第三章の4ー殺戮兵器の無力化
第三章 ユーベルタンの企み
殺戮兵器の無力化!
キャサリンは、既にロケットとミサイルの発射基地の場所を正確に掴み、ホルヘにおぶさって皆のいるビルの屋上に着いていた。キャサリンは皆に向かって話し出した。
「今回発射された正確な地点は分かったわ!でも、この情報は人類国もゴルゲ国もロイド国もおさえているでしょうし、何よりもユーベルタン自身が発射したことで強襲されることは覚悟しているはず。ということは、このロケット発射基地とミサイル発射基地は囮のダミーと思って間違いないわね。叩き潰されるためにあるだけだわ」
「ということは、つまりどういうこと?」と俊一が意外なキャサリンの言葉に呆けた様に訊いた。
「あの発射基地はどうせ攻撃されるってこと。攻撃させるための囮の基地でしかないってこと」とキャサリンは言った。
「でもそれじゃぁ、もうミサイルも衛星兵器もないってこと?」と加奈が訊いた。
「それはどうかな!あんな狡猾なユーベルタンがそんなはずない様に思う」とキムが言った。
「その通りね!今回のロケット発射とミサイル発射の前後にユーベルタンの屋敷から電話が掛けられている。その電話の先が発射基地だった。でも発射前に他に二箇所、別な所に掛けているの。恐らくそこが……」とキャサリンが結論を言う前にホルヘが言った。
「別のロケット発射基地とミサイル発射基地だね?」キャサリンはホルヘの問いに黙って頷いた。
「その場所は特定出来ているの?」と美樹が訊いた。
「もちろん!」
「それじゃぁ、早速行こう!」と俊一が言った。
「ちょっと待って!かけるとコルシカ王は?」とキャサリンが訊いた。
「まだ繋がれている!」と俊一が答えた。
「カリーナに連絡取ってみる。加奈、聞き取って!」とキャサリンが言った。キャサリンは長い距離は出来ないが短い距離なら思考を送れる。そしてカリーナからの思考は加奈が聴き取るのだ。
「カリーナは制御操作室を見つけた様ね。制御室の中で待っていると言ってるわ」と加奈が言った。
「それじゃぁ、早速行きましょう!」とキャサリンが言った。
「でもかける達との連絡役を、残しておかなくていいかなぁ?」と俊一が言った。
「ここにいても連絡は出来ないわ!皆で行かないとミサイルの無力化は難しいと思うわ」とキャサリンが言った。
そうして六人は出かけることになった。ビルの外に出た皆をキムが止めた。
「ちょっと待って!車で行こう!歩いて行っている時間はない」と路地裏に止めてある車の方に歩いて行った。
「ちょっと、キム、その車は?」とホルヘが訊いた。
「ホルヘとキャサリンが調べに行っている間に、ちょっと借りただけだよ!了解は取ってないけどね!」とキムが軽くウィンクして見せた。
「それって、盗んだってことか?」と俊一が訊いた。
「いや、借りたんだって!少なくとも俺の心の中ではね!」とキムは答えた。
「ところで、どっちの発射台から行くの?」と美樹が訊いた。
「もちろんミサイル発射台からよ!先程発射したロケットに搭載された衛星は、まだ軌道に安定してないはず!その状態で、次を発射することは考え難いわ」とキャサリンが言った。
かけるとコルシカ王は、すぐにでも脱出しないといけなかった。かけるとコルシカ王は手も足も鎖で柱に繋がれているために、逃げられないと安心して、見張りは一人しかいなかった。
カーライルもユーベルタンも手下どもも忙しくて、見張りに大勢割いていられない様だった。なにせユーベルタン一味はいろんな事を同時にやっていたため、そんなコルシカ王とかけるの見張りごときに、人を割いている余裕は無いはずだったのだ。
見張りが一人しかいなくても、コルシカ王はもちろん、かけるも手と足にかけられた鎖から逃げられなかった。瞬間移動をしようとすると、繋がれている手と足から電流が流れた。だが、瞬間移動だけが、制限される様でその他の能力は使えたのだ。
かけるはコルシカ王に小さな声でひそひそ話をした。
「コルシカ王、ちょっとの間、見張りを引き付けていてもらえませんか?」
「任せておけ!」とコルシカ王はウィンクして言うや否や「トイレ〜!」と見張りに向かって叫んだ。
見張りがコルシカ王の下にやってきて「我慢しろ!」と言った。
「我慢出来ん!老人なもんでなぁ!我慢していたら洩れちゃうよぉ!」
「その場で洩らせ!」と見張りは冷たく言い放した。
「いいのか?大きい方じゃぞ!臭いぞ〜!」
「本当にしょうがねえなぁ!元国王がよぉ!」と言って、手錠と足の鎖を柱から解いて、鎖を付けたままトイレに連れて行った。
かけるは、見張りがコルシカ王を部屋からトイレに連れて行ったのを見届けて、意識を集中して取り上げられた自分の携帯を自分の耳元まで運んだ。
そして、かけるは使うことがないと思っていたが、一応メモリーに記憶していたナンバーを呼び出した。呼び出し音がしばらくしても出なかった。やはり繋がらないかと思われた時に、やっと不機嫌そうな声が応対した。
「誰だ!俺様を呼び出すのは?」と懐かしそうな声が電話口に出た。
「グシュタフ、久しぶりだね、元気かい?僕だよ、僕、かけるだよ」とかけるは言った。電話の相手はいつぞや、戦闘エリアを突っ切って行く時に、かけるを命がけで運んでくれた、あのグシュタフだ。
「よぉ、なんだ!かけるか!おめぇ、向こうの世界に帰ったんじゃねぇのか?」と言った。
「いやぁ、今、詳しいことを話している時間ないんだ!お願いがあるんだ!」
以前、グシュタフはかけると別れる際に「何かあったらまた呼んでくれ。おめぇのためならまた人肌脱ぐぜ」と言ってくれたのを思い出したのだ。
「グシュタフ、君の力が必要なんだ!手を貸してくれないか!」とかけるは言った。かけるの緊張した声にグシュタフも真面目な声に戻り訊いた。
「なんか、またやばそうなことか?」とグシュタフが言うと、かけるは黙っていた。
「まぁ、いいさね!退屈していた所だ。何でも言ってみな!」とグシュタフは言ってくれた。そしてかけるは簡潔に話した。
「やってくれるかい?」
「もちろんよ!そっちの住所を言いな!」
かけるはユーベルタンの屋敷の住所を述べた。
「ちょっと待ってメモ取るから」と言って仲間にメモを取らせていた。
グシュタフは最後まで反論せずに聞いてから言った。
「分かった!相変わらず、おめぇさんは退屈させねぇな!おめぇを仲間に加えたい気分だよ。……まぁ、もっともそんなことしたら、こっちも命が幾つあっても足りないがな」と言って了承してくれた。
そこで、ドアを開けてユーベルタンの見張りとコルシカ王の会話に耳に飛び込んできた。コルシカ王が部屋に入る際に故意に大声で話しかけるに注意信号を送ったのだ。
