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第二章の5ー和平への道

第二章 人類国第二回大統領選


和平への道

 コーネリアは大統領に就任してからというもの精力的に活動した。議会を解散させて、議会を総選挙から民衆が選挙を行って選ぶ様に変えた。

 今まで、議会はサイキス派の議員ばかりだったので、サイキスの都合のいい様に法律を改正する機関でしかなかったが、総選挙することにより、コーネリアに同調する者だけでなく、サイキス派その他いろんな考えを持ち、いろんな主張を行う者も選挙に当選し、議会が活気づいてきた。

 コーネリアとしては、大統領としてすんなりと進むことも少なく反発を受ける度合いも強く、大変ではあるがそれだけ民主の力が強くなってきたことを喜んでいた。

 コーネリアを中心とする政党を作ったが、政党の幹事長にはコーネリアは付かなかった。コーネリアが兼任することは時間的に大変であるし、大統領に従うだけの機関になってしまうことを嫌ったためでもある。少数政党も生まれてさらに活発化してきた。

 だがそういった言論の自由化を推し進めることにより、他人のプライベートを侵害する者や治安を乱す者も出てきた。警察機構による権限が勝手に暴走しない様に、そういった治安を乱す者のために文民支配下の下に警察機構を強化した。今までは、ユーベルタンの様に権力者に弱かった警察機構を一新した。

 それにはキーワイルのシステムを真似て市民による監査機構を置いた。監査機構の警察監査により、警察官の腐敗は彼らの手により白日のものとされた。腐敗した警察官には厳しい処置が課せられた。


 コーネリアが大統領に就任して暫く経ってから、ゴルゲのトップであったパク総書記が失墜(しっつい)して、リォウ総書記が選出された。

 これは、キャサリンが蒔いた火種が大きくなり山火事となったゴルゲ国は、武力鎮圧によって一旦は内乱を抑えたものの、武力鎮圧によって民衆に銃を向けた政府に対して、軍の一部が正規軍を抜け市民と一緒に武装蜂起(ほうき)した。

 軍の一部が人民側に付いて武装蜂起したことから、民衆も再び立ち上がった。

 それに対して正規軍は武力鎮圧を行おうとした。

政府の武力鎮圧のために肉親や仲間を殺されて憎しみを抱く者の数は増加していき、軍の政府に向かって武装蜂起する軍隊も増加した。そして軍はいつしか正規軍と革命軍に二分されてしまった。

 正規軍から抜けた兵士や部隊が革命軍に入り、増加する軍と減少する軍の勢いは明らかに現れた。革命軍は勢いづき正規軍はどんどん数を減らしていった。革命軍により殺された兵士も多かったが、国の行く末を案じて革命軍に同調して投降する兵士も多かったのだ。

 パク総書記には、ゴルゲ国の正規軍の他に私設の軍隊がいたが、正規軍が内部から総崩れになり、その頼りにしていた私設軍隊でさえ、投降して革命軍に加わる兵士すら出てきた。

 党内も、パク総書記に付く者とリォウに加担する者が出てきて分裂しており、パク総書記に付く者は次第にパク総書記を見限ってリォウに付く様になった。

 形勢が逆転不可能と見ると、パク総書記は亡命を申し出たが、ロイド国も国内が割れているし、人類国に至っては大統領選でサイキス大統領が敗れ、コーネリアが大統領に就任していた。

 そんな状況下ではパク総書記の亡命を受け入れる国はなかった。地底王国に亡命と言う手もあったが、パク総書記にとっては、面識も外交もなかったので、亡命を申し出ることすら出来なかった。

 そうして、ゴルゲのパク総書記は、武力鎮圧の形で民衆に銃を向けたことに対して、逮捕され刑務所に政治犯として拘禁(こうきん)された。

 その後、党員全員一致で総書記の座に革命を指揮したリォウが就任した。それらの出来事は、コーネリアが大統領に就任して一ヶ月程後のことだった。

 キャサリンが、騒動を企てる様にゴースティンに頼んだ二ヶ月程の短い期間であった。それだけ、ゴルゲ国の国民も現体制に不満を持っていたのだ。


 ロイド国の方は、ゴルゲ国の様に革命が起きた訳ではなかった。(しいた)げられてきた貧民を中心に、経済的に豊かな層や知識層が加わってデモや集会を行っていたが、そんな集会やデモにより知識を蓄え、仲間がいることで勇気付けられた民衆は集会やデモに加わる様になり、次第にデモや集会の規模が大きくなっていた。

