表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/38

第一章の14ー地底王国

第一章 向こうの世界へ


地底王国

 サラ姫と美樹達一行は落ちて行った。闇の中をどこまでもどこまでも落ちて行った。まるで光のない闇でどこまで落ちるかも分からないまま落ちていった。皆の悲鳴で皆がいるということは理解出来るが姿はまるで見えなかった。不安と恐怖が入り乱れ耐えられなくなりそうだ。

 どのくらい落ちただろうか?落ちるスピードが緩やかになって足元に光が見え始めた。バランスを崩して頭から落ちていた俊一は頭が上になる様に勝手に修正された。そして足元から光の中に降りて行き、ゆっくりとホールの中に下りて行って足からソフトに着地した。

 ホルヘ、キムと続いてドアから入った順にホールに下りてきた。最後にサラ姫が下りてきた。サラ姫以外の顔は、あまりのスリルに皆自然に涙が出ていた。

「ジェットコースターよりも数倍恐いよ、これ!」とホルヘが言った。

「冗談じゃないわよ!もう絶対乗らない!」と加奈が怒って言った。

「いかがでしたか?地底までの旅は?」とサラ姫が微笑んだ。

皆微笑むことが出来ず顔面が引きつっていた。


 ここが地底と言われても地上と大差ない様にも思われた。だが、重力が地上よりも大きく歩くのにそれだけ力が要るということぐらいでそれ以外は違いがなかった。降り立ったのが屋敷のホールなので外に出てみると、また幾分違った感覚があると思われた。

 サラ姫は先頭に立ち、ホールを抜けて、ホールの端にあるドアを通り抜けて行った。六人はサラ姫に遅れまいとしてついて行った。

「サラ姫さん!どこに行くの?」と美樹が訊いた。

「まず国王であるサカール王に挨拶に行きます。それから準備をして海中都市に行きます」と言った。サラ姫の歩くスピードは速く、遅れない様にするには小走りにならないといけなかった。だから歩いていても少々疲れてしまうのだ。

 廊下を通る時に出合った人たちはサラ姫を見てお辞儀をした。サラ姫が連れて来た異界の人間について、出合った地底人達が噂をしていた。噂話は通常聞こえる程大きくないが、加奈は聞き取れた。皆興味と好奇心で一杯の目をサラ姫が連れて来た六人に向けていたのだ。

 通りの行き止まりまで進んで、サラ姫が荘厳な作りのドアをノックすると中から「お入り!」と慈愛に満ちた声が掛けられた。


 サラ姫が厚いドアを開けると、机に向かっていた顎鬚(あごひげ)を蓄えた初老の老人がこちらを向いた。サラ姫は一礼すると「異界からの者達を連れて参りました」と言った。

 サラ姫は続けて美樹達の方を向いて「あちらにおわしますお方が地底王国のサカール王でございます」と言って紹介した。美樹達は深く礼をした。

「待っておったぞ!待ちかねておった」と言って初老の老人は美樹達に近付いてきた。まずは美樹の手を取り軽くキスをした。そして加奈、キャサリンと手を取りキスをした。その後は俊一、ホルヘ、キムとがっちりと握手をした。

 サカール王は顎鬚(あごひげ)でふさふさした感じがトランプのキングの様であった。目は優しそうに目尻が垂れており、地底人らしく透き通る様な白い肌と、目玉が地底の弱い光の中でも物が見える様に目が出ていた。

 サラ姫が「兄スコット、そしてコーネリア姫がいらっしゃいます海中都市へ私が連れて行こうと思います」と言った。

「そうだな!明日一番に連れて行くが良い!頼んだぞ!サラ姫!今日は遠路はるばるお越し頂いた客人をもてなすこととしよう!(うたげ)を開こうぞ!客人達はそれまで、この地底王国を案内致そう」とサカール王は言った。

