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第二章の1ー大統領選に向けて

第二章 人類国第二回大統領選


大統領選に向けて!

 「コーネリア姫、これで僕達は全員揃いました。姫は僕達がこの世界における和平の協力をするために使者を(つか)わしたと聞きました。そろそろ、どういう目的で呼ばれたのか真の目的をお話しくださいませんか?」とかけるは改まって前に座っているコーネリア姫に向かって言った。

 笑っていた仲間は、皆コーネリア姫の方に向き直って、真剣な眼差しでコーネリア姫の言葉を待った。かけるは皆より先に着いたとはいえ、着いてからコーネリア姫の気持ちを聞く時間がなかったのだ。


 コーネリア姫は飲んでいたティーカップをテーブルに置いてかける達に向き直った。

 「あなた達はこの世界について、どこまで知っているかしら?この世界が、人間から人類とゴルゲとロイドに分かれて戦争をしていることは知っていると思います。そしてもう一つの勢力、戦いを避けて大地の下で暮らすことを選んだ地底王国」

 「父である国王のコルシカ王はずっと、相手に勝るためにDNA操作するゴルゲや、パーツを機械化してサイボーグになるロイドに反対していましたが、王の立場としては反対することも賛成することも出来ませんでした。法に触れない以上、自由を束縛したくないと考えてもいました。獣人となってもサイボーグとなっても、人を殺すなど法に触れることはしていませんでした。その段階で獣人となってはならないとかサイボーグになってはならないと法を作って規制することも出来ました。でも父であるコルシカ王は王の私見で政治を行うことを極力控えていました」

「その結果、獣人はゴルゲに、サイボーグはロイドに率いられ独立戦争を仕掛けてきたのです。始まりは独立戦争でしたが、今では事実上、ゴルゲもロイドも国として認可されています。父のコルシカ王は認可していませんが、事実上国として機能しています。それでも戦争は終わることがありませんでした。戦争は始めることよりも、終えることの方が難しいのです」


 「コルシカ王は王である前に科学者でもあったのです。科学者として科学を使って、人間を人間の姿を変えようとする考えに我慢がならなかったのだと思います。そうして父であるコルシカ王が、レーザー砲を備えた衛星兵器と核爆弾を搭載したミサイルの発明に力を注いだのです。でもそういった強力な大量殺戮兵器の開発に民衆は戸惑(とまど)っていました。賛成や反対を明確に表明する人もいれば判らない人が多くいました。大量殺戮(さつりく)兵器の開発を推し進めたのはコルシカ王一人でした。そんなことがあり、民衆はコルシカ王の政治に疑問を抱いていたのです」


 「その隙を現在の大統領のサイキスが突いて来ました。大量殺戮兵器は王制である絶対君主の立場であるから起きたのだと、民衆が政治をする議会民主制を取り入れ政治の決定は大統領が行う制度を主張したのです。民衆はコルシカ王の政治に疑問を抱いておりましたから、サイキスは次第に支持者を集めて、民衆の支持を得る様になりました。サイキスは王制を廃止して議会民主制で大統領に政治的権限を置く制度を導入致しました。そして民衆の強力な支持をバックに、最初の大統領に就任致しました」

「もちろん、父であるコルシカ王も反対しましたが、反対すればする程、権力の座にしがみついている老人としか思われず相手にされなくなりました。それでも父は大量殺戮兵器の製造に固執(こしつ)していました。父に反対する者に暴力を振るったりする様になり、サイキスの命によって人類国刑務所に投獄されました。投獄された刑務所への面会は認められませんでした。父の政治的思想が伝染することを恐れたためのことでした。父はその後、刑務所の中で発狂して死んだということでした。王である父の遺体ですら、遺族である私に見せる前に、体が腐って匂いを出すのは困るという理由で既に火葬されていました」


 「父コルシカ王の死後、サイキス大統領は父が研究に力を注いでいた衛星兵器の発明をサイキスの姉が経営する会社に全権譲って売りました、そして同じく核ミサイルの研究をサイキスの妹の会社に売りました。形だけの入札がありましたが、サイキスの命により最初からサイキスの姉と妹が落札することが決められていました。民衆は大量殺戮兵器の開発を理由に王制に反対して、議会民主制を導入したのですが、結果は国王が大統領に代わっただけで、一人の意見が全て通ってしまうことに変わりはありませんでした。議会民主制を(うた)っていますが、議会は大統領の決定に異を反することがない、大統領支持派が大部分を占めています。王制からの脱却そして改革を(うた)ったサイキスの言葉に(まど)わされて、大統領への支持から、大統領支持派が大部分の議席を占めてしまったのです」


