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第一章の13ー地底人

第一章 向こうの世界へ


地底人

 「あなた方がどこまでご存知か知りません。人間が相手より強くなろうとして、獣人とサイボーグと人類に分かれたことはお聞きになりましたか?」と美樹達を見渡した。皆が頷くのを見て話を続けた。

 「我々地底人は、人間が獣人やサイボーグに分派するより以前に地底に潜って生活していた人間です。我々の祖先は争いを拒み、大地の恵みと共に生きようと、地底に潜りました。太陽はなくとも人口太陽を作り出し、この惑星の地下に穴を掘って暮らしていました。人口太陽は光と熱を出すだけなので、本当の太陽の様に紫外線を受けることがありません。ですから我々の体は日焼けをすることもありませんが体がふやけたようになり、紫外線に対して非常に弱く体が弱いのです」

「あなたの肌が日焼けどころか、透き通る程白いのはそのためなんですね!」とキャサリンが理解した様に言った。

 「紹介が遅れましたが、私の名前はサラと言います。地底王国の国王サカール王の娘です。あなた方のお名前は何と言うのですか?」

「あたしは美樹、そして隣に座っている目の大きいのが加奈で、そっちに座っている利発そうなブロンドの女の子がキャサリン、そしてこの太っているのが俊一で、そっちの体格の大きい方がキム、そしてこっちの小さくて浅黒いのがホルヘです」と美樹が代表して皆を紹介した。

「あなた達の仲間にかけるさんという人がいますか?」

「かけるのことをご存知なのですか?」

「かけるさんは殺されました」とサラ姫は何の感情も込めずにさらりと言った。


 六人はあまりのショックに言葉を失ってしまった。サラ姫の感情のない言い方に、暫く何のこと言っているのか分からなかったぐらいだ。

「……嘘?嘘でしょう?そんないきなり言われても…」と美樹は狼狽(ろうばい)を声に現していた。他のメンバーの驚きも相当なものだった。

「実は地上に上がってくることがない私が、こうして地上に来て、我々の大事な宝である人魚姫の涙の宝石を失ってまでも、あなた方を助けたのはそこに理由があります」とサラ姫は話していたが誰も聞いていなかった。かけるのことがショックで何も考えられなかったのだ。

 そこで、サラ姫は召使いに命じてビデオを持ってこさせ、かけるが暗殺されたニュースを見せることにした。


 「本日未明、かけると名乗る異界から来た人間が一発の銃弾に倒れました。かけるさんはキーワイルの街並みにあるレストランで食事をしている際に一発の銃弾に撃たれました。すぐに病院に運ばれましたが、心臓を撃たれており、病院に運ばれた時は既に死亡していたと言う事です。ほぼ即死ということです。キーワイル自治警察は、総力を上げて犯人の割り出しを急いでいます。約一キロ離れたビルの屋上にライフルの薬莢(やっきょう)が転がっていたということで、その線から割り出しを行っています。一キロメートル離れた場所から心臓を一撃で撃ち抜いていることからプロのスナイパーではないかということで、犯人の究明には依然として時間がかかるということです。さて次のニュースは……」とそこでビデオは終わっていた。

「昨日のニュースです。信じて頂けましたか?」

「嘘よ!嘘、こんなビデオでっちあげよ!」と美樹は取り乱した。

「そうだよ!かけるが殺されるなんてことありえないよ!」と俊一は言った。

キャサリンが冷静に言った。

「確かに合成とは思えません。ですが、事実は事実として受け止めるには時間が掛かります。後で皆でその件については話し合います。サラ姫さん、お話を進めてください!」


 キャサリンのコンピューターの様な能力はデータ分析に留まらず冷静さも他人を寄せ付けなかった。普段のキャサリンは冷静ではあっても、仲間が殺されたと聞いて、こんなに冷静を保っていることは出来なかったはずだ。

「私が昨日このニュースを聞いてから、急いで独自に調査しました。このかけるさんの仲間がオークションにかけられると聞いて、あのオークション会場に出向いたのです。かけるさん達はコーネリア姫がこの世界の救世主になりうる人達として見出したのです」