「宜しければ、私がこの地底王国を案内致しましょう!」とサラ姫が言った。

「そうか!宜しく頼むぞ!」とサカール王が言うと、サラ姫は(かしこ)まって礼をしたので、美樹達も一礼して部屋を下がった。

「さすが、凄い風格だわね!威厳が染み出してくるという感じだわ!」と美樹が言った。美樹以外のメンバーも王様を見たのは初めてのことだった。

「父サカール王は既に七十歳を超えています。でもそう見えないのは一国の国の主として国を統治してきたことにあるかと思います」

「ええ、五十歳そこそこかと思った!本当に若く見えるのね!」と加奈が言った。


 サラ姫はそのまま皆を連れて屋敷の外に出た。屋敷の外は六人を十二分に驚かせた。

 人口太陽が熱や光を出していた。紫外線がないということであったが、可視光線の白色光は一緒で、見た目には何も変わらない。熱も発しているので暖かさも同じ様に思えた。雨は降らないが、川は流れて湖はある。地下水を循環しているのだ。空は青空を地底空間に投影しているだけだ。青空に雲も投影されており、そよ風も吹いてくる。人口的に作り出したものである。

「ここを見ていると、ここが本当に地底とは思えないなぁ!」と俊一が言った。

「ここは地上の景色を映し出しています。季節もあるんですよ!同じ風景では退屈してしまうでしょうからね」とサラ姫が応えた。

「すごぉい!こんな所なら、ずっといたい!」と加奈が素直に喜んでいた。

「おもてなしの宴は夜です。まだ時間がありますから、ビーチにでも行って楽しまれますか?」とサラ姫は訊いた。

「えぇ、ビーチをもあるのぉ!最高!行く、行く、ビーチに行くわよ!」と加奈が喜んだ。

「何言っているのよ、加奈!水着持ってないでしょう!」と美樹が言った。

「水着でしたら、地底人のもので良ければお貸し致しますよ」とサラ姫が言った。

「それなら行く!」と加奈は無邪気に喜んだ。

美樹は両手を上げて仕方ないと言ったポーズをした。

 俊一は元来スケベなのだが透視出来る様になり、スケベ心がどこかに行ってしまった。覗かなくても見えてしまうと、つまらないもので逆に見たくなくなってしまうのだ。そんな訳でスケベ心はすっかり(しぼ)んでいた。いつもと違う水着姿は、透視するよりもむしろ興奮する。

「行こう!行こう!でも海があるの?」と俊一は言った。

「海ではありません。人口的に作ったプールです。プールですが大きくて、海で泳ぐのと何ら変わりません。塩分も海水濃度と同じ割合だけ入れていますので、浮きやすさも一緒です。当然、波もありますよ」


 そうして一行はビーチに行った。水着を借りてビーチに繰り出す。白く粒子の小さな砂浜に輝く水、複雑な波まで人口的に再現されている。加奈と美樹とキャサリンはビキニを着て騒いでいた。

 加奈は胸の大きさが強調されるビキニを着て俊一は鼻血を出した。久々のスケベ心を呼び起こされた。ビーチバレーをしたり、シュノーケリングをしたり、ゴムボートで沖に漕ぎ出したり、目一杯リフレッシュをした。

 シュノーケリングをしてみると実際に魚も見ることが出来た。海から魚を取って来て放流したのだ。

 美樹達以外にも多くの地底人のファミリーやアベックがビーチで楽しんでいる。マリンスポーツに興じるものなどいろんなことをして各々楽しんでいた。紫外線がなく熱だけなので日焼けをすることもなかった。キャサリンは皆と行動を共にしないで本を読んだりしていた。サラ姫は夕方に迎えに来ると行って戻って行った。

 ビーチでの充実した時を過ごして六人は久しぶりにリフレッシュした。驚いた事に人工太陽は時間と共に傾き、日が沈む夕日まで再現していた。そうして夕方になってサラ姫が迎えに来た。