 「私は前国王の娘というだけの何の力もありません。でもこんな世の中はおかしいと思っています。ゴルゲやロイドという敵がいるから大量殺戮兵器の開発を行う」

「それでは人類国が、ゴルゲ国やロイド国と和平が結ばれたら、大量殺戮兵器の開発をする必要がなくなるはずです。そこで、和平の実現を訴える様にデモを開いたり、チラシを配ったり、演説集会を開いたりと、民衆に訴える様に行動してきました。その結果が、危険思想を民衆に叩き込む政治犯と言うことで、この場所に軟禁されてしまいました。家族との接触はありますが、その他のこの海中都市の人との接触も禁止されていますので、事実上軟禁されてしまいました。それはあなた方がここに来た際にいろいろ厳しく取り締まっていたでしょうからご存知のことと思います」


 「私は父のコルシカ王が健在の時から、地底王国の王子スコットと愛し合って駆け落ちまでして、親に結婚を認めさせました。スコットは人類の国のハーベル大学政治学部に留学していました。私もそのハーベル大学政治学部ですが、彼の二年後輩にあたります。彼とは演説集会やデモをやったりした仲間だったのです」

 「でも、スコット王子は地底国の人なのに、人類国で暮らせたのですか?紫外線が強くて暮らせないと聞いていましたが……」当然の疑問をぶつけたのは加奈だった。

 「ははは、よく知っているね。地底国で暮らしてきた我らは、普段太陽の紫外線に当たっておらず肌が弱いからね。でもそんな肌を隠す衣服もあるし、クリームなども出回っている。そりゃ、最初は火ぶくれが出来たり大変だったが、やがて克服出切るもんさ」

 子供と遊びながら話を黙って聞いていたスコット王子が話に加わってきた。

「あの頃、僕達はどうやったら和平が実現出来るかを真剣に考えて熱く語っていたもんさ。僕は地底王国の出身だ。地底王国は戦うことを避けて大地の下で暮らしている。だけど戦争に対して無害ではないんだよ。地震波を利用した兵器の開発、地底のマグマを兵器に利用しようとする研究、そして土壌を汚染する化学兵器の開発といった具合に、大地の地下への開発はどんどん進む。核兵器など使用されたら、大地も長年に渡って汚染されてしまう。」

「人類国であろうがロイド国であろうがゴルゲ国であろうが地下を開発したりすれば、大地が汚染され僕らの生活を(おびや)かすことになる。僕の祖先は戦いを避けて地下に潜った。父の世代までは戦いとは無関係でいられたかもしれないが、戦いに参加しなくても戦いから受ける被害は避けようがない。僕はハーベル大学政治学部で、ただ戦いを避けて遠い所に住んでいるだけでは不十分だと学んだんだ」

 「僕は大学に学ぶ様になってから、地底王国に帰った時に、父のサカール王とはよく口論するようになった。サカール王は僕のことを心配して言ってくれるのはもちろん理解しているつもりだ。サカール王は和平などと考えずに祖先が選んだ様に、争いを避けて地底王国で平和に暮らす様に望んだ」

「だが、ここで僕らが立ち上がらないと僕らの未来は何も変わらない。僕とコーネリアは駆け落ちして結婚した。子供も生まれて歳をとった。それでも僕もコーネリアも若い頃の情熱はそのままだ。自分達の未来を創るためには和平を勝ち取るしかないんだと思う」


 コーネリア姫がスコット王子の後を受け継いで話し出した。

「和平と言っても何から手を付けていいのかと思うでしょう!四十日後に大統領選挙があるの。サイキスといえども大統領を永久にやり続けられるということを法の中で決めておらず、四年毎に改選する、すなわち大統領の任期は四年なの」

「でも大統領の再選は法律上問題ないから、次期もサイキスは大統領に立候補するつもりだと思うわ。そこで私も立候補する。私が大統領になれば、和平への道を実現に導くことも出来る。スコットにも補佐してもらえるし地底王国と友好を結ぶ事も出来る」

