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第二章の2ーキャサリンの気転

第二章 人類国第二回大統領選


キャサリンの気転!

 人類国は、人口を約四百万人有しており二十の地域に分かれていた。二十の地域は王制を敷いていた古い時代から分かれており、各地域に地域性というのか民族性があった。

 人類とひとくくりにしていても、中身は一種類ではなかった。肌の色も白い、黄色い、黒い、浅黒い肌の人種がいて、その点はかける達の世界と一緒であったが、髪の色と瞳の色がかなりカラフルに違っていた。

 かける達の世界ではm髪の毛の色を染めたり、色付きのコンタクトを入れることでいろんな色を出していたが、この世界の人類は地毛であり、本来の瞳の色である。

 髪の色が紫色や緑色や青色や黄色やピンク色などのかける達の世界では染めた毛以外では見られない色だった。しかも色が艶があったりなかったりといった違いもあり、一人一人の色が十人十色と言っても良かった。瞳や眉毛(まゆげ)の色も赤色、黄色、紫色、緑色などもあり、これまた十人十色の色をしていた。

 紫色などかなり毒々しい感じを与えるので、最初はとっつき(にく)いが、色と人柄はまるで関係がなく、髪と瞳の色で毒々しい感じを受けても笑顔であって感じの良い感じを受けたり、明るいオレンジなどの色であっても、目つきが鋭く凶悪犯であったりもするのだ。

 二十の夫々(それぞれ)の地域は、四種の肌の人種が違う構成比率をしていた。白や黒や黄色や浅黒い肌人種だけの地域もあれば、交じり合っている地域もある。結婚も同じ肌の人種を好む民衆もいれば、違う肌の人種と結婚する人種もいて、段々と四つの肌の間の色の人種も出来てきて、境目がかなりあやふやになってきていた。キーワイルの都市は自治をしていたが、人類国の海中都市は二十の地域の内の一つになっていた。


 ここで問題が生じてきた。かける達を海中都市に隠したままでは選挙戦を戦えない。コーネリアを妨害活動から守るにはかける達も一緒に行く必要があった。一緒に行かなければ、選挙活動の最中にコーネリアが狙われたら終わりだ。一緒に行動する必要があるのだが、そうするにはかける達も危険に(さら)される。かける達は危険を覚悟の上だ。かける達も選挙活動を共にすると申し出た。

 かけるに関しては、死亡したとニュースで伝えられていたので全てを明かさないといけなかった。コーネリアは大統領選の出馬表明をした日にかける達と話し合って、翌日、緊急記者会見をして、かける達を記者の前で紹介した。かけるの死亡については、暗殺の恐れがあったので、一芝居打ったことも正直に話した。

 国民を騙していたことで民衆の信頼を多少は失ったが、これでかける達が堂々と同行することが出来る様になった。さらに記者会見して、首謀犯が誰とは特定しなかったが、暗殺の危険性があったことと、かける達を堂々と紹介したために、サイキス現職大統領や彼の右腕のカーライル将軍が手出しすることが出来なくなった。選挙期間中にコーネリアが未遂でも暗殺されれば、民衆にサイキス達の仕業を疑われて、選挙戦にはマイナスになってしまう。例え、コーネリアを暗殺して、サイキスが二期大統領に選出されたとしても、国民の世論の反発を生むのは必至だ。

 コーネリアがかけるの死をでっち上げ国民に嘘をついていたことをサイキス現職大統領は選挙戦で非難して来た。ありもしない暗殺話をでっち上げて誰かのせいにしているが、暗殺の話などなかった。それどころか大々的にニュースを流し、国民や他国に間違った嘘の情報を流した事は、大統領候補としてはあるまじき行為であると。

 コーネリアが大統領になれば、王制を復活させ権力を独占するつもりに違いない。といったコーネリアを非難する内容の選挙演説でコーネリアとの大統領選を戦う作戦を取った。自分はそんな国民を騙す政治をせず、戦争においてゴルゲとロイドに打ち勝つことで、長かった戦争に終結させて人類に幸福を(もたら)すとサイキスは選挙戦で主張していた。


 コーネリアはスコットと一緒に選挙戦を精力的に戦った。かける達がコーネリアに付いて回っていた。大統領になってずっと続いている戦争を終結させることを公約として、本当の民衆による政治を行うと宣言して回った。

