第三章の2ーコルシカ王とかけるの脱獄
第三章 ユーベルタンの企み
コルシカ王とかけるの脱獄
地下牢の中でぶつぶつと一人で呟いている老人がいた。ユーベルタンら人が来ても、全く意にも介さない様子で壁に向かってぶつぶつと呟いている。
「おい!じいさん!ちょっとこっち向け!お前に客をつれてきてやったぞ」とユーベルタンは地下牢の中の老人に声を掛けた。その老人は、ユーベルタンが話し掛けても、見向きもせずに壁に向かってぶつぶつと何か呟いている。老人はいきなり壁に自分の頭をぶつけ出した。
「おい!じいさん!やめろ!」とユーベルタンが地下牢に向かって叫んだ。その老人は頭を壁にぶつけるのを止めて、またぶつぶつと呟き始めていた。
「頭がイカレちゃったんだよ。気の毒な奴だよ。」とユーベルタンが言った。
「誰なんですか?」とかけるが訊いた。
「君も話には聞いたことがあるかも知れないな。コルシカ王だよ」
かけるは一瞬誰のことか思い出せずにいた。
「えっ?コルシカ王?えっもしかして、コルシカ王ってコーネリア大統領の父親の?」と大声で叫んでしまった。かけるの大声で言ったコーネリアの名前にも、その老人は反応しなかった。
「でも、コルシカ王は死んだんじゃないのか?」
「世間ではそう言われている。だが、このじいさん、死んでなかった。大量殺戮兵器の研究と開発に没頭して、サイキスが大統領になってから、地下牢に閉じ込められている内に発狂してしまった。元国王が狂っちまったなんて一般に知られる訳にもいかないから、死んだことにしてニュースで報道したんだよ」
「でも娘のコーネリアでさえ知らずにいるじゃないか?」
「あの時、コーネリアは大学の寄宿舎に住んで、コルシカ王とは別れて住んでいたから知ることもなかった。コーネリアに伝われば、民衆に知れると思って知らされなかったのだろう」
「それが何故、こんな所で生きているんだ?」
「狂ってしまったからと言って、殺す訳にも行かなかったのだろうよ」
「そんなぁ!」
「このじいさんを人質に、コーネリアを大統領から引きおろすことも考えたんだが、そういういかにもお涙頂戴の芝居は私は苦手でねぇ」
かけるは何も出来ずにただ黙っていた。
「ここで、一日お前にやろう。このじいさんの頭がイカレてしまった姿を見て自分の置かれた状況をよく考えるんだな。もしかしたら、このじいさんが何か答えを示してくれるかもしれないよ。まぁ、このじいさんが君の言う事を理解したらの話だがな」と言って、ユーベルタンは笑った。その笑いはコルシカ王が全く人の言葉を聞けないくらいに頭がぼけてしまっているということを確信している様だった。
ユーベルタンは、かけるをその場に置いて、今来た道を引き返そうとした。
「待ってくれ!この手錠と足かせを取ってくれ!」とかけるが言った。
ユーベルタンは少し考えてから答えた。
「まぁ、いいでしょう!私は残酷なことが嫌いな性質ですからねぇ。それに、いくら君でもこの地下牢からは逃げることは出来ません。君は瞬間移動を使えば逃げられると思っているかもしれませんが、この地下牢は瞬間移動して行こうとしても電磁壁があり抜けることが出来ません。それは君がつけている手錠や足かせと同じ物質で作られている。逃げようなんて思わないことですよ。ほーほっほ」とユーベルタンは女の様な笑い方をした。
ユーベルタンは、手下にかけるの手錠と足かせを外させて、地下牢の鉄格子の扉を開かせて、かけるを中に入れさせる様に命じて、地下道に手下を置いて戻っていった。
