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第一章の11ーかける暗殺

第一章 向こうの世界へ


かける暗殺!?

 グシュタフと別れたかけるはカリーナに話し掛けた。カリーナはいつもかけるに寄り添う様に一緒に付いていた。夜は醜いゾンビの姿になってしまうので、夜はポンチョに全身を包んで姿を隠して、昼間はポンチョを取っていたので姿が透明であるので見えなかった。

 戦闘エリアでは自分の出来ることはなかったので、かけるの(そば)に黙って寄り添ってはいたが、非戦闘エリアでは自分の知識や情報が役に立つし、ゴースティンの仲間もいるので、非戦闘エリアでは生き生きとしてきた。

「カリーナ、キーワイル湾に来たよ。コーネリア姫はどこにいるんだい?」

「コーネリア姫はここにはいないわ。ここの港からさらに船で海の方まで行かないといけないのよ」

「海って?どこかの島にでも軟禁されているの?」

「まあ、島みたいなものね。さあ、着いた。ここなら安全だわ。船の出港は明晩よ。それまではホテルでたっぷりと休養してちょうだい!」

 カリーナに連れて来られたのは裏通りのホテルで、看板のネオンの一部が消えかかっている寂れた感じのするホテルだった。

「ここは、ゴースティンに理解がある人が経営しているホテルだから、ここならまず安全だわ」

 かけるはホテルで食事をしてシャワーを浴びて一息ついた。シャワーを浴びて出てきたかけるに、カリーナは服を投げて寄越した。

「レディーが居るのよ。少しは気を利かしてちょうだい!」かけるはタオルを巻いただけの姿で出てきたのだ。

「どうせ見えないんだからいいじゃないかぁ!」

「かけるは見えなくてもあたしは見えるの!」

かけるは渋々と服を着てベッドに寝転がった。

「かけるが考えていること当てて見ましょうか?」

とカリーナが言った。

 「いや、思考が読めるんだから判るだろうけどさ。バレルは人類の将軍カーライルと話をしていたって言っていただろう!それなのに、何故ロイド軍がやってきて、さらにゴルゲ軍まで来たのだろう?」

「かけるの思っている通りよ。ロイドが来たのもゴルゲが来たのも偶然ではないわ。カーライルの仕掛けた(わな)よ」

「何故、そんなことが言えるんだい?戦闘の時には何も言わなかったじゃないか」

「私達ゴースティンは話すことが出来ない代わりにテレパシーで会話出来るのよ。この非戦闘エリアで諜報活動をしている仲間と交信して判ったの。でも私達のテレパシーは距離が離れてしまうと通じないの。だから、戦闘エリアでは近くに仲間がいなくて交信出来なかったけど、ここで交信してそれが判ったのよ」

「そうか、ここにはゴースティンがたくさんいるだろうからね」

 「そう、私達ゴースティンはここだけではなくて、人類の国にもゴルゲ国にもロイド国にもいて、それぞれが諜報活動をしているの。私達のネットワークは世界に広がっていて、口伝いに普通では判らない情報を得ることが出来るのよ」

「そうかぁ!便利なネットワークを持っているんだね」

 「そう、その口伝いのネットワークで聞いたところによると、バレルから情報を受けていた人類の軍の将軍のカーライルは、その情報をロイドに流すのと同時にゴルゲに流したの!」

「どうして?」

「ゴルゲとロイドを戦わして両方の戦力を弱めるためによ。三つの国が勢力争いしているのだから、自分以外の両方を戦わせれば戦力バランスが崩れ、自分達が漁夫(ぎょふ)の利を得る。狡賢(ずるがしこ)いやり方ね。でも昔からあるやり方だわね」

かけるは黙って俯いていた。カリーナは言葉を続けた。

「カーライルには、ゴルゲはかけるを脅威と感じていたから、かけるがロイドの手に落ちることを、ゴルゲは阻止するだろうと踏んでいたのよ。だからロイドに捕らえさせたの?」

「でも僕達は何度かロイドの検問を避けていたよ。もしロイドに捕えさせるなら、何故もっと早く捕えさせなかったのだろう?」

「そうね、カーライルはバレルから毎晩報告を受けていた。いつでも捕えさせることは出来たでしょう。何故それをやらなかったかと言うと、カーライルはゴルゲ軍とロイド軍が互いに潰しあって、なるべく多くの戦力を消耗するように策を考えたの。カズラ砂丘はゴルゲにとってもロイドにとっても戦場としやすい位置にある場所なの。テリトリーがロイドとゴルゲの中間地点より、ちょっとロイド寄り。出動しやすいのね。だから多くの戦力が消耗されるわ」