「でもサイキスにとっても、ゴルゲやロイドにとっても和平反対者は多い。戦争は利害関係を(もたら)すものです。戦争により死傷者やその遺族や農作物や魚や木を職業にしている人達にとっては大きな被害であるけれども、同様に兵器を売っている会社や商人やその他いろんな人達にとっては戦争があって成り立つものなのよ。そういった人達から見ると和平を実現させて戦争を終わりにしようとする私達は邪魔者でしかないの。当然、妨害工作、下手したらかけるさんの時の様に暗殺といった手段に出て来るかもしれない」コーネリア姫はそこまで言ってからかける達を一人一人見渡した。

「でも私達には彼らと戦うだけの力がないの。そこで私が予知夢で見た私達を助けてくれる人達、それがあなた達、かけるさん達なのよ。あなた達に戦争をしてくれ!とか戦争に参加してくれ!とか一緒に戦ってくれ!とは頼みません。ただ私達がこの世界を変えていく手助けをして欲しいんです」

「指し当たって大統領選まで私達を守って頂きたいんです。こんな事お願い出来る筋合いじゃないのは判っています。でも私は軟禁されている身です。私設軍などないし地底王国が味方してくれていても力は弱いものなのです」


 「ちょっちょっちょっと待ってください!僕達だってそんな力はないですよ!そんな暗殺や兵力からコーネリア姫達を守るだけの力なんて到底持ってないですよ」とかけるが(たま)りかねて言った。

美樹達も同感だった。過剰な期待をされてもそんな力など持ち合わせていない。過剰な期待など却って迷惑でしかない。

「いいえ、あなた方はこの世界に来て超能力を手に入れたでしょう!」とコーネリア姫はかけるの言葉を否定した。

「でも、これはコーネリア姫様がこちらの世界に呼ぶことで身についたものでしょう!僕達じゃなくたって、誰でも身につけられたんじゃないんですか?」

「いいえ、違うわ!それはあなた方が潜在的に持っていた力よ。私には人に力を与えることなんて出来ない。あなた方は自分達の世界でその能力を発揮することなかっただけです。その能力は誰もが持っている訳ではないのです。あなた達だからこそ持ち得た能力です。それに私があなた達を呼び寄せたのではありません。私には異界からあなた方を呼び寄せる力などありません。ただ私はあなた方に使者を遣わしただけなのです」


 加奈が口を挟んだ。

「一つだけお聞きしたいことがあります。あなた方に協力をすれば、私達は元いた世界に帰れるのでしょうか?」

「私には分かりません。申し上げた通り、私が呼び寄せたのではないのです」とコーネリアが正論を言うと、加奈は少々イライラしている様で、コーネリア姫の言葉を(さえぎ)ってさらに訊いた

「それではどうやったら帰れるのですか?」

加奈の質問に関して、コーネリア姫には答えられないので、キャサリンが見かねて口を出した。

「私達が帰る帰らないということと、この世界の成り行きは関係ないということですよね。判りました。私達も少し自分達で考えてみたいのですが、私達がこの世界において、自分で自分の進む道を決定するまで待って頂けませんか?自分で考えてから、みんなでよく話し合ってみたいと思います」

「もっもちろんですとも。今日話を聞かされてすぐにお答えを頂こうとは思っていません。かけるさんもつい先日来たばかりですし、あなた方に至っては今さっき来たばかりですものね。こちらの配慮が足りなかったかもしれません。ゆっくり考えてください!かけるさんがいた隠し部屋を自由に使ってくださって結構です。但し、ここを出る時は言ってください。外には見張りがたくさんいます。見つかったら事です。必要はものがあれば、おっしゃってください」とコーネリア姫は気を遣って言ってくれた。


 かけると一緒に美樹達は奥の部屋に入った。その押入れを開けると上の階に上る階段があった。

「これが隠し部屋かぁ!」と俊一が感心した様に言った。階段を一つ登ると十二畳ほどの広い空間があり、トイレやシャワーも付いていた。

ホルヘがヒューと口を鳴らした。

「見ての通り、トイレもシャワーもある。食事はコーネリア姫の家族と一緒に下で取る。コーネリア姫の手作り料理もなかなかのものだよ。ベッドはないから布団で寝る。この部屋で何か問題はあるかな?」とかけるが言った。

