第四章の5ー地下二階へ
第四章 トカゲの尻尾
地下二階へ!
かける達は七人揃ったことで喜んでもいられない。マイク達が勝っても、ユーベルタンとユン教教団が勝っても、どちらが勝っても、隠れているかける達にとっては有り難くない状況だ。
早くここから抜け出さないといけない。だが、地下エレベーターは地下ホールにあるが、銃撃戦の真っ只中だ。そんな中を進むことは出来ない。
「ユーベルタンは用心深い男よ!きっとどこかにエレベーター以外の出入り口があるはずよ」とキャサリンが言った。キャサリンは眠らされていたために、起きてから暫くはボーっとしていたが、今は完全に頭の冴えを取り戻していた。
俊一は透視して、加奈は地上からの少しの風の音も聞き逃すまいと出入り口を探した。だが見つからなかった。
「ねえ、ここにはユーベルタンしかいない訳でしょう。それなら本物のユーベルタンを探して聞きだせないかしら?」と加奈が言った。
「何言ってんだよ!ユーベルタンが出入り口があっても俺達に教える訳ないだろう」とホルヘが子供を窘める様に言った。
「でも加奈の言う通りかもしれないわよ!左足が義足のユーベルタンであれば逃げ足が遅いから、なるべく出入り口の近くにいるんじゃないかしら!そうであれば、ユーベルタンを探せば、例え出入り口を教えてくれなくても、自分達で見つけられるかも知れないんじゃないかしら」と美樹が言った。
「その通りかもしれないわね。俊一、加奈、本物のユーベルタンを見つけられる?」と美樹が訊いた。
俊一と加奈は首を振った。
皆はせっかくのアイデアだと思ったが、本物のユーベルタンを見つけられないと知り、がっかりと肩を落とした。
「待って!諦めるのはまだ早い!」とかけるが興奮した様子で言った。
「かける、何か名案でもあるのか?」とキムが訊いた。
「先程、ユーベルタンの声がスピーカーで流れてきた。あれはまさしくユーベルタンそのものだった。ユーベルタンサイボーグの思考はユーベルタンであっても、声帯はユーベルタンではないもんね。ならば、あの声の発信源となっている放送室がどこかにあるはず。その場所を割り出せばユーベルタンがいる可能性が高いはずじゃないかな」と言った。
「分かったわ、早速やってみる!」とキャサリンは言うと、テレパシー通信で地下室のコンピューターにアクセスして、設計図に描かれているスピーカーからの音声信号ラインを追って発信源を探った。発信源の記号を部屋の設計図と見取り図を重ね合わせて探し出した。
「どう、キャサリン、分かった?」と美樹が訊く。
「どうやら地下二階があるみたいなのよ。私達が立っているのは地下一階で、この下にもう一階あるの!声だけでなく各部を制御している信号線はそこから出てるわ」とキャサリンが言った。
「そこに行くにはどうしたらいいんだ?」とホルヘが訊いた。
「それが、今、銃撃戦の真っ只中のエレベーターホールに隠し扉があって、隠し階段がある様なのよ」
「それじゃぁ、どうやって行くって言うんだい?あの銃撃戦の中に入るならエレベーターで塔のある地上に出るのと一緒じゃないか!」と俊一が腹立たしげに言った。
「そんな怒らないでよ!キャサリンのせいじゃないんだから」と加奈が俊一を諌めた。
「実は、もう一つ道があるのよ。ユーベルタンは生きているから呼吸している。だから地上と地下を結んでいる換気口があるのよ。ただ、かなり狭いわ。匍匐前進でやっとのスペースしかないわ」とキャサリンが言った。
「でもそこを行くしかないだろう」とキムが言った。
「ダクトは二つルートがあって、吸気と排気とあるんだけど、ただ強制換気をするためにファンが常時回っているわ。ファンを止める制御は全て地下二階でやっているのよ」とキャサリンが言った。
「ファンだって?それじゃぁ、そのファンを止めて入ったとしても、下手に途中で回りだしてしまったら、ファンによって体が切れちまう可能性もあるってこと?」とキムが叫んだ。
キャサリンはその通りという様に頷いて見せた。エレベーターホールではさらに激しい銃撃戦が行われている。行くしかなかった。
かける達七人は換気ダクトの中にいた。キム、俊一、キャサリン、加奈、ホルヘ、美樹、かけるの順に肘で這って進んだ。換気ダクトが七人の重力で落ちてしまわない様に脆い個所は一人ずつ進むなど配慮して進んだ。
換気ダクトは地下二階から地上を結び、途中で地下一階からのダクトが連結されていた。七人は既に最初の関門の前にいた。
地下二階から地上へのダクトに連結する部分で、ファンが高速で回っていた。ファンが回っている場所は、ファンに合わせて間取りが広く作られていたので、頭を屈めて立つことが出来た。
ファンに吸い込まれそうになる程、風圧が凄い。先頭を進んでいたキムは直系十センチはあろうかという鉄棒を持って機会を窺っていた。鉄棒は落ちていたのではなく、キムがキャサリンの部屋に使われていた鉄の棒を、無理矢理力で引きむしったのだ。