かけるは電話を切り、大急ぎで携帯電話をテーブルの上に元あったように置いて自分は項垂れたポーズを作った。
「全く、じいさんにも困ったもんだぜ!長いったらありゃしない!」と見張りの男が呆れた様に言った。
「仕方ないじゃろう!こんな所に繋がれて、便秘になってしもうたんじゃから」とコルシカ王は見張りに再び柱に繋がれながらかけるに向かってウィンクした。かけるもウィンクして返した。
美樹達は、すでに目的のミサイル発射基地の近くに隠れていた。砂漠の中の何も無い所だ。その砂漠の窪地に六人が隠れていた。
「本当にここにあるのか?」と一面見渡す限り何もない砂漠を見渡してホルヘが訊いた。
「間違いないよ!」俊一が代わりに答えた。
「あそこにアンテナとカメラが取り付けてある」と俊一は指を指したが、皆目を凝らしてもよく見えなかった。
「あそこの地下にミサイル発射基地は隠されている」
俊一には砂の中に隠された発射基地の全貌が見えているだけでなく、ミサイル発射基地の管制室の中身も見通せた。砂の中にあると言ってもミサイル発射の際には浮き上がるのだろう。管制室は強化ガラスがはめられているので、俊一に透視出来たのだ。
管制室の中では誰も皆せわしなく動いている。発射前にこのミサイル発射基地とロケット発射基地に電話は命令だったのかもしれない。残念ながら、俊一が見ているだけでは皆が何をしようとしているのかまでは解らない。
発射前にユーベルタンの屋敷から電話がされていた二箇所の内、こちらの方がミサイル基地だと言ったのはキャサリンだ。それは単に通話時間がこちらの方が長かったからだ。
ダミーを強襲されて次に発射するとしたらミサイル基地の方が可能性は大きい。だから通話時間も長かったというキャサリンの推理が当たっていた。
「今頃はあちらの基地が叩かれる頃かな?」
「まだ連絡は入ってこないが、こっちは攻撃も受けないだろうし安全だろう!」
「思惑通りダミーの方のミサイル基地を叩いて、敵さんが安心している内に、こちらのミサイル基地から発射する。敵を欺くのは気分がいいねぇ」と中の軍人達の会話を加奈が聴き取った。
「いつ踏み込むの?」と美樹が聞いた。この場所に待機し出してから三十分が過ぎたが、まだ踏み込むことが出来ずに見張っていた。
「砂の中の発射基地に入る通路があるはずよ。それが掴めないのよ」とキャサリンは俊一と加奈を見ながら言った。俊一と加奈は先程からの出入り口を探していた。俊一は目で、加奈は彼らの会話から探し出そうとしていたが、未だに分からなかったのだ。
さらに一時間程待った時に動きが現れた。
「ミサイルが飛んで行く!」と俊一が見上げた。空を幾つかのミサイルが飛び交っていた。
「始まったわ!」とキャサリンが言った。
ミサイルの発射位置は人類軍もロイド軍もゴルゲ軍も把握していた。そのミサイル基地を先に破壊しようとミサイルを撃ちこんだのは人類軍だ。
人類国の攻撃を予想して、ユーベルタン達が残りのミサイルをゴルゲ国とロイド国に対して発射した。ユーベルタンにとっては、この基地が失われることなど痛くも痒くも無い。囮の役目なので、最初から叩かせる計画だったからだ。
ここで人類軍に反撃すれば、人類国の内紛としてロイド国とゴルゲ国が戦争に参入してこない。それでは今後の戦争の展開に結びつかない。それでは戦争による利益が得られないと考えたためだ。
ゴルゲ国とロイド国は逸早く迎撃ミサイルを整えて準備していた。発射位置を特定していたために迎撃ミサイルによってゴルゲ国とロイド国はユーベルタンのミサイルを撃ち落した。ユーベルタンがミサイル発射した目的は攻撃ではないので、撃ち落されることは計算されていた。
核ミサイルの可能性もあったため、人類軍が搭載されているのが通常爆弾であると確認するのに時間が掛かった。そのため、発射位置を特定してからも攻撃に踏み切れなかった。
軍事偵察衛星からの画像は六十センチメートルまで判別出来る分解能があるので、その軍事衛星からの画像データを分析すれば核が搭載されているかどうか分かる。だが、軍事偵察衛星がミサイル基地の頭上に廻ってくるまで時間が掛かり、ミサイル基地攻撃まで時間を要したのだ。
俊一以外の皆にも火災が見える程、大きな火災が遠くで見えた。ユーベルタンにとっては、ダミーのミサイル発射基地が破壊されただけのことなので作戦通りだ。
「あれ、ジープが来るぞ!」と俊一が言った。
暫くすると、二台のジープが火災の方角から砂煙を上げてやって来た。
「やっとお出ましね!行くわよ!」と美樹の言葉を合図に、皆砂地を走りながら近付いて行った。ミサイル発射基地とジープは交信していた。加奈は聴き取った。
「よし、予定通りダミーのミサイル基地に食いついてきたぞ!予定通りだ。次のミサイル攻撃だ。今度は核を使うぞ。気を抜くなよ!ゲートを開けろ!」
美樹達は知らなかったが、そう言ったのはカーライルだった。カーライルは、ダミーのミサイル基地に出向き、陣頭で指揮をしていたのだ。
ジープが近付くと、砂が滝の様に流れ出し穴がぽっかりと空いた。その穴に灯りが付けられて、ミサイル発射基地への道が開いた。二台のジープはその穴の中に呑み込まれる様に消えて行き、すぐにゲートが閉まり出した。
「みんな、急げ!キム乗れ!」とホルヘは、キムをおんぶして先に走り出し、閉まりかけるゲートに逸早く駆けつけた。
さすがのホルヘでも、キムをおんぶして砂地を走るのは、体力を大きく消耗させた。ゲートに着いた途端にホルヘは仰向けになって体力の回復を待たねばならなかった。
キムは閉まるゲートが閉まらないように体を使って抑えた。キムが抑えている間に、皆走って中に駆け込んだ。そしてゲートは閉まった。
「どうした?」中でカーライルが言った。
「いえ、何でもありません。ゲートに何か挟まった様でしたが閉まりました」と答えた。
「まぁ、いい!核弾頭は命令した通り、ミサイルに装着してあるな!」とカーライルは訊いた。
「ええ、命令通りにしてあります。しかし本当に核を使うのですか?」
「お前が詮索することではない。軍人は命令に忠実に従えばいいのだ。余計なことを詮索していては寿命を短くするだけだぞ!」
カーライル達の会話は全て加奈によって盗聴されていた。
「ユーベルタンは最初からこの事態を予測していたのね。ダミーのミサイル基地を叩かせて一時安心させる。そして核搭載のミサイルを撃ち込む。それで人々の恐怖は倍加するわ」とキャサリンは言った。
「でも何故、核弾頭を使う必要があるのかしら?通常弾頭を使えばいいじゃない」と加奈が訊いた。