 議会を構成する議員を各地から選出することも宣言していた。今のままでは議会はサイキスの政治を後押しするだけの名ばかりの議会でしかない。コーネリアが目指す政治は議会が大統領機関とは独立して法を整備する。大統領は議会が定めた法に従って政治を執行していく政治である。

 選挙戦は日毎に激しさを増して白熱していった。コーネリアを暗殺すればサイキスにとってはマイナスになるので、コーネリアを目立って暗殺する可能性は低い様に思われた。

 そこでかける達は二手に分かれた。コーネリア達を守る役目と海中都市に残って子供たちを守る役目だ。子供達を誘拐する可能性が依然として残っていたからだ。

 子供たちの見張りにはカリーナ達の仲間のゴースティンがいるが、ゴースティンは力がないので、子供達を守るのには力不足だ。

 超能力の種別から考えて、戦闘能力があるのはかけると美樹とキムとホルヘだ。俊一は目となり、加奈は耳となり、キャサリンは頭脳と口になりうる。

 会話に関しては人類同士なら会話する事が出来るので問題ない。会話するために加奈とキャサリンが居なくなっては、女子が子供たちの方に誰もいなくなってしまう。子守り役は女子が一人は残っていた方が心強い。

 そこでかけると美樹と俊一だけで、コーネリアに同行して、他のキムとホルヘと加奈とキャサリンは海中都市にいて、スコットとコーネリアの子供達を守ることにした。

 四歳の女の子と三歳の男の子と小さい二人の子供達であるから、選挙戦で各地を回るコーネリアとスコットに付いて行く訳に行かなかったのだ。かといってベビーシッターを雇うのは、サイキス大統領のスパイとも知れず、却って危険に思われたのだ。


 選挙戦は大統領選出馬当時の下馬評(げばひょう)では、サイキス現職大統領が8対2の割合で有利であった。ところがコーネリアの熱弁に(ふる)われて民衆の心が動いたのか、じりじりとコーネリアが追い上げを見せた。大統領選一週間前の下馬評ではコーネリアがサイキスを追い抜いていた。

 コーネリア有利のニュースが飛び交う中で、最初は黙って見ていた、衛星兵器の開発と製造を一手に引き受けるサイキスの姉アイラと、核兵器開発と製造を一手に引き受けるサイキスの妹ユリサは脅威と感じていた。

 コーネリアが勝利すれば衛星兵器や核兵器の開発・製造は取り止めになる。会社としては死活問題になる。アイラとユリサは、事ある毎に何度もサイキスに「なんとかコーネリアを妨害するように!」と念を押していたが、サイキスは動かなかった。

 サイキスとしても動きたいのは山々ではあった。サイキスは姉や妹の軍需工業だけでなく、通常兵器の軍需工業にも力を入れて人類国として戦争に力を入れる以外にも、武器や兵器を輸出して儲けを出していた。

 武器や兵器を敵国に売るなどありえないことの様に思われたが、敵国反政府ゲリラに売るのみではなく、敵国政府にも自由商人を通じて売っていたりもした。

 もちろん、ハイテク兵器は別であるが、旧式の兵器や武器は新式に買い換えないといけない。だが古くなった兵器や武器も需要がある。それら旧式の武器や兵器では、新式の武器や兵器を前に戦局は変わらない。特にマンネリ化した戦争の局面では変わらない。それよりも少しでも利益にしようというサイキスの考えであった。

 当初、独立戦争として始められた頃は、独立に燃えるゴルゲとロイド、そして独立を阻止しようとした人類軍の熱い情熱があったものの、現在は事実上、国として独立を果たしている。

 既に独立戦争をかけて戦うという当初の目的は実質上終わっている状態であるから、志を持って戦争を行っているのではなく、各国の政界のトップでは、その戦争によりどれだけ利益を生むかが目的となっていた。

 だから戦闘エリアと非戦闘エリアとを分けて、自国が戦争の被災地として、人や街や自然や経済がダメージを受けない様に分けていたのだ。

 通常兵器に関してはロイド国もゴルゲ国も人類国も互いに輸出入をしていた。戦争は互いに協力しあって利益が出る様に仕組まれたビジネスと化していた。

 各国のトップの戦争継続支持者は戦争を継続させて利益を取り続けたいために、民衆には敵国の脅威を常に大袈裟(おおげさ)に訴えていた。それだけにゴルゲやロイドのトップに君臨している戦争継続支持者にとっても、コーネリアは脅威になりうるのだ。自分達の利益が減るからだ。