この棒をファンの中に入れて、引っ掛けてファンを止めている間に、通り抜けるつもりだ。俊一にはファンの動きを見るだけの動態視力があるが、俊一では鉄棒を差し入れて、その時のファンの回転力に負けてしまい押さえていられない。
俊一とキムは呼吸を併せて一,二、三、一、二、三とタイミングを併せて、一、二、三の三と言った時に、キムは鉄棒をファンの中に刺し入れた。
鉄棒はファンのスピードに弾き飛ばされて、キムは大きくバランスを崩した。失敗だった。
「凄い威力だな、腕が痺れちまった!」とキムは腕を振った。
「俊一、さぁ、もう一度行こうか!」とキムが言った。他の者達は黙って見ているしかなかった。
一、二、三、一、二、三でキムは再び鉄棒をファンの中に突き立てた。ファンのプロペラが鉄棒とぶつかり火花を散らした。
鉄棒は、ファンの周囲の出っ張りに引っ掛かって、ファンの動きを止めた。成功である。急いで、七人はその間にファンのプロペラの間を通り抜けた。
皆がファンを抜けて、最後にキムが抜けて、キムが向こう側からファンを止めていた鉄棒を無理矢理引っこ抜いた。
「うわぁぁ!」
暫くして、再びファンはもの凄い勢いで回り出し、その風圧で皆は吹き飛ばされてしまった。吹き飛ばされた先は地下二階と地上を結ぶダクト(通路)だ。
そのダクトは垂直ではなく坂になっていた。垂直にするとファンがあるのはいいが、地上の埃が直接部屋に入るので、スロープにして埃を途中部分で止めるためにあるのだ。
再び回転し出したファンに吹き飛ばされた七人は、ダクトのスロープを下ってしまって、地下二階の水平な位置まで落ちてしまった。
落ちたところはダクトが地上から埃や水を地下二階に持ち込まない様にダクトの中で窪んでいた所に、皆上に折り重なって落ちてしまった。
「いててて!」
「早くどいてよ、重いったら!」
やっと窪んでいる部分から、水平な部分に這い上がった七人は怪我がないことを確かめ合った。
本当は地下一階から地上に這い上がって逃げる作戦だったが、このスロープを登っていくことは出来ない。急な上に足場がなく滑りやすいときたもんだ。それに風圧が強い。かけるは飛んで行けるが、地上付近にも排気ダクトのファンがある。
かけるが飛んでいってファンを止めることは出来ない。キムを運んでいくことも出来そうにないし、仮に運べたとしても、足場がなく踏ん張れない場所では、キムでさえファンを止められない。こうなってしまっては、地下二階に進むしか他に方法がなかった。
地下二階にもファンが回っている。やはりファンの大きさを考慮してファンがある場所は比較的広いのだが、風圧でファンに近寄れない。キムならば近寄れるが、踏ん張れない状態でファンを止めるのに踏ん張ることが出来ない。
かけるが窪んでいる引っ掛かりに片方の足を掛けて、もう一方の足を伸ばした。そのかけるの足に、美樹が片足を引っ掛けて、もう一方の足を伸ばした。そこにホルヘが片足を引っ掛けて、もう一歩の足を伸ばしてという具合に順々に皆の足で踏ん張って、俊一が一番先端に付いて足を伸ばした。さらにその俊一の前にキムが行って、俊一の伸ばしている足に片足を掛けて踏ん張った。
「届かない、もっと足を伸ばしてくれ!」とキムが言った。
「うーん」と唸って各々が足を出来るだけ伸ばした。それでもキムの手はファンには届かなかった。
キムは両足を俊一の足に掛けて両手で鉄棒を構えた。この体制ではキムが踏ん張れないので危険だが、他に方法が思いつかなかった。
一、二、三、一、二、三でキムは両手で掴んでいる鉄棒をファンの中に差し入れた。
「うわぁぁ!」とキムは弾き飛ばされた。
キムといえども踏ん張っていないので力を発揮出来ないのだ。
「大丈夫か!キム!」とキムの一番近くにいた俊一が心配そうに叫んだ。
「大丈夫だ!これぐらい、なんてことはねえ!もう一度行くぞ!今度こそファンを止めてやる」とキムは言うと、もう一度、伸ばされている俊一の足に自分の両足を掛けた。
一,二、三、一、二、三と俊一と掛け声を合わせて、キムは、ファンに向かって飛び込むようにして、鉄棒をファンの中に差し入れた。
キキキーバキという音がして、ファンはなんとか止まったが、既に直径十センチもあろうかという鉄棒が曲がっている。幾度にも渡るファンとの接触のため曲がってしまったのだ。
「みんな、早く抜けてくれ!鉄棒がそんなにもたない。俊一、キャサリン、加奈、ホルヘ、美樹が抜けた所で鉄棒がさらに曲がって、引っ掛かりが外れファンが動き出した。
キムは急いでファンの隙間に飛び込んだ。
キムの足は回るファンに弾き飛ばされたが、靴にファンが当たっただけでキムは無事だった。
最後に残ったかけるは皆のいる場所に瞬間移動してファンを通り抜けた。ファンが回りだしてから、今度はファンに吸い込まれそうになる。皆、急いで先へと進んだ。
この先はファンはないはずだ。ひとまず一安心だ。換気ダクトは狭くなり、また匍匐前進で行かないといけなかった。狭い換気ダクトを通り進むと、下から灯りが洩れてくる所に出た。
俊一が周りに誰もいないことを確認して、かける達七人は地下二階の換気ダクトの点検口から地下二階の通路に下りた。