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第四章の4ーユーベルタンサイボーグ

第四章 トカゲの尻尾


ユーベルタンサイボーグ

 六人が下りた地下は広く丸いホールの様な所で、ホールから放射状にドアが幾つもある。

「本当にユーベルタンがいるだけの施設だったとしたら、大きすぎないかい?」とかけるが言った。

その時、ホールに反響してスピーカーから声が流れてきた。

「はははっははは、やっぱりかける君だね。君の声は電話ですぐ解ったよ」

「ユーベルタンか?僕だと知ってて、故意に僕達を招き入れたのか?」

「招き入れた覚えはないよ。君達が人の敷地に土足で勝手に入ってきたんだろう」とユーベルタンの声には静かな怒りが込められていた

「まぁいい、ところでその節は君のおかげで私の体はこんなになってしまったよ」と声が流れると、前方に座っているユーベルタンが現れた。

ユーベルタンの左足には義足が付いていた。

 「やはり、お前だったのか」とかけるの目は鋭くなった。

「君の左肩も撃たれたはずだが完治した様だね。それに比べて私の左足は撃たれた場所が悪くてね、しかも医療が充実していないここでは、充分な治療を受けることは出来なかったよ。ふふふ、でもね、そのおかげで私は君達以上の能力を手に入れたんだよ」

かけるは黙っていた。

 「そうそう、君のお友達も君達を待っていたんだよ」と言ってユーベルタンが指を鳴らすと違うスクリーンにキャサリンが透明なカプセルの中で眠らされているのが映し出された。

「キャサリーン」と加奈が叫んだ。

「そしてもう一人の賞金稼ぎは君の友達と知らずに、可愛そうに既に処刑されてしまったよ」と言って、ユーベルタンが指を鳴らすと、別のスクリーンに投影されたルードルシュタインの体と首が映し出された。

 ルーベルシュタインの首が体の足元に置かれて、首はこちらを見ていた。床に置かれたユーベルタンの顔は無念さを物語っていた。

 加奈と美樹が「ひぃぃ!」と声を上げて目を(そむ)けた。かけるは「ルードルシュタイン」と独り言を呟いて、眼に涙が溢れて来た。

そして悲しみはユーベルタンへの憎悪の炎に包まれた。

「調べたところ彼は賞金稼ぎだ。賞金稼ぎならこんな危険も承知の上だろう」

「いったい、何が目的だ」とかけるが言った。

「君には失望した。君はコーネリア暗殺を持ちかけた私を裏切って、私は大きな痛手を負った。その(つぐな)いをしてもらいたいのだよ」

「嫌だと言ったら……?」

「君の可愛いお友達が、そこの賞金稼ぎの様に首が胴体にさよならを言うことになるだろうね」とユーベルタンが言うと、スクリーンに映し出されていたキャサリンの顔がアップになって映された。

「何が目的なんだ?コルシカ王と同じ様に人質を取りやがって、また僕があなたの命令を拒絶し野望を打ち砕くと知っているだろうに」と怒りの目に燃えたかけるは言った。

「ふふ、そう言うと思ってたよ。勇ましいことだね。だがねぇ、私は同じ過ちは二度としない。私にとっては、もはや君の協力など必要ない。君を試してみたかっただけだ。私の力をほんの少しだけ見せてあげよう!」と言ってスクリーンもユーベルタンも消えた。ユーベルタンは立体ホログラムの映像だ。


 ホールにズラリと並んだドアの中の一つが開いた。

「何だ!あいつは?」とホルヘが言った。

「どうしたって言うの?こんなことってあるの?」と加奈が言った。

 ドアの向こうから歩いてきたのはユーベルタンだった。

不思議なことに入って来た三体は、全てユーベルタンだったのだ。

「ユーベルタンは三つ子?」と美樹が言った。

「そんな、馬鹿なことってあるのか?」とキムが言った。

またスピーカーからユーベルタンの声が聞こえてきた。

「君達に特別に教えてあげよう!私は以前から極秘に研究させていたことがあるんだよ。そして私が左足を怪我して切り落とすことになってから、その研究を完成させるために全資産を投げ打った。分かるまい!君達にはそんな執念が!」