 そういったこの世界の特殊な戦争の構図を、かける達の中ではキャサリンだけは見抜いていた。それというのもキャサリンがこの世界に来て情報分析能力が飛び抜けていたためだ。

 この状況では、コーネリアを暗殺しようとするのはサイキスだけではないはずだった。むしろ、サイキスは選挙戦のイメージがマイナスになるので出来ない。

 だがゴルゲ国やロイド国の戦争継続支持者はコーネリアを暗殺して、サイキスが暗殺容疑の濡れ衣を着せられて大統領にならずとも、戦争継続主義者の大統領候補者を送り込めばいい。それだけに危険な存在であった。

 キャサリンはコーネリア達が選挙戦で出ている間、海中都市に残っていたが、ゴースティンのカリーナを通じて、ロイド国やゴルゲ国にいるゴースティンから情報を取得していた。

 ゴースティンは昼は見えず、夜はゾンビの恰好(かっこう)をしていて、見つからない様に隠れているためにどこにでもいる。そのゴースティンはテレパシーによる会話能力があるため、世界中の情報がゴースティンを介して知り得ることが出来た。但しテレパシー伝達能力は低いので遠くまでは交信出来ない。

 例えば海中都市のゴースティンは他に住むゴースティンと交信出来ない。そこでキーワイルとの定期船にゴースティンを潜り込ませ情報を取得していた。キーワイルの都市にはいろんな所にいるゴースティンが集まってきているのだ。

 もちろんのことながら、サイキス現職大統領もカーライル将軍もゴースティンの存在は知っていた。知っているも何もサイキス大統領が兵士の補充として考え研究させたのだが、兵士としては体力やエネルギーの極端な低さのために役に立たないし、諜報活動としてもテレパシーの伝達範囲が狭く、多くのゴースティンを介さないと、遠くの情報を聞くことが出来ないので、重要視していないどころか軽視していた。

 ゴースティンがいなくてもテクノロジーの発達で情報が素早く取れるのだ。そんな訳でゴースティンは各地で諜報活動をしていても報告の義務もないし、どちらかと言えば忘れ去られた存在でしかなかった。

 サイキスにとっては、ゴースティン達は住居も食事も要らないので、給与を支払うということもないので負担になることもなく、そのまま放置していても何の問題も引き起こさなかったのだ。


 キャサリンはそんな忘れ去られたゴースティンのネットワークに目をつけ、情報収集に使った。キーワイル自由都市からのゴースティンの話では、各国がこの人類国での大統領選に注目している。そしてトップの戦争継続支持者はコーネリアに脅威を覚えていることも事実だ。コーネリア暗殺に動く可能性が高いとの情報を受けていた。

 ゴルゲ国とロイド国の戦争継続支持者が動かない様に牽制(けんせい)しておく必要があった。

 キャサリンはカリーナに「ゴルゲ国とロイド国にいるゴースティンに伝えて、ゴルゲ国とロイド国の和平支持者を立ち上がらせることが出来ないかしら?」と言った。

「えっ何ですって?」とカリーナが驚いた顔で訊き返すのを、暗殺を未然に防ぐためだと訳を説明した。

 カリーナは「出来るかどうか分からないけどやってみるわ」と興奮した面持ちで言った。カリーナは十歳のゴースティンの女の子ではあったが、諜報活動への心得を学び、おばあさんについて知識を吸収していただけに、普通の子供とはまるで違う程頭が切れた。

 それに、元々ゴースティンは死んだ時の姿をしているので、子供は子供、おばあさんはおばあさんの姿をしているが、ゴースティンとして何年生きても姿は人間として死んだ時の姿のままなのだ。だからカリーナの様に見かけは子供であっても中身は大人の様に賢いということも珍しくないのだ。

 カリーナは自らキーワイル自由都市に行って、ゴースティンの集まる廃屋でゴルゲ国やロイド国に住んでいる仲間のゴースティンを集めた。

 キャサリンの名前は出さずに、ゴルゲとロイドの和平支持者に何か騒動を起こさせて、ゴルゲとロイドの戦争継続支持者が暗殺などの手段に訴えない様に出来ないかと訊いた。


 ロイドに住むゴースティンが早速言った。

「それは出来ないでもないよ。ロイドでは開く格差に低所得層は不満を貯め込んでいる。仕事もなくて社会のお荷物の様に扱われている彼らに、何か騒動を起こさせるのは簡単だね!」