「いや、今まで衛星兵器があるとか核兵器があると言って、人々の恐怖心を煽っていたけど実際に使用していない。実際に存在するかどうか、人々は半信半疑のはず。ここで核を使用することで人々の恐怖は倍加する」とキムが言った。
「そうね、ユーベルタンの狙いは核で世界を滅ぼす事ではない。あくまでも人々の恐怖心を煽って自分が大儲けすることと、世界を自分の思い通りに動かすことが目的のはず。おそらく、核ミサイルの行き先は、なるべく死傷者や自然への汚染など損害の少ない所を狙うはず。それだけでも十分な恐怖心を煽れるわ。なにしろ核がいつでも自分を狙っているという恐怖が沸き起こる。むしろ大都市などを狙ってしまって人々が減少してしまうことは、ユーベルタンに入ってくるお金が減少する。それはユーベルタンにとって、思う所ではないはず」とキャサリンが言った。
「そうね、ユーベルタンにとっても核の自然への汚染は自分の首を締めることになるものね。急がないといけないわね。皆、打ち合わせた通り始めましょう!」と美樹が言うと、皆それぞれに散らばった。
美樹とキムとホルヘと俊一はミサイル発射台の方に走って行った。そしてキャサリンと加奈はコンピューター制御室へと向かった。どこに何があるかという下調べは、ゲートから中に入った時点で俊一が透視して大体の場所は把握していた。
カーライルからの命令にあった様に、ミサイル発射台にはミサイルが設置されていた。既にユーベルタンの指示通り、ミサイルは核爆弾を搭載している様だった。
ユーベルタンは今度は本気で核使用をする様だ。ユーベルタンが核を使用するかどうか決めかねているなら、核爆弾に搭載するのを待つはずだ。
既に核弾頭がミサイルに搭載されている状態では長い時間放置しておくことは出来ない。放置した状態で長い期間経つとミサイル基地自体に大きな危険が伴う。
美樹達はミサイル発射台に行くと、多くの研究員や作業員が忙しそうに働いていた。
「俊一、どう?」と美樹が訊いた。
「ちょっと待ってて!今スキャンしているから」
俊一は発射台の内部もスキャンしていた。美樹達には信管を見つけて抜くと言う芸当は出来ない。
でもミサイル発射台を壊すことは出来るはずだ。ミサイル発射台を壊して、核弾頭が下に落ちた程度の衝撃では爆発は起こさないとは思うが、万一の事があってはならない。発射台が壊れて軌道がぶれる程度で十分なのだ。そのために発射台の構造を俊一が調べていたのだ。
「分かった!発射台がこういった構造になっているから、ここにこうしてある柱を全部で十本、こっちの支柱を七本壊してくれ!それで構造上、発射台は強度を失ってミサイルを発射出来なくなる。さぁ、思いっきりやっちゃってくれ!」と俊一は指で地図を書いて説明した後、親指を立てて言った。
俊一は構造力学など知らない。だが、透視して全体の支柱や柱の構造は判る。その構造からして、どの支柱を壊せばいいかということが大体は判ったのだ。
「ようし!やるか!」とホルヘは自分の素早さを武器に走り出した。ホルヘは囮役として、皆の注意を惹き付けることが役割だ。ホルヘは雄叫びを上げながら棒を振り回し、あっちこっちの研究員や作業員を殴って走り回った。
「侵入者だ!」
全く警戒していなかったようであたふたしている。訓練されている見張りの軍人もホルヘの動きに翻弄されている。
「よし、美樹、俺たちも行くぞ!」
「派手にやっちゃいますか!」
非常警戒のブザーがけたたましく鳴らされていた。
キムと美樹は走り出し、ホルヘによって手薄になった発射台に近寄り、俊一が言った柱や支柱を次々に壊し出した。
美樹は次から次へと跳び蹴りや回し蹴りや手刀や正拳突きと空手技の連続だ。柱を殴ったり蹴ったりしても、さほど痛くない所が美樹には楽しくて仕方なく暴れまわった。
キムも体力の発散に丁度いいとばかりに、柱に抱きついてぶん曲げるという荒業で、二人は次から次へと柱や支柱を壊していった。
加奈とキャサリンは、コンピュータールームの外にいた。暫くすると、非常警戒ブザーがけたたましく鳴り、軍人達が侵入者が入った発射台に応援に出て行った。
「侵入者だ!すぐ行くぞ!」と軍人が言ってドアを開けて跳び出していった。
「侵入者か?どうしてここが分かったんだろう?どうやって潜りこんだんだ?」
「俺たち研究員には関係ないさ。俺たちは俺たちの仕事をするだけさ」と加奈が会話を聴き取った。
「研究員だけだわ!さぁ、行きましょう!」と加奈がキャサリンに言った。
加奈とキャサリンがドアを開けて入ると研究員二人が全く無警戒の顔で見た。その顔に即効性の催眠ガスをスプレーの様に吹きかけた。
「しんにゅ…」二人の研究員は最後まで言葉を言うことなくその場に眠りこけた。
キャサリンは急いでソフィーの作成したプログラムの入ったDVDを挿入してプログラムを走らせた。画面にコマンドが実行され画面がどんどんスクロールしていた。五分くらいすると突然、画面にエラーの文字が赤く表示されコンピューターのアラーム音が激しく鳴り出した。
「どうしたの?」と加奈が訊いた。
「エラー内容からするとプログラムのエラーではないわ。これは、おそらくソフィーのプログラムを予測して、そのコマンドが走った時に、エラーを出すようにプログラムされていたんだと思うわ」
「そんな馬鹿な!」
「いえ、ありうることだわ。コルシカ王がプログラムを作り出してからソフィーがプログラムを完成させた。でも、その後ユーベルタンには大分時間に余裕があった。コルシカ王の動きを察知して、コルシカ王とソフィーのプログラムにトラップを仕掛けることも出来たでしょうよ」
「トラップって罠ってこと?嘘でしょう!それじゃぁ、どうしたらいいの?」
「ここではプログラムを修正している時間はないわ!もうすぐ、軍人達がこちらに戻ってくる。このエラーが基地内に響き渡っているはず」キャサリンは椅子をコンソールに叩きつけた。
「加奈、少しでも制御系統を壊すのよ!」キャサリンらしくなかったが、ここで出来ることは他にはない。
加奈とキャサリンは椅子を振り上げたその時、操作制御室のドアが開いた。
「止めたまえ!」銃を構えた軍人達が立っていた。加奈とキャサリンは両手を上げた。振り向いて見ると美樹もキムもホルヘも軍人達に捕まっていた。
「随分と舐めたことをしてくれるじゃないか!」
軍人がすかさず加奈とキャサリンを縛り上げた。
「君達の顔はテレビで見て知っているよ。かける君のお友達だね。かける君も捕まっているよ。後で一緒にあの世に送ってあげよう。君達にとっては私は初対面だったね。私の名前はカーライル、人類国では将軍をやっていたものだ!」
「本当に核ミサイルを撃つ気?」と美樹が強気のまま言った。
「それは私が決めることではない!」