ユーベルタンの手下は、かけるの手錠と足かせを外して鉄格子の扉を開けた。地下牢の鉄格子の扉は長いこと開かれたことが無い様で錆び付いていた。扉はなかなか開かずに手下が力任せに開いて、やっとギーと重い音を立てて開いた。手下はかけるを地下牢に入れ、再び地下牢の扉を閉めて去って行った。
かけるが地下牢に入ってもコルシカ王は壁に向かってぶつぶつと呟くのみだった。かけるは「コルシカ王」と何度か呼び掛けてはみたが、コルシカ王は壁に向かって呟くのみで、かけるの方を見向きもしなかった。やはり頭がおかしくなってしまった様だ。かけるはコルシカ王に話し掛けることを止めて、寝転がって考え出した。
かけるがコーネリアを暗殺するか、暗殺しなければ大量殺戮兵器の使用を許してしまうことになる。衛星兵器はレーザーを備えているからピンポイントで攻撃することが出来る。ロケットやスペースシャトルで攻撃して破壊しようにも、その前段階で叩かれてしまう。核兵器を使用すれば大量殺戮が可能だ。
でも、待てよ!ユーベルタンは本当に殺戮兵器を持っているのだろうか?だが、彼の立場を考えれば持っているのも不思議ではなかった。コルシカ王が研究と開発を推し進めた殺戮兵器の時代において、ユーベルタンは主席大臣を務めていたということだ。
さらに開発・製造していた会社の経営者アイラやユリサの父だ。持っているとしても何の不思議もない。でも持っているなら、既にその殺戮兵器を使って、この世界を支配することも可能なはずだ。
それにユーベルタンなら、コーネリア暗殺に関しても幾らでも殺し屋を雇えるはずだ。それを何故、僕にやらせる必要があるのだろうか?と考えてかけるは、はっと思いついた。
ユーベルタンは、コーネリアと一緒に計画を阻止したかける達にも恨みを抱いていたはずだ。事実、ユーベルタンが作らせたという最高のロボットであるダン、クリスティーナ、ザルドーを倒して壊したのはかける達だ。
コーネリアとかけるに対する復讐なのか?それならば話は分かる様にも思う。かけるが悩み苦しみ暗殺を選ぶか、それともどうするかを見るだけでも、恨みを果たせるものかもしれない。
そうならば、かけるだけでなく美樹達にも手は及ぶのだろうか?
でもユーベルタンともあろう者が本当に復讐などと個人的な恨みを晴らすために行っていることだろうか?
彼の性格からして、利害関係によってのみ動くものじゃないだろうか?
だが、今のユーベルタンには家族も名声もない。自棄になっても不思議はないかも知れない。ユーベルタンの動機はともかく、かけるはどうしていいのかさっぱり分からなかった。
おそらく、この地下牢から抜け出すことはユーベルタンの言う通り無理なのだろう。かけるの能力をユーベルタンは調査済みのはずである。このままではかけるの様に能力がありユーベルタンに恨みを買っている美樹達も危ないかも知れない。ユーベルタンの狙いは、かける達に復習することにあるのかも知れない。
コーネリアが暗殺される危機を知れば、美樹達が警護につくだろう。僕と美樹達が戦うことを演出することがユーベルタンの狙いなのかもしれない。
彼の狙いが復讐にあるのならば、かけると美樹達が戦い、かけるが勝てば、かけるにそのままコーネリアを暗殺させ、かけるが負けて美樹達が勝てば、殺戮兵器でコーネリアを殺し、さらにこの世界を手に入れる。
かけるが勝っても負けても、かけるによるコーネリア暗殺が成功しても失敗しても、ユーベルタンとしては損どころか必ず得をする。
うまく出来たシナリオだ。かけるはふっと溜め息を吐いた。
美樹達に連絡を取る方法はないだろうか?