「一体、何をしたんだ?」とかけるがスピーカーに向けて怒鳴った。

「私はついにクローン技術を開発したのだぁ!私の髪の毛など遺伝子情報を持つものからクローン人間を開発した。だがただのクローンではない。体はサイボーグになっているが、脳は私のクローンだ」

「君達はダン、クリスティーナ、ザルドーを知っているね。私の忠実な部下だった。アイラやユリサの命令によってコーネリアの子供達を誘拐したが、奴らを後ろで操っていたのは私だ。奴らは全てが機械であるアンドロイドであるために、君らにあっさりやられてしまった」

「このユーベルタンサイボーグはダン、クリスティーナ、ザルドーの性能をそのまま受け継ぎ、脳は私のクローンだ。このクローンの技術は素晴らしい。何体でも私の複製が出来る。複製のDNA情報からも複製が出来る。これで私はいつまでも生き続けるのだ!ははははは」とユーベルタンは高笑いをした。

「冗談じゃない!そんなこと許させるか!」とかけるが言った。

「愚かじゃのう!まだ分からぬのか?そこに出した三体だけではない。無数に出すことが出来る。サイボーグの強さと私の賢い頭脳を(あわ)せ持った私のクローンが世界にはびこれば、世界の利益を私が独り占めすることも出来るのだ。お前らなど、そこのたった三体ですら倒せないだろう!ははっはっは」とユーベルタンは高笑いした。三体のユーベルタンも同じ様に高笑いして、スピーカーの電源は切れた。


 いきなり三体のユーベルタンサイボーグが襲ってきた。俊一と加奈は隅に逃げた。美樹は横蹴りを放ったが、ユーベルタンサイボーグは何事もない様に避けた。回し蹴り、正拳突き、かかと落としと次々と連続業を繰り出すが、ユーベルタンサイボーグはまるで労せず()けていた。

 「カァッ」とユーベルタンサイボーグが、手を開いて相撲の突っ張りを気合と共に美樹に向けて放つと、美樹は壁まで飛ばされていた。


 キムは別のユーベルタンサイボーグに組み付き、得意の怪力でベアハッグで締めて投げ飛ばそうとした。だがユーベルタンサイボーグはいとも簡単にキムの腕を掴んでキムの手を逆に捩じ上げ()ね退けた。

さらにキムが相撲の様な突っ張りを見せたが、体で受けてもびくともしなかった。

「デヤァ」とユーベルタンサイボーグが気合一発、鳩尾(みぞおち)に向けて放ったパンチでキムも飛ばされてしまった。


 ホルヘは最後の一体のユーベルタンサイボーグの素早く彼の後ろに回ったが、ユーベルタンサイボーグはホルヘのスピードを上回り、ホルヘの後ろをついた。

そしてホルヘの後ろから突っ張りを受けてホルヘは前のめりに飛ばされた。


 かけるは念力で、三体の内一体のユーベルタンを飛ばして、もう二体にぶつけようとした。

 だがその一体はその二体にぶつかりそうになった時に二体とくっつき飛ばされない様に三体で踏ん張った。

 かけるが念力を強めても、もはやびくともしない。かけるが力負けして膝をガクッとついた時、三体は一気にかけるに近付いて三体は同時に突っ張りをかけるに見合った。

 かけるも咄嗟に上に飛んでかわしたが、第二派の突っ張りが上に跳んで避けたかけるを襲った。かけるは高く舞い上げられ床に落ちた。


 「はははっはは」と三体のユーベルタンサイボーグは高笑いをした。高笑いの笑い方はユーベルタンそのものだった。

かける達は全く歯が立たなかった。

三体のユーベルタンサイボーグは、俊一と加奈をギロリと睨んでホールを出て行った。

 俊一と加奈は抱き合ってぶるぶると震えていた。三体のユーベルタンサイボーグが出て行った後には、震えている俊一と加奈、そして横たわっている美樹とホルヘとキムとかけるだけが残された。


