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第三章の1ーかける誘拐される

第三章 ユーベルタンの企み


かける誘拐される

 何もかも上手く進んでいたこの世界に対して、面白くない者がいた。かける自身であった。かける達はコーネリアの家を出て、自分達でアパートを借りて別々に住んでいた。

 コーネリアが大統領に就任したので、かける達の役割は終わったのだが、大統領就任後もコーネリアに不平や不満を抱く者もいるだろうし、この世界がどう進んでいくか見届ける意味合いもあって、かける達はこの世界に残っていた。

 そうしている間に時は流れ、コーネリアが大統領に就任してから一年の月日が流れていた。その間にこの世界は和平が達成して、人々に活気が戻って来た。それはいいのだが、かける達はこの世界の住人ではない。平和になったこの世界でかけるがやることが無くなって、つまらなくなってしまったのだ。

 各自が好きなことをやっていた。

美樹は空手教室を開いたし、ホルヘは水泳教室を開いて、水泳教室に来た女性をナンパして彼女を取り替えてデートしている。キムはボディービルよりもレーサーの方が面白くなったらしく、ライセンスを取得してサーキットでレーシングカーを走らせている。加奈は自然の声を聞こうと言ったセミナーを開催して講師として励んでいる。キャサリンはスーパーコンピューターの設計に関してアドバイスを頼まれ、スーパーコンピューターの設計に従事していた。俊一は透視のスキルを活かし、透視されない壁の開発に明け暮れていた。

 皆がそれぞれ忙しくしている中で、かけるだけは飛ぶ力や念力など、最初こそはちやほやされたが、特に何か仕事として活かせる訳でなく退屈を感じていた。


 そこで、かけるは皆を久しぶりに集めた時に自分決意を打ち明けた。

「元いた世界に帰ろうと思うんだ!」

「ちょっと待てよ、かける!この世界も満更じゃないし、このまま、この世界にもっといてもいいだろうよ」とホルヘが言った。

「俺もこのままレーサーとして残りたい。帰るつもりはないな」とキムも言った。

「俺も忙しいから、抜ける訳にいかないしなぁ」と俊一が言った。

加奈とキャサリンが「私も」と同意して頷いた。

「私も生徒がいるから、空手教室を見捨てる訳に行かないのよ」と美樹も言った。

 ()しくも、この世界に残りたいか残りたくないかと言う考えで言えば、以前とは逆になっていた。

「もちろん、皆には強制しないよ。僕がちょっと先に行ってあっちの世界の様子を見てくるよ。君達は君達が帰りたい時に帰って来ればいい」とかけるは言った。

「またこの世界に帰ってくるのか?」と俊一は訊いた。

「その予定はないけど……」とかけるは言った。

かけるが行ってしまうことは、寂しいことではあるが、自分のここでの生活を捨てる訳にはいかないと思っていた美樹達は、かけるが帰ることに対してそれ以上は言わなかった。

 かけるはコーネリアやスコットやサリーやケリーにも挨拶した。皆お礼を言ってくれたが、かけるの決心を引き止めることはしなかった。

 コーネリアは大統領の職種柄、忙しいところを時間を作って心から礼を述べた。サリーやケリーは抱きついてきた。

 地底王国のサラ姫は、サカール王の後を引き継いで王妃になっていた。サカール王は自分が退いて引退して王位を譲りたいと考えていたが、王子のスコットは地底王国に帰ってくる気はないという意志は固かったのを見て、サラ姫を王位にすることにした。そんなサラ姫ともかけるは電話でお別れを告げた。

 かけるが戦闘エリアを行くのを助けてくれたグシュタフには、コーネリアが大統領になった時に報奨金をあげてもらったが、そんなグシュタフにもお別れを告げた。

 そうしてかけるは意気揚揚とアパートの部屋を出た。この世界でやれるだけのことはやったということが、かけるの自信に繋がっていた。


 出発の日は美樹達がお別れに来てくれた。

「まだ、最後じゃないよ!また元いた世界で会えるさ!」と言って涙を見せる美樹の肩をポンポンと叩いた。

 かけるはこっちの世界とあっちの世界を繋いでいたコロラン樹海に行くつもりだった。あそこからのこの世界に引き込まれたのだ。確かではないが、あのコロラン樹海はまだ富士の樹海と繋がっている可能性がある。

 和平が結ばれて戦闘エリアがなくなったおかげで、あのコロラン樹海に行くのも、そんなに大して掛からないとかけるは思っていた。

 人類国を抜けてキーワイルまで行き、キーワイルからロイドまでは長距離バス、そして、ロイド内を鉄道を使ってそれから歩いてゴルゲに入ればいい。ちょうど来た道を逆に辿(たど)るだけの話だ。


 かけるは水上バスを使ってキーワイルの街に着いた。そこで長距離バスに乗り換えてロイドまで12時間の旅だ。途中、飲み食いする飲食物を買ってバスに乗り込んだ。かけるの横にはかけると同い年くらいの女の子が座った。かけるは内心楽しい旅になると心湧き踊り嬉しく思った。