「ユーベルタンね!」と加奈が言うと、カーライルの顔が険しくなった。
「やはり、君達を生かしておくわけには行かない様だな!そこまで知っていたとは、なかなかやるじゃないか!」
「ふん、あんた達みたいに愚鈍じゃないのよ!」とキャサリンが言った。いつものキャサリンの調子ではなく、挑発している様な感じだ。
「言ってくれるね!それでは、その愚鈍な我らに捕まっている君達は何なのかね?」
「おめでたいものね!かけるがまだ捕まっているですって!だから愚鈍だって言うのよ!かけるはとっくに脱走しているわ!」とキャサリンはカーライルの質問には答えずに、さらに挑発した。
これには美樹達も驚いた。
キャサリンは、何時そんな情報を得たのだろう?だが、何も言わず堪えてキャサリンの顔を見ることもなく黙っていた。
「そんなことがあるはずがない!」
「ふん、だからおめでたいって言うのよ!一度、地下牢から脱獄したのだから、まだ脱走出来ないとどうして言い切れるの!」とキャサリンが言った。
「おい!ユーベルタン屋敷に電話を掛けろ!」とカーライルは部下に命令した。
「そこまで言うなら確認してやろう!」とカーライルはキャサリンの方を見て言った。
「はい、そうですか?申し訳ありません。はい、厳重に管理します」と言って、部下は電話を切ってカーライルの方を向いて「はったりです。大丈夫です。コルシカ王も少年も逃げ出していません」と報告した。
「はは、やっぱりはったりか!まぁはったりなど幾らでも言ってろ!自棄になってる証拠だからな!」とカーライルはそう言って高笑いした。
キャサリンはカーライルの部下が携帯から電話をかけて、ユーベルタン屋敷と電話が繋がった時、電波に乗せてカリーナに実行開始のテレパシーを送っていた。
キャサリンは、ユーベルタン屋敷に電話を掛けさせるために故意にカーライルを煽ったのだ。
キャサリンの思念は電話線に乗り、屋敷側のユーベルタンの部下の電話から、地下二階の操作室がある隠し部屋にいたカリーナに届いた。
カリーナは了解の思念のテレパシーを同様に電波に乗せて送った。その思念を、キャサリンの横にいた加奈が受け取ったのだ。
カリーナのテレパシー送信範囲は狭い。カリーナが電話口から遠い今では、カリーナのテレパシーをキャサリンは感じることが難しい。だが、加奈は弱いテレパシーの思念ですら感じ取ることが出来た。
カリーナはいよいよ出番だと意気込んだ。
「もう、待ちくたびれちゃったわ!」とカリーナは一人呟いた。
地下二階にある操作室の中に隠れてずっと様子を見ていた。それだけに操作方法に関しては大分分かってきた。カリーナは元々諜報活動をするための訓練は受けていた。コンピューターのハッキングやプログラムは心得ている。
カリーナは手の平の大きさの催眠ガス弾を放り投げた。白いガスが部屋一杯に拡がった。次々に中の研究員は催眠ガスを嗅いでその場に崩れ落ちる様に倒れた。カリーナ達ゴースティンは催眠ガスを嗅いでも幽霊なだけに効果がない。
カリーナは皆が寝てしまうのを見て、急いでDVDを挿入してプログラムを走らせる前に数行のコマンドを直してプログラムを走らせた。そして、すぐもう一つの衛星兵器自爆プログラムも同様のコマンドを数行修正して走らせた。
十二分程プログラムは走ってコンプリートの文字が出て終了した。キャサリンはカリーナに伝える時に、コマンドの修正する個所を伝えていた。
あるコマンドを検出した時にエラーによって引っ掛かる様にプログラムが組まれていた。そこで、そのコマンドを別のコマンドに修正してプログラムを走らせた。そこでカリーナのプログラムはその部分を修正して走らせたのだ。
誰でもが出来る芸当ではない。コンピューターの頭脳を持つキャサリンと、プログラムやハッキングの訓練を受けてきたカリーナだから出来たことであった。
カリーナが流したミサイル発射の命令を無効にするプログラムは即時に実行された。これでこのユーベルタン屋敷からミサイル発射のみならず、ミサイル関連に関する全ての操作が出来なくなる。
だが、これはユーベルタン屋敷からの操作を受け付けなくするだけのプログラムで、ミサイル発射基地から直接行われるミサイル発射を制限することは出来ない。それは美樹達がやっているはずだ。カリーナはこれで仕事を果たした。
衛星兵器を搭載した人口衛星は六時間掛けて一周する。二時間は電波で通信出来る範囲だ。この時間帯に受けたプログラムを実行する様に組まれている。人工衛星は、電波受信圏を離れたばかりなので、四時間後にカリーナの流したプログラムを受信して自爆プログラムが実行されるはずだ。
カリーナは操作室を抜け出て、かけるとコルシカ王の所へ行った。カリーナはコルシカ王とかけるにプログラムが無事に走ったことをテレパシーで伝えた。
カリーナには、縛られているかけるやコルシカ王を、解き放つだけの力がない。
かけるはカリーナに思考を読み取らせた。
「カリーナ、この屋敷に放送室が無かったかい?」
「あったわ、三階の一番端の部屋。北東の方角になるのかしら?」
「ありがとう。カリーナ、もう一つ教えてくれ?僕達が囚われている部屋の位置を教えてくれ?」
「この部屋のこと?この部屋は外から見て、二階の左から二番目よ!」
「ありがとう、カリーナ!見張りの男を外に連れ出してくれないか!」
「分かったわ!」とカリーナはテレパシーで答えると、部屋の外に出て大きな物音を立てた。何だろう?と思って見張りの男が部屋の外に連れ出された。
かけるは、再び携帯電話を念力で耳元まで持ってきて、グシュタフに電話した。
「グシュタフ、用意はいいかい?」
「ああ、いつでもいいぜ!現場でずっと待機していて飽きちまうとこだったぜ!」
「なるべく派手に始めてくれ!但し、三階の北東の端の部屋、二階の表から見て、左から二番目の部屋には攻撃しないでくれ!」とかけるは言った。
グシュタフは短く「分かった!」と言って、仲間達に伝えて携帯を切った。
暫くしてから屋敷に爆音が鳴り響いた。
グシュタフ達は豪快に屋敷を攻撃した。屋敷が激しく揺らいだ。グシュタフはキャメル号で攻撃していた。グシュタフはキャメル号以外にも盗賊仲間に声を掛けて人数を集めていた。それぞれ様々な乗り物がユーベルタン屋敷を攻撃した。
キャメル号は地上から地中に潜って激しく攻撃を繰り返していた。ユーベルタンの手下達も慌てて反撃していたが、予期し得なかった攻撃に戸惑っていた。しかもキャメル号は地下からも攻撃してくる。
かけるとコルシカ王がいる隣の部屋にもロケット砲が投げ込まれた。かけるとコルシカ王が繋がれていた柱が崩れ、かけるとコルシカ王は自由になった。咄嗟にかけるは、コルシカ王を抱えて飛び爆風から守った。