「コーネリア姫のことをご存知なのですか?」とキャサリンが聞いた。

「コーネリアは私の姉です」とサラ姫は言った。


 皆、かけるの死でショックを受けていた所にさらにショックを重ねた。

「姉だと!あんた達のお遊びのせいで俺達はこんな所に連れて来られ、かけるは死んだんだぞ!」と俊一が責める様な口調で言った。

すぐにキャサリンが(たしな)めたが、俊一は乗り出してサラ姫に掴みかからんばかりの勢いだった。

サラ姫の召使いが、俊一をソファに押し戻そうとしたが、サラ姫は召使いを制して言った。

「いいのです。彼らの怒りや悲しみも理解出来ます」

「あなた方が悪い訳じゃないって頭では解っているんだけど、ごめんなさい!気持ちがどうしても整理がつかなくて……」と美樹は言って涙を(こぼ)した。

「無理もありません。ショックを受けているのですから、今日はゆっくりお休み下さい。またの機会にお話致ししますわ」と言うサラ姫をキャサリンが止めた。

「いや、今日お話ください。私達はかけるのためにもしっかりと聞いておく必要があります。ここにかけるがいたとしてもそうしていたでしょう!」とキャサリンが言った。


 「分かりました。それではお話致します。私はずっと地底に暮らしておりました。私とコーネリア姫は血の繋がった姉妹ではありません。私にはスコットと言う兄がおりました。兄と私の二人兄弟です。父は国王であるサカール王です。地底王国は名前にもあります通り、王制を維持してきました。祖先がこの地底に暮らした思いを大切にするために王制として王様の権限を強くしたのです。おかげでずっと伝統を重んじる王制としてやってきました。子供は兄と私の二人だけですから、次期国王の座は兄のスコットがなるものとされていました。ところが兄はたまたま地上に出た時にコーネリア姫に一目惚れしてしまいました。当然、父は大反対でしたし、コーネリア姫のお父様も反対しておりました。しかし、兄の愛は強く親の反対を他所(よそ)にコーネリア姫と駆け落ちしてしまったのです」

 そこでサラ姫は皆の顔を一度見渡してから話の続きを話し出した。

「兄とコーネリア姫達と父達の根競べでした。それでとうとう駆け落ちされてしまっては、父も根負けして、兄とコーネリア姫との結婚を許したのです。コーネリア姫には兄弟はおりません。兄のスコット王子とコーネリア姫の結婚は、兄がコーネリア姫の元に婿入りすることを意味します。父としても簡単に承諾出来るものではなかったのです。そこで父サカール王は兄に二つの条件を出しました。兄スコットとコーネリア姫が海中深くに独立して住むことです。地表は我々には太陽の紫外線のために暮らせません。でも海中なら紫外線も弱く、しかもコーネリア姫も地表に帰ることも出来るのです。そしてコーネリア姫の父コルシカ王と地底の国王サカールが和平条約を締結し、お互いの危機には一緒に戦うというものです。ところが……」そこでサラ姫は言葉に詰まった。


 「ところが?」キャサリンは先を(うなが)した。

「ところが、コーネリア姫の父上で人類国の国王であられたコルシカ王が死んでしまいました。そしてコルシカ王の死を契機に王制から大統領制に変わりました。王制ではどうしても、政治は王の裁量のみに寄ってしまいます。王が民衆に多大な支持を受けている時には、異論を唱える者はどうしても排除されてしまいます」

 「その民衆の小さな不満をサイキスが指摘して、サイキスは次第に支持を集める様になりました。そして絶大な支持を元に大統領に就任したサイキスが海中都市に住んでいた兄とスコットとコーネリア姫を軟禁し、そのまま週一回のキーワイル湾からの定期船以外の連絡を禁止し、海中都市に軟禁してしまったのです」