協力が必要だ。
かけるは携帯電話が水没してから、新しい携帯電話を買っていたが、今回の誘拐騒動の中で睡眠薬で眠らされ、目を覚ました時にはポケットの中になかった。眠らされている間に、盗まれたものか、ポケットから落ちたものか、ユーベルタン達に取られたのか分からなかった。
かけるにはサイコキネシス所謂念力があっても、どこにあるかも分からない物を取り寄せることは出来なかった。考えても仕方ない。まだ睡眠薬の効果が残っているのか、かけるは考えている内に眠くなり、地下牢の中で寝てしまった。
「うぉー!」どのくらい寝たのだろう!かけるは地下牢の老いたコルシカ王が何か奇声を上げた声に飛び起きた。
「痛ぇ!頭が痛え!」とかけるは頭を抑えた。睡眠薬のおかげか頭がガンガンと痛く、さらにコルシカ王の大声で頭がガンガンと響いた。
「コルシカ王、お願いだから大声を出さないで下さい!頭がガンガンと響くんですよ」とかけるが言ったが、頭がおかしくなっていたコルシカ王は聞くこともなく、さらに大声を出して喚いていた。
かけるはやれやれと言いながら、立ち上がってコルシカ王の傍に行って、壁に向かって奇声を発している老人の肩をポンポンと叩いて「おじいちゃん、大丈夫ですよぉ。何も恐くないですよぉ」と優しく問い掛けた。
かけるが、奇声を上げているコルシカ王の顔に自分の顔を近付けた時に、コルシカ王が低い声で言った。
「大声を出さずに私に合わせて演技をしてくれ!監視カメラで監視されてる。大袈裟に驚いたりせずに、そのまま私の顔の近くに耳を寄せて聞いてくれ」狂っていると思っていたコルシカ王ははっきりとした声で、壁を向いたままかけるに話し掛けた。
かけるは内心驚いて、思わずコルシカ王の肩に掛けていた手を引っ込めようとしたがなんとか抑えた。気を落ち着けて、さらにコルシカ王の顔に自分の顔を寄せた。監視カメラには、奇声で騒ぐ頭のおかしくなった老人を宥めている様に見えるだろう。
コルシカ王は、かけるに肩を掴まれ、嫌々しながらも冷静に小さな声で話した。
「私は狂ってなどいない。狂った振りをしていただけだ!」と低い声だが力強く言った。
「狂った振りをしていなければ、私は殺されるか、殺されないまでも人質として利用されるだけだった。それで狂った振りをして、長年に渡って、奴らを騙していたんじゃ!私が何かに利用され、利用価値がなくなれば、殺されていたことだろう。言わば、自分を守る手段として狂った振りをしている必要があった」
コルシカ王の体は、前後に揺れながら話している。声はまともだが、振りは狂った老人を演じている。
「私は科学者の端くれだ。人間と動物のDNAを操作して獣人を作り出したり、サイボーグとして人間の体を機械のパーツの様に取り替える技術を毛嫌いしていた。だが、そんなことに拘っていたために、奴らを倒す衛星兵器や核兵器の研究・開発に固執してしまった。その結果、国民には愛想を尽かされてしまい、信頼していた主席大臣のユーベルタンに欺かれ、隙を突いてサイキスが大統領へと就任してしまった。私は大量殺戮兵器にこだわる危険人物として、こんな地下牢に幽閉されてしまった」そこでコルシカ王は、一息ついて安らかな声になって話を続けた。
「お前さんが誰かは分からないが、先程のユーベルタンとの話から、娘のコーネリアの味方のようじゃ!」
「僕はかけると言います。コーネリア様に呼ばれてこの世界に来ました。コーネリア様の大統領就任の手助けをしたのも僕達です」とかけるが小声で言った。
「大統領?コーネリアが大統領になったのかね?」
コルシカ王はニュースから閉ざされた生活をしていたおかげで、今の世の中のことを何も知っていなかった。そこでかけるは簡潔に今までの流れを説明した。
「そうか?コーネリアが大統領になって、ゴルゲ国とロイド国と和平がなされたのか?」
かけるはさらにユーベルタンが何か企んで、ここにかけるを誘拐したことも話した。
「そうか!ユーベルタンならありえるだろう。奴は頭も良く行政能力も人を使う能力も高いが、恨みや憎しみといったマイナスの感情を抱くと、自分をコントロール出来ない様な場面があったからなぁ」