「まあ、上等なもんでしょ!」と美樹が言った。

「まあ、許容範囲内ね!」と加奈が言った。

「これぐらい広いと嬉しいわ!狭いと息が詰まりそう!」とキャサリンが言った。

「トレーニングジムとしても使えそうだな!」とキムが言った。


 「はぁ、疲れたぁ!」と俊一は床に寝転がって伸びをした。

「何よ!俊一、そんな姿でだらしない!」と美樹が言った。

「まあ、無理もないわねぇ。私も疲れたわぁ。」と本来は上品な加奈まで床に寝転がった。

美樹も「私も疲れたわぁ!」と言いながら寝転がった。

ホルヘもキムも寝転がった、ホルヘはゴロゴロと転がりながら床の上でクロールの様に泳ぎまわった。ホルヘは、さらにはしゃぎまわりながら床の上でバタフライをして「痛い!」と言って自分の股間を押さえた。

キムが「アホ!」とホルヘに冷ややかに言った。

「なんだとー!」とホルヘがキムに掴みかかった。

「まあまあ、お二人さん、久々だからって。喧嘩なんかしないでぇ」と俊一が二人の間に入って止めようとした。

「うるせぇ!」キムとホルヘの言葉が重なって、次の瞬間には俊一が両頬を殴られていた。

「あんた達、いい加減にしなさいよ!そんなことしている暇ないでしょう!」と美樹の一言でキムとホルヘは喧嘩を止めて離れた。

俊一が「なんでこうなるの?」と鼻血を出しながら一人天を仰いだ。

そんな俊一を見ながら皆笑ってしまった。


 そして皆の笑いが収まってからかけるが話を切り出した。

「コーネリア姫の話は聞いた。コーネリア姫が僕達を呼んだ理由も判った。後は僕らの決断だけだね」とかけるが言った。

「そうね!何度も決断したつもりなんだけど迷ってしまうわ」と美樹が言った。

「でも、コーネリア姫やスコット王子の協力しても、あたし達は元の世界に戻れる訳じゃないのよね」と加奈がちょっぴり寂しそうに言った。

「そう巧く出来てないわ。だって確かにコーネリア姫が私達を呼んだのは事実であっても、富士の樹海からこの世界に連れて来た訳じゃないもの」とキャサリンが言った。

「もちろん、それは分かっているんだけどねぇ……」とホルヘが言った。割り切れない様な感じだった。

「今までは生きてこられたけど、これからも生きていられるとは限らないしなぁ」と俊一も浮かない様子で言った。

「俺もボディービルの大会もあるしな。四十日後に大統領選があって、その先もこちらの世界にいるってのはどうも頂けないなぁ」とキムが言った。

「俺だって水泳の大会があるよ」と言った。

「確かに僕も帰りたいよ。でも帰り方が判らないじゃないか」とかけるが言った。

「かける、お前は元いた世界に帰りたくないんだろう!元いた世界に帰ればいじめられるだけだもんな。それがこっちの世界では、超能力を身につけてヒーロー気取りだもんな。いい身分だよ、本当に!」と俊一が(とげ)のある言葉を吐いた。

「俊一!」と美樹が(とが)める様に言った。

「俊一、そんなこと言うなんて最低よ!」と加奈も言った。

俊一は軽く両手を上げた。

その態度にキムが俊一の胸倉を掴んだ。

「何だ!その態度は!かけるに謝れ!」

「そうだ、かけるに謝れ!かけるはお前の友達だろう!」とホルヘも加勢した。


 「いいんだ!」かけるは(うつむ)きながら言った。

「たっ確かに、僕は元いた世界では大人しく。気の弱い苛められっ子だ。いつも強くなりたい、強くなって苛められない様になりたいと思ってた。それがこの世界に来て僕には超能力が身に着いて強くなれた。皆と一緒に獣人やサイボーグさえ倒せる力を持った。確かにこんな能力を存分に使って活躍することが楽しくてワクワクもする。だからこのままこの世界にいたいという思いがないと言えば嘘になる。帰っても苛められるだけの人生に耐えられないと言うのも確かにある」

 「だけど、そんな気持ちよりももっと大きな気持ちがある。その気持ちはここに来てからどんどん大きくなってるんだ。それは、……それは誰か人々の役に立ちたいと思う気持ちなんだ。僕ら向こうの世界の人間が、この世界に干渉することは間違っているかもしれない。でも、それでも僕達を必要としてくれる人達がいるんだ。苛められっ子の僕にも出来ることがある。僕にも人の役に立てる。それが嬉しいんだよ。僕に出来ることで、単に人の役に立ちたいんだ!」とかけるは拳を強く握っていた。強く握られたかけるの拳は赤く震えていた。

