第四章の2ー集団脱獄
第四章 トカゲの尻尾
集団脱獄
次の日、かけるが病院のロビーで何気なくテレビを見ている時、とんでもないニュースが舞い込んできた。
牢獄中のサイキス前大統領、そしてサイキスの姉アイラ、妹ユリサが昨夜遅く脱獄したというニュースだ。
もっとも脱獄したのは、彼らだけではなく、大規模な脱獄だったらしい。男性の刑務所からはサイキス前大統領を含めて十三人、女性用の刑務所からはアイラとユリサを入れて八人の計二十一人が脱獄したということだ。
サイキスとアイラ、ユリサは別々の刑務所に牢獄されている。男性と女性で違うのだから当たり前であるが、それが同じ日に脱獄するとは偶然とは思えない。ユーベルタンの仕業である可能性が高い。
しかし、そんなことをすれば、自分が宗教団体ユン教の中に身を隠しているにも関わらず、自分の存在をわざわざ教えている様なものだ。
それ程、ユーベルタンに余裕がなくなっていると見るべきか?
それともこれだけ指名手配をかけられて、それでも捕まるどころか、悠々と自分の子供達の脱獄を企てることが出来るユーベルタンを賞賛すべきか?かけるには判らなかった。
ユーベルタンの目的は、ユーベルタンに対する民衆の恐怖心を煽るのが目的か分からないが、いずれにしてもユーベルタンを叩かないと物語は終わらないとかけるは思った。
ニュースによると、全身をすっぽり覆り、目と鼻と口の所だけ開いている黒い衣装を着た者達が、刑務所を襲い、催涙弾と銃を乱射しながら、二十人規模の者が押し入ったということだ。
サイキスが牢獄されている刑務所にも、アイラとユリサが牢獄されている刑務所も同じ様な恰好をした者達によって襲われ手口も一緒だということだった。
そんな衣装でここまで大々的にやればユン教が警察に目をつけられる。それも考えての上での行動なのだろうかとかけるは思った。
美樹からかけるの携帯に電話が掛かってきた。ニュースを見て皆で急遽集まろうと言う事だった。
再び、皆がかけるの病室に集まった。
「びっくりしたよ、もう!」と俊一が一番手に口火を切った。
「まさか、こんな手段で来るとはねぇ」
「そうよねぇ!アイラとユリサ、それにサイキスを同時に脱獄させるなんてね。ユーベルタンの仕業よね、もちろんのこと」と加奈が言った。
「まぁ、そうだろうな、十中八九」とキムが言った.
「でも、どうして今こんなことをわざわざする必要があったのかしら?だって自分の立場を危うくするに決まってるものねぇ!」と美樹が言った。
「そこが僕も分からないんだ。自棄になったか?それとも自分の脅威を民衆に思い知らせるためか?」とかけるが言った。
「ユーベルタンの性格を考慮すれば後者よね。彼が自棄を起こしてこんな行動を起こすとは思えないわ」とキャサリンが言った。
「でも実利主義で利己主義であるユーベルタンにとって、今回の行動はどんな利益をもたらすのだろう?」とキムが言った。
「そうだよなぁ、民衆に自分の脅威を与えることで、何か利益になるのか?」とホルヘが言った。
「例えば、ユン教の信者が増えるとか?」と美樹が訊いた。
「でもユン教に脅威を抱いて脅されたら、入信したい人は減るんじゃないのかなぁ」とかけるが言った。
「それにユン教が目立てば、すぐに人類国の軍隊に壊滅させられてしまうわ」と加奈が言った。
「人類国などはユン教のことに気付いているのだろうか?」とかけるが訊いた。
「データアクセスした限りではまだの様ね。でも昨夜の事件で黒ずくめの衣装というのは、ユン教の衣装じゃないかしら?それなら、割り出すのも時間の問題ね」とキャサリンが言った。
「アイラとサイキスとユリサを含めて二十一人脱獄したということだけど、三人を抜いた残りの十八人にはどんな人がいたのかしら?」と美樹が訊いた。
「どうせ、どさくさに紛れて脱獄しただけだろうよ」と俊一が言った。
「いや、脱獄囚の中にマイクの名前があった。ユーベルタンに付いて、コーネリアが大統領選に出馬した際に秘書を務めていたマイクだ。やはり、マイクのバックにはユーベルタンがいたということだから、ユーベルタンがマイクを助けたんだろう」とかけるは言った。
「あのコーネリアの暗殺未遂で逮捕されていた男か」とホルヘが言った。
「嫌な奴だったわ。蛇みたいな目をして気持ち悪いったらありゃしない」と加奈が両手で自分を抱き震えて見せた。その動作がいかにも気味悪そうに見えた。
「せっかく捕まえた奴らが脱獄して振り出しに戻った気分だな」と俊一が言った。
「とにかく、明日敵の本拠地に乗り込む。気を抜かないで行こう!」とかけるは声を掛けて気合を入れた。




