自分達がどんな死に方をするのか知りたいのですか?」

「もちろん知りたいわ!無様(ぶざま)な死に方はしたくないもの」

「最後の死に方にこだわるとは、人類とは面白いものですね。いいですよ。教えてあげましょう。あなた達は明後日の正午に首吊りによって死刑になりますよ。心配しないで下さいね!七人一緒にあの世に送ってあげますから」と電話の声は言って冷たい笑い声を上げた。

 電話が終わって、キャサリンは加奈と自分と電話の相手との会話を皆に説明した。

 美樹が「あんた、よく怒らないわね!怒りとか感情がないの?」とキャサリンに詰め寄った。

 キャサリンは平然として「怒りを表しているより、とにかく情報を集めることが何よりも先決よ!」と言い放った。

 「なんですって!」と美樹がキャサリンの胸倉を掴むのをかけるが間に入って制した。


 これで明後日の正午までに何が何でも脱獄しないといけなくなってしまった。そうは言っても皆なかなか脱獄の案が決まらなかった。名案が浮かばないのだ。

 かけるは自分だけ瞬間移動で助かることが頭に浮かんで来て、頭を振って考えを追い払った。自分だけ助かっても駄目なのだ。全員が助からなければならない。

 とにかく、この鉄格子のドアが開かないと始まらない。すなわちチャンスは、死刑執行の際にこの牢屋から連れ去られる時だけだ。

 明後日の正午にこの牢屋から出されて死刑執行の場所まで連れて行かれて首に縄をかけられる。そして床板が抜け、首が絞まる前に脱獄しないといけない。焦れば焦るほど名案は浮かんで来なかった。


 翌朝いきなりキムが美樹に大声を出した。

「ふざけんな!俺が悪いってのか!おまえこそ何様のつもりだ!」

「冗談じゃないわよ!あなたが怪我なんかしたから、こうやって皆で捕まっちゃったんでしょう!ドジ!どうしようもないドジよ、あんた!」

「冗談じゃない!、俺だったからあの壁に当たって死ななかったんじゃないか!間接的にお前らを助けたのは俺だぞ!」

 そう言って二人で激しく喧嘩した。美樹が突きや蹴りや手刀をキムに炸裂させた。

 キムは美樹を捕まえて両腕でぎしぎしと締め付けている。

 ホルヘとかけると俊一は二人を引き離そうとしていたが「邪魔なんだよぅ!」と吹っ飛ばされた。

 加奈やキャサリンはただオロオロと泣いていた。


 喧嘩の相手を(なじ)り合う大声に見張りのロボットがやって来た。その見張りロボットは鉄格子の外から自分の腕を伸ばして取っ組み合う二人を引き離そうとした。

 キムがそんな見張りロボットの両腕をがっしりと抑えた。その(すき)にホルヘが、見張りロボットに素早く近寄って牢屋の鍵を奪い取ろうとした。

 美樹とキムは芝居の喧嘩をしただけだ。

 ホルヘは見張りロボットがぶら下げている鍵を奪い取ろうと手を伸ばした時、バチッともの凄い音がして牢屋の鍵が(はじ)けた。鍵がぼろぼろと粉になって崩れ去ってしまった。高電圧が仕掛けられていたらしい。


 暫くすると高らかに笑う放送が聞こえてきた。放送でも会話出来たが、今まで電話を使っていたのは、他の人に会話を聞かせたくないためなのだろう。だが今の事態に、電話を用意する様な悠長なことを言っていられなかったのだ。

 「ははは、君達の最後の悪あがきですか?そんなことで逃げられるとでも思ったのですか?そんな可能性は最初から考えていましたよ。そんな演技では、我々を(だま)す事なんて到底出来ませんよ」あの妙に丁寧で憎らしい電話の声が館内放送から流れてきた。館内放送とは言っても、区画を絞っているから全館に渡って放送されているわけではない。

 キムは見張りロボットの腕を放し、皆へたへたと座り込んでしまった。一気に希望を断たれた様に思われた。

 その日の夜はご馳走が出た。三百グラムはありそうな牛肉のステーキにパンとワインまで振舞われた。最後の晩餐(ばんさん)を楽しませてやろうというロボットらしからぬ温情(おんじょう)らしかった。

 未成年であるが、皆ワインをお代わりして浴びる様に()んだ。明日死刑になるというのに未成年もへったくれもないものだ。自棄(やけ)食いに自棄酒により、最後の晩は寝息や(いびき)が乱れ飛びよく眠れた。