 皆黙ってしまった。暫くして俊一が「悪かったよ!かける」と弱弱しく謝った。


 そのまま皆は無言でいた。

食事の時もあまりしゃべらず、そのまま各自で布団を()いて眠りについた。

 その夜は各々自分で考え事をしていた。会話はなかったが、誰かの寝返りの音だけ聞こえていた。まんじりともしないで朝を迎えた。

 皆、考え事をしていたために眠れず、朝方になって少し寝ただけだからニ時間程しか寝ていない。皆もぞもぞと起き出した。布団を片付けてから、美樹がかけるの方に近付いて言った。

「かける!あたしはかけると一緒に最後までついていくよ」

美樹の言葉にかけるは驚いて美樹を見つめた。

「昨日一晩考えたんだけどさぁ、いじめられっ子のかけるを守るのがあたしの役目だもんね。小さい頃からさ、かけるがいじめられているのを助けていたのはあたしだもんね。この世界でもかけるがいじめられるのを助けてあげる」

「美樹ぃ、有り難う!」

「かける!俺も行くぜ!俺は練習嫌いだからな。俺様ぐらいの才能があると日々の練習なしでも大会ではメダル取れるからなぁ。それに、一緒に行った方が退屈しないしな」とホルヘが言った。

「私も行くわ!私はパパの仕事でいろんな所を転々と移り住んできたから、この日本にもそんなに長く居られないかもしれない。思い出作りにはこのまま冒険した方がいいわね。私も行くわ」とキャサリンも言った。

「俺も行くよ!あっちの世界でトレーニングも大事だけど、ここにいて怪力使っても、トレーニングにはなるだろうしな」とキムも言った。

「俺も行くよぉ!この透視の能力は結構気に入っているしな」と俊一がにかっとスケベそうな笑みを浮かべた。

美樹が俊一のスケベそうな頬を叩いた。

「痛いなぁ!やっぱり止めようかなぁ!」と俊一が言った。

 皆が俊一の姿に笑っている時に、加奈だけは笑っておらずとつとつと話し出した。


 「あたしは両親からお嬢様であることを望まれていたから、ずっとお嬢様を演じてきたの。皆、あたしに近付いてきたわ。でも皆私の財産が目当て。そんな事は判ってた。それが私の役目だし、それでいいんだと。でも正直言って寂しかった。誰も本当の私に気付いてくれない、判ってくれないって、本当の私は誰にも分からない所でもがいていた」

「でも、でも、あんた達は私の本当の友達でしょう?寝食を共にしてプライベートもない生活は最初は嫌だったけど、あんた達には私の本当の姿を見せても構わない。というより本当の自分の姿を見せたくなくても見せ合った。私達の能力を使って協力して戦ったり、いろんなことをしたりして楽しく一緒の時を過ごした。今まで私に近寄ってきた人達とはちょっと違う仲間」

「私も行くわよ!これからも一緒に協力して何かを成し遂げていきたいわ。そりゃぁ、パパやママに心配かけるのは悪いけど、どうせ帰り方も判らないし最後まで行ってみたいわ。この冒険の終わりまで!」と加奈が言った。

「そうね!またみんなで冒険できるわね。これからもよろしくね!」と美樹が言った。


 朝食の時間には、コーネリア姫の家族と食事を一緒にしながら皆の決意を話した。

「コーネリア姫、僕達決心しました。コーネリア姫の大統領選をサポートします。微力ではありますが宜しくお願い致します」

「そう、決心してくれたの!有り難う。本当に有り難う!」

「僕からも礼を言うよ!ありがとう!」とスコットが添えた。

「そう言えば、昨日は話が出来なかったけど、サラ姫達はどうなるの?」

「大丈夫だろう!潜水艇からは何も罪を問われる物が出ていない。今日わずかながらコーネリアと僕はサラと会える。もちろん、君達は会えないがね。君達が無事に着いたことをサラに知らせておくよ。それからサカール国王の手紙も確かに受け取ったと伝えておくよ。幾ら会話は傍聴(ぼうちょう)されているとはいえ、そのぐらい伝えることは訳ないさ。なんたってサラは僕の妹だからね」と言ってウィンクして見せた。


 朝食が終わって暫くすると、スコット王子とコーネリア姫はサラ姫に会うために子供を連れて出て行った。彼らがいない間にFAXが入って来ていた。かけるは何気なく文章を読んでしまってドキッとした。