「そうですかぁ。でもユーベルタンは何を企んでいるんでしょうか?」
「それは分からん!だが奴がどんな企みを抱いているにしろ、ここにずっといる訳には行かんな。この地下牢から脱獄するぞ!もう私も老いぼれた、時間がない、私を守ってくれ!」
「そうしたいのは山々なんですが、脱獄する方法がないんですよ。この地下牢から」
「私が長年ここで何もしないでいたと思うかね?」とコルシカ王は、そのまま壁を向いたまま軽くウィンクして見せた。
「ここは電気もない地下牢じゃ。昼も夜も暗い地下牢で精神的にプレッシャーを与えるのが目的なので、わざと暗くしてあるのじゃ。そのおかげで地下牢に続く地下廊下にある電灯だけが灯りとなっている。地下牢は暗いだけに監視カメラがあっても奥は暗くて見えないはず」とコルシカ王は言った。
「私が君に体をもたげるから奥に連れて行く様に装ってくれ!」とコルシカ王は言うなり、体をかけるに預けてきた。
かけるは言われるままに、体調が悪くなった老人を奥のベッドに運ぶ様子を装いながら地下牢の奥に行った。
「ここなら大丈夫だ、外からは見えない位置になっている」暗いとは言っても、目が慣れると見える程度の暗さであるために、暫く目を凝らしていると周囲の様子が見えてきた。
「ここは刑務所なんですか?」
「いや、刑務所ではない。ここはユーベルタンの屋敷内だ」
「ユーベルタンの屋敷って、そんな所に前国王を幽閉していたんですか?」
「もちろん、最初に投獄されたのは人類国の刑務所だが、そこから死んだと噂を流してこの場所に移されたのよ。そのままにしておけば私の存在が人にばれてしまうからね。ちょっと手伝え!このベッドをどかす」
かけるは言われるままにベッドを少しどけた。シーツと布団が自然に乱れていて隠されていたが、コルシカ王がシーツと布団をどけるとそこにはぽっかりと穴が開いていた。穴と言っても匍匐前進して抜けられる程度の穴だ。
「……こっこの穴はコルシカ王が空けたんですか?」かけるが驚きながらコルシカ王に訊いた。
「伊達にこの地下牢に長く居る訳ではない!」とコルシカ王はかけるに向かって今一度ウィンクした。
「喜べ!この穴を掘れとは言わないぞ。三日前に開通している。老体に鞭打ってコツコツと掘ったのじゃ」とコルシカ王は言って背中を丸めてみせた。
「大変な作業ですねぇ!ところで、この穴はどこまで通じているんですか?」
「この屋敷から出る下水道に出る。そのまま下水道の中を通り抜けてこの屋敷を抜け出せる」
「でも迷路の様になっている下水道を迷わず抜けられるんですか?」
「心配するな!お前さんは若いのにやる前からいちいち心配するな!なんとかなる。どっかに出るものだ」とコルシカ王は自分からさっさと穴の中に這いつくばって入って行ってしまった。かけるも仕方なく、後から這いつくばって穴に入って行った。
穴の中は狭かった。かけるはそんなに大きい方ではないから、肘で這って匍匐前進によって進むことが出来たが、キムなどでは体が引っ掛かってしまいそうな狭さだった。十五メートル程匍匐前進して、屋敷からの下水道に出た。
個人の下水道なので、やはり狭く下水がチョロチョロ流れる中を匍匐前進して進んだ。最初は下水の匂いに鼻をつまみながら進んでいたが、やがて匂いも気にならなくなった。
屋敷が大きいおかげで百メートル程進んでやっと通りの下水道に出たので、匍匐前進から解放されて頭を引っ込めて腰を少し曲げる程度で歩いていける様になった。
どこをどう歩いているのか、かけるにも前を歩くコルシカ王ですら分からなかった。かけるがコンパスを持っていたので、下水道を北へ北へと向かった。かけるもコルシカ王もどこに幽閉されていたか分からないのだ。
「よし、この辺でいいだろう。それでは様子を見て来てくれ!」とコルシカ王は言うと、下水道から上に上がる階段を指差した。