 「全く相手にならなかったな!」と俊一は皆に向かって言った。

「本当にもう、ユーベルタンの嫌な顔があんなに一杯いるなんて嫌になっちゃう!」と加奈が言った。

「確かにあれじゃぁ、勝ち目がないわね」と美樹が言った。

「でも体がダン達と同じなら、塩水に弱いんじゃねえの?」とホルヘが言った。

「どうかな、ユーベルタンがあの時の戦いのままのボディーを使ってくれていればな」とキムが言った。

「どういうことだよ、それ?」とホルヘが訊いた。

「そうよね、ダンやクリスティーナやザルドーの戦闘をデータとして分析していることは充分に考えられることよね」と美樹が言った。

「それで塩水にも強い材質の開発をしていることは考えられるわね」と加奈が言った。

「改良したのは材質だけじゃない、僕達の戦闘データも分析済みみたいだ。ダンやクリスティーナやザルドーの時とは戦い方がまるで違う。全く歯が立たなかった」とかけるが言った。

 皆、ユーベルタンの強さを考えると(うつむ)いてしまった。

「落ち込んでもいられないわ!キャサリンを助けなきゃ!」と美樹が言った。

「でもどうやって?」と俊一が訊いた。

アイデアが浮かばなかった。

 会話のない気まずい空気が流れた。

俊一は全てのドアノブを回してみたが鍵が掛かっている様だ。監視カメラにより二十四時間監視されている。捕われの身になってしまった。

 「皆、ちょっと集まってくれないか!」とかけるは言って皆小さな円を作って集まった。これで監視カメラに映っていても盗聴されてない限り大丈夫なはずだ。

「俊一、加奈、盗聴器は仕掛けてあるかな?」とかけるが念のため訊いた。俊一は辺りを見回したが、さすがに分からなかった。

 盗聴器は声を小型マイクで拾うはずだ、その際のわずかなハウリング音や拾った音を隣の部屋などで聞いていたとしても加奈は聞き取れる。

断定は出来ないが盗聴器はないであろうということだった。

「まず、キャサリンの救出が最優先だね」とかけるが切り出した。

「キャサリンが、この教会に侵入する前に、キーワイルの警察に連絡していたわ。キーワイルの警察がもう来ているのかしら?」と加奈が言った。

「警察だけでなく、消防車なども来ているだろう。かけるが派手に爆発や火事を起こしたからなぁ」と俊一が言った。

「あの爆発音はかけるがやったの?」と加奈が訊いた。俊一以外爆発や火事を見ていなかったのだ。今もなお、壊れたエレベーターから激しい音が聞こえてきた。

「まぁ、それにしてもこれなら一人分しか食事が要らない訳だな。ユーベルタンの本体以外はサイボーグだから食事なんか必要としないわな」とホルヘが言った。

「おそらくルードルシュタインが倒した衛兵というのは、サイボーグユーベルタンではなくて、ロボット衛兵だったのだろう。ルードルシュタインにユーベルタンサイボーグは簡単には倒せないだろう。ロボット衛兵がいなくても、ユーベルタンサイボーグでもユーベルタンに食事は届けられるからね」とかけるは言った。


 「でも良かったわよ!かけるが火事や爆破してくれて、何もなければ警察も悪戯(いたずら)電話で帰ってしまうところだったわ」と美樹が言った。

「ちょっと待てよ!それじゃ僕達がここにいたら、消防車が火を消してくれたとしても、警察は誘拐事件の電話は悪戯と思って帰ってしまうんじゃないか?」と俊一が言った。

「そうね!それはちょっとまずいわねぇ」と美樹が言った。

 「加奈、外の様子を探ってくれないかな?消防車が来たとか警察が来たとか。俊一はここから地上を透視出来るかい?」とかけるが訊いた。

 俊一は首を横に振った。さすがに地上から地下が透視出来なかった様に、地下からも地上が透視できない。おそらく壁の材質によるものだろう。

 だが加奈は先程、キムがエレベーターの入り口を塞いだが、空気は入ってくるので音は伝わってくるはずである。加奈は耳をすませ外の様子に集中する。

「来た!消防車のサイレンの音がやって来たわ」と加奈が言った。

「警察は?」と美樹が訊いた。

「誘拐事件の電話があっても警察のサイレンは鳴らさないだろう」とキムが言った。

「かける、外に行って消防士と警察に話してくれない」と美樹が言った。

「もちろん、それはいいんだけど、ユーベルタンは僕の能力を知っているはず。それにも関わらずエレベーターの入り口には全く関心を示さなかったのは何故だろう?」とかけるが言った。

