救世主が現れた
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しかも厄介なことに、この2人は悪意を持ってやっているわけではないのだ。
少なくともアイネにはそう見える。
しかし、だからこそ余計に始末が悪い。
単体でも巨大すぎる壁なのに、壁の上から軽く引っ張っただけで切れそうなほどボロボロなロープを投げられた気分だ。
……全く役に立たない。
いったいどうやってこの壁を乗り越えればいいのか、と頭を抱えるアイネ。
ちょうどその時だ。
アイネの目に、ある人物が扉からこの建物の中に駆け込んでくるのが映ったのは。
アイネの窮地にさっそうと現れる様は、まさに「救世主」という言葉がピッタリくる。
しかし「救世主」はアイネが助けを請う間も無くこちらに向かって早足で来る。
「アイネ、緊急事態だ!」
開口一番に「救世主」は叫んだ。相当切迫した状況なのだろう。
カウンターを叩かんばかりの勢いにたじろぐアイネ。
「ど、どうしたんですか? そんなに慌てて。メシ……じゃなかった、ドルトンさん」
「……メシ?」
「あ、いえっ! な、なんでもありません!!」
ぎゃー! 心の中で変なこと考えてたから、つい「救世主」って言いかけちゃった!?
ドルトンは数年前まで、ここアルヒを領有する国、トリトスに兵士として仕えていた人だ。
今はこの村の自警団のリーダーを務めている。
かつては国のために戦い、そこを高齢を理由に退役した現在は故郷の平和を守るために戦う。
そんな心優しい武人なのだ。
……見た目はただの山賊にしか見えないが。
元から力自慢らしく、がっしりとした体つきをしていて、ちょっと顔も厳つい。
さらに普段手入れを面倒臭がるため、野放しになっている無精髭が決定打となり、立派な悪人面を作り出している。
ドルトンはアイネの妙な間違いに首を傾げながらも、それ以上追求することはしなかった。
さっさと本題に入りたかったのかもしれない。
「……まあいい。 例の件、シルバーランクはどのくらい集まった?」
「シルバーランクですか? さすがにそのランクの人たちは少ないですよ。ちょっと待ってくださいね」
傭兵ギルドに登録している者たちは皆、それぞれの能力や成果に応じて、ランクの低い方から順にビギナー・ブロンズ・シルバー・ゴールド・マスターまで階級分けされている。
いわばランクはその人の強さの指標とも言える。ちなみにシルバーランクになって初めて、傭兵は一人前と認められるのだ。
アイネは手元にあった紙の束をパラパラとめくる。
ここにはギルドに持ち込まれた様々な依頼の詳細や、それを受ける傭兵の情報が記されている。
それには名前やら性別やらといった基本的な個人情報から、経歴やらランクやらといった仕事を受けるのに欠かせないものまで様々なものがつめこめられている。
つまりこれを見ればどの傭兵がどのランクなのかが一目でわかるのだ。
反対に依頼の方は特にランクわけされているということはない。
だから原則的には自分の希望に合うものを自由に選べる。
しかしほとんどの場合、依頼主の方が依頼に制限をつけるのだ。
例えば今ドルトンが口にした「例の件」を受けるには、ブロンズランク以上のランクを持った傭兵でなければならない。
つまり、この依頼はビギナーランクの傭兵では受けることはできない。
「今のところ4人ですね、シルバーは。それより上はいません」
「……そうか」
「いったいどうしたんですか? それにさっき緊急事態だって……」
普段は冷静沈着なドルトンをここまで焦らせる事態に、恐怖と若干の興味を抱きつつアイネは尋ねた。
まだ未確認の情報だが、と前置き置いた上で、ドルトンは重々しく口を開いた。
「ヤツらが召喚師を雇った可能性が出てきた」
「召喚師っ!?」
召喚師と言えば、魔法で喚び出した魔獣を意のままに操ることができると言われる人達だ。
アイネには実際に召喚魔法を使う人に会ったことはない。
が、傭兵たちが噂しているのを耳にしたことくらいはある。
あとは小説なんかで書かれているものを読んだくらいだろうか。
そういう時登場する召喚師は、陰気なキャラでだいたい主人公の敵として登場するので、あまり良い印象を持たない。
いずれにせよ、もし本当に召喚師が相手側にいるとすると、確かにブロンズランクでは荷が重いかもしれない。
人数がいれば話は違うのだろうが、こんな片田舎の村では十分な数の傭兵を集めることなど到底叶わない。
「師匠、しょうかんしってなんですか?」
ドルトンの後ろから、2人のやり取りを聞いていたであろう厄介な壁の片割れの能天気な声が聞こえた。
召喚師という言葉自体を知らないとは、流石に世間知らずが過ぎるのではないだろうか。
それこそ勤務三ヶ月の新人ですら知っているのだから。
「召喚魔法っていう魔法を使う魔法使いの一種だ。自分の魔力と引き換えになんらかの魔獣と契約を交わし、それを使役できる。……そういえば、お前はまだ召喚師と戦ったことはなかったなぁ」
アスカの最後の一言に、シンシアはわずかに顔を引きつらせる。
「ま、まさかとは思いますが……」
アスカの言わんとしていることを察して焦るシンシアに、アスカはまるでお使いでも頼むかのような口調で言った。
「ちょうどいいから戦ってみるか。良い経験になるぞ」
遅筆とは言ったがここまで遅いとは……。
自分でもびっくりです。
なんとか二週間に一回くらいの頻度で更新したいけど、なかなか難しそう。
段落の分け方を書籍のそれに近づけました。
改めて一話を見返してみると、結構見づらかったので。
一話の方も直しておきます。
自分のイメージを文字に起こすのは大変ですね。
改めて全ての作者さんに敬意を表します。