「僕が行くんですか?」とかけるが訊くと「当たり前じゃ、私は前国王だ!それに老いぼれだからな!君が行かなくて誰が行く。さぁ、さっさと行って見て来てくれ!」と言って座り込んでしまった。
かけるは仕方なく、階段を登って重いマンホールを上げて外を見た。
「ひえぇぇ」
どうやら道のど真ん中だ。車が猛スピードで突っ込んできたのだ。慌ててマンホールを閉めて下に戻った。
「車道のど真ん中です。他探した方が良さそうです。数十メートル離れた階段を登って上に出て外を見渡すと歩道の様だ。
「ここなら大丈夫そうだ」とかけるは一人呟くと、上からコルシカ王に声を掛けてマンホールをずらして外に這い出た。コルシカ王も暫くするとマンホールから上がってきた。ずらしたマンホールを元に戻してから周囲を見渡した。
路地裏の様だがどこだかさっぱり分からない。コルシカ王も長いこと地下牢暮らしであるから、場所も分からないし、コルシカ王が幽閉されている間に、相当変わってしまっていてきょろきょろしている。
「ここはどこだか分かりますか?」とかけるはコルシカ王に尋ねた。かけるは睡眠薬を使われて運ばれたからどこにいるのか検討もつかない。その点、コルシカ王は睡眠薬で運ばれた訳ではないだろうから何か分かるかと思ったのだ。
「大体の見当はついている。ユーベルタンの屋敷に幽閉されて、そこから北に向かった地域だ。ユーベルタンの屋敷からコントロールできる範囲で、核兵器や衛星兵器を隠しておけるだけの敷地がある所だから、人里離れた街に違いない」
「もしかして?」
「そうじゃ、ユーベルタンは核兵器と衛星兵器を所有している。戦闘エリアの地下に核兵器のミサイルと衛星打ち上げ台が隠されている。数々の爆弾などでは破壊されないように、地表から地震波を使っても場所が特定出来ない様にしているはずだ」
「すなわちどこなんですか?」
「戦時は、戦闘エリアはゴルゲとロイドと人類国とに接していたんじゃ。その方が他国の領土を踏むことなく進軍できるから当然のことじゃからな。だが、戦争のマンネリ化に伴い、港があるキーワイルは人類国の中で自然にビジネスとして発展した。人類国とロイド国とゴルゲ国に分かれる前からユーベルタンは屋敷を持っていたし、三国が分かれてからも、引越しして移動していないことを考えれば……」
「ユーベルタンの屋敷があるのは現在のキーワイル国!」
「確証はないが可能性は高い」
「そう言えば、僕が誘拐されたのはキーワイルからロイドに向かう長距離バスの中で、長距離バスが発射してすぐだった」
コルシカ王とかけるは夜の街を歩いていた。街並と言っても家がまばらで情報を得るものがない。道で人に出会うこともない。
売店がありさりげなく住所をチェックすると、やはりキーワイル国だ。
売店の売り子に、この辺りにユーベルタンの屋敷があるかと訊いたら、一キロメートル程南に行けばあるということだった。ユーベルタンは罪に問われても証拠がないため、キーワイルでの市民権も得ているとのことだった。
売店の売り子にお金を出して、服を売ってもらうことにした。下水道を駆け回っていたために服がドロドロに汚れていた。それにコルシカ王は、長いこと体を洗っていないと見えて失礼だが匂いが漂ってくる。
簡単に二人ともシャワーを浴びた。こんな状況だが、体の匂いやドロドロの服では却って目立ってしまう。幸いにもかけるは、元いた世界に帰る所で誘拐にあっており、金には余裕があった。かけるに睡眠薬を塗った飴を使って誘拐したエリナは、カーライルから大金を貰えると信じており、かけるの所持金には手を出さなかったし、カーライルやユーベルタンはかけるの持つはした金など興味がない。
かけるは美樹達に電話を掛けたいが、携帯電話を紛失してしまっているので電話番号が分からない。思い出そうとしても思い出せなかった。コルシカ王も同じくコーネリアの電話番号を覚えていなかった。それに覚えていたとしても、スコットと結婚してコーネリは引越ししていた。
今は朝方四時だ。朝七時には地下牢に見回りがやってくるので脱獄がばれる。七時までは三時間ある。その三時間でユーベルタンより先に先手を打っておかないといけない。だが、切り札はかける達にはなくユーベルタンが持っているのだ。