ユーベルタン一味と盗賊のグシュタフ達の戦いは続いていた。戦闘に追われ、かけるやコルシカ王のことなど誰も気にかけていなかった。かけるはコルシカ王を連れて、放送室を目指した。
かけるとコルシカ王は、ユーベルタンがコルシカ王の画像を使ってテレビとラジオで全国電波ジャックをした放送室に行った。電波ジャックはこの屋敷から放送されていた。この部屋の位置は屋敷内を隈なく調べていたカリーナが案内してくれた。激しいグシュタフ達の攻撃にも関わらず放送室の設備はまだ生きていた。カリーナが放送設備を準備した。アンテナは普段は仕舞われていたので、外から気付かれることはなかったのだ。
かけるとカリーナとコルシカ王は急いで放送の準備をした。テレビカメラをかけるが構えて、放送機器をカリーナが動かした。
「カリーナが五、四、三、二」と言ってからカリーナが手で合図した。かけるはテレビカメラをコルシカ王に向けて構えた。全国のテレビやラジオが一斉に切り替わった。画面には背も丸まって、柔和になったコルシカ王が手と足に鎖を付けられたままの姿で映っていた。
「全国の皆さん!私はコルシカ王です。本日昼頃、私の画像がテレビに現れたかと思います。だが、あれは私ではありません。昔、私の主席大臣であったユーベルタンが創り出した私の合成画像です」
「ゴルゲ国やロイド国に対するミサイル発射も彼の仕業です。この戦争は彼によって仕組まれたものです。私は今勇敢なる異界の少年達と、私が作り出してしまった殺戮兵器である衛星兵器と核兵器を廃絶するために、戦っております」ここでコルシカ王は一息ついた。
「この殺戮兵器を生み出した私は狭い心の持ち主でした。科学を使って、人間を変えようとする、神の領域とも思えることをやっている、人間に我慢がならなかったのです」コルシカ王は俯いて話していたが、テレビに向けて顔を上げた。
「でもそれは大きな間違いでした。争いの火種になったのは、そんな科学技術ではなくて、自分と異なる者を認めないという、私の狭い心が争いを生むことになってしまった。私は後悔しています。どうか皆さん、仕組まれた戦争に乗らないで下さい。私は、私の創りだしてしまった兵器に関して、責任を持って始末いたします」
そこで一発の銃声が聞こえた。コルシカ王の左胸が赤く染まった。放送室のドアが開いていてユーベルタンが入って来ていた。手には白煙を上げている銃を構えて持っている。
かけるは、その銃を構えたユーベルタンの姿をテレビカメラで捕えた。
そして我に戻って「コルシカ王―!」と叫んでコルシカ王の元に駈け寄った。
ユーベルタンの手下達が、すぐさま放送室の電源を落とし、電波ジャックはそこで終わった。かけるは、コルシカ王を膝の上に抱いていた。
「頼む!殺戮兵器を、私の創りだしてしまった兵器を消滅……」そこでコルシカ王は一瞬目を大きく見開き、グフッと言って血を吐き出した。そして自分で頭を支えている力がなくなり、首がガクッと後ろに倒れた。
「コルシカ王!」と叫んで、かけるはコルシカ王の頭を胸に抱いたが、コルシカ王はびくともしなかった。かけるはゆっくり、コルシカ王の頭を床に下ろし見開いたままの目を瞑らせた。
「君達のおかげで私の企みは台無しだよ!」ユーベルタンは怒りに一オクターブ高い声になっていた。
「せっかく上手くいっていたのに邪魔しやがって!」ユーベルタンは銃をかけるに向けた。
「ユーベルタン、貴様だけは許さない!」とかけるの目には怒りの炎が燃えていた。
ユーベルタンはかけるに向けて引き金を引いた。銃弾はかけるの左の肩を撃ち抜いた。かけるの膝がガクッと崩れ落ちら。撃たれた左肩が焼ける様に熱い。
だが、かけるも怯まなかった。かけるに向けて構えられているユーベルタンの仲間の銃を念力でユーベルタンに向けさせ発砲した。
一発がユーベルタンの左足を捕えた。さらにユーベルタンの手下達の銃をそれぞれに向けさせ引き金を引いた。皆足や手を抑えて蹲った。
かけるがユーベルタンと対決している時に、屋敷の外ではキーワイル警察が来ていた。キーワイル警察と言えども、キーワイルの名士であるユーベルタンの屋敷に、何の逮捕状も持たずに入ることは出来ない。
だが、盗賊達が屋敷内でユーベルタン一味と戦闘していると知れば話は別だ。
かけるはグシュタフに言って、グシュタフはキーワイル警察の知り合いに話しておいたのだ。そうしてキーワイル警察は盗賊達を追って、ユーベルタンの屋敷の中に入って行く形を取った。これであればキーワイルの名士ユーベルタンを盗賊の手から守るという名目で、キーワイル警察の大義名分が守られる。
既に戦闘は下火になっていた。盗賊達にキーワイル警察が加わり、ユーベルタン一味からの発砲は治まっていた。キーワイル警察が屋敷内を調べれば、いろんなユーベルタンの悪事の証拠物件が出てくるはずだ。
外から盗賊達とキーワイル警察が屋敷内に入って来たことを知ると、ユーベルタンは左足を引き摺りながら放送室から逃げ出した。
「待て!ユーベルタン!」とかけるは逃げたユーベルタンの後を追おうとした所を、ユーベルタンの手下達が銃を撃ってきた。かけるは放送室の器物を宙に上げ、手下達にぶつけた。放送室の器物はユーベルタンの手下達に当たり、彼らは器物と一緒に倒れた。
かけるは、すぐにユーベルタンの後を追った。
ユーベルタンは走っていたが、かけるは飛んでいた。かけるの方が圧倒的に速い。
ユーベルタンは、屋敷の屋上のヘリポートに止めてあるヘリコプターに乗り込んだ。そしてローターを回転させ空中に舞い上がった。
そこに廊下や階段を飛んで来たかけるは追いついた。かけるは飛び上がるヘリに飛びついて、ヘリを揺らした。
ヘリコプターの中にはパイロットとユーベルタンと二人の手下が乗っていたが、かけるがヘリコプターを揺らしたのでユーベルタンの手下の一人が落っこちた。屋上から数メートルの高さなので死ぬことはない。
さらにかけるがヘリコプターを揺らそうとした時、ユーベルタンの手下が、ヘリコプターに掴まっているかけるを蹴り飛ばした。
かけるはバランスを崩しながらも、かけるを蹴った手下の足を掴んだ。手下の体はヘリコプターの外に投げ出されて、手下は咄嗟にヘリコプターの手すりを掴んだ。
ヘリコプターにユーベルタンの手下、そしてその手下の足にかけるが掴まって宙ぶらりんになっていた。ヘリコプターのバランスが崩れ、かけると手下がぶら下っている方に傾いた。
ユーベルタンは、ヘリコプターに掴まっている手下の手を無理矢理ヘリコプターから引き離した。