「それじゃぁ、僕らがロイドの軍にすぐに捕獲されずに検問を何度か迂回(うかい)したのもカーライルの企みなのかい?」

「そういうことになるわね。私達が迂回していたのもカズラ砂丘に追い込むためのものだった。ほらっ思い出して!カズラ砂丘に辿り着く前に何度か検問を迂回した。その検問を最初に見つけたのはいつもバレルだったでしょう?」

かけるははっとした。そう言われてみるとそうだった。いつもロイド兵の姿すら見えない時に、バレルが「この先に検問があるかも知れない。偵察しましょう!」とグシュタフに提案していた。グシュタフが他の乗員を偵察に出して、偵察が帰って報告すると必ず検問があった。

「くそぅ!全てカーライル将軍の思いのままだってことか!」とかけるは忌々(いまいま)しげに言った。

「そういうことになるわね」

「カーライル将軍とは何者なんだ?」

「カーライル将軍はサイキス大統領の側近で、ゴルゲ軍とロイド軍を全滅させることにより、人類の幸せが来ると主張している人よ。サイキス大統領をいつも(あお)っている。サイキス大統領はゴルゲもロイドも全滅させなくても、自分達にお金が入ってくればいいのよ。サイキス大統領がお金をさらに得るために、カーライル将軍を利用しているのか、カーライル将軍がゴルゲとロイド全滅のために、サイキス大統領を利用しているのか、多分両方なんでしょうね」

「何て奴らなんだ!」

「戦争ってそういうものじゃないかしら?誰かの損得勘定に利用されてしまうのよ」

「ちくしょう!」かけるは拳を強く握っていた。誰かの損得のために前線では血を流して死んでいく。そんな戦争を、誰かが将棋の駒の様に楽しんでいることは、かけるの正義感が許せなかった。そんなかけるを、カリーナは見守りながら何も言わずに黙っていた。


 ホテルで久しぶりにゆっくりと休息を取ったかける達は、翌日には心身共にリフレッシュした。夜まではキーワイル湾にある港町キーワイルで過ごした。

 白い建物ばかりの港町で、港にはかもめが行き交う。街の中は港町に相応(ふさわ)しく、サイボーグや獣人や人類でも国に属さず海を渡り歩く自由商人や旅人や船員によって(あふ)れていた。

 それぞれ国籍があるものの、獣人や人類やサイボーグと言った区分けに執着(しゅうちゃく)することなしに、各地を転々としている連中が集まって自治区を形成していた。このキーワイルは自治区として、ロイドやゴルゲや人類とは距離を置いて中立していた。

 この戦争は、土地や資源を欲するために侵略することから始まったのではなく、人間が人類と獣人とサイボーグに分派した所から始まった。

 自分達の集団に関する帰属意識が強すぎて、その他の集団を認めることが出来なかった。

 人類はサイボーグや獣人が人間より強い体を持って自分達を支配するという脅威に襲われた。ゴルゲも獣人となっても人類の兵器、そして機械となったサイボーグに脅威を抱いていたし、ロイドも人類の兵器と獣との遺伝子操作による合体をした獣人に脅威を抱かずにはいられなかった。

 脅威は些細(ささい)なことでも恐怖を生み、自分と異なる者達がいたのでは、自分達がいつしか支配されてしまうのではないかと考えたのが戦争の発端となってしまった。

 自分と異なる者を受け入れられない感情に(たん)を発している。それだけに中立地域としてのキーワイルが存在しても自分達の脅威となって恐怖となるぬ限り、ゴルゲにとってもロイドにとっても人類にとっても干渉する必要などなかったのだ。少しでもキーワイル自治区に謀反(むほん)の怖れがあると判断された場合は、キーワイルを攻め落とせばいいだけの話だ。軍事力では圧倒的な差がある。


 小さな港町のキーワイルには、自治警察は存在していたが、軍は存在していなかった。中立である以上、他国と戦う必要がなかったし、軍を持って拡大すれば、軍が大きくならない内に人類国かロイド国かゴルゲ国のどれかの軍に叩き潰されるであろう。