 死刑の日の朝は最悪の目覚めだった。二日酔いで頭がぐるぐる廻るし吐き気すら催してしまう。

 牢屋の天井の方に、鉄格子がはめられ外の光が差し込む小窓があった。死刑の日の朝は外から鳥が(さえず)る、とても良い天気だった。小窓から差し込む日差しが暖かく感じられた。

 午前中は何もせずにいた。正午前にいよいよ死刑執行が行われるためにいろいろと騒がしくなってきた。ロボットの神父様が来てお祈りして、「最後に願いごとがあるか?」と訊いてきたりしたが、何の望みも無かった。

 望みと言えば「早く元の世界に帰りたい。夢ならいい加減に覚めてくれ!」という願いはあったが、神父様に言ってみても仕方ないことだった。

 そしていよいよ牢屋のドアが開いて死刑執行の時が来た。皆暴れない様に後ろ手に手錠をかけられた。

死刑執行場に連れて行かれた。そこで、かけるは大声を上げて最後の願いを言った。


 「お願いがあります。我々は死ぬ時くらいは自由に死にたいと思っています。どうせ逃げられっこありませんから、我々の手錠を外してください!」

 すると顔に覆面をしたロボットの中で一番偉そうなロボットが「いいでしょう!どうせ逃げられっこありませんからね」と言って認めてくれた。今の声は、あの電話の相手の声に間違いないと皆確信した。

 「もう一つお願いがあります!」

「まだあるのですか?まぁ、いいでしょう。なんですか?」

「僕は臆病で皆と一緒に吊るされて、自分より先に皆が死んでいく姿を見るに耐えられません。どうか、僕を先に殺してください。そうすれ、ば皆の死んでいく苦しそうな姿を見る事なしにあの世で皆を待っていられます」とかけるはお願いを述べた。

「別に構わないが、他の者はそれでいいのか?」とかける以外の六人の顔を順に見た。

「仕方ないさ。かけるは昔から臆病だったからな。先に()けよ!後で追いかけてやるから」と俊一が言った。

「もうかけるだけずるい。でもいいわ。かけるの死に様をじっくりと見といてあげる」と美樹も言った。

後の四人はただ黙って頷いた。

「ちゃんと皆、寂しいから僕の後に付いてあの世に来てよ。じゃないと化けて出てくるから」とかけるは皆の顔を見ながら言った。

「まぁ、そういうことならいいでしょう!それではあなたの願いを叶えてあげましょう!望みどおり、あなたから死刑を執行してあげますよ」とマスクを被ったロボットが言った。


 いよいよかけるの死刑が執行される時が来た。かけるは後ろから押されて、死刑執行台の上に立たされた。この床板が外れると思うと、先入観のせいか床板の下ががらんどうでどこまでも暗い闇が続く虚空が拡がっている様に感じた。

 床板がとても脆くこのまま床板が外れてしまうのではないかと思った。この死刑執行台で断末魔の響きと共に奈落の底に落とされた無念の霊が、かけるの足を引っ張っている様な恐怖感さえ感じた。

 かけるの首から頭に黒い袋が掛けられ、首には白く太い縄が掛けられた。顔に被せられた黒い布は強烈な石鹸の匂いがツンと鼻に付いた。この布を被せられ恐怖から囚人の鼻水や(よだれ)が出たのを強力な洗剤で洗ったのだろう。囚人ごとに変える程、温情を理解していないらしい。

 白く太い縄はかけるの首に掛けられただけで蛇の様に首に巻きつき、それだけでもかけるを絞め殺しそうに思えた。かけるの胸はドキドキと早打ちして飛び出てきそうだった。


 先程の指揮官らしいロボットが右手を上げ、その手を一気に下に降ろしたのを合図に死刑執行官がボタンを押し、かけるが立っていた床板が下に開いた。

 かけるは苦しそうにもがいた。非常に長く感じられたが、わずか一分程のことだった。黒い布が被されたかけるの頭はガクッと下に項垂(うなだ)れた。

 さらに完全に死ぬのを待つために一分程経ってから床板が戻った。かけるの首に掛かっていた白く太い縄が緩められ、かけるはその場にドサッと倒れた。

 かけるの首から白い縄を外すために死刑執行のロボットがかけるに近付いて、かけるから白く太い縄を首から外した。そうしてもう一度床板が開いた。かけるの死体をそこに投げ込むためである。