「うわぁ」とかけるとユーベルタンの手下の声は交錯して下に落ちてしまった。かけるは一緒に落ちた手下と絡まって落ちたため、怪我はなかったが撃たれた左肩に、かけるの体に絡まったユーベルタンの手下が落ちてきた。
かけるは「うっ」と唸った。ユーベルタンの手下がかけるの左肩に落ちた瞬間、かけるの左肩から噴水の様にドバッと血が噴出した。かけるは左肩の痛みが酷くなり、眼が霞み集中出来ず飛べなかった。その間にユーベルタンは悠々とヘリコプターで逃げてしまった。
「ちきしょう!逃がしたか!」とかけるは言って、左肩の痛みに右手で左肩を押さえた。
左肩から、だらだらと流れている血は止まっておらず、左手からぽたぽたと屋上に赤い染みを作っていた。
一方、ミサイル発射基地では、カーライルに美樹達は捕まってしまっていた。だが、一人だけ捕まっていないのが俊一だった。
作業員達は美樹達が捕まって平常作業に戻っていた。
美樹やキムやホルヘのおかげで柱九本と支柱六本は壊されていた。残り、柱と支柱一本、今の状況では、ミサイルを撃てるのは一本か多くても二本であろう。
だが、その一本であれ、二本であれ核弾頭が搭載されている。発射させるわけに行かない。
俊一には戦闘能力はない、だが透視能力と共に、わずかな時間であれば、姿を消すことが出来る。
俊一は核弾頭の他に通常弾頭もあることに気付いていた。通常弾頭もあるのだから、小型の爆弾を見つけられるかも知れないと俊一は考えた。
見張りがいたので、ポケットに入っていた石を遠くに投げた。石は来る前にいざと言う時のためにポケットに入れておいたのだ。見張りが音がした方に見に行った隙に、俊一は倉庫の中に入って中を探し回った。
何に使うのか分からないが、小さなプラスチック爆弾を見つけた。あり難いことに時限爆弾式なので時間をセットするだけなので俊一にも扱える。
俊一はその小型のプラスチック爆弾を四つ失敬してきた。一つを時間を合わせて、ゲート付近にセットした。
そして、核弾頭が搭載されているミサイル発射台の近くに来ていた。ミサイル発射台の近くは壊された柱や支柱の修理をする作業員がいつも見回っている。
俊一は時計を見ながら、秒読みを始めた「五、四、三、二、一」最後まで言わない内にゲートの方で爆発音がした。
敵がゲートを破壊して来たのかと軍人達はゲートの方に走って行った。「今だ!」残っている作業員がいる中で俊一は姿を消して、残る一つの柱と支柱に時限爆弾をセットした。
ほっとして戻ろうと思った時、皆がジロジロと俊一を見ていた。「しまった!」姿が現れてしまった様だ。俊一は走った。走っている最中に後ろから爆発音を聞いた。
「やった、成功だ!」と俊一は呟いた。
だが、俊一はこの時、自分がセットした時限爆弾は二つだが、爆発の音は一つしかなかったことに気付かなかった。
俊一は走るのが速くない。廊下を走る内に追いつかれてしまう。向こうからもやって来る。挟み撃ちだ。
俊一は近くのドアを開けて飛び込んだ。ドアに身を寄せて中から外を透視して見ていると、俊一を走って追ってきた連中は「デブな奴が走って来るのを見なかったか?」と見張りの軍人に訊いた。
「いや、来なかったぞ!」
「どこ行きやがった、ちきしょう!」と短い会話をして去って行った。
「ふうぅ」と俊一は溜めていた息を吐き出した。
俊一が慌てて入った部屋を見回すと、机の上に写真があった。写真には見たこともない軍人達の写真が置いてあった。俊一は緊張した。壁を透視して見ていると、廊下をゆっくり歩いてくる一人の軍人は、よく見ると写真の中の男だ。この部屋の持ち主であるらしかった。俊一は咄嗟に机の下に隠れた。
カーライルはドアを開けて部屋の中を一瞥すると机の近くまで歩いてきて、置いてあった写真立てを手に取った。写真立ての位置が変わっているのに気付いたのだ。
カーライルは観察眼が優れている。写真立ての位置がわずかにずれているだけでも異常を感知したのだ。
「もう一匹鼠がいたようだな!出て来い!さもないと容赦なくぶっ放すぞ!」とカーライルは言った。
何の返答もなかった。
俊一は恐くて出るに出られなかった。
カーライルは銃を数発ぶっ放した。俊一の隠れている机の下から、銃弾が俊一の目の前を通った。
「ひぃ!」駿一は小さく声が出てしまった。
俊一は何も出来ず、ただ震えていた。
だが、カーライルはどうやら位置を掴んでいるのではなく、単なるはったりの様だ。俊一の声も聞こえなかった様だ。カーライルは、慎重にも机を廻って、机の下を銃を構えて覗き込んだ。
俊一は息を殺して消えた。
「気のせいか?それとも既に逃げた後か?」とカーライルは机の下を覗き込みながら、独り言を言って部屋を出て行った。部屋のドアが閉まる音がすると、俊一は姿を見せて大きく深呼吸をした。俊一は、消える能力を持っていたことに深く感謝した。
俊一が仕掛けた柱の方は爆発したが、支柱は爆発する前に気付かれて時限爆弾を外され解除されてしまった。この状態で核ミサイルを撃とうとすれば一発は撃てるかもしれないが、発射台が崩れて狙いが定まらないはずだ。だがこれも一時的な時間稼ぎにしか過ぎない。
俊一は、陽動作戦としてゲートを爆破していたが、それが役に立っていたことを当の俊一自体が気付かなかった。
俊一はカーライルの部屋を出て、皆が捕まっている部屋へ向かった。とにかく、皆を助け出さねばならない。それが先決だと思ったのだ。
俊一はもう一つ時限爆弾を持っていた。爆弾を使って囮にすることはもう通用しないだろう。この爆弾は皆が捕まっている操作室を爆破した方がいいと思った。
廊下から隣の部屋を透視すると誰もいなかった。隙を見て潜りこむ。どれだけ時間を待っただろうか?だが時計を見るとわずか十分程しか過ぎていなかった。隣の部屋が慌しくなった。隣の部屋の軍人達が急いで部屋を出て行った。
俊一は自分が見つかったと思い、部屋に積んであるダンボールの物陰に隠れた。だがカーライルは軍人達を引き連れて、俊一が隠れた部屋を通り過ぎて走って行った。
「チャンスだ!」
俊一は隣の部屋には研究員が一人と繋がれた美樹達だけがいることを確認すると、美樹達が繋がれた部屋のドアをノックした。研究員が何事か?と思ってドアを開けた。きょろきょろと見回して、誰もいないことを確かめると、首をかしげながら部屋の中に戻ろうとした時、後ろから後頭部を殴られた。
俊一は研究員がドアを開けた時、消えて彼の目の前にいた。そして研究員が部屋に戻ろうとした時に後頭部を殴ったのだ。俊一は素早く部屋の中に入り、急いで皆の綱を切りながら言った。
「時限爆弾を持ってきたよ!これでこの操作室のコンピューターを爆破しよう!」と俊一が言った。