「それは気付かなかったか、警察などに知らされてもなんてことないという自信か、多分後者だろうな」とキムが言った。

「すごい、自信ね!」と加奈が言った。

「それだけ自信もあるだろうよ。俺達だって誰も相手にもならなかった。そんなユーベルタンサイボーグが無数にいるんだから」と俊一が言った。

「とにかくかける、上に行ってみてくれよ!」とホルヘが言った。

「そうだな!ちょっと言ってくると言うなりかけるは瞬間移動で塔のある地上に出て外を(うかが)った。


 ちょうど、消防車が入って来た所だった。警察が先に来て教団幹部に取り調べをしている。

 かけるはパトカーの方に走って行った。さすがにこの状況では、教団幹部がかけるのことに気付いても何も出来ない。

 教団幹部を取り調べていた警察官と現場検証をしていた警察官がいた。警察官も走って来るかけるの姿に気がついた。かけるは話し掛けた。

「すみません!あの塔の地下に友達が閉じ込められているんです。助けてください」

 警察官はかけるの方を向いて、にたりと嫌な笑いをして言った。

「久しぶりだねぁ、かける君って言ったっけ?」

「マ、マイクさん!」かけるは自分でも信じられないという様な高い声を出した。

 コーネリアが大統領に出馬した際に、コーネリアの秘書を務めて、コーネリアが大統領になるのを阻止するために暗殺まで企てた男だ。暗殺未遂の罪で刑務所に入れられていたが、アイラ、サイキス、ユリサと共に脱獄したというニュースは聞いていた。

 だが何故、そのマイクが警察官の恰好(かっこう)をしているのだろぅ?かけるには事態がまるで(つか)めなかった。かけるは後ずさりして逃げ出そうとする所を、マイクがかけるの腕を掴んだ。

 「君にも随分世話になったねぇ!君が余計なことをしてくれたばっかりに、私は暗殺未遂の罪で刑務所入りだよ。私はずっと復讐のチャンスを待っていたんだ。囚人を仲間に誘い込んでね。そしてやっとこの機会を得ることが出来た。君への礼も後でたっぷりとさせてもらわないといけないな!」

「このインテリの私が、刑務所でどんな恥辱(ちじょく)を受けたか君には分かるまい。刑務所の囚人など(けもの)にすぎない。いたいけな私を無理矢理に数人で押さえつけられて、うつ伏せにされて何人も代わる代わるね。刑務所に入所して数日した夜のことだったよ」

 「君にもたっぷりと復讐してやらないといけないね。だが、君より先にユーベルタンだ!私を裏切り捨てたユーベルタンを許しておく訳にはいかない。ユーベルタンはどこにいる?」

 かけるは何とかマイクの腕を振り解いて逃げ出そうとしたが、目を血走らせ復讐の鬼と化したマイクの手は振り解けなかった。

 かけるは何も言わなかったが、かけるが「塔の地下で友達が捕まっている」と最初に言ったことをマイクは聞き逃していなかった。

 マイクはピーと口笛を鳴らすと、教会の門の外で待機していた二台のトラックが、教会の敷地内に乗り込み、荷台の(ほろ)を開けると、迷彩服姿の男女が無数に降りてきた。

 皆、手にはロケットランチャーやマシンガンやレーザーガンなどの武器を持っていた。

 それを合図に今まで放水活動をしていた消防士も武器を取った。皆、マイクの手下らしかった。

 厨房の爆発、炎上、そして、礼拝堂の火事であたふたしていたユン教団幹部は、消防士や警察や迷彩服の男女が武器を持っていることに唖然(あぜん)としていた。そこに迷彩服の男女がマシンガンをぶっ放した。

 「うわぁ」と悲鳴を上げて次々に教団幹部が倒れていった。火事であわてていたため、黒ずくめの衣装を着ておらず、ただの人達が次々と倒れていった。

 教団幹部もやっと事の異常さに気がつき、武器を持って応戦した。


 かけるはマイクに後ろ手を取られて、塔の中に入っていた。かけるの後ろで、ユン教教団幹部対マイクの部下の激しい銃撃戦が始まった。

 実は教会側から火事の連絡があり消防車の出動を依頼した時に受けたのはマイクの部下だったのだ。

 マイクはユン教の教会にはかなり前から目をつけていた。だがユーベルタンがどこにいるか分からないので手を出さなかったが、警察や消防の電話を盗聴していて、教会からの電話を傍受(ぼうじゅ)したのだ。

