第四章の9ー決着
第四章 トカゲの尻尾
決着!
ユーベルタンはかける達に向けて数発撃った。かける達は咄嗟に物陰に隠れた。ユーベルタンは、自分の左足の義足を諦めて、螺旋階段を手すりと右足一本で自分の体を支えながら、螺旋階段を登りドアを開けてヘリポートまで出た。
右足一本で、飛び跳ねてヘリコプターに向かうユーベルタンだったが、ヘリコプターの手前五メートル程の所で、バランスを崩して前に転んでしまった。その時には螺旋階段を上って来たかける達も、ユーベルタンに追いついてヘリポートに出ていた。
ユーベルタンは転んだ後もなお、肘で這って、ヘリコプターに這って進んでいる。ヘリコプターはローターが回り、ヘリコプターから階段が下りて、乗る人を待って発進するだけになっている。ユーベルタンは肘で這って、ヘリコプターの階段を手で上ろうとしている。
かけるはユーベルタンの屋敷から、ヘリコプターで逃げるユーベルタンを逃してしまった苦い経験がある。今度はそうはさせない。かけるは念力を使いユーベルタンの体を持ち上げて、かける達の方まで運んだ。
「止めろ!止めろ!何をする」とユーベルタンは叫んで、かける達に銃を撃ってきた。美樹がシャボン玉の様なバリアを張って皆を守った。
ユーベルタンの銃は、数発撃つと空になった。銃の弾丸を込めようとポケットに手を入れ、新しい弾丸を取り出したが、慌てていたために全て下に落としてしまった。
そして、ユーベルタンは丸腰で、かける達七人に囲まれる結果になった。
「頼む!助けてくれ!金なら幾らでもやる!私が死んだらトカゲの尻尾の様に切り捨ては出来ないんだ。これで本当にジ・エンドになってしまうんだ。助けてくれ!」とユーベルタンはかける達に哀願した。
かける達は、哀願するユーベルタンに、調子を狂わされて、お互いに顔を見合わせた。
「キャァ!」加奈が短い悲鳴を上げた。
かける達がお互いに顔を見合わせたわずかな隙を狙って、ユーベルタンは後ろから加奈の首を左腕で掴み、右手に持ったナイフを加奈の頬に突き立てた。ユーベルタンに合わせてしゃがんでいて、一番近かった加奈が標的となってしまった。
加奈はずば抜けた聴力はあっても、防御能力がない。まさか、この状況でユーベルタンが戦闘能力がなく、一番人質に取りやすい加奈を選んだとは思えないが、偶然にしてはユーベルタンに有利に運が傾いた。
「ふふふ、ははは、甘いな!お前達下等な者どもに哀願する私だと思ったか?愚か者めが!」とユーベルタンは言って笑い出した。
かけるはもうユーベルタンを許さなかった。かけるは、ユーベルタンのナイフを持っている右手に意識を集中した。
ユーベルタンが笑い出したので、持っていたナイフが加奈の頬を数ミリメートル離れた隙を突いたのだ。ユーベルタンの右手が、ユーベルタンの意志とは別に、加奈の頬から離れていく。
「止めてくれ!何をする!」とユーベルタンは、加奈の首を掴んでいた左手を右手に添えて、両手でかけるの念力に対抗した。
だが、かけるはそのまま、ユーベルタンが両手で持っているナイフをユーベルタンの健常な右足に突き立てた。
「うわぁぁぁ」とユーベルタンは悲鳴を上げた。ユーベルタンの右足の太腿にナイフは深深と突き刺さり、真っ赤な染みがどんどん拡がっていた。
しかしユーベルタンも強い執念を持っていた。
「うぉぉ」と言って、ユーベルタンは自分の右足の太腿に刺さったナイフを両手で引き抜いた。ユーベルタンの右足の太腿から血が迸った。
「許さんぞ!何度も私の邪魔をしやがって!お前だけは許さんぞ!」とユーベルタンは、かけるを凄い目で睨みつけた。両手で這って、かけるの元へ行こうとする。その形相は鬼のごとく凄まじかった。
ユーベルタンの横に回った美樹が、ユーベルタンの手を蹴り上げ、ユーベルタンが持っていたナイフが遠くに飛ばされた。
そしてキムがユーベルタンの体を持ち上げ、操作室からヘリポートに出た入り口に向けて放り投げた。
「うわぁぁ」
かける達が出て来てドアはそのまま開かれていた。ユーベルタンはそのまま螺旋階段を転がって、螺旋階段の下で死んでいるマイクの上に落ちた。マイクの体がクッションとなったユーベルタンは大した怪我をしなかった。
