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第四章の7ー復讐の鬼

第四章 トカゲの尻尾


復讐の鬼

 「加奈、キャサリン、本物のユーベルタンの居場所が判ったかい?」とかけるが囁いて訊いた。

「彼の肉声が聞こえた。この近くにいるわ!あの壁の向こうから聞こえたわ」と加奈が指を指し示した。

「どうやら、あの壁の向こうにコントロールルームがあるようなのよ!」とキャサリンが言った。キャサリンは設計図と見取り図とを見た時に、全てのコントロールが地下二階にある操作室から信号ラインが出ていることは分かっていたのだ。

「それで、どうやって入るんだい?」と俊一が訊いた。

「それが分からないの?見取り図にもドアが描かれてないのよ」とキャサリンが言った。

「ちきしょう!」ホルヘとキムは、加奈が指差した方に走り、壁を押したりしてみた。壁はびくともしなかった。かける達もホルヘ達と一緒に壁を手探りして、継ぎ目などを探したが見つけられなかった。


 再び、ユーベルタンの立体ホログラムが出現した。

「はっははは、無駄じゃ!お前達には開けられん。隠し部屋の位置を当てたことは()めてやるが、その壁はお前達には開けられん」と言いながら再び高笑いした。

 「それじゃぁ、あんたに自ら開けて出てきてもらおうかなぁ」と工場のドアに寄りかかって、一人の血だらけの警官が立っていた。俊一と美樹、そしてかけるは声を合わせた。


 「マ、マイク」

 ドアには顔から血を流し、全身血だらけに傷ついたマイクが立っていた。

立体ホログラムのユーベルタンの声が震えた。

「おっお前は!あの戦闘の中で生きていたのか!どうやってここまで来たんだ?」

「なぁに!死んだ振りをしていたのさ!人類軍の軍隊が催眠ガスを使った時はこの圧縮酸素を加えて息を吸わなかったのさ」と言って圧縮酸素グッズを見せた。(くわ)えると数十分は酸素が出る仕組みになっている物だ。

 マイクはさらに話を続けた。

「そうしていたらね、あんたの姿をしたサイボーグがやって来たのでね、奴らが人類軍と銃撃戦を始めたどさくさに紛れて、あの十体が来たドアからこちらまで来たのさ」とマイクは誇らしげに言った。

「お前に復讐するまで死ねないよ。お前にだけは絶対に復讐してやる。人を必要なくなったら、トカゲの尻尾を切る様に簡単に捨てやがって!お前だけは許せねぇ!」と言ったマイクの眼は、充血して正に血眼になっていた。

 「愚かな奴よのぉ!わざわざ殺されるために来たのか?そのまま寝てれば、助かったかもしれんのにのぉ」とユーベルタンが憐れんで言った。

「ほざけ!さぁ、話は終わりだ。あんたが自分でドアを開けて出てくるんだ!俺に殺されるためにな!嫌とは言わせねぇ」とマイクが言って、右手に持ったリモコンスイッチを(かか)げて見せた。


 「これが何だか分かるか?実はなぁ、あんたの最愛かどうかは知らないが、アイラとサイキスとユリサを少し離れた保冷車の荷台に眠らせてある。そして、その保冷車に眠っている一人一人の体の中には爆弾が仕掛けてあってな、そのリモコンスイッチがこれってわけだ!」とマイクは右手に持ったリモコンスイッチを振って見せた。

 「この地下室は電波遮蔽(しゃへい)している訳ではないらしいし、ここからでも充分に届くはずだ。さらにな、俺もあんたに似て用心深くってな、このリモコンだけでなく、俺の体にもスイッチが仕込まれていて、俺の血流が止まった時にスイッチが入る。

 それだけじゃなくて、時限爆弾もセットされているって用心深さだ。どうだぁ、完璧だろう!ふふふはっはは」とマイクは高笑いをした。

 さすがにユーベルタンの額にうっすらと脂汗が(にじ)んでいた。何もしなくても時限爆弾があり、マイクを殺してもスイッチが入る、これでは、さすがのユーベルタンとはいえ、どうしようも出来ない。