「それは駄目よ!そんなことしたら、ミサイル発射を一時的に時間稼ぎしただけにしかならないじゃない」と加奈が言った。
「そうね、キャサリンなんとか出来る?」と美樹が言う前に、既に、キャサリンはコンピューターのコンソールの前にいた。カリーナに指示したのだから修正個所は分かる。ソフィーが作成したプログラムが入れられているDVDを取り上げられていた。カーライルが持って行ってしまっている。
だが、先程ロードした時のプログラムが残っていれば、それを呼び出して修正すればいい、それならなんとかなりそうだ。キャサリンは画面を見ながら言った。
「良かった、さっきのエラーした個所までのプログラムはある。これならなんとか出来るわ。三十分だけ、この部屋に誰も入れないで!」
美樹達はコクリと頷いてから、顔を俊一に向けて言った。
「でも何故、カーライル達は慌てて出て行ったのかしら?俊一、何か知らない?」
「いやぁ、俺も隣の部屋から窺っていたんだけど、相当慌てていたみたいだね!」
「俊一、ホルヘ、偵察してきてくれない?」と美樹が言った。
「そうだな!行ってみるよ!俊一、行くぞ!」
「また行くの?俺来たばかりだよぉ」
「ほらほら、文句言ってないでさっさと行く!」と加奈が俊一の背中を叩いた。
ホルヘは俊一をおんぶして走り出した。俊一はデブで重いので、ホルヘといえどもスピードが出ない。それでも俊一が走るよりは速い。ホルヘはおんぶしている俊一に向かって言った。
「俊一、少しはダイエットしろよ!お前、背の高いキムよりも重いぞ!」
「そんなこと分かっているよ!ダイエットしているんだけど、何故か体重は増えていくんだよ!」
「それはダイエット失敗って言うんじゃないのか?」
と二人はぶつぶつ言い争いながら、ホルヘはスピードを上げて走り出した。
ホルヘの上で俊一は、ゲート近くでカーライル達と全身黒ずくめのぴったりした服を着た人達が銃で撃ち合いをしている。俊一は壁を透視して見ているのでホルヘには見えない。
実は、人類国はダミーのミサイル基地とこのミサイル基地の存在を知っていた。キーワイルのソビリス市長はコンピューターのデータベースにあるミサイル基地の位置データを人類国に情報を提供していた。
ユーベルタンによる最初のミサイル発射があった後、キーワイル市長のソビリスは発射地点を特定していた。コルシカ王の二度に渡るテレビ演説で、ユーベルタンに疑惑を抱き、ユーベルタンのデータを急いで洗わせた。
その間にキーワイル警察をユーベルタン屋敷に送り込み、もう一方でユーベルタンのミサイル基地のデータを人類国に送っていた。
本来、キーワイルは干渉しない主義ではあったが、ユーベルタンがキーワイルの、そして世界を乱すテロリストと見なしたのだ。
干渉して止めないといけない。
人類国は、ユーベルタンが持つダミーのミサイル発射台をミサイルにて攻撃した後、もう一つのミサイル発射台には核弾頭が搭載されていると情報を得ていたため、ミサイル攻撃をせず、特殊工作部隊を十二人送り込んだのだ。
幸いにも美樹達が暴れていたために砂漠を進む人類国の特殊工作部隊のジープは気付かれなかった。そして、俊一がゲートを壊していたので、そのまま気付かれずに進入出来た。
だがそこで、俊一のことを探していたカーライルの部下である軍人に見つけられたのだ。その軍人が無線でカーライル達を呼んだ。そして、銃撃戦になっていたのだ。
ゲート近くであれば銃を撃っても、爆弾が置かれていないので爆弾などに当たる可能性が少ない。
だが、その黒ずくめの兵士が味方か敵か、俊一達には分からなかった。キャサリンがコンピューターから探し出せれば分かるかもしれないが、キャサリンはそれどころではなかった。プログラムを修正するために、必死になって汗を額に浮かべ、その汗を拭うことなく、無力化プログラムを作成していた。
ホルヘと俊一は、部屋に帰る途中で階段に時限爆弾を仕掛けた。爆発して階段が崩れ去り、階段は使えなくなった。そして、エレベーターで三階まで来て閉まる位置に物を置いた。
エレベーターは、人が誤って挟まっても、事故にならない様にセンサーが付いている。エレベーターの扉は閉まってはセンサーが作動して開いて、暫くするとまた閉まっての連続で、エレベーターがその階に止まって下に行かない。
爆発音にカーライルも気付いているだろうが、抗戦している特殊工作隊との銃撃戦で来れないだろう。これで少しはキャサリンがプログラムを修正する時間稼ぎになる。
ユーベルタン屋敷では、ユーベルタンがヘリコプターで去ってから、戦闘の情勢は明らかだった。
ユーベルタンの手下達は、キーワイル警察と盗賊達に発砲する者もおらず、大人しく降参して投降した。ユーベルタンが逃げたのに、それ以上忠誠を誓う手下はいなかったのだ。
屋上で右手で左肩を押さえて倒れていたかけるに、いつのまに来たのかグシュタフが話し掛けた。
「大丈夫か?かける」
「僕よりコルシカ王は?」
グシュタフは目を閉じて首を横に振った。
「ちきしょう!コルシカ王をコーネリアに合わせてあげることが出来なかった」と言ってかけるは右の拳を握り締めた。
「……そうだ!美樹達の所に行かないと」と言って立ち上がろうとするかけるを、既に屋上に来ていたキーワイル警察の一人が言った。
「大丈夫です!あなたのお仲間の所には人類軍から特殊工作部隊が行っているということです。彼らがいれば、すぐに決着が着くでしょう」
「そうかも知れないけど、彼らは僕の仲間なんだ!行かないといけない!」かけるは服を破いて右手で自分の左肩に巻いて、一方を歯で噛み、もう一方の端を右手で硬く引っ張って縛った。止血が遅れ、かけるの顔は蒼白の貧血気味だった。
「かける、無茶だぜ!その体じゃ!」とグシュタフが止めるが、かけるはグシュタフの手を振り払った。そして飛ぼうと力を入れると、ふらふらとよろめいて倒れてしまった。そのままかけるは気を失い、気が付くと病院に運ばれていた。
人類軍の特殊工作部隊とカーライル達との銃撃戦は、特殊工作部隊に分がある様で、一人また一人とカーライルの部下は倒されていった。
「こうなったら最後の手段だ!」とカーライルは叫んで核弾頭の方に走っていた。カーライルは核弾頭に向かって銃を構えた。カーライルは最後の手段で皆巻き添えにして爆発させるつもりだ。
「これで、ジ・エンドだ!」と言って、銃の引き金に指が掛かった。
銃声がミサイル発射基地の中に反響した。
「そんな馬鹿な!」と言ってカーライルはゆっくりと膝をついた。カーライルの頭から一筋の血が流れ血しぶきを吹き上げた。
人類軍の特殊工作部隊はスナイパー(狙撃手)を配備して、カーライルに照準を合わせていた。このスナイパーは銃撃戦が始まってもカーライルに照準を合わせたまま、銃撃戦に加わっていなかった。