かけるの携帯電話は盗まれたものではなく、エリナに睡眠薬入りの飴で眠らされて運ばれている時に、ポケットから落ちたものだった。
かけるの携帯電話を拾った人は優しくて、携帯電話を落とした人が困っているだろうから、届けてあげようと思って、携帯電話に登録されている人に電話した。
あいうえお順で一番トップが加奈だったので加奈に電話したのだ。携帯が落ちていたことと、携帯電話の特徴を言われて、加奈はすぐにかけるの携帯電話であることを認識した。
加奈達はかけるに何かあったと思って行動に移していた。皆を集めてキーワイルまで行って、かけるの携帯電話を拾った人に、携帯電話を受け取るついでに、拾った場所と状況を訊いた。
長距離バスの中で拾ったということだった。状況は判らず途中のバスターミナルから乗って空いている座席に座ったら座席の下に落ちていたということだった。
美樹達六人は人類国からキーワイルに来て、かけるが乗った長距離バスの運転手や乗客に話を聞いて廻った。写真を見せると何人かはかけるの顔を覚えいた。
女の子と二人の男の子の三人連れで、肩を貸してバスを降りたということだった。その時、かけるは何か眠っている様子だったということを運転手が覚えていた。
沢山いる乗客の中でバスの運転手が覚えていたのは、かけるはロイド行きのバスチケットを持っていたのに、キーワイルを出てすぐに降りたのが気に掛かっていたので覚えていたのだ。
美樹達は、その日一日キーワイルの街のホテルをかけるの写真を見せて、見たことがあるか訊いて廻ったが見つけることが出来ず、捜索は明日にしてホテルで宿泊していた。
かけるは何をすべきか考えていた。まずはコルシカ王をコーネリア姫の元に運ぶこと、ユーベルタンの持つ衛星兵器と核兵器を無力化すること、そしてユーベルタンとカーライルを逮捕させること。
だが時間がない。
コルシカ王をコーネリアに返すことは出来ても、コルシカ王とかけるが脱獄したことを知れば、ユーベルタンも悪巧みが明らかになることを恐れるだろう。
そうすれば兵器の使用によりコーネリア暗殺や世界を破壊しかねない。もう一度、コルシカ王とかけるが地下牢に戻るということも考えられるが、そうしても解決には向かわない、それに迷路の様な下水道を抜けてきた、もう一度戻れと言われても戻れない。かけるは頭を抱えた。
ホテルの部屋で、美樹はなかなか寝付かれなかった。小さい頃からかけるが苛められているのを助けて来たのは美樹だった。そのかけるが帰る姿を美樹は見送った。だがこんなことになるなら、かけると一緒に帰っていれば良かったと思う。
かけるの携帯電話が見つかった。単純にかけるが落としたものならいいが、幾らドジなかけるでも、携帯電話を落として気付かないことは今までになかった。
それに、目撃者の話では、女の子一人と男二人に眠っている状態で連れ去られた疑いがあった。
かけるに何かあったかも知れないと思うと、美樹は居ても立ってもいられなかった。ホテルのベッドに寝ていても心配で眠れなかった。
そこでホテルのベッドから起き出してベランダから外を眺めていた。時間は四時近く、ひんやりとした風が気持ちのいい夜だ。
キーワイルのホテルを、かけるの写真を持って訊いて探し回り、街の外れまで来ていた。キーワイルの街と言えども、繁華街と違って、住居も少なく、家がまばらになっている。さすがに、この辺りは夜やっているバーはほとんどなく、静かな夜が訪れていた。さすがに朝四時近く歩いている人など一人もいない。
美樹は暫くベランダで佇んでいたが、夜風が寒くなり部屋に戻った。美樹は部屋に戻る時に、何か説明出来ない何かを感じ、振り向いて窓から外を見た。暗い夜道に二人の人影が見えた。
その人影がホテルの前を通る時、街灯に二人の顔が照らされた。美樹は驚いて戻りかけた部屋から急いでベランダに出て「かける?」と小さな声で言ってから「かけるー!」と大声で叫んだ。