 その女の子は眼鏡をかけていて眼鏡から(のぞ)く目は大きくて可愛らしい。髪は赤い色をして目は紫色だ。どぎつい感じはするが、丸く大きく愛らしい目が、どぎつい感じを打ち消し、可愛らしさが前面に押し出されていた。

 その女の子とかけるは、同い年くらいということもあり、長距離バスの中、自然と話をする様になった。彼女の名前はエリナと言った。

かけるは自分が買ったお菓子を彼女に勧めた。かけるとしては仲良くなりたかったのできっかけ作りでもある。

「これ、一緒に食べない!結構美味しいよ」

「ありがとう!私も何か、そうだわ!この飴あげるわ。結構美味しいのよ」と言って大きな飴玉をくれた。

「ありがとう!今お菓子食べてるから後で頂くよ」

「ええ〜、せっかくだから、今、味を試してみてよ!味の感想を聞きたいし。ね!」

「でも、今、口の中一杯だから」

「じゃぁ、それ食べちゃってからどうぞ!」

 かけるとしては、飴玉を舐めたい気分ではなかったが、その女の子は、強引にもかけるが飴を舐めて感想を述べるのを待っている。

かけるは急いで口の中に入っているお菓子を食べてしまって、エリナから貰った飴玉を口に入れて舐めた。大きい飴玉でコロコロと口の中で転がす度に(あご)が外れそうだ。

「どう?」と訊く彼女に「うん、美味しい」と答えた。

その先、会話を続けることが出来なかった。彼女を見ていた視界がぼやけ出し、かけるはいつのまにか眠りについていた。


 かけるが目を覚ました時、かけるは長距離バスの中にいなかった。しかも手と足が鎖で別々に繋がれ、その鎖は壁に付けられていた。かけるは身動きすることが出来なかった。鎖を引っ張ってみても鎖はびくともしなかった。

 見渡すと隣にあの長距離バスで一緒だった女の子エリナがいた。どこか暗い地下室の様な部屋だ。周りに窓が一つもない六畳ぐらいの広さの部屋だ。壁はコンクリート()き出しで寒々しい雰囲気を出していた。

「これは一体どういうことなんだい?」とかけるはエリナに声を掛けた。

「ごめんなさい!あなたを騙すつもりはなかったのだけど、私もお金に困ってるの!」とエリナは言った。


 「やぁ、お目覚めかな?」と筋肉で鍛え上げられた(たくま)しい体に軍服を着た男が、かけるの方に歩いて来た。

「誰だ?」

「君は私のことを知らないかもしれないね。でも私は君のことをよく知っているよ、かける君!私はカーライル。人類国の軍隊の将軍だったカーライルというものだよ」

「カーライル?」と呟いて、かけるはその名をどこかで聞いた覚えがあった。

「君とはバレルという男から、グシュタフと共に旅をしていた時のことの報告は受けているよ。楽しい旅だったようだね」とカーライルは言った。

かけるは思い出した。

 グシュタフに連れて行ってもらって、戦闘エリアを渡っていた時、バレルというグシュタフの手下が、裏切ってグシュタフやかけるのことを報告していた時のバレルが言っていた名前だ。

かけるの顔を見てカーライルは続けた。

「どうやら、思い出して頂けたかな?君のおかげで人類国の将軍の座から落とされたよ。あの時は随分と世話になったねぇ」と皮肉を込めて言った。

「その仕返しか?バレルも一緒か?」

「あの男は始末したよ!使えない男は要らんのでな」

二人の会話を黙って聞いていたエリナは話を割って入って来た。


 「ねぇ、もういいでしょう!ちゃんと連れて来たんだから、約束通りお金頂戴よ!」とカーライルに向かって言った。

「君は……」とかけるはエリナを見つめた。

「恨まないでよ!あなたに睡眠薬を塗った飴を食べさせて、ここまで連れて来れば百万ギラのお金くれるって、この男の手下が言ったのよ。あんたには悪いけど、私もお金に困ってんの。あんたを飴玉で眠らせてから、仲間の男達に運ばせたんだだけど、彼らにも日当支払わないといけないし、私も大変なのよぉ」とエリナは言った。

「そんなことより早くお金」とカーライルに右手を開いて出した。

 カーライルは右手を胸の内ポケットに入れると、レーザーガンを取り出し、何も言わずにエリナの額を撃った。レーザーはエリナの後頭部から抜けてエリナは目を見開いたまま後ろに倒れた。かけるは言葉を失ってしまった。

「全く、人が大事な話をしている時に(うるさ)い奴だ」とカーライルは言いながらレーザーガンを胸の内ポケットに仕舞った。カーライルは眉毛一つ動かしていなかった。

「……なっ何すんだー?」とかけるは、やっとの思いで声にした。

「何って、(うるさ)(はえ)を一匹殺しただけさ!君が気にすることではない」とカーライルは涼しい顔で言った。

「君への任務は、いずれ直々に申し渡されるだろう。君と一緒に働けることを嬉しく思うよ」それだけ言うと、カーライルは部屋を出て行った。

 「エリナ!エリナー!」とカーライルが部屋を出て行った後、倒れているエリナに声を掛けたが、エリナは仰向けに倒れ、エリナの瞳は閉まらずに開いたままだった。もう息がないことは脈を測るまでもなく明らかだった。エリナの顔から血の気が引き、みるみる内に青ざめていくのが分かった。


 かけるはカーライルに誘拐されてしまった。彼らの目的が何なのか全く想像も出来なかった。もう時代は変わっている。人類国もロイド国もゴルゲ国もこの世界は変わっている。今更何をしようと言うのだろうか?