 キャサリンの携帯から掛けられた電話はキーワイルの警察が受け取った。そして、パトカーで巡回中の警察官が現場を見に来たのだが、その時には既に激しく教会が燃えていた。

 誘拐どころの騒ぎではなく、すぐにその警察官は本部に無線で消防の手配と応援を頼もうとしていた。そうしている内にサイレンが鳴って消防車とパトカーがやって来た。

 警官は自分が救援を呼んだパトカーだと思って近付くと、いきなり偽警官と偽消防士がいきなり発砲してきた。

 本物の警察のパトカーは蜂の巣にされ、無線で応援を呼ぶのが手一杯だった。


 かけると一緒に入ったマイクは、壊されている塔の柱のエレベータを見た。既にぽっかりと穴が空いてワイヤーが何本か下に繋がっている。穴から覗いてみると地下の明かりが洩れていた。マイクは左手で後ろから前に振ると、迷彩服姿の奴らがそのワイヤーにぶら下って下りていった。

 かけるはマイクに連れ去られている時に懸命に加奈に対して思念を強く持った。かけるにはテレパシーを送る力はないが、加奈は強い思念であれば感じ取れるかもしれない。

 かけるは加奈に「緊急事態だ!早く逃げろ!」と強く思念を送っていた。

 加奈はかけるの思念を感じ取った。加奈は皆にかけるの伝言で緊急事態だから早く逃げないといけないわと皆に伝えた。俊一がドアの向こうに誰もいないことを透視して、キムは急いで近くのドアノブを掴み、ドアのロックをぶち壊してドアを開けた。

 ドアを開けると通路が続いている。どこに抜けるか分からなかったが、皆でドアから廊下に出て、俊一が部屋を一つ一つ透視して回った。

 既にマイクの部隊は地下に下りていた。

キムが入り口を塞ぐために曲げていたエレベーターの鉄のドアをバーナーで焼いて穴を作る音がしていた。

 俊一は一番奥の部屋にキャサリンが閉じ込められていることを透視した。その部屋に俊一とキムとホルヘと美樹と加奈は入った。キャサリンは横になって透明なカプセルの中で眠っていた。

 エレベーターのドアに穴が開き、次から次へと消防服姿や警察官姿、そして迷彩服姿の男女が次々と入って来た。かけるもマイクに促され降りてきた。


 「いやぁ、マイク君、お元気そうで何よりだね」スピーカーから緊張感のないユーベルタンの声が流れてきた。

「うるさい!お前のせいで俺がどんな目に合ったと思っているんだ!人を裏切って捨てやがって!」とマイクは叫んだ。マイクはユーベルタンのスピーカー放送が始まって既にかけるの手は放していた。

「何を言うんだい!君と私とは元々相手を利用する間柄(あいだがら)のはず。君は私を利用し、私は君を利用する。君が私の役に立たないどころか、私に飛び火すると思ったから、君を切り捨てただけのことじゃないか」

「うるさい!、裏切り者め、出て来い!」とマイクは言いながら機関銃を辺り一面に乱射した。

「君こそ私の持つユン教に見せかけて、私の子供達のアイラやサイキスやユリサを脱獄させた。彼らは今どこにいるんだい?」とユーベルタンが言った。

 かけるは今ようやく理解した。脱獄がユーベルタンの仕業であれば稚拙(ちせつ)すぎる訳が分かった。

 ユーベルタンではなく、マイクがユン教に見せかけた仕業だったのだ。

「ちゃんとまだ生かしてあるさ!あんたでも自分の子供達には甘い顔を見せるのだな」とマイクは皮肉を込めて言った。

「そうか、黙って彼らを返してくれないと言う訳だな。それでは無理矢理にでも返してもらうとするかな」とユーベルタンは言った。

 そこで、俊一達が入って行ったドアとは別のドアが開き、ユーベルタンサイボーグが六体入って来た。

彼らを見てマイク達は目を丸くした。

 「そこにいるかける君には説明したが、私のクローンの脳を使ったサイボーグだよ。マイク君、君に勝ち目はないよ」

「俺を殺せば、お前の可愛い子供達の居所は分からない。俺に何かあれば、仲間がアイラとサイキスとユリサを殺す手筈(てはず)になっている。それでも俺を殺せるかな?」とマイクがゲームを楽しむ様な口調で言った。