 「次の大統領選には立候補するな!立候補したら子供の命はないと思え!」とワープロで大きく書かれており宛先や日付は何も書かれていなかった。

 明らかに脅迫を受けている。ということは、既にコーネリア姫が大統領選に出馬することが噂になっているらしい。かけるがFAXの紙を見て立ち止まっているのを見て、美樹が声を掛けてきた。

「かける、何見てんの?」

かけるは咄嗟(とっさ)にFAX用紙をまとめて後ろに隠して(とぼ)けた。

「いや、何も!」

「嘘付いたって分かるの!何、隠したのよ?」と美樹はかけるが後ろに隠した紙を無理に奪って、紙を伸ばして読んだ美樹の顔が青ざめた、そしてかけるの方を向いた。美樹は改めて紙を細かく千切(ちぎ)ってゴミ箱に捨てた。

 暫くしてコーネリア姫の家族は笑顔で帰って来た。

「ただいまー!サラ姫も一段と美しくなって、サラ姫からのお土産もたくさん頂いたわ。皆で食べましょう!」と言ってどっさりと袋に入ったジャガイモやら野菜をテーブルに置いた。

 あの状況でもサラ姫は、こんな状態になることも考えて、みやげ物を用意していた。もちろん、みやげ物の農産物をスコット達に食べさせたいという願いもあったが、訪問する際に何もないと怪しまれるからだろう。

 スコットがコーネリア姫と軟禁されて以来、足がすっかり遠のいていたので、人類軍の警備兵も地底王国からのサラ姫を警戒していた。だが、全く会わせない訳にも行かず、三十分の面会時間において、会話は全て傍聴するという条件の元で認められたが、みやげ物がないと疑いも深くなるというものだ。今は少しも疑いを抱かせてはならなかったのだ。

「サラが君たちが無事に着いたこと知ったら喜んでたよ!もちろん、僕ら兄弟だけに分かるサインを交し合っただけだけどね。サラはちょっと頭に怪我していたけど大丈夫だったよ!他の二人の乗組員もちょっと怪我した程度で済んだよ!」


 かけると美樹はFAXの件は言わないことに決めていた。ところが、そこに新たにFAXを受信してしまって、かけるが取る前にコーネリア姫がFAXを受け取ってしまった。コーネリア姫は一目するとすぐに丸めて捨ててしまった。

「最近こういうのが多いのよ!いちいち気にしていられないわ」

「もしかして脅迫ですか?」と美樹が訊いてしまった。

「あら、よく分かったわね!そう、さっきも来たのね。気にしなくていいわよ。そんな脅迫に負けていては大統領選に立候補出来ないわ」

「警察に知らせたんですか?」と美樹が尋ねた。

「いいえ!警察に知らせても動いてくれないわ。警察は人類国のサイキス大統領の命令によって動いているわ。こんな脅迫状など警察に言っても守ってくれるどころか、警護を理由にあなた方の存在を()ぎまわるわ。あのFAXですら警察の関係者が、私の身辺を嗅ぎまわるために出しているかもしれないのよ。敵に漬け込む(すき)を与えてはいけないのよ」

「そうだな!私達が気をつけるしかないな。隙を見せてはいけない」とスコット王子が同意した。

「僕達も守れたらいいんだけど……」とかけるが悔しそうに言った。かける達はこの部屋から出ることは叶わなかった。見つかったら事になる。


 「でも待てよ!ゴースティンのカリーナなら昼間は透明だから子供たちに付き添ってもらえるよ!」とかけるが言った。

「カリーナも一緒に来たの!」と美樹が訊いた。

「ああ、カリーナはこの海中都市まで一緒にやって来て、彼女にはここに仲間がいるから、その仲間の家に泊まることにしたんだ」

「でも、どうやって彼女に知らせるの?」

「これさ!」と言ってかけるが取り出したのは小さな笛だった。かけるはカリーナのことを頭の中で呼びながら笛を吹いた。笛は音がしなかった。

「なんだよ!音がしないじゃないか!」と俊一が言った。

「あれっおかしいなぁ!カリーナが頭で思い浮かべて、『この笛を吹け!』って言ったんだけどなぁ」と言って、かけるは笛を振ってみた。

 「そんなに振らなくても大丈夫よ、聞こえたから」とかけるにカリーナが話し掛けてきた。カリーナはテレパシーで会話するが、近距離しか通じないのだ。

 遠距離でも通じる様にテレパシーを増幅するのがこの笛だ。人間の可聴域では聞き取れない周波数の音で、ゴースティンだけに聞こえるのだ。カリーナは昼間消えている時には壁もすり抜けられるのだ。幽霊として宙に浮かんで飛ぶので速いのだ。