 それにかけるを誘拐して何のメリットがあるのだろう?とかけるは考えたが答えは出て来なかった。カーライルがかけると一緒に働けることと言っていた。

一緒に働かされるのか?何をするんだ?


 やがて一人の男がエリナの死体を片付けに来た。かけるは、その男に話し掛けたが何も答えなかった。何時間待っただろうか?

 食事が届けられた。意地を張って食べないのでは体力が持たない。ここはガムシャラにでも食べて体力を温存しないといけない。かけるがガムシャラに食べていると一人の初老の男が部屋に入って来た。

「君がかける君かい?」と優しそうな顔を向けた。

かけるは食べながら、顔を話し掛けてくる初老の男に向けた。

「繋がれているのかい?野蛮な連中で申し訳ないねぇ。何分(なにぶん)にも君の能力を考慮したことでね、君はすぐ逃げてしまうだろうからね。許してやってくれ」

「一体、僕に何の用ですか?僕なんて誘拐しても、お金払ってくれる人いないですよ」

「誘拐なんて飛んでもない。私はお金に困っている訳ではないのでね」

「それじぁ、何故?」

「まず自己紹介しておこう。私の名前はユーベルタン。君達のおかげでアイラやサイキスやユリサは投獄されてしまったが、彼らの父親だよ」

 かけるは唇を噛んだ。彼がユーベルタンだ。彼ならかけるに恨みを抱いていてもおかしくない。

「それじゃぁ、復讐ですか?」

「復讐でもないよ。ただ君に我々の仲間になって欲しいんだよ」

かけるは驚いた。もう世界は変わってしまっている。今更、何をやろうと言うのだろうか?

「嫌だと言ったら?」

「それは、残念だが、その場合は死んでもらうことになる」

「僕を脅しているのか?」

「いいや、とんでもない!死ぬのは君じゃない。死ぬのはこの世界全てだよ」


 かけるは絶句した。この男は正気何だろうか?

「君は私が正気じゃないと思っている様だね。君は知っているかな?私の可愛い娘達が衛星兵器と核兵器を研究、開発して製造していたことを」

「でもそれらの大量殺戮兵器は和平後、全て解体して廃棄されたはず」

「そう、だが私が、私の息子サイキスが大統領時代に、大量殺戮兵器を既に保持していたとしたらどうなるかね?」

かけるは唾を飲み込んだ。そうだ、この人なら、そんな大量殺戮兵器を保持して隠しておくだけの力がある。

「もし、あんたの命令を断ればその兵器を使って、この世界を破滅に導くというのか?そんなまさか!」

「まさかと信じないのは君の勝手だが、私を甘く見ない方がいいよ」

「……それで僕に何をやれって言うんだ!」

「なーに、簡単なことさ!マイク君が君達に邪魔されて出来なかったことだよ。つまり、コーネリア大統領を暗殺して欲しい!」


 かけるは唾をゴクリと飲み込んで答えた。

「そんなこと出来る訳ないだろう!それに、今更コーネリア大統領を暗殺しても、サイキス大統領の時代に戻るもんか!もう時代がとっくに変わっているんだ!」

「うるさい!」穏やかな顔のユーベルタンがいきなり険しく恐い顔になった。

「あのコーネリアだけは許せん!私を私の家族を滅茶苦茶にしおって!君が助けたコーネリアを今度は君が殺すのだよ。面白いゲームだろう」

「そんなことしたら世界がカオス(混沌)がやってくるじゃないか?」

「それは大丈夫、心配には及ばんよ。コーネリアの後は、私が衛星兵器と核兵器を使って、この世界を治めてやるさ」

ユーベルタンは再び穏やかな顔に戻って言った。

 「まぁ、今決められないのも無理はない。一日だけやろう。そうだ!面白い奴に合わせてやろう」とユーベルタンは言って、手下に何やら耳打ちした。

 すると、その手下はかけるに手錠と足かせをつけたまま、鎖を持って引っ張って行った。

「ちょっと、どこに連れて行くんだよ?」

「いいから付いて来い!面白い奴に合わせてやる!」と言ってユーベルタンは先に歩いて行った。ユーベルタンは早足で歩いて行き階段を下って行った。

 どうやら地下室に行く様だった。ユーベルタンは、長い地下廊下を歩いて行くとジメジメとした一番奥の地下牢の前に行って止まった。

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