 ユーベルタンは少し考えて落ち着きを取り戻して言った。

「ふふふ、なかなかと言いたいところだが、それではどうやって爆弾を解除するつもりかね?そのリモコンかね?それならそのリモコンを奪えばいいだけのこと!」

「残念だな?爆弾を解除することは出来ねえんだ。道連れさ!」

「それならば助けようがない。助けようがないなら、どうしようもないな。後で子供達の遺体から、クローンでも作るわい!」


 「強がりは止めるんだな!ユーベルタン、確かにあんたは抜け目ない程賢い。だが、そんなあんたに一つだけ弱みがある。それはあんたの子供達だ!あんたの子供達が、コーネリアの子供の誘拐や脱税や公金横領で捕まる時、あんたなら彼らを切り捨てることが出来た。彼らを暗殺しても、何をしてでも、自分に火の粉が飛ばない様に出来たはずだ。俺の時の様に、トカゲの尻尾(しっぽ)を自ら切り落として、頭と胴体さえあれば、また尻尾は生える」

「だがあんたはそれが出来なかった。おかげで今まで一度も表にユーベルタンの悪いイメージが出てこなかったのに、世間では悪の権化(ごんげ)にされちまった。あんたがトカゲではなく、人間としての弱さを初めて見せた瞬間さ」


 ユーベルタンは何か言おうとして、思いとどまった様で、突然しおらしい声になって言った。

「私が悪かった。あの子達は何にも悪くない。頼むから助けてくれ!」

「ははは、とうとう自分の置かれた立場を理解したようだな!それが利口ってもん…グフッ!」マイクは最後まで言葉を言えなかった。

 地下一階にいたユーベルタンサイボーグ達が戻ってきていた。全部で十体、いや十六体全部やってきていた。眠りについていたユーベルタンサイボーグも、既に眠りから覚めたようだ。

 その内の一体がマイクの背中に強烈なパンチを見舞った。ユーベルタンサイボーグは、マイクの腎臓の位置に腎臓が潰れるほど強く叩いたのだ。

 マイクは苦しそうにその場に(うずくま)った。苦しくて声も出せない様だった。マイクの(ひたい)には脂汗(あぶらあせ)がびっしょり浮き出ている。さらに一体のユーベルタンサイボーグが、(うずくま)ったマイクの(あご)を蹴り上げた。

 嫌な音がして、マイクの顎の骨が砕けた音がした。マイクは七転八倒の痛みに、床を転がりまわった。

 さらにユーベルタンサイボーグは、転がるマイクの右足の膝を踏みつけた。マイクの足は膝を踏みつけられて大きく変形した。

 ユーベルタンは笑っていた。大きな笑い声で高笑いをしていた。

「あっははは、愚か者め!私に勝った気でいたのか?それがお前の甘さよ。詰めが甘い、まだまだよ」

 「い、いいのか?俺がリモコンのスイッチを押せば、お前の……うわぁぁ!」言いかけたマイクのリモコンを持っている右手をユーベルタンサイボーグが踏みつけたのだ。

 右肩を、右肘を、右手を、何度も踏みつけられ、マイクはリモコンのスイッチを押そうにも押せず、リモコンを右手から手放した。リモコンは床の上に落ちて転がった。

 「はははははは、マイク君、君のやろうとしていることなど、全てお見通しだよ」

「さぁ、私の可愛いサイボーグどもよ、そのリモコンをこちらに持って来い!」

「そうはさせるか!」と言うとマイクは、左手でリモコンを拾い上げ、リモコンのスイッチを押した。


 「ふふふ、これで二分後にドッカーンだ!」

ユーベルタンは苦虫を噛み潰した様な顔で黙っていた。

「ユーベルタン、おまえは俺が左手でリモコンを押す可能性を残したままだった。お前は俺の腎臓と右足と右手を潰しただけで安心した。お前の負けだ!あいにく、腎臓も手も足も二つずつあるんだよ!」

 「ふっふふ、私の負けだと!ふざけるのもいい加減にしたまえ!私に負けと言う言葉などない!私の子供だと!ちょうどいい、私は子供達には、ほとほとうんざりしておったのだ。私の顔に泥を塗りおって、愚か者達よ!奴らのおかげで私の名声は地に落ち、一度も悪評がなかった私なのに!」

「あれだけ目をかけてやったのに、馬鹿は馬鹿のままじゃった。よかったよ、マイク君、君のおかげで奴らを始末出来た。そして、私は子供達を殺された悲劇の父親として同情が集まり、またカムバックの可能性を残す。子供であろうと私が生き残ることが、最優先の問題であることには、変わりはないのだよ」とユーベルタンが言った。

 「お前は自分の子供達を愛していないのか?」とマイクは不思議そうに訊いた。

「もちろん、愛してるさ。だが彼ら以上に自分を愛しているだけのこと。何か悪いことあるかな?」

「自分の子供達が死ぬかも知れないのに、それでも自分のことだけを考えているのか?」

「それが何か悪いかね?」

 「いいや!悪くないよ、少なくとも私にとってはね!でも、あんたの子供達にとっては、愛情のかけらもない父親ということはショックだろうがね!」と言って、マイクは不敵な笑みを浮かべた。