 集会禁止法などの法律が、制定されて施行されることを待っていられないロイド政府は、警察を使って集会を禁じる様に命じた。これが知識者層を怒らせる結果となった。ロイド国には、集会やデモを禁止する法律が整備されていなかった。

 貧民が蜂起することを怖れて、貧民に対してはデモや集会を開くことは禁じられていたが、貧民以外の税金納付者、特に高額税金納付者に関しては、集会もデモも自由であるはずだった。

 この度のデモや集会にはそういった高額納税者も含まれていた。政府の違法性が叩かれる様になった。政府は、集会やデモを禁止するのは、テロ防止法の点から違法ではないと反論した。

 知識者層もデモや集会がテロに直接的に結びつく訳ではないと反論した。知識者達は政府を相手どり、政府の取り締まりの違法性を問題にして訴訟を起こした。

 ロイド国では訴訟は日常茶飯事だ。何事も秩序とルールを重んじるロイド社会において、裁判で第三者の客観的判断に委ねることは数多く、数多い裁判をこなすために迅速な裁判が進められていた。

 司法は、政府ではなく、知識者達の勝訴の判決を言い渡した。そうしてデモや集会を抑える手段すらなくなった政府の指導者ラウスは、首相の座を降りる以外に事態の収拾をつけることは出来なくなった。議会から内閣不信任案が出され、議決してしまったのだ。

 新たに議会が首相に選んだのは、この集会やデモを抑えることが出来る人物であるレキシンだ。彼は貧民救済の政策を掲げたり公平社会の実現を掲げていた。彼は集会やデモに参加するだけでなく、自らが民衆を率いていた。

 それだけに、これだけ大きくなったデモや集会を抑えられるのは、彼らの指導者となりうる人物か、武力で抑える人物であるが、武力の行使は法律上認められていない。そこで、議会も彼に反対する勢力を押し切って、彼が次期首相となることで決定した。コーネリアが大統領に就任して、半月程のことだった。


 和平のお膳立ては整った。コーネリアはゴルゲのリォウ総書記とロイドのレキシン首相に打診して和平へのトップ会談を提案した。

 人類国とロイド国とゴルゲ国に分かれてから、トップ会談など実現したことはなかった。三つの国に分かれる以前は、一つだったのでトップ会談などなかった、つまり歴史上初めてのトップ会談ということになる。

 トップ会談は、コーネリア大統領が提案したので、提案者である人類国で開かれた。

 そこで三国からのトップは、ロイド国とゴルゲ国を国として承認すること。戦闘エリアから全軍撤退すること。大地が化学兵器などで汚染された地域の汚染の中和を各国協力の下で行っていくこと。

 各国を脅かす大量殺戮兵器の廃棄、すなわち人類国が開発して、既に配備をしている衛星兵器と核兵器の廃棄、加えて、今後、大量殺戮兵器を開発しないこと。

 さらに各国の民間レベルでの交流を推し進めるために、貿易や観光にさらなる力を入れること。通常兵器を持ってしても、お互いの領土や領空や領海を侵攻しないこと。人類だとか獣人だとかサイボーグだとかいった理由で、移住することを拒んだりしないこと。移住者の受け入れに対して、差別が行われない様に互いの政府は最善の策を取ること。

これらが共同声明の中に盛り込まれて発表された。

 さらに今後も定期的にトップ会談を行っていくことを声明文の中に盛り込んだ。ここにロイド国とゴルゲ国の独立から起きた戦争は、十年以上の時を経てようやく幕が下りた。


 三カ国のトップ会談が行われ、戦闘エリアも廃止されて、各国から人々の移住が盛んに行われ、人類が人類国を、サイボーグがロイド国を、獣人がゴルゲ国を形成する時代が終わった。各国において割合は小さいが、他の種類の人が住む様になっていった。

 戦闘エリアの撤廃と和平により、個人や法人でも各国と貿易する者たちが出てきた。自由商人や各国専属の商人だけでなく商売自体が誰でも出来る様になっていった。


 既にコーネリアの大統領就任から一年の月日が流れていた。三カ国で開かれていたトップ会談に地底王国のサカール王やキーワイル自治区のソビリス市長も入った。コーネリアの呼びかけで実現したのだ。地底王国を国として承認することと、キーワイルは戦闘エリアにも居住地が拡大し、他の三国と比べても同等に人口が多くなっていた。

 だから、いつまでも市としてではなく、国として認可すべきだとコーネリアが主張し、ロイドもゴルゲもそれに応じたのだった。

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