 「サイキスがコーネリア姫を姫の待遇のままにしたのは、王制支持の民衆の力が爆発することを恐れてのことでした。コーネリア姫が住む海中都市との行き帰りの定期船の積荷は厳重にチェックされます。そうしてコーネリア姫を姫の待遇のまま軟禁しました。我々地底国のサカール王とコルシカ王とで結ばれた和平条約は外からの侵略に対して結ばれたものです。内部割れして人類が自分達で決定したことに関しては干渉出来ないのです」


 「そうですか!いろんな歴史があったんですね。でもゴルゲやロイドへの分派は話のどこで出て来るのですか?」

「ええ、これからお話するところです。人類はコルシカ王の時代からロイドやゴルゲと言った力争いによる分裂を生み出していました。コルシカ王は、人間がDNA操作により動物などと融合することや、人間が自分のパーツを機械とするサイボーグ技術には憂慮(ゆうりょ)されて反対していましたが、例え王様といえども思想の自由を保障していましたので、危険だと判断されるまでは干渉出来ませんでした」

 「ゴルゲもロイドも仲間を増やし力を伸ばしていました。そしてコルシカ王が死去した後、ゴルゲとロイドは独立しました。サイキスは独立を阻止しようとしましたが、既に大きな勢力となったゴルゲやロイドの独立を止めることは出来ませんでした。そうして今の戦争に至っています」

 「サイキスとしては、当初は独立を阻止することが目的でしたが、今ではゴルゲやロイドを制覇(せいは)することだけが、人類の平和を(もたら)す道であると信じています。それに対してコーネリア姫は独立したゴルゲやロイドと共存の道を模索する和平の道を主張しておられます。しかし、コーネリア姫は軟禁されている身で何の力もございません。それでコーネリア姫の予知能力で異界のあなた方が力になってくれると信じ、あなた方に使者を使わしたのです。ところがその使者はゴルゲに殺されてしまいました。ゴルゲに情報を洩らしたのはサイキス大統領だと言われています」

 サラ姫は一気にしゃべりすぎ、一呼吸置いてから自分の前に座っている六人を見つめて言った。

「こうして異界から来た、あなた方の一人かけるさんが死んでしまいました。しかし、残されたあなた方だけでも、かけるさんの意志を継いで、ここに来た使命を果たして頂きたいと願っています」

沈黙が応接間に流れた。


 俊一が最初に沈黙を破った。

「冗談じゃないよぉ!俺たちにもかけると同様にこの世界のために命を賭けろ!って言うのか?俺達にも死ねって言うのか?」

「そうだ、俺達には何の義理もないじゃないか!」とホルヘが言った。

キャサリンは皆の感情が爆発しない様にそこで話を区切った。

「サラ姫さん、お話はよく分かりました。でも今日いろんな事を知って、正直言いまして、私達も混乱しております。少し考える時間を下さい!今晩一晩ゆっくりと考えを整理して、私達で話し合って結論を出したいと思います」

「そうですね。今日はいろいろと一方的にこちらの思いを語ってしまいました。かけるさんの死に対する配慮が欠けていた点は謝ります。今晩はごゆっくり(くつろ)いでください。あなた方の決断を待っております」とサラ姫は言って召使いに言って美樹達を部屋に案内させた。


 部屋は各々に一部屋用意されていた。一旦、部屋に入ってシャワーを浴びてリラックスして、再び美樹の部屋に集まることにした。美樹はかけるの死を受け入れる受け入れないに関わらず、あまりにも沢山のことが伸し掛かってきてパニックになりそうな感じさえした。

 「あたし達にそんなに期待をかけないでよ!」美樹は鏡に映る自分の姿に言ってみた。この世界に来る前は自分のことだけ考えていれば良かった。それが今は責任や使命と言ったことを言われる。そんなこと何も考えずにいた頃が懐かしかった。

 かけるが死んでも悲しみに浸ってることさえ出来ない。次の決断が待たれているのだ。美樹達高校生にとっては大きなプレッシャーであり、プレッシャーを楽しめる訳もなくストレスとなっていた。何もかも放り投げて逃げ出してしまいたいとも思う。だが、それは今更出来ないことも分かっている。