「どういうことだ?」ユーベルタンの顔に、一瞬狼狽(ろうばい)の色が浮かんだ。


 「このリモコンには盗聴器が仕掛けてあったと言ったらどうする?」とマイクが苦しいにも関わらず、嬉しそうに言った。

「そして、今の会話を、あんたの息子のサイキスと娘のアイラとユリサが聞いていたらどうする?」とマイクが血が(したた)る顔に、血が(にじ)む口をにやりと歪ませて笑った。

 ユーベルタンの顔から完全に笑みが消えた。

「まさか、そっそっそんなはずはない!」ユーベルタンの声はドモリ明らかに動揺していた。


 ルルルル……ユーベルタンの携帯電話が鳴った。

ユーベルタンは動揺のあまり、立体ホログラムを付けっぱなしにしていた。ユーベルタンは襟元にマイクロフォンを付けていたが、そのマイクロフォンが携帯電話の相手先の声まで拾っていた。

ユーベルタンの電話の会話が筒抜けになっていた。

 「はい!」とユーベルタンは突然の電話に、眉を(ひそ)めて(おごそ)かな声で電話を取った。

「お父さん?」電話の声はアイラだった。アイラの声は疑心に満ちていた。

「おおっおぅ、アイラか?アイラなのか?大丈夫なのか?心配していたんだぞぉ」

「お父さん、今の話、全部聞いたわ。お父さんは私達を愛するより自分を愛していたのね!」アイラの声は冷たかった。

「父さん!嘘だろう!父さんが僕らを見殺しにしようなんて思ってないよね」と男の声がした。

大統領選挙の時に聞いた声、サイキスだ。軟弱そうな感じの声に特徴がある。

「お父さん、お父さんのこと大好きだったのにどうして?私達、お父さんのお荷物でしかなかったの?」と先程とは違う女の声た。ユリサだろう。

「お前達、どうして?このマイクとグルになって父さんをはめたのか?」とユーベルタンは、サイキスやユリサの質問には答えずに逆に質問で返した。

「信じていたお父さんは、いつまで経っても助けてくれそうにないしね、私達が刑務所に入れられても、面会にも来てくれないし、私達のこと本当に気にかけてくれてるのか心配になっていた時に、サイキスがマイクから脱獄してお父さんの気持ちを確かめよう!という案を持ちかけられてね!そのメッセージは、私とユリサのいる刑務所まで届けられて、脱獄の案に同意したのよ」

「何言ってるんだ、父さんには、お前達の面会に行けない事情があったことは、お前達も分かってくれていたとばかり思ってたよ。そんなことよりも、脱獄すれば、刑期が伸びることを考えなかったのか?」と珍しくユーベルタンが感情的になって言った。

「事情って何よ?実の息子や娘に会いに来れない程、立派な理由があるなら、是非とも聞いてみたいものだわね!刑期が延びたっていいのよ!どうせ私達は、この先、前の様に会社を経営してお金儲けすることも出来ないもの。お父さんと違ってお金を儲けるのが下手ですからねぇ、私達は!」アイラは感情的になりそうなのをグッと押さえて皮肉気味に言った。

「父さんに嫌味を言っているのか?お金儲けることの何が悪い!私のおかげで、お前達も贅沢が出来たんじゃないか!」

「そうよね、私達はお父さんのお金がないと何も出来なかったものね!」とアイラがひねくれた感じの声で言った。

「そういうことを言っているんじゃない!」とユーベルタンは怒った。

「もう、いいわ!これ以上話していても(らち)があかないわね」アイラが電話を切ろうとした時に、末っ子のユリサが話に割り込んだ。

 「お父さん、最後にこれだけは訊かせて!もし私達が本当に死んでいたら、お父さんは泣いてくれた?」

ユーベルタンは何も答えることが出来ず、(しば)しの沈黙だけが流れた。

沈黙を答えと解釈したユリサは諦めた声になって言った。

「分かったわ!お父さん、例え、お父さんが私達のこと愛してくれていなくても、私はお父さんのこと愛してたわ!それだけで充分よね。そうでしょう、お父さん!」ユリサは言い終わると、少しユーベルタンの反応を(うかが)っていたが、ユーベルタンが何も言わないので、そのまま話し出した。

「分かったわ、お父さん!今まで育ててくれてありがとう。さようなら」と言って電話を切った。

最後の方は、ユリサは涙声になっている様だった。

ユーベルタンは、携帯電話を耳に当てたまま暫く動けなかった。

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