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第一章の9ー盗賊グシュタフ

第一章 向こうの世界へ


盗賊グシュタフ

 かけるは、街外れにあるバーの吹き(さら)しの小さなドアを押して中に入った。中は煙草の煙の匂いが充満して、薄い白紫の煙が窓から差し込む光に煙がもわもわとゆっくり動いていた。昼間なのでカリーナの姿は見えない。

 かけるが一人でドアを開けて入ると、中にいた客とバーテンダーの皆が一斉にかけるを見た。いかにも一癖(ひとくせ)も二癖もありそうな(やから)だ。腰にレーザーガンを吊るしてカーボーイハットをかぶっている姿は、いかにも西部劇に出て来るガンマンだ。

 カリーナがテレパシーでかけるに言った。

「いた!カウンターに腰掛けている(ひげ)顎鬚(あごひげ)を蓄えて顔の左頬に5センチ程の傷がある男、あいつがグシュタフよ!」

カリーナに言われて、その男を改めてよく見た。眼光が鋭く、頭にバンダナを巻いている。でっぷりと太った体躯(たいく)で、このバーの中にいる一癖ありそうな連中の中でも、際立って悪そうで強そうな男だった。グシュタフの姿を見ただけで、苛められっ子のかけるは、すっかり怖気づいて震え上がってしまった。

 かけるは幽霊やゴルゲの様な獣人やサイボーグには恐れを感じなかったが、人間を見るとどうしても怖気づいてしまうのだ。

 かけるは言葉がドモリながらもカリーナに訊いた。

「あっあっあんな奴に、なんと言ったらいいんだ?カリーナが話をまとめてくれるのかい?」

「甘えないで!かけるがやらずに誰がやるのよ!大丈夫、自分を信じて!かけるは獣人と戦ってサイボーグ警察の刑務所からも脱獄して来たじゃない」

「……そうは言っても……」

「自分を信じて!相手に舐められない様に強気で行くのよ!『キーワイル湾まで行ってくれ!』と言えばいいわ。後は野となれ!山となれよ」

 かけるはもう一度グシュタフを見た。強面(こわおもて)の顔はゆっくりとバーボンの中の氷を溶かしながら飲んでいる。かけるはゴクリと生唾を飲み込んで勇気を出した。僕がやらないと誰もやらない。僕はやると決めたんだ。逃げるな!と心に言い聞かせた。

「そうよ、逃げちゃ駄目!」とカリーナが、かけるの思考を読んで話し掛けた。

「少し黙っててくれ!」とかけるは言ってまた思考した。逃げるな!恐くない!僕だってここに来ていろんな世界を巡って来たんだ。僕だって十分に強いんだ。

 自分に充分言い聞かせて、かけるはカウンターに座るグシュタフの所まで歩いて行った。それでも歩いて行く時、足の膝が曲がらず、おもちゃの兵隊の様な歩き方になってしまい、立ち止まってぎこちない歩き方を直して、グシュタフの元まで歩いた。それだけ緊張してしまっていたのだ。