 それはカリーナも感じていた。カリーナは元からロイド国にいたので、その辺の事情はよく分かった。かけると旅して来た時もロイドの低所得者層は、かけるを協力すると言っていた。それ程、現政権に対する不満は強い。

 和平が実現されて、彼等の生活が少しでも楽になることを示せれば動いてくれるかも知れない。現政権を倒すために革命を起こすとか、そんな大きな騒動でなくていい。ただ、戦争継続支持者がコーネリアの暗殺など動かなければいいのだ。

「でも騒動を起こしたサイボーグ達が、厳しい処分を受けないかしら?」と他のゴースティンが言った。

 それがカリーナとしても気がかりであった。貧乏なサイボーグが、社会のお荷物として扱われているロイド国では、そんな彼等が何か問題を起こしたら、即刻厳しい処分を受けるはずだ。

 それでは、コーネリアが大統領選に勝利しても和平が実現しなくなる怖れさえ出てくる。それには現政権に不満を持っているスラム街に住んでいる様な貧民層のサイボーグだけではダメだ。識者や政界トップにいる和平主義者など広く騒動に加担する必要がある。

「私が知っている穏健派の貴族階級の人や和平主義者などに協力願えるかもしれない。協力してくれるかどうか分からないけどやってみましょう!」とかなり年配のゴースティンが言ってくれた。

「有り難う!それでは、あなたにこの計画のロイド側のリーダーになってもらえないかしら!」とカリーナが言った。

「いいですよ!こんな年寄(としより)でも何か出来ると思うと血が沸き起こる様じゃて!皆も協力してくれるかのぉ」と周囲のゴースティンを見回した。「オー」と皆威勢良く応えた。

「それではお願い致します。失礼ですが、あなたのお名前は?」

「リバルティッヒと言うもんじゃ」と老人は言った。リバルティッヒは、久しぶりの大仕事にわくわくしている様で、死人であるにも関わらず、顔に精気が(みなぎ)っている様に見えた。

「それではリバルティッヒさん、宜しくお願い致します」

「よし!任せておけ!早速、ロイドに戻るぞ!」と言ってロイド国に住むゴースティン達を連れて出て行った。

 ゴースティンは幽霊であるから、ふわふわと浮いて飛んでロイド国まで戻ることが出来る。だから、目でも捉えられないし、レーダーでも映らないので、戦闘エリアでも行くことが出来る。

 もっとも今は人類国の大統領選が近く、戦闘エリアでも戦争はしていないはずだ。だがゴースティンが飛ぶスピードはかけるが飛ぶスピードに比べると遅い。ロイド国まで行くには最低一日は掛かるのだ。


 「さてロイド国に対してはこれでいいわね。ゴルゲ国に対してはどうかしら?」とカリーナは残ったゴースティン達の顔を見渡した。

 一人の若いゴースティンが口を開いた。

「ゴルゲ国は社会主義だから貧富の差は少ないことになっているけど、社会党員と一般民衆の貧富の差は資本主義よりも大きい。しかもこの頃はビジネスの伸びも著しく格差が付いてきている。貧しい獣人達は現政権に不満を抱いているはずだよ」

 ゴルゲ国は、社会党員と一般民衆の差は大きく、かける達を捕まえようとする前線の兵士は皆貧しい出身の一般民衆だ。社会党員、または社会党員の子供達はそんな戦争に借り出されることなく、大学に進学して高学歴を持って支配階級となるのだ。

 「和平主義者についてはどうかしら?ロイドと同じ様に識者とか社会党内にも和平を推進している人はいるかしら?」とカリーナが訊いた。

「ゴルゲ国は農産物や漁獲類が主産品として輸出している。これらは収穫の時期があり、収穫の時期など猫の手も借りたいぐらいに忙しい。だけど、そんな忙しい時期でも戦争に借り出される訳だから、そんなことをよく思っていない和平主義者は、ロイド国よりもむしろ多いかもしれない」と先ほどの若いゴースティンが言った。

「それに幾ら、戦闘エリアを田畑から遠くに取っていても、大地の汚染は農作物に影響を与えると(とな)えている大学の教授もいるわ。彼等は和平を唱えるために、動いてくれるかも知れないわ」と若い女性のゴースティンが補足して言った。