 どうすればいいのか、何をすべきなのか、何が正解なのかなどまるで分からない。だが美樹達が分かるまで時は待ってなどくれない。でも美樹は一人ではなかった。かけるは死んでしまったとしても五人の仲間と一緒だ。それだけでも心強い勇気が生まれてくる。


 皆が各自の部屋に分かれてから五十分が経過した。分かれてから丁度一時間後に集まることを約束していた。そろそろメンバーがぽつりぽつりと重い足取りで集まってきた。

 美樹の部屋に入ってきたメンバーの顔はどれも暗かった。迷いが吹っ切れて爽やかな笑顔を見せる者など一人もいなかった。皆かけるの死を悲しんでいたこともあるが、自分達が背負わねばならない責任や使命の重さを考えていたのだ。最後にキャサリンが部屋に入ってメンバーが揃った。


 「皆、部屋に一人で考えて、考えがまとまった?」と美樹が気まずそうな雰囲気のまま言った。皆に訊いたのはいいが、そう言う美樹自体が結論を出せずにいたのだ。

「正直言うと、俺はかけるが死んだのに、かけるの意志を継いでコーネリア姫に協力して和平を成立させるなんて嫌だ!俺まで死んでしまう。でも自分の都合だけ主張していていいのかなぁと思う」と俊一が俯いたまま言った。

「そうなんだよなぁ、やりたいかやりたくないかと言えば、はっきり言ってやりたくない。でも自分の責任や使命と言われると、自分のためだけに行動するのもなぁ。後味(あとあじ)が悪い気がするんだよ」とホルヘが言った。

「罪悪感って奴かもしれないな。自分のことだけ考えることに対して、どうしても割り切れない自分がいるんだよなぁ」と体躯(たいく)の良いキムが猫背気味に言った。

「ちょっと待ってよ!皆、どうかしてるんじゃないの?あたし達が、この世界のために命を賭ける責任なんてないのよ。それにあたし達はこの世界の住人じゃない。あたし達がこの世界に干渉することは許されないんじゃないの?この世界のことは、この世界の住人だけに変える権利があると思うのよ」と加奈が言った。

「確かにその通りね!私達が干渉するべきではないわ。でも私達は既にこの世界に十分に(ひた)ってしまっている。今更干渉すべきじゃないと言っても遅すぎる様に思うわ」とキャサリンが言った。

 皆一通り自分の意見を述べた。そして皆の顔は美樹に注がれた。

「私は正直言ってまだ迷ってる。何が正しいのか分からない。何をすべきか分からない。でもかけるは、かけるが生きていたら、やっぱりここに来た自分の責任や使命を優先させるんじゃないかしら!」

「かける、かけるって、美樹!君の意見はどうなんだい?」と俊一が訊いた。

「あたし?……あたしは……」

「そんな自分の意見もないんじゃ説得力なんてないよ」

「あたしは、自分達の責任や使命から逃げることは出来ないと思う。例え、その重さに耐え切れないと思っても、自分の使命は自分にだけしか果たせない。例え恐くても嫌でも、自分がやらないと誰にもあたしの任務を果たすことは出来ないのよ。かけるが言っていた時は分からなかった。自分のことだけ考えていれば、それでいいと思っていた。だけど、だけど、今ならかけるの気持ちが分かる。かけるにあたし自身の気持ちとして心から同意するわ」