「はっはは、それで私を脅しているつもりかい?そんな脅しなど屁でもないわ」

 「ふふ、強がるのはよしな!俺を殺せば俺の仲間がお前の子供達を殺すぜ。脅しじゃないぜ!俺はやると言ったらやる。あんたに復讐の恨みを返してやらないといけないからな」

「それじゃぁ、試してみるかね?」とスピーカーから流れるユーベルタンの声が切れると、六体のユーベルタンは迷彩服の男女に強烈なパンチをお見舞いした。

 マイクの部下もロケットランチャーを撃ったり、手榴弾を投げたり、マシンガンを撃ったり、レーザーガンを撃ったりして対抗した。

 ユーベルタンサイボーグは空を飛べる。ロケットランチャーは(くう)を切って外れ向こうの壁を崩した。


 美樹達五人はキャサリンが閉じ込められている部屋に入った。キムはキャサリンの入っている透明なカプセルを持ち上げようとしたが持ち上がらず、美樹が正拳を叩き込んだが亀裂など入らなかった。加奈が訳も分からずキャサリンの入っているカプセルの横にあるコンソールを滅茶苦茶に叩いた。そうするとカプセルの蓋が開いた。

 「キャサリン!キャサリン!しっかりして!」と美樹は声を張り上げながらキャサリンの脈を調べて、頬を口の辺りに近づけて呼吸の有無を確認した。

「大丈夫、眠らされているだけだわ」と美樹が言った。

「キャサリン!キャサリン!」と美樹が呼び掛けながら、頬を叩くが返事はなかった。

 美樹はキャサリンの背中に片膝を当て、キャサリンの両手を後ろに引っ張って(かつ)を入れた。キャサリンの肺に大きく空気が入れられた。急がないといけない。荒療治ではあるが効くはずだ。

キャサリンは、ゴホンと二回程軽くむせて意識を取り戻した。

 「一体、どうしたって言うのかしら?」とキャサリンは訊いた。美樹は手短に説明した。

 その時、エレベーターホールの方で銃撃が始まった。そして、砂埃が舞い上がる程揺れた。

「キャサリン、起きたばかりで悪いんだけど、あの銃撃戦の中にかけるがいる。テレパシーでこちらに来る様に言ってあげて!」と加奈が言った。

 加奈はずっとかけるからの思念を受けていたが、返すことが出来ずにいたのだ。

 キャサリンはかけるに呼びかけた。かけるは銃撃の雨の中、キャサリンのテレパシーに、すぐに瞬間移動を行い皆に合流した。

 かけるはキャサリンの強いイメージを受け取って移動することに成功したのだ。七人が久しぶりに一緒になった。


 ホールでは依然として銃撃戦が続いている。激しい銃撃戦に、地上にいた迷彩服姿のマイクの部下や教団幹部も塔の地下にやってきて加勢した。

 マイクの部下はマイクからユーベルタンを倒した者に報奨金を与えると言っていたし、ユン教教団の教祖であるメシストもその頃にはかけるに嗅がされた睡眠ガスの効力が薄れ、全教団幹部達に、塔に行って命を賭けて戦う様に命令した。