 「党内の中ではいないかしら?」とカリーナが訊いた。党の力が大きい場合は、識者や生活苦の民衆だけではダメだ。党内に協力者がいないと成功しない。

「党内も意見が割れているよ!一党独裁でやってきているものの、先程の汚染の話や、戦争に借り出される民衆が、ゴルゲの将来を築くのに戦争が邪魔になっていると主張している党員も多くいる。一つの党の中に幾つか派閥があって、現在は強硬派のパク総書記が党の最高指揮官なんだ。彼の背後の派閥が最高派閥ではあるんだけど、穏健派のリォウは和平を主張しているよ。彼はゴルゲの将来を案じているんだ」と先程の若者が言った。

 「それなら、政府の戦争継続路線に反対を唱える人達に騒動を起こさせることは出来るかしら?」とカリーナが訊いた。

「うん、なんとかやってみるよ!プリシラ、君も力を貸してくれるかい?」

「もちろんですとも、ロック!」とプリシラは応えた。

「それじゃぁ、ロックとプリシラ、あなた達二人がリーダーになって、早速取り組んでくれるかしら?」

「分かった、任せておけ!皆も協力してくれ!」とロックとプリシラは力強く頷いて周囲のゴースティンを見回した。残っていたゴースティンが力強く頷いた。

そして残りのゴースティン達を引き連れて部屋を出て行った。

 キーワイル自由都市からゴルゲ国までは、ゴースティンのスピードで二日は掛かる。キャサリンの機転で、キャサリンは海中都市にてコーネリアの子供達をガードする任務についてすぐに動き出していた。コーネリアが大統領選出馬を表明してから、わずか四日のことだった。こうしてキャサリンのおかげで先手を打つことが出来た。


 カリーナはゴースティン達にロイド国やゴルゲ国で騒動を起こす様に仕掛ける様にもちかけてから、海中都市とキーワイルの自由都市を、情報収集と伝達のために、何度も往復していた。

 ロイド国に戻ったリバルティッヒ達からの情報や、ゴルゲ国に戻ったロックやプリシラからの情報をキャサリンに伝えるためだ。

 キャサリンはカリーナからの情報をかける達にも伝えておく必要があった。それにはそれ程困らなかった。コーネリアが子供達の声を聞きたくて一日一回は電話してきていた。だがコーネリアの電話は盗聴されているかもしれない。

 海中都市側で盗聴されているかどうかについては、加奈がある程度は聞き取ることが出来た。電話を盗聴している人達の声を加奈が聴き取ったのだ。

 海中都市の中にいる人類国の諜報員でカーライル将軍直属の者だ。幾らかけるやキャサリンの存在が(おおやけ)になったとは言え、かけるとキャサリンが、カリーナから集めた話を盗聴器の仕掛けられた可能性のある電話でする訳には行かなかった。加奈が聴き取ることが出来るのは、海中都市の比較的近い地域で盗聴している声を聞き取れるだけだ。

 コーネリアは携帯は持っていたが、子供に対して携帯での通話は控えていた。電波を受信されるかもしれなかったからだ。移動中が多いため移動先から電話をかけていた。俊一が透視して盗聴がないか確認はしていたが完璧ではない。

 コーネリアも聞かれてまずいことは注意して言わない様にしていたし、コーネリアの子供達のサリーもケリーも幼いので、そもそも秘密事項など知る由もなかった。

 加奈が電話線を通して、かけるの思考を聴き取ることが出来た。そしてキャサリンが、かけるの脳に語るテレパシーも多少ながら使うことが出来たので、コーネリアと子供達が、電話で話している時に電話線の信号に()せて、かけるにテレパシーを送受信していた。おかげで、かける達にも伝えることが出来たし、かける達の状況も知ることが出来た。


 ロイド国に帰ったリバルティッヒと、ゴルゲ国に帰ったロックとプリシラは立派に役割を果たしていた。現政治体制に不満を持つ人達は元々火種を持っていたので、ちょっと火に油を注いでやるだけで火は大きく燃え上がった。

