出会い
2話目です。駄文注意です。
俺が、この家のおばあさん、そして、『暁ちゃん』と出会ったのは、俺が『人狼』としての生を受けて、ちょうど20歳になった少し後のことだ。
人間と魔族、両種族が共存をはじめてから数百年、最近では科学技術の進歩による近代化や、魔法の普及などによって、人魔の間でお互いに理解が深まり、一部のいざこざなどは残りながらも、文字通りの平和が成立していた。
そんな中、人狼…といっても、俺の種族は近代では物珍しい風潮があった。
しかし人狼全てが同じルールの中で生きているわけではなく、それぞれの群れや家族などといった団体の中で各々のルールが存在する。
俺の群れのルールというか、先ほども言った通り風潮の様なものには『20歳を迎えた狼男は、一人で狩りをできて一人前』という、なんともそれっぽいものがあった。
『狩り』というのは言うまでもなく、人間を殺し、それを食すことだ。
俺の群れでは、20歳になった男の人狼は、1人で最低でも1人の人間を狩らないと認めてはもらえなかったのだ。
人魔の協定が結ばれた現代の世界で、未だにこんな風潮が残ってて良いのだろうかと思うが、俺の群れからその風潮が失われる事はなかった。
それに、だからという訳ではないが、協定の裏ではちょくちょくと、先ほども述べた『一部』の人間や魔族は、狩りをしたり迫害や差別を受けたりしていた。
だから、その『一部』の中で考えると、特に珍しくもなかったのかもしれない。
まあそれは別として、幼い頃の俺はその教えを教わるも、『狩り』の意味をあまり理解していなかった。
ただなんとなく、『一人前』という言葉に、幼い頃の俺はひどく憧れた。そうなればかっこいいと思ったし、将来絶対に『一人前の狼男』になってやろうと決意した。
『狩り』の意味がわかったのは16歳になった頃だった。
狼男は群れで動くといっても、普通に勉強して一般教養は身につけるし、他種族とのコミュニケーションやお洒落などもして社会に溶け込んだりもする。そこはただの獣の狼とは違うのだ。
故に、俺の群れも学校に行ったり仕事に行ったりもする。
意味を知った俺は、高校での帰り道、部活帰りで遅くなった名前も知らない同じ学校の生徒を一度だけ襲おうとした。
しかし、踏み出そうとした一歩は、まるで地面に針で縫い合わされたかのようにビクともせず、俺は目の前を通り過ぎる学生をただ見ることしかできなかった。
俺は……なんと言うか、昔から気が弱かったのだ。
いざ人を襲うと思うと、足がすくんで動けなくなるし、暴力を振るうなんてもってのほかだった。
同じ群れの同期からは、臆病者や出来損ないなど、様々な言葉で罵倒された。
それでも俺は、なんとかして『一人前』に近づきたくて、色々な努力を続けてきた。
しかし、どれだけ努力を続けても、やはり人を襲うことはできなかった。
そんな生活が続き、ついに俺は20歳を迎えた。
流石に20歳になってしまうと、もはやあれこれ言い訳をすることなど出来るわけもなく、今度こそ一人前になってやろうと意気込んで、
俺は手当たり次第に、人通りの少ない場所を探し、狩りを始めた。
そしてそれを続けて数日が経ったあと、少々疲れがきて森の中を歩いていたところ、俺はポツンと建っている一軒家を見つけた。
こんな人混みから遠く離れた森の奥深くに建っている家。
一瞬だけ俺は疑問を浮かべたが、ここならたとえ狩りをしても誰も気づかず、騒ぎを起こさないで済むだろうと、すぐに思考を狩りの方に戻した。
しかし、いざとなるとやはり足はすくむ。最初のようにまったく動かなくなることはもうなくなったが、それでも気分を落ち着かせないと実行することができなかった。
そしてその日、俺は玄関の前で二、三度ほど深呼吸をして、パンッと頬を思い切り叩いて気合を入れて中に入った。
「お邪魔しましまーす………。」
などと、入った時に反射的に言ってしまったのは本当に恥ずかしかった。
それでも、無意識のうちに靴を脱いで家に上がり、一本だけある廊下をみた。
いくつかのドアがある中、一番奥に一際目立つ、プレート付きの部屋があった。
そして俺は、内心ビクビクしながらもその部屋にそーっとはいる。
