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蜥蜴

作者: 白い秋

 蜥蜴の尻尾きり。

 慣用句としても良く使用される言葉である。都合が悪くなったとき、何かを犠牲にして被害を最小限にとどめる。そういうときに使われるものだろう。

 俺は今、その切られた尻尾の気分を痛いほど味わっている。

 公園のベンチに座り、自販機で買った缶コーヒーを握り締める。ドラマなどでリストラされた男がよくベンチに座っているが、その気持ちが良く分かる。何をすべきか分からず、まだ解雇という実感がわかずに仕事が残っている気分にもなってしまうのだ。それにより家に帰ること、気分を切り替えて遊びに出向くといったことができ無い。だからこそ、公園というどっちつかずな場所に落ち着いてしまう。

 つめた~いと書かれていた通り、自販機の中で冷却され続けたスチールは、俺の手をしみじみと冷やしていく。風が通り過ぎる。春一番はとうに過ぎたそれは、優しく頬をなでていく。草木が軽くゆれ、新芽が出ている枝に活力を与える。だが、つめた~いとかけるほどに冷却された俺の心情には、暖かい生命を感じる風の見る影も無い。

 端的に言おう。俺は蜥蜴の尻尾の如く首を切られた。一応は志願退社、ということで退職金は出るものの、会社から追い出された身としては似たようなものだ。金の変わりに不名誉なお話まで引っさげて居場所をなくされたのだから。

 部下の書類のミスの尻拭い。表面上はそうだった。会計の処理をしている最中、予算が合わないことが発覚。その合わない原因というものが、俺の所属している部署の担当していた仕事。新造する第二支部の素材となる鉄骨の発注ミスであった。

 それは作業の低下を招く危機であり、それ即ち会社の危機でもあったなんとかその危機からは脱したものの、そのようなミスを出した部署は許しがたい。というのが俺が聞いた言葉であった。

 そのミスは、俺の部下が行なってしまったことであり、監督不行届ということで、情状酌量の余地無く解雇という判決が下った。そして、今に至る。

 笑わせる。

 こんな春の時期に会計の整理をする会社など過分にして聞いたことが無い。新入社員を迎えるための人材の整理というのなら、もう少しまともな言い訳を作って欲しいものだ。

 所詮、蜥蜴の尻尾に向ける意識などその程度なのだろう。身動きできず、獣の前に放り出されているだけなのだから。ほうっておいても、勝手に自滅するのは目に見えている。

 実際問題、俺は何をすれば良いのか分からず途方にくれていた。

 今ばっかりは、一人身である事に心から感謝した。もし妻子などいようものなら、即座に緑色の紙を差し出されることを覚悟しなければならなかっただろう。まあ、そういうことも鑑みて会社も選抜したのだろうが。事実、俺が切られる原因となった部下の社員君は妻子持ちであり、彼の処分を聞いたところ「君には関係の無いことだ」などと一蹴された。自分が解雇される要因を作った人間だ。関係無い訳があるまいに。

 少なくとも、俺とは違い彼は解雇には至らないのだろう。解雇するならば、彼も会社の言う「関係の無い」人間であり、同じように関係の無い俺に話しても差支えが無いからだ。恐らくは減棒止まりか?ふざけている。

 少し鈍い音がして缶コーヒーが凹む。知らず知らずのうちに力をこめてしまったのだろうか。スチール缶をへこませるとは、俺に握力も捨てたものではないのかもしれない。そんなものはデスクワークに何の意味のなさなかったが。

 俺はきっちりと仕事をこなしていたはずだ。だからこそ、課長なんて中間管理職を与えられ、膨大なストレスにも耐えていた。そんな俺をあっさりと切った。

 蜥蜴にとって体の一部とも言って良い社員を、ありもしない危機的状況を作り上げた上で、率先して切ったのだ。阿呆らしくて溜息すら出ない。

 あの会社には、一体何本の尻尾があるのだろうか。何本の尻尾がひょっこりと蜥蜴によって作り上げられるのだろうか。

 少し、許しがたいと思った。

 正義感などという綺麗なものではない。復讐心といった方が正しいくらいに薄汚れた感情であった。

 会社が尻尾のつもりで切ったのなら、寧ろありがたいと考えよう。再就職なども厳しいだろう。何故ご退職されたのですか?と問われれば、なんと返せば良いのか見当さえもつかない。

 だが、愚直でも良い。尻尾だけでも何とか動けるはずだ。体から切り離されて少しだけ神経が生きているだけかもしれない。いずれは動きを止める尻尾かもしれない。しかし、動きを止めて鎮座している尻尾よりかは、ビチビチと痙攣だけでもしている尻尾の方が、まだマシのはずだ。

 ……プラナリアの如き尻尾になってやる。

 切られても、その欠片から新しい個体が出来上がる単細胞生物。それを思い出しながら、気持ちを切り替える。

 力が過ぎ、握り締めるスチールがくの字に曲がる。

 宿主を見返してやる。尻尾は切られるだけが尻尾じゃない。

 尻尾からでも蜥蜴になってやる。密かに決心を固めつつ、ベンチから腰を上げた。

 冷たい心に、春を告げる風が吹いた。

お目通し有難うございます

感想、アドバイスなど、お待ちしておりますので何か感じた方はお願いします

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― 新着の感想 ―
[一言] 序文は重く読みづらかったのですが 徐々に読みやすくなり、勢いが付いてくる印象です。 ただ比喩が多いのでしょうか、少し間延びしているような気がします。 ストーリー的な盛り上がりに欠けており …
2014/04/01 21:54 退会済み
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