カーライルは、銃の撃ち合いをしている時は、盾になる物陰に隠れていたのだが、盾から離れて狙いを核弾頭にした瞬間に隙が出来た。カーライルは、スナイパーまで配備されていたとは思わなかったのだ。
カーライルが死んでから、カーライルの部下は無駄な抵抗をせずに投降した。それ以上の戦闘は無意味であると知ったのだ。
その時に、キャサリンはプログラムを完成させ走らせた。エラーもなくプログラムは走った。キャサリンは、額の玉の様な汗を拭った。これで全てが終わったと誰もがホッとした。
何気なく操作盤のモニターを見ていた加奈が言った。
「ねぇ、キャサリン!この数字何かしら?何か数値がみるみる内に上がっていくけど……」
キャサリンがそのモニターを見て、キャサリンにしては珍しく叫んだ。
「核弾頭の温度が上がっているわ!」
事情が分からない皆はキョトンとしていた。
「核弾頭の温度が上がるとどうなるの?」と加奈が訊いた。
「爆発の危険性があるわ!これだけ銃火器や爆弾などが基地内で使われたら温度が上がるのも当然だったわ!しまったわ!考慮しておくべきだった」
「どうしたらいいんだ?キャサリン」とキムが訊いた。
「冷やさないといけないわよ!特殊工作部隊がいると言ったわね!急いで彼らに知らせて、対応してもらわないといけないわ!」
「よし、俺が知らせてやる!」とホルへは言って「でも奴ら特殊工作部隊は俺たちの味方か?」とキャサリンに向き直って訊いた。
「たぶん、人類国の軍隊ね!ロイド国やゴルゲ国にしては早過ぎるし、キーワイルは特殊工作部隊を持っていないはずだから。だから、大丈夫!早く行って!」
ホルヘは凄い勢いでエレベーターに行くと下に下りていった。特殊工作部隊は、既に核弾頭の温度が上がっていることに気付いていた。
ホルヘが行くと、銃を突きつけられたが、ホルヘが訳を話すと、ホルヘ達のことは言われていた様で、銃を下ろしてくれた。
特殊工作部隊に付いてきた、核弾頭解体班は解体作業に入っていた。だが、核弾頭が設置されたミサイルは三発ある。冷房が爆発の影響か壊れていた。核弾頭解体班は、額に汗を浮かべて解体作業をしているが、解体作業はどうしても時間がかかる。手馴れた核弾頭解体グループでも一発解体するのに相当の時間が掛かる。
温度はその間も上がり続けている。このままでは危険温度まで上がってしまう危険性がある。美樹とキムも発射台に下りて行った。
核弾頭が設置されたミサイル発射台を、外に出して冷やしたかったが、昇降装置が壊れている様で作動しない。美樹は辺りの壁に横蹴りを一発、変化がない。そこで何度も同じ所を打ち続けた。十発同じ場所を蹴ったら、さすがに穴を開けることが出来た。
「キム、お願い!」と言って、美樹は反対側を同様にして蹴りで穴を開けた。キムは美樹が開けた穴を怪力で広げる役目だ。
「うおぉぉ!」と言って穴を広げようとするが、キムの怪力を持ってしても穴が拡がらない。もう一度キムは力を入れた。力こぶが躍動している。やっと穴が広がった。穴は開いて砂が流れ込んだ。
地中の砂は冷たくてさらさらしている。その砂を核弾頭に掛けた。それでも、温度は上がり続けた。
美樹は発射台が格納されている格納庫の天井に登り天井にも幾つか穴を開けた。砂がザーと下に落ちて来て、暫くするとやっと穴から空が見えて、砂漠の中であるが心なしか涼しい風が入ってきた。
温度上昇率は鈍化したが、まだ温度は上昇している。もう祈るしかなかった。
危険温度を示すレッドゾーンに差し掛かった。モニターを見ていた俊一と加奈とキャサリンは緊張した。
暫く時間が経過しても温度計の針はレッドゾーンに入っていかない。上昇は止まった。さらに暫くすると温度は少しずつ下がり出した。
「良かった!温度が下がり出したわ!」とキャサリンの声に皆ほっと息をついた。温度計を見ていた三人の額には玉の様な汗が浮かんでいた。
その後、特殊工作部隊にいた解体班は核弾頭を順調に解体し核の無力化を行った。
取り出された核弾頭は、分厚い鉛で何重にも密閉して二度と使えない様に処置し、海底深く海溝がある辺りに沈めることにした。
海への放射能汚染する事がないように、幾重にも鉛で囲んではいた。だが環境保護団体からは強い反対運動が起きた。だが核弾頭としてミサイルに搭載され、限界温度近くまで上がった核爆弾を、地上で管理することは危険という意見が出されたのだ。
それに、持っていれば、またいつその核爆弾が使われないとも限らない。そこで海への廃棄となった。危険を最小限にするために取られ、鉛で幾重にも囲み海溝に沈めるというものだったのだ。
人類軍は、もうひとつのロケット発射基地にも踏み込んで、中の軍人達に投降を呼びかけ基地は人類軍が制圧した。
打ちあがっていた衛星兵器については、一度も照射されることなく、カリーナの走らせたプログラムを受信して、軌道を外れて宇宙に漂ってから、自爆プログラムが作動して爆発した。
人類が作り出した核は海にゴミとして捨てられ、衛星兵器は宇宙のゴミとなった。
作り出してしまったのはいいが、片付けることも大変で時間も掛かった。しかも海や宇宙を汚す結果となってしまった。
コーネリアは、ユーベルタンのミサイル基地とロケット基地を閉鎖すると、直ちにゴルゲ国のリォウ総書記とロイド国のレキシン首相、それに地底王国のサラ王妃、キーワイルのソビリス市長にホットラインで今回のことを細かに弁明して、これで脅威は過ぎ去った、今後この様なことで再び脅威を与えない様に厳重なるチェックをすることを約束した。
キーワイルは国になっていたが、今までの市長がそのまま政権をとっており、そのまま市長と呼ばれていた。地底王国のサラ王妃は、サカール王から王としての権限を譲り受け国政に関わり出していた。
コーネリアは、全国テレビとラジオで今回のことを説明した。以後再びこの様な脅威を与えないことを約束した。
そして、今回不幸にもお亡くなりになった方々の遺族、そして家屋の倒壊など損害を受けた人々に謝罪し、人類国が精一杯の弁償をすることを約束した。
コーネリアもはっきりと約束出来なかった点が一つある。ユーベルタンが逮捕されておらず逃亡しているということだ。全世界に報奨金を掛けて指名手配をかけ、キーワイルが持っていた、ユーベルタンに関するデータから、全口座の資金の凍結、全資産を没収、そしてユーベルタンが株を持っている会社を、軍需産業から転換することを条件に売却した。
これで、ユーベルタンは無一文にはならないまでも、収入源を断たれ、人目につけば逮捕されることになるから動けないはずであった。