ユーベルタンは、怒りの炎に目を血走らせ、肘で螺旋階段を上ろうとするが、ナイフで刺された右足が、何かに引っ掛かっていた。後ろを振り向いたユーベルタンは、思わずぎょっとした。
マイクが死んでも放さなかったユーベルタンの左足の義足とマイクの体に、ユーベルタンの右足が挟まって抜けないのだ。右足の太腿をナイフで深く刺されているために、右足に力が入らず無理に抜くことも出来なかった。
「放せ!こら、放せ!」とユーベルタンがもがいた時、ユーベルタンは工場で燃えている自分のクローンサイボーグを見た。
荒れ狂って攻撃している十六体のユーベルタンサイボーグは炎に包まれながら、依然としてやたらめったらに攻撃している。
一体のユーベルタンサイボーグが操作室に照準を合わせてミサイルを発射した。
「うわぁぁぁ」とユーベルタンと叫び声を上げた。
ミサイルは操作室の穴を抜けて、ユーベルタンのいる操作室で爆発した。操作室を炎の海に変えた。
ユーベルタンにとっては、左足の義足もマイクも、さらに言えば、ユーベルタンサイボーグでさえも、トカゲの尻尾でしかなかった。
そのトカゲの尻尾によって、トカゲの頭と胴体であるユーベルタン自身が、捕らえられ殺されてしまったのだ。
キムがユーベルタンを操作室の中に投げ込んでから、かける達は急いでヘリコプターに飛び乗った。既に自爆プログラムが作動して、各地で爆発が始まっていた。
下からもの凄い音と共にヘリポートも揺らされた。
ヘリコプターに飛び乗ったはいいが、ヘリコプターの操縦など誰もやったことがない。
「キム、お前が操縦しろよ!」とホルヘが言った。
「俺だってヘリコプターの操縦なんてしたことない。それに年上にお前って言って命令するな!」とキムが返した。
「分かったから、いいから、ここはキムしかいないっって!キム様、お願い!ヘリコプターの操縦なんて車の運転と一緒だよ。二次元が三次元になっただけだって!」とホルヘがキムを操縦席に押し込めた。
キムが何か言い返そうとした時に、下で大きな爆発が起きて、制御操作室から炎が噴出した。一刻の猶予もならなかった。
キムは操縦席に座ると、ヘリコプターのボタンをやたらめったら押して、操縦桿に手を掛けて引いたり押したりしてみた。
「動け!うごけぇ!」とキムが叫んでいる。
皆、為すすべなくキムを心配そうに見つめている。
キムの願いが通じたのかヘリコプターはゆっくりと宙に舞い上がった。
その時、ヘリポートに亀裂が走りバラバラになって崩れ落ちた。
ユーベルタンの最後の望みを賭けた研究所兼工場は、ユーベルタンの自爆プログラムで爆発して炎上した。
十六体のユーベルタンサイボーグは炎に包まれながらも、周囲を攻撃し続けていたが、一体一体と動けなくなり、やがて一体も動かなくなった。
研究所兼工場の爆発により爆風が、ヘリコプターを上空に押し上げて、ヘリコプターはフラフラとバランスを崩した。キムは操縦桿を操作してなんとかバランスを取り戻した。
飛び去るヘリコプターから、崩れ行く研究所兼工場が見えた。教会も既に崩れ去っている。メシスト達は遠く避難した場所で崩れ去るドームを見ていた。
「ところで、このヘリコプターは七人も乗れるのか?」と訊いたのは俊一だった。どう考えてもきつい。
「普通に考えて、ユーベルタン一人の脱出ヘリコプターだから七人は到底無理でしょうね。せいぜい三人とか四人が限度ってとこじゃないかしら?」とキャサリンが、この場におていも冷静さを失わずに言った。
「そんなぁ、かける、お前、空を飛んで一人分を減らせよ」と俊一が泣きそうな声で言った。
「そうしたいのは山々なんだけど、こうきつくちゃ外に出られないんだよ」とかけるが言った。
かけるの横には美樹と加奈がいてぎゅうぎゅうでドアまで辿り着けない。
ヘリコプターはふらふらしながら砂漠を飛んで行った。百メートル程行った所でフラフラとバランスを失い墜落した。
ヘリコプターは墜落したが、皆かすり傷程度で無事だった。キムは飛ばし方も分からなかったのだから、着陸の仕方など知りようはずがない。
皆が軽症で済んだのは、かけるが瞬間移動で、ヘリコプターを下から飛んで支えたおかげだった。