「ビーチでは楽しまれましたか?」とサラ姫が訊いた。

「もう最高!」と加奈が考える間もなく言った。

皆も久しぶりにリフレッシュした。

 サラ姫は水着のまま美樹達を迎えて、宮殿に運ばせた。六人はシャワーを浴びて正装した。女子はドレスに着替えて男子はスーツ姿になった。

 上品な仕草は加奈とキャサリン以外は知らないので、恥をかかないように真似ていた。宴ではヨーロッパの貴族の様に舞踏会が開かれた。加奈とキャサリンはそんな社交辞令も抑えていたので、即座に誘われるままに踊りに行っていたが、美樹や男子達は恥をかきたくないので隅でじっとしていた。

 そこへ貴族階級らしい男が「踊っていただけませんか?」と美樹を誘った。美樹はまるでおとぎの国の魔法にかかったみたいに心をときめかせた。

「でも私ダンスが出来ないの」

「大丈夫、僕のステップに合わせて!僕がリードしてあげるから!」

 ホルヘはサルサやメレンゲと言ったダンスは得意だったし好きでもあった。ホルヘも舞踏会に出ていた黄色いドレスを着た女性を誘って踊りに行った。

 キムと俊一はダンスに誘うのは慣れてなくじっとしていたが、二人の女性がキムと俊一を誘った。サラ姫が気を利かせて二人の女性に命令したのだが、そんなこととは(つゆ)知らない二人は顔に照れが現れていたが、嬉しそうに女性のリードで踊った。

 舞踏会も無事に終わり、その日は幸せな気分のままベッドについて眠ることになった。加奈などはこんなおとぎの世界にいるのならずっとここにいたいとさえ思っていた。皆が思い思いの夢を見ている内に、そして翌朝を迎えた。


 翌朝、朝食を()ってから出かける準備をしながら六人は気を引き締めた。サラ姫と一緒に国王にお礼の言葉を言った。

「サカール国王、これから海中都市に異界から来た六人を連れて行きます」とサラ姫は述べた。

サカール国王は皆の顔を一人ずつ見渡してから「頼むぞ!」と力強い言葉で言った。

「サラ姫、お前に改まって願いがある。この手紙をコーネリア姫に、そしてこちらの手紙をスコットに渡してくれ!」とサカール国王は言った。

「コーネリア姫が軟禁されてから郵便も検閲されると聞く。地底王国からのルートも断たれてしまった。サイキス大統領の妨害が入るかも知れないが、くれぐれも本人に渡して欲しい」

 コーネリアの父コルシカ王と地底王国のサカール国王が、和平条約を結んでいることは大統領サイキスはもちろんのこと周知の事実だった。コルシカ王の死から、サイキスがコーネリアを軟禁するにあたり、サイキス大統領はサカール国王を牽制(けんせい)して書状を使わした。

 「王制から議会大統領制を選んだのは民主の声である。民主の声により王制の名残であるコーネリア姫を軟禁せざるおえなかった。地底王国とコーネリア姫とは血縁関係であるから、接触することに干渉は出来ないが、不穏な企みを抱くとも限らないので、接触を制限されたい。万が一、不穏な動きを見せるなら、人類の民主の声の敵と見なして攻撃も止む終えないことを理解されたし!」と言った文章をサイキス大統領はサカール国王に送りつけた。

 そんな書状を送るつけること自体が大変無礼なことではあるが、人類国と地底王国の武力の差は歴然としていた。元々地底王国は争いを好まず大地と共に生きるために、武力には力を注いでこなかった。それに対して人類は武力に大きく力を注いでいた。戦争になったら地底王国の生き残る道はなかった。

 それだけにスコットともコーネリア姫とも接触が出来なくても、サイキス大統領に従わざるおえなかった。使者を送っても、人類軍の兵士が付き添っている状態でしか行えなかった。手紙を送るのも検閲(けんえつ)され不穏なことを書くことはもちろんのこと、暗号めいた事を書くことも許されなかった。

 それだけに今回、サカール国王が本人に渡してくれと言う手紙は重要な内容に違いなかった。検閲されてはまずいことでなければ、サラ姫に託す必要がなく、郵便でも済むことだったからだ。手紙を受け取ったサラ姫は気持ちを引き締めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