 中には大切な客人がいる。何としてでも死守せよと伝えていたのだ。そんなわけでホールの戦闘は治まることなく続いていたのだ。

 さらに戦闘を長引かせる結果になることが起きた。

キャサリンが呼んだ本当のキーワイル警察の巡回パトカーの警察官はキーワイル警察に応援を頼んでいたのだ。

 キーワイル警察は、少女からの電話で誘拐の電話があったことの以前から、アイラ、サイキス、ユリサの脱獄幇助(ほうじょ)事件の犯人グループとしてユン教を疑っていた。

 黒ずくめの衣装がユン教のものと一致していたからだ。そこからユーベルタンとユン教の繋がりを洗い出した。ユン教のバックにユーベルタンがいるなら事件はつながる。

 もちろん警察もわざわざ足が付く様に、ユン教信者の衣装を着るのは、わざとらしく本物のユン教信者であるとの確証が掴めずに動けないでいた。

 そこにキャサリンの少女誘拐の電話があって、誘拐事件捜査という形を取ってユン教捜査に乗り出した。

 キーワイルの警察と人類国の警察は、ユン教、ユーベルタンと脱獄犯と脱獄幇助(ほうじょ)犯の情報を共有して共同操作を行っていた。

 そして巡回パトカーを教会に向かわせた際に銃撃されたと通報を得て、キーワイルの警察と人類国の警察は武装して教会に向かっていた。

 ユーベルタンを超一級のテロリストと認定して、人類国の軍も行動を開始していた。人類国の軍は人類国から来るのでもう少し掛かるが、キーワイル警察と人類国警察の連合部隊は既に教会に辿り着いていた。

 人類国警察はキーワイルにあるユン教教団本部に目星をつけて、十人程の警察官がキーワイル警察に来て共同操作をしていたので、人類国警察とキーワイル警察が合同でやって来たのだ。


 武装した本物の警察官が教会に来た時には、厨房と礼拝堂の火事は治まることなく、教会の宿舎にも燃え上がり明るく夜空を照らしていた。消防車やパトカー、そしてトラックが放置されていたが、そのボディーは弾痕(だんこん)による穴だらけだった。銃撃戦があったことは火を見るより明らかだった。

 警察や軍はまだ銃撃戦に関わっていないことを考えると、巡回パトカーを蜂の巣にしたグループと教団側の銃撃戦ということが推測出来た。

 既に撃たれて倒れている者達は、消防士姿や教団の男と思われる普段着姿や迷彩服姿、さらに警察官の恰好をした者までいた。無線でキーワイル消防署に確認したが、消防車が一台盗まれたが消防署として出動していないとのことだった。

 鐘のある塔の方から激しい銃撃の音が聞こえた。塔の周りを回って見たが、銃撃音は塔の中から聞こえてくる。

 塔に近付いてみると塔のドアは開かれていた。中に入ると螺旋(らせん)階段の柱にぽっかりと穴が空いていて、その穴から銃撃音が聞こえてきていた。

 警察部隊長は本部に状況を報告して指示を(あお)いだ。本部は人類軍のヘリコプターが現場に到着するのに後数分掛かるとのことだった。遅く見積もっても人類軍が到着するまで十分だということなので、人類国の軍の到着を待つ様にと指示した。銃撃戦の中に訳も分からず、飛び込ませるのは危険だと判断したのだ。


 ユン教教団のメシストは既にユン教教団支部に「本部が襲われているので支部から大至急応援を寄越(よこ)す様に!」と通達していた。

 各地で爆破などをして特に人類国の軍隊が来ない様に足止するということも考えられたが、メシストにとってはユーベルタンに忠実であった。ユーベルタンに何かあってユン教が生き延びても仕方ないと考えていた。

 メシストはユーベルタンサイボーグの存在を知らなかった。ユーベルタンが地下で何をしているのかさえ全く知らされていなかったのだ。


 ユーベルタンはユーベルタンサイボーグ製造に必要な機械を運んで組み立てさせた。研究員が研究を完成させて、機械的にユーベルタンサイボーグが製造出来る様になった。

 そうして研究員や作業員は、この施設を離れて、研究所兼工場の出入り口を塞ぎ、柱に設けられた小さなエレベーターだけを残し、鐘の塔を建て教会を建てた。

 それからユン教教団教祖のメシストが、教団本部として使用する様になったのだ。

 ユーベルタンにとっては、メシストを高く評価していない。自分に忠実であってくれさえすれば良かった。ユーベルタンはメシストを信用していなかった、

 ユーベルタンはメシストだけではなく、誰に対しても信用も信頼もしていなかった、誰に対しても猜疑心(さいぎしん)が強く、心を開いて人と付き合ったことがない。

 だから、メシストにも、地下で何を行っているか何も伝えなかった。アイラやサイキスやユリサという子供達であっても、ユーベルタンが何をしているか、全貌(ぜんぼう)を教えられることはなかった。

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