 かけるはグシュタフの(そば)に立ち、震える声を隠して言った。

「グシュタフさん、いやグシュタフ!キーワイル湾まで僕を運んでくれ!」

酒を飲んでいた周囲の男達が一斉にかけるの方を見た。グシュタフは無視していた。かけるはもう一度大きな声で繰り返した。グシュタフはゆっくりとかけるの方を見た。

 「何だ!おまえは!」

「僕はかけると言う者だ!キーワイル湾まで行きたい。僕を運んでくれ!」

 幸いにも、グシュタフは日本語を話せた訳ではないが、この世界では人類同士は言語に関係なく会話が出来る様だった。

グシュタフは鋭い眼光をキラッと光らせて言った。

「坊や、気は確かかい?キーワイル湾まで行くには、戦闘エリアを通らないといけないんだぞ!」

「そんなことは承知だ!それに僕を坊や呼ばわりするな!」

グシュタフは両手を上げてやれやれと言ったポーズをした。

「戦闘エリアを越えるってことは、それだけ危険な旅になる。それなりの報酬は(もら)えるんだろうなぁ!」

かけるは報酬のことなど考えていなかった。かけるは弱気な声になりそうになるのをグッと堪えて「もちろん大丈夫だ!」と言った。

「はっは、それじゃあ、金を見せてみなよ!」とグシュタフはかけるを(あざけ)る様に笑った。

「さぁ!本当に金持ってんだったら見せてみなよ!」とグシュタフはかけるに詰め寄って来た。


 かけるはポケットを探ってありったけのお金をカウンターに出した。カンパで貰ったお金だけで、しかも電車代で幾らか使ってしまっている。かけるが持っているのはジャラジャラとコインだけしか持っていなかった。

 グシュタフはかけるの出したはした金を見て怒り出した。

「おい、小僧!まさかこんなはした金で戦闘地域を越えてキーワイル湾に行ってくれなんて、ふざけたこと言うんじゃねえだろうなぁ!」

かけるは何も言えなかった。

「ふざけんじゃねえぞ!ガキのお守りしてる程、暇じゃねえんだ!」とグシュタフは(すご)んで、かけるの胸倉を掴んで持ち上げバーの隅に投げ飛ばした。かけるはグシュタフに投げられてバーのカウンターの椅子を二個倒して床に倒れた。かけるが倒れた振動で埃がモワッと舞い上がった。

 かけるは起き上がり、それでも諦めずにグシュタフに詰め寄った。

「確かに今はこれだけだが、コーネリア姫に会えればコーネリア姫から報奨(ほうしょう)金を貰える様に交渉するから、何としても連れて行ってくれ!」

コーネリア姫という言葉を聞いて、グシュタフの言葉は探る様になった。

「お前が、コーネリア姫に会いに行くだと?嘘言うな!コーネリア姫は軟禁されているんだぞぉ。それを知らない訳じゃあるまい」

「僕が助けに行く!」とかけるは言った。かけるは唇を切って血が(にじ)み出していた。


 「お前に一体何が出来る?お前みたいなガキに何が出来るって言うんだ!」と言ってグシュタフは残りのバーボンを飲み干そうと思ってグラスを握った。グシュタフは、グラスを自分の口には持って行かず、グラスを自分の頭の上に持って行き、自分の頭にグラスのバーボンをかけた。頭から流れ落ちた茶色の液体が顔を伝って床に染みを作った。周囲にいたガンマン風の飲み客が一瞬笑いそうになり、慌てて手で笑いを抑えた。

 グシュタフは鋭い目をかけるに向けた。

「お前がやったのか?」

かけるは答える代わりにじっとグシュタフを見据えた。

暫く二人は黙っていた。

それからグシュタフがいきなり笑い出した。

「こいつは面白ぇ!お前には変わった能力があるようだなぁ!」


 かけるはカリーナに「コーネリア姫に会ったらグシュタフに報奨金を出してもらえるだろうか?」と思考した。カリーナは「もう話していいの?」と訊いてきたので、かけるは「もちろんだよ」と返した。

 カリーナは改めてグシュタフの思考に入って行った。

「グシュタフ、覚えてる?あたし、カリーナ。このかけるは、違う世界からコーネリア姫に見出されて来た一人なのよ。どうしてもコーネリア姫に会わないといけないの。お願いだから手を貸して!」と思考に訴えた。

 グシュタフはどこにカリーナがいるのか周囲を見渡したが、やがて納得した様に思考した。

「そうか!そのガキにはお前が付いていたのか。ということはガキの言っていたことは満更(まんざら)嘘じゃないようだな」

「そうよ!どう……やってくれる?」

グシュタフは思考で答える代わりに声に出して、かけるに向かって言った。

「いいだろう!俺が責任を持って、お前をキーワイル湾まで連れて行ってやる!報酬金はコーネリア姫に出会った後で頂くことで了解してやろう!」

かけるはほっとして、力の入っていた肩から力が抜け、へなへなとその場に座り込んでしまった。

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