 和平主義者達は、ゴースティン達に言われるまでもなく、人類国の和平を唱えるコーネリアが大統領選に出馬するということをチャンスと見ていた。

 彼等が先頭に立って、現政治体制や現社会に不満を持っている人達を率いて、デモをやったり集会をしたりして支持者を増やしていった。

 当初は、現体制もデモや集会を禁じることなく見守っていたが、続々と支持者が増えて行く現状に静観している訳には行かなくなった。

 ロイドであればスラム街に住むサイボーグ達だけなら、彼等を処分するきっかけとスラム街を叩き潰してしまうだろうが、指揮していたのは、かなりの数の知識層だった。そうなると、そう簡単に、武力鎮圧と言う形で押さえ込む訳に行かなかった。

 デモや集会を指揮していた知識層は、金持ちでロイド国における彼等の税金により経済的な貢献度合いを考慮すると、彼等を逮捕して拘留することは、ロイド国の経済の地盤を揺るがすものと成り得たのだ。

 この時までは、ある一定以上の金持ちの階級には自由に集会を開くことが許されていたが、政府も議会で集会禁止法を作成して対抗する動きが見られたが、ロイド国は議会で承認されて政策が施行されるまでが長い。

 多数政党がいて与党が過半数を取っていないために、一つの法案がまとまり施行するまでに多くの議論がなされるのはいいことではあるのだが、法案が立案されて施行されるまでに数年掛かることがざらで、十年以上掛かる法案もかなりの数あるのだ。そんな法の整備の遅れのために一部の知識層に集まった貧民層のデモや集会は国内各地に拡がっていった。

 ロイド国では累進課税を(もう)けており、一方で貧しい生活補助を受けている貧乏な者には、税金を払わずに補助を受けていて、スラム街から出て暮らすことを禁じたり自由を制限してきた。

 その反対に、金持ちは大事な国の税金支払い者であったので、あらゆる自由を与えていた。そのために金持ち階級によるデモや集会を止める法律がなかったのだ。

 ロイド和平支持者は、これを機に国を変えようとロイド国各地でデモや集会を開き、その数は(ふく)れ上がって行った。ほとんどが格差社会に嫌気を射した民衆がほとんどだった。


 ゴルゲ国でもゴースティンのおかげで火に油を注がれて盛り上がっていた。ロックとプリシラが、党内のリォウに話したのがきっかけだ。

 元々リォウは、パク総書記と党員だけで行われる選挙に負けたのだ。その時もリォウは和平を訴えたが、多数勢力のパク派に勝つ事は出来なかったのだ。だがリォウはその後も和平を主張していた。パクからするとリォウは目の上のたんこぶではあったが、勢力が弱い派閥でしかなかったために気にかけていなかったのだ。

 そのリォウは、ロックとプリシラの話に、和平成立はこの人類国のコーネリアの大統領選しかないと踏んでいた。リォウはコーネリアが大統領になってから、行動すべきと考えていたが、ロックとプリシラの話を聞いて、そうも言ってはいられなくなった。

 ゴルゲ国から暗殺の使者が行って、コーネリア大統領候補の暗殺が行われれば、このゴルゲ国もさらなる戦争拡大のために国の予算が割かれることになることが予想された。

 リォウは精力的に国の有力者を渡り歩き、さらに彼等有力者から民衆の中の指導者へと、話を持って行かせた。その結果、各地でデモや集会の数が増えて行った。


 総書記のパクは各地で開かれるデモや集会に対して迷わず武力鎮圧をした。ここで中央政権の強い立場を示しておかないと中央政権による管理が崩されかねない。

 だが、そうした断固とした武力鎮圧は国民に深い恨みと憎しみの種を抱かせることになった。リォウなどの反政府組織は地下に潜って活動を続けていた。

 そんなリォウに自由商人達は武器や兵器を売っていた。政府に対する恨みや憎しみを抱えた地下組織は内乱を起こすまでになっていた。彼等は革命と称し現政権に戦いを挑んだ。


 そんなゴルゲ国とロイド国の国内事情があり、人類国での大統領選どころの騒ぎではなく、ゴルゲ国もロイド国も自国のことで手一杯だった。そんな成り行きをカリーナから聞いたキャサリンは驚いた。

 キャサリンもカリーナも、そんな大きな事になる様な騒動を期待していなかった。ロイドとゴルゲの現政権が、暗殺者を雇って、和平を主張するコーネリアへの暗殺を食い止めようとしていただけだった。そんなキャサリンの期待以上に燃え上がったのは、ゴルゲ国もロイド国も、民衆の鬱憤(うっぷん)が相当溜まっていた証拠だろう。

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