 美樹の熱い気持ちに皆暫く何も言えずにいた。

「そうね!逃げる訳には行かないわね。自分の使命からは……」とキャサリンが言った。

「確かにな。ここで逃げたら後味が悪いしな」とホルヘが言った。

「あの世のかけるにも申し訳立たないしな」と俊一が言った。

「そうだな!後悔したくないしな」とキムが言った。

加奈は暫く考えてから言った。

「そうね!結末をしっかりこの目で確かめたいしね」

「よし、決まった!明日、サラ姫さんに結論を述べるとして、今日の所は食事をしよう!腹減って死にそうだよ」と俊一が言った。

「そう言えば、オークションがあって、かけるの死のことを聞いて食事のこと忘れていたよ」とキムが言った。

「ぐるるぅ」

俊一のお腹が鳴っていた。

「食事のことを忘れられるなら幸せだよ。俺なんか考えまいと思っても、この通り俺のお腹は正直に反応してしまうよ」と俊一は言ってお腹を(さす)った。

「相変わらず正直だなぁ!お前の腹は!」と言ってホルヘが笑い出した。皆も釣られて笑い出した。自分達で決心して迷いが消えたので、笑顔も笑いも戻ってきたのだ。


 早速、六人は何か食事を貰おうと廊下に出てサラ姫を探した。サラ姫はいなかったが、廊下を歩いているとサラ姫の執事がいた。

 「お腹が空いたので何かありませんか?」と俊一訊くと、「サラ姫様からお腹が空いた時にと、食事をお出しする様に申し付かっております」と言って食堂に案内して頂き食事を頂いた。

魚介料理や根菜料理などを中心としたご馳走だった。皆お腹が空いていたせいもあり黙々として食べた。

 食べ始める時に、またロイドのおばさんの様に睡眠薬が入っていることを警戒したが、今度はそんなことなく、安心して食べることが出来た。


 ふと俊一が食べていたパンを置いて呟いた。

「本当にかけるは死んじまったのかなぁ?」

皆かけるのことを言われてスプーンやフォークを置いた。

「何を今更、だってニュースであんなにはっきりと言っていたじゃないの?」と加奈が言った。

「でも死体を確認した訳じゃないし……」

「そうだわ!かけるは一発の銃弾に倒れたと言うからかけるの死体はあるはずだわ。火葬されたり土葬されたり埋葬されていなければ、死体を確認することも出来るわ」と美樹が嬉しそうに言った。

「かけるの死体なんて確認したいの?」と加奈が(あき)れて言った。

「そうだぜ!かけるの死体を確認したら、ますます悲しくなるだけだぜ」とホルヘが言った。

「そうだよ、かけるの死体を確認したところで、かけるは帰ってこないしな」とキムが言った。

「例え、かけるが本当に死んだとしても、その死体を私達のいた世界まで持って行ってあげるのが、私達友達の役目じゃないの?皆には頼まないわよ。でも私だけはかけるの死体を元いた世界に届けるわ」と美樹が言った。

「……そうだな!俺も手伝うよ。かけるとは友達だからな」と俊一が言った。皆それきりしんみりとして会話にならなかった。


 食堂で食事をして腹が一杯になり、各自部屋に戻った。思えば、キルケ病院を出てからゆっくりとベッドで寝ることなどなかった。いや、キルケ病院でも安心して眠れなかった。フカフカのベッドで、暫くぶりの休息だったが、皆ゆっくりと何も考えずに眠れなかった。

 美樹はかけるのことを考えていた。かけるを守るとキルケ病院で言って出てきたのに、守れなかった悔しさに涙が出てきた。幾分冷静さを取り戻した今は思考能力が冴えて考えたくなくても考えてしまうのだった。

 一体誰がかけるを殺したのだろう?ニュースではプロの殺し屋の仕業と言っていたが、殺し屋なら殺し屋を雇った人か組織がいたはずだ。どこのどいつがかけるを殺したのだろう?

 ゴルゲ国だろうか?

確かにゴルゲ国は自分達を邪魔にしていた。人類側に味方されると脅威になることを動物的な勘で察知してかける達を狙っていた。可能性としては高いはずだ。

 ロイド国はどうだろうか?

ロイド国はかける達を重要視していなかった。ゴルゲや人類が注視しているから、かける達の情報を集めて分析はしていただろう。だが不確定要素が多すぎるかける達をそれ程重要視していなかったはずだ。暗殺するほどの理由があるとも思えなかった。

 人類国はどうだろうか?

かけるが、コーネリア姫と接触することを恐れていた大統領のサイキスは暗殺を差し向けることも考えたかもしれない。可能性としては高いかもしれない。

 地底王国はどうだろうか?