その中には、上半身だけ起こし、窓の外の景色を見ている1人のおばあさんがいた。
その人はこちらに気がつくと、一度目を見開いて、不思議そうに訪ねた。
「あら?あなたは誰かしら?」
俺はチャンスだと思った。一人だけならなんとかなるかもしれないと。
「俺か?俺はなぁ、狼おと………。」
と、頭の中で何回も反芻し、何十回と頭の中でシュミレーションを繰り返して出した言葉は、唐突に遮られる。
「うっ、ケホッケホッ。ゴホッ。」
おばあさんは俺がセリフを言い終わる前に、唐突に咳をし始めたのだ。
「え!?あ、ああ大丈夫ですか!?」
そして俺はなにを血迷ったのか、狩ろうとした人間の老婆相手に心配してしまったのだ。
「あ、ああ、大丈夫だよ。これくら……ッケホ!」
「ああああ!と、とりっ、とりあえず横になってください!」
手で口を押さえながら、席を必死に我慢する老婆を、俺はなぜか見過ごすことができずに、そんなことを言ってしまった。
老婆を寝かせた俺は、老婆から台所の場所を聞き出して、なにが食べたいかを聞いた。
「あらあら、見ず知らずのあなたがそこまでする必要ないのよ?」
と、せっかく横になった老婆はまたしても心配して体を起こそうとする。
しかし俺は、それを片手で制して、
「いえ、やらせてください。これでも料理は出来る方なので。」
と言って、勝手にエプロンなどを拝借して消化の良い料理を作り始めた。
ちなみに料理は、『一人前』になるために身につけた俺の努力の成果の一つである。
ものの数分で、俺は雑炊を作ってそれを老婆に食わせる。
少し時間を置き、火傷しないようにちょっとだけ冷ましながらも、俺は体を起こした老婆に一口一口を口に運ぶ。
「ただいまー!」
と、雑炊を食べ終わり、また寝ているようにと老婆に告げると、玄関から声がした。
ドタドタと廊下を走り、勢いよくバタンと扉を開ける。
俺はその音にビクッとして、恐る恐る後ろを振り向いた。
「おばあちゃん、私がいない間元気にしてた?……ってその人誰?」
ドアの方に立っていたのは、とても可愛らしい、美少女としか表せないほど整った顔つきをしている、金髪の女の子だった。
女の子は俺を終始怪訝そうな目で見つめてくる。俺はその視線にどうしていいかわからず、目が合いそうになるたびに、部屋のものへと視線を変える。
「この人はねえ、見ず知らずの私を看病してくれた、とてもいい人なのよ〜。」
と、老婆はその少女に、なんともおっとりとした感じで俺のことを紹介した。
しかし、そんなことでこの子が信用してくれるはずはないと思っていた。
見ず知らずの男が、たまたま通りがかった家にいた、病弱な老婆を見かけて親切に看病した。
普通に聞いたら怪しさ大爆発である。おれは密かに怒られる、最悪通報されるかもなどと考え、バクンバクンとうるさいほど鳴り響く心臓の音を聞きながら、冷や汗をかいてその少女のことを見ていた。
「………」
少女は無言のまま、真っ直ぐと俺のほうへとあるいてくる。
目の前手間立ち止まると、一度顔を近づけてジロジロと俺の身なりや顔を見始めた。
近づいた際に香った、甘い果物のような女の子らしいいい匂いに、心の中で二重の意味でドキドキしていた。
暫くして顔を離し、ジィーっと睨んでいた少女は、
「そうなんだぁ!」
ぱあっと、先程とは全く別の、太陽のように晴れやかで、花のように美しい笑顔を俺に向けた。
「………え?」
通報されるかもなどと考えていた俺は、その予想外の反応に呆気を取られる。
すると、少女は笑顔のまま、さっと手を差し出してきた。
「ありがとうございます!優しい人!私の名前は『暁』っていいます!あなたの名前を教えていただけますか?」
そう言いながら、ニコニコと手を差し出し続ける様子を、俺はポカンとしながらも、恐る恐る手を握り返した。
「仁郎、『大神仁郎』………です。」
そう名乗ると、掴んだ手を一層強く握って、少女はブンブンと振り回した。
「よろしくお願いします!『仁郎さん』!」
「よ、よろしく『暁ちゃん』。」
これが俺、『大神仁郎』と、彼女、『暁』との最初の出会いだった。
次回も頑張ります。