 「何よ、かける?あれっ美樹さん達もやって来たんだぁ?」とカリーナが美樹達を見て言った。

「ここにいて悪かったわねぇ!」と美樹が言うと「そんなことないよぉ、喜んでいるんだよ、私」とカリーナは言った。美樹は何も言わなかった。美樹はカリーナに嫉妬に似た気持ちを感じていた。


 「早速だけど、コーネリア姫の二人の子供の子守をしてくれないか!」とかけるが言った。

カリーナはコーネリア姫が近くにいたことに気付いた。

「ああ、コーネリア姫、私ゴースティンのカリーナと言います。コーネリア姫にはずっと憧れていました」とコーネリア姫に挨拶した。明らかに緊張している様だった。

「カリーナ、子供たちのガードをお願い出来るかしら?」とコーネリア姫がカリーナに頼んだ。

「コーネリア姫のためなら、もちろん喜んでお受け致します。任せてください!必ず守って見せますから」とカリーナは憧れのコーネリア姫に出会えて嬉しくて仕方ない様だ。

「ところで、カリーナもかけるさんたちも、姫と呼ばないで!コーネリアでいいわ。もう姫ではないし王制に戻る訳ではないのよ。姫から離れて頂戴ね」とコーネリアが優しく言った。

「分かりました!コーネリア姫、いえコーネリア様」とカリーナが言った。

「様も要らないわ!コーネリアさんで十分よ。またはコーネリアと呼び捨てにしてくださって構わないわ」

「分かりました、コーネリアさん」とかける達がそれぞれ言った。

「そう僕もスコット王子は止めてくれよ。もう地底王国の王子ではないんだから。王子は捨てて新しい生き方を選んだんだから」とスコットが言った。

「もう、地底王国の王に就任することは諦めたの?」とコーネリアが訊いた。

「コーネリア、何を言い出すんだ?僕はいつでも君と一緒だよ!」とスコットはコーネリアを抱き寄せてキスをした。


 そうして次の日、脅迫にもめげずコーネリアは大統領選の出馬を表明しに行った。実は出馬表明受付の期限だったのだ。そのたまに、昨日かける達に一気に話した。しつこく協力を迫らなかったのは、かける達の気持ちを(おもんばか)ってのことだが、コーネリアは内心ハラハラしていた。

 コーネリアはかける達の決断いかに関わらず、本日大統領選出馬表明を行うつもりだった。その前にかける達、そしてカリーナと助っ人を得てコーネリアは安心して出馬表明をした。

 サイキス大統領はコーネリアの出馬を反対した。だが、軍事政権としてコーネリアを軟禁しているのではない。コーネリアの罪はデモなどで社会を煽動(せんどう)したという罪ではある。犯罪者であっても思想犯は凶悪犯と言えず、コーネリアは特に民衆の支持も得ていたために、大統領選への出馬は許可されたのだ。


 コーネリアの出馬表明はニュースとなって世界を駆け巡った。人類の中でも前の王制を懐かしく顧みる者達は喜びコーネリアの大統領選出馬を喜び、サイキス大統領を支持する者は不安を抱き、ゴルゲ国やロイド国も注目してニュースを見ていた。

 この人類国での大統領選は王制から移り変わって、初代大統領がサイキスである。大統領制の歴史が浅く試行錯誤で法律を整備している最中なのだ。

 大統領候補者を支持する党はまだサイキスの母体となる民主党しかなかった。この党は王制から代わる時に民主の力を強調したために民主党と名付けられた。サイキスの力が強く、民主党以外の党は少数政党であっても育たなかったのだ。だから逆に何の政党の母体を持たないコーネリアでも自由に大統領選に出馬することが出来たのだ。

 これから四十日間、選挙戦を勝ち抜いた者が勝者として大統領に就任する。支持政党の大きさと王制への不安と民主の期待からサイキスを支持する民衆も多いが、サイキスの政治に嫌気を指したり、依然としてコーネリア姫への支持する民衆もいるのだ。サイキスから嫌がらせを怖れて他の大統領選立候補者は出馬しなかった。

 人類国の大統領選挙は、大統領選二期目を狙うサイキスと前コルシカ王の一人娘コーネリアとの一騎打ちとなった。

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