こうやってあたし達を安心させて実は(だま)しているのかもしれない。

 「止めよう!」美樹は首を横に振った。考えても答えは分かる訳がない。疑ってばかりでは何も始まらない。そうは思ってもなかなか眠れなかった。そうして考え事をしている内に夜は明けた。


 朝、朝食の席でサラ姫に協力させて欲しいと言った。サラ姫は嬉しそうな顔をした後、すぐにビジネスライクに話し始めた。サラ姫は、どうやらキャサリン以上に冷静な人の様だった。

「有り難うございます。皆さんならきっとそう言ってくれると信じてました。

 早速ですが、朝食を終えたら、私どもの地底王国に一緒に行きましょう。そこから海中都市に行くことが出来ます。兄のスコット王子がコーネリア姫と結婚しましたから、地底国と海中都市との連絡ルートが作られているのです。

 地底国を通らなければ、戦闘エリアを通らなければルートがありません。戦闘エリアに入れば殺されても文句は言えません。幾らあなた達が超能力を備えていても生きて出ることは不可能でしょう!」

「もしかして、かけるは戦闘エリアを通ったの?」と美樹が訊いた。

「それは解りません。でも地底国を通っていない以上、それ以外にルートはないはずです」

「分かりました!かけるが行こうとした都市に行きましょう!いえ、是非とも連れて行ってください!」と美樹が言った。

「私が海中都市まで責任を持って案内致します」とサラ姫が言った。


 六人は朝食を終えると準備を整え玄関のホールに集合した。皆緊張した面持ちであった。そこにサラ姫がやってきて「皆さん、準備は宜しいですか?」と涼しい顔で皆を見回した。皆、緊張してしゃっちょこばった顔をしていた。

「さぁ、行きましょうか!」とサラ姫は行って玄関に集合したにも関わらず、再び家の中に入って行った。

「どっどこ行くんですか?」と俊一が訊くと、「いいから、黙ってついてらっしゃい!」とサラ姫は言って居間の中に入って行った。

 居間を通り過ぎた所に小さなドアがあった。サラ姫は涼しい顔でそのドアを開けた。ドアの中は真っ暗で何も見えなかった。ドアを開けた瞬間、冷たい風が遥か遠い所から吹いて来た気がした。


 「ここが地底国と地上との出入り口になっています。さぁ、どうぞ、お入りください!」とサラ姫は言って手でドアの中を指し示した。

 ホルヘがドアの中を覗きこんだ。全く何も見えない闇が広がっていた。真っ暗い闇は不安と恐怖を呼び起こした。

「ちょっちょっと待ってくれ!真っ暗で何も見えないじゃないか?」とホルヘが言った。

「そうですよ!光が入ってきませんから漆黒(しっこく)の闇ですよ。でも大丈夫です。私を信じて飛び込んでください!」

「そうは言ってもなぁ……」とホルヘは戸惑った。

「大丈夫!踏み出してください!私を信じて!」

ホルヘは情けないが足が震えていたが、目をつぶって震える足のままドアの中に一歩踏み出した。

「わぁー!」とホルヘの声が長く、そして遠く離れていった。

「さぁ、次の方行ってください!」

 キムが名乗り出た。

キムでさえ漆黒の闇の中に踏み出すのは足が震えて恐かった。でももうホルヘは行ってしまっている。後には引けなかった。

「やぁ」とかけ声をかけて、ドアの向こうに両足でジャンプした。

「うわああ」とキムの悲鳴が聞こえてきて、やがて遠くに消え去る様だった。

 次に俊一が飛び込み、キャサリンが飛び込んだ。加奈がどうしても恐くて出来ないと言った。

足が(すく)んで動かないのだ。

 「ダメ、私出来ない!足が竦んで動かない」

加奈は座り込んでしまった。加奈の目には涙が浮かんでいる。

美樹が「大丈夫!一緒に行きましょう!」と加奈の肩を抱き締めた。

 嫌々する加奈はもの凄い力で抵抗した。体が強張っているのだ。だが美樹は加奈を抱き抱えた。強張った加奈の体はとても重かった。そしてドアの中に踏み込んだ。

加奈は「きゃぁぁ」と悲鳴を上げながら落ちて行った。最後にサラ姫が手馴(てな)れた様子で飛び込むと自然にドアが閉まった。

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