 その死刑執行のロボットは白く太い縄をかけるの首から外した時に、かけるの首に縄の(あと)が付いていないことに気付かなかった。


 その時だった(つむ)っていたかけるの目が大きく見開いた。かけるはその死刑執行ロボットを死刑執行台から下に落とした。本来なら処刑された人が落とされる場所にだ。

 それを合図にホルヘが素早く、他の一体の死刑執行ロボットをかけるがやったのと同じ様に穴に落としてしまった。

 美樹は飛び蹴りを先程の指揮官に食らわした。キムは一体のロボットをプロレスのジャイアントスウィングの様に足を持って振り回し、駆け寄るロボットを次から次へと()ぎ倒した。正に大暴れだった。

 美樹が倒した指揮官のロボットを(たて)に一向は出口へと向かった。俊一が出口への道順を透視していたので迷うことはなかった。ロボット達はかける達にこんな能力があるとは思っても見なかった。指揮官をロボット質というのか人質に捕られ、他のロボット達は右往左往と指揮が乱れていた。

 加奈が相手の指揮系統を受信して、キャサリンがその交信内容とは違った間違った指揮をテレパシー通信によりロボット達に送った。

 美樹が人質に取っているロボットが指揮官であったのだが、指揮官を取られ、さらに違う指揮で混乱されてロボット達は統率された動きが出来なかった。かける達は建物の外まで出た。キャサリンが先に「開門せよ!」とテレパシーで指揮を出したために門は開かれていた。


 先を進む俊一は、門が開いていることに油断して、皆から離れて門に向かって駆け出した。その俊一の前に建物から飛んでかける達の脱獄を阻止しようとした二体のロボットが俊一の逃げ道を(ふさ)いだ。俊一は二体のロボットに挟まれてしまったのだ。二体のロボットは俊一に向かって胸のレーザーを発射した。万事休すと思った俊一は目を閉じた。かけるは「しゅんいちぃ!」と声を掛けた。

 二体のロボットが放ったレーザー光線は俊一のいた空間を通り抜け俊一を挟んで向こう側にいたロボットを焼いた。二体のロボットは同士討ちの状態で動かなくなった。

 かけるは見ていた、俊一は一瞬消えたのだ。暫くすると俊一はまたその空間に姿を現した。どうやら俊一には消える能力も備わっているらしかった。門の所まで来て人質にしていた指揮官に美樹が廻し蹴りをして倒してしまった。

 美樹は廻し蹴りをする時に「お前は役に立たないから壊してしまう刑に処す」と言った。このロボットに「役に立たないから死刑に処す」と言われたことが頭に引っ掛かっていた様だ。この指揮官のロボットは、美樹の廻し蹴りを受けて目から光が消え機能が停止してしまった。


 七人は無事にロボットの刑務所を脱獄することに成功した。

「いやぁ、上手くいったよ!でもかけるの演技上手かったぞ!俺も演技とは分かっていても、お前が死刑執行の時に床板が外され、もがいて頭がガクッと下がった時は、本当に死んでしまったかと疑ったよ」とホルヘが興奮して言った。

「いやぁ、すごい難しかったんだよ。重力と同じ力で浮いて同じ場所にいるって結構難しいんだよ。上がり過ぎると縄が(たる)んで分かっちゃうし、少し重力で縄が引っ張られていないとばれるからね。でも本当に上手く言ったよ。昨日の美樹とキムの演技があったから上手くいったんだよ」とかけるが言った。

「俺は女の子には手を上げない主義だから、あの演技をすることを言われた時は、俺のポリシーと違うって言って断りたかったよ」とキムが言った。

「あらっ私だって滅多(めった)やたらに男の子と戦うことなんてないのよ。ただ演技者としては上手くやらないとね」と美樹が言った。

かけると俊一は顔を見合わせたが黙っていた。

「でも本当に、あの喧嘩して脱獄することに失敗したから相手も油断してくれた。そのおかげで成功したのよね。私のオロオロと泣く演技も相当なものでしょう?」と加奈が言った。

「すっかり運動して二日酔いが抜けたよ。しかし、あんな美味しいワインは初めてだ。つい飲みすぎちゃった」とキムは軽く舌を出した。

 七人は、昨日最後の晩餐だから自棄食い自棄酒をした訳ではなかった。この先、食べられないかも知れないから食いだめしておいたのだ。そのためにいつもよりも多く食べて蓄えておいたのだ。

 ただワインをがぶがぶと飲んだのは食いだめとは違って、ワインの美味しさに目覚めたからだ。高校生の皆は未成年だから酒を大っぴらに飲むことは無かった。

 さすがに隠れて飲むぐらいしかなかったが、それが堂々と飲めるのでつい嬉しくてがぶ飲みしてしまったのだ。だから二日酔いはシナリオに入っておらず、つい二日酔いしてしまったのだ。

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