 争いを起こさず、争いに巻き込まれず、中立として生きていくことを選んだキーワイルは、そうして波風を立てずに存続してきた。

 キーワイルには身元も不確かな自由商人や旅人や船員がいる。キーワイルは自由港であるために誰でも自由に入れる。中にはならず者の様な(やから)もいる。

 軍がないし、キーワイルの自治警察は外に向けることはないが、内に対する武器の使用は認められていた。

 自治警察が権力を持ち過ぎると自治警察により誤った方向に進む可能性がある。そこで、自治警察に対する監査機構が強く働いている。

 政府が自治警察を管理しているのは当然であるが、監査機構は市民団体が管理、運営していた。しかも定期的に監査役員を入れ替えて監査機構が腐敗することを防いでいた。

 政府や監査役員を行う役人は、人類やサイボーグや獣人の区分けに関係なく、脳が人間であるなら誰でも立候補して成る事が出来た。

 自由商人や旅人や船員が多いこのキーワイルの街は、市民よりも一時的に街に立ち寄る人の方が多いが、そんな状況においてもキーワイルの街で市民権を得たいと願う人も多い。市民権を得るには、キーワイルで住んでいる相応の期間とキーワイルへの有益な貢献がないと認められなかった。

 そうして、ならず者や犯罪者が市民権を持つことを制限して、市民権を得た市民が政治を行うという利点があったが、政治家の中には、腐敗して賄賂などの犯罪は後を断たなかったものの犯罪件数は減少していた。


 かけるは自由で安全なキーワイルの街で久しぶりに楽しんだ。街は活気に溢れていた。かけるの体も生き生きと心も陽気になっていくのを感じていた。

 ここでもかけるはゴースティン達からカンパを受けていたために、買い物をしたりレストランで食事をしたりしていた。食事をしている時はカリーナと一緒だったが、カリーナの姿は誰にも昼間は見えないために、かけるが一人で楽しそうに独り言を言っているに周りからは見えた。

 そんなかけるにとっては、リラックス出来る楽しい瞬間を一発の銃声が引き裂いた。

 銃声は街の喧騒の中でわずかに聞こえる程度の音でしかなかった。皆が何事かと一瞬周囲を見渡したが、すぐに街の喧騒に呑み込まれ、皆再び忙しく働き出した。

 皆が自分の仕事に戻った時、かけるはゆっくりと前のめりに倒れテーブルにうつ伏せた。

 食事をしていた隣の席の家族連れの女性が最初にかけるに気付いた。ウェイターに様子がおかしい人がいると伝え、そのウェイターがかけるに近付いて調子を訊ねた。

 「お客様、具合が悪いのですか?」

何も応えないかけるの体を()すった。かけるの体は抵抗せず揺らされるままに揺れ、そして横にゆっくりと倒れて椅子から落ちて天井を向いて仰伏せの状態になった。全てがスローモーションの様だった。天井を向いたかけるの目は、大きく見開かれたままだった。

 かけるの左胸が赤く染まっており、その赤い染みは見る見るうちに大きく広がっていた。その赤い染みを見た先程の女性が「キャー!」と大きな叫び声を上げ、レストランにいた人達がかけるの方を見た。

 一瞬何事が起きたか判らなかったレストランのお客は、事態を飲み込むと、我先にレストランの出口に一斉に詰め寄せた。空を飛び、念動力を使い、瞬間移動までして活躍したかけるはたった一発の凶弾に倒れてしまったのだ。


 かけるは救急車で病院に運ばれたが、左胸を貫いた弾痕は致命傷となり、救急病院に運ばれた時には既に息を引き取っていたとのことだった。「死因は出血多量です。ほぼ即死の状態だったでしょう」と医師は語っていた。

 カリーナはレストランでかけるが撃たれてからも、かけるとずっと一緒だった。カリーナは救急車の中でも、かけるの意識にずっと問い掛けていたが、かけるから思念が返って来ることはなかった。

 かけるの死はニュースでも報道された。無名のかけるがニュースで取り上げられるのは異例のことではあった。特にかけるは違う世界から来たので、この世界には戸籍がないのだ。

 かけるの立場を考えると、ニュースをもみ消されることもありえた。だが、かけるが狙撃された現場には多くの目撃者がいたためにメディアを抑えることが出来なかったのだ。

 取り上げ方は、沢山のニュースの中のほんの少しだけ取り上げられただけだが、かける達を追っていたゴルゲ国やロイド国そして人類国にも知れ渡ることとなった。そして、誰よりそのニュースは、かけるの後を追っていた美樹達の耳にも伝